分類 | 国・登録文化財 |
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種別 | 建造物 |
所在地 | 名古屋市緑区大高字西門田41他 |
所有者等 | 株式会社 萬乗醸造 |
指定(登録)年 | 平成19年(2007) |
時代 | 主屋:江戸時代末期 旧精米作業場:大正期 瓶詰作業場:大正期 元蔵:明治中期 中蔵:江戸時代後期 新蔵:明治初期 白米倉庫:大正期 離れ:大正期 土蔵:大正期 内井戸:江戸時代後期 旧仕込蔵及び樽修理場:江戸時代後期 外井戸:明治初期/昭和初期増設 |
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手前から主屋、新蔵
■登録理由
主屋
敷地の北側中央部に位置し、通りに北面して建つ。桁行8間、梁行6間半の規模で、東西棟、切妻造、桟瓦葺、平入の木造2階建。東方を土間、西方を居室部とし、北西に8畳座敷を配する。北面は黒漆喰塗の真壁造で、開口部のやや少ないつくりに特徴。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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旧精米作業場
土蔵の南方に南北棟で建つ。桁行6間半、梁間3間半、切妻造、桟瓦葺の木造平屋建で、南側を旧精米所とし、北側を中庭への通路とする。西面北半に下屋を、南半に切妻屋根を掛けて共に倉庫とする。東面には萬乗醸造のシンボルである煉瓦造煙突を添わす。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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瓶詰作業場
旧精米作業場の南方に東西棟で建つ。桁行9間、梁間4間規模、切妻造、鉄板葺の木造平屋建で、北面東端から敷地境界沿いに北へ桁行6間、梁間1間の物置を延ばし、物置前に広い作業場をとる。真壁造で、小屋組は旧精米作業場と同様キングポストトラスとする。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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元蔵
主屋の南方に位置し、瓶詰作業場の西に接して建つ。桁行9間、梁間8間、切妻造、桟瓦葺、2階建の仕込蔵で、北面東寄りに桁行6間半、梁間4間、南北棟の米蒸し室が取り付き、米蒸し室の西に試験室を配する。外部は簓子下見板張。醸造場の中心をなす施設。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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中蔵
敷地の南西部、元蔵の西に南北棟で建つ。桁行14間、梁間4間、切妻造、桟瓦葺、2階建の長大な仕込蔵。中央棟通りに3本の通し柱を立てる。西面には2間半幅の下屋を差し掛けて1階の平面規模を梁行6間半とする。創業期の仕込蔵で、蔵3棟のうち最も古い。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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新蔵
主屋の西方、中蔵の北面に接して南北棟で建つ。桁行15間、梁間6間、切妻造、桟瓦葺、2階建の長大な仕込蔵で、内部に2列8本の通し柱を立てる。外部は縦板張、2階は生子鉄板張とする。北妻面を新町通りに見せ、主屋・土蔵とともに重厚な景観を形成する。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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白米倉庫
離れの南方、新蔵の東に位置し、東西棟で建つ。桁行4間、梁間2間半、切妻造、桟瓦葺の2階建土蔵で、南面に戸口を開け、東妻面には奥行1間半、梁間2間半、入母屋造、桟瓦葺の検査室が取り付く。旧精米作業場、元蔵米蒸し室とともに主屋南方の中庭を囲う。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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離れ
主屋北西の8畳座敷の西に続く10畳座敷と、西南方の3畳半茶室からなる。10畳座敷は北西隅に残月亭写しの2畳の上段床を設けており、茶室は4畳半の規模で小振りな床の前と脇に板を嵌めた独特な床構えをもつ。ともに良質で凝ったつくりの近代数寄屋建築。
登録の基準 | 造形の規範となっているもの |
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土蔵
敷地の東北隅に建つ桁行6間、梁間2間、南北棟、切妻造、桟瓦葺の2階建土蔵と、主屋東面に接続する桁行4間半、梁間3間、東西棟、切妻造、桟瓦葺、木造平屋建の蔵前部からなる。土蔵は腰簓子下見板張・上部黒漆喰塗、蔵前部は黒漆喰塗で通りの景観を整える。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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内井戸
元蔵の南面近くに位置し、南北方向に2本が並んで掘られている。石造の円形井戸枠の外径はともに2.5m、深さは約8m。創業期以来の井戸であり、元蔵井戸とも称される。良質な水を必要とする醸造業に不可欠な設備である。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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旧仕込蔵及び樽修理場
土蔵の東面沿い道路を挟んだ向かいの敷地に南北棟で建つ。桁行8間、梁間3間規模、切妻造、桟瓦葺の2階建土蔵で、道路側西面全面に1間半幅の下屋を差し掛ける。戸口は南面西寄りと西面北寄りに開く。新町通りの突き当たりに位置し、アイストップになる。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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外井戸
醸造場敷地の南方、土蔵東面道路に面する飛地に所在する。6本が掘られ、うち北側の5本は径1.5m、深さ5m、南方の1本は径2.5m、深さ8mであり、井戸枠は4基がコンクリート製、2基が常滑焼製になる。醸造場の拡張、発展を物語る施設。
登録の基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
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■詳細解説

手前から蔵、旧精米作業場、煙突

瓶詰作業場

元蔵

中蔵

新蔵

白米倉庫(奥)と検査室(手前)

新蔵(手前)と離れ(奥)

離れ前の庭

内井戸

旧仕込蔵、樽修理場

外井戸
愛知県知多地方での酒造の歴史は古い。江戸時代の18世紀後半には、知多酒の江戸送りが盛んになった。久野家は、大高村の庄屋を務めた名家で、酒造業を始めたのは、記録上、天保8年(1837)以降とされる。江戸時代末期には、現在の敷地の一部を借入、新蔵を建築したとされている。
(株)萬乗醸造は、名古屋市緑区大高の大高城址公園の西側に位置する。北側の新町通に面して主屋や屋敷蔵などを並べる。これに対して、醸造蔵群などは中庭を取り囲む形で配置されている。主屋の東端から、中庭を囲んで時計回りに、旧精米作業所、瓶詰(びんづめ)作業場、元蔵、中蔵、新蔵が並ぶ。
主屋(しゅおく)
主屋は敷地北側中央部に位置し、新町通に面している。桁行8間、梁間6間半の規模で、桟瓦葺、切妻造、平入の木造2階建。通りに面した部分は黒漆喰塗。反対の中庭側は柱梁を見せる真壁造で、壁は白漆喰塗。
主屋の東側を土間、西方を居室部とし、奥に床の間付きの8畳座敷を配す。江戸時代末期の建築とされる。
旧精米作業場(きゅうせいまいさぎょうば)
旧精米作業場は、主屋土蔵の南に建つ。梁間3間半、桁行6間半、桟瓦葺、切妻造、木造平屋建。小屋組はトラス構造。外壁は下見板張。南側は旧精米所であるが、北側は中庭への通路を通したため改変されている。道路側には赤煉瓦造の煙突がある。
瓶詰作業場(びんづめさぎょうば)
梁間4間、桁行9間、鉄板葺、切妻造の木造平屋建。内部は柱などを外側にあらわす真壁造。小屋組は山形トラスの中央に垂直材を持つキングポスト構造。2つの材を挟む合せ梁を使用。コの字形の箱金物やボルトなどが使用されており、萬乗醸造の建物の中でも新しい工法が使われている。
元蔵(もとぐら)
瓶詰作業所の西隣にある仕込蔵。梁間8間、桁行9間、桟瓦葺、切妻造、2階建の土蔵。明治中期に建替えられた。このため、元蔵という名称にかかわらず、3棟の仕込蔵の中で一番新しい。外壁は、押縁に階段状の刻みを付けた簓子(ささらこ)下見板張。
中蔵(なかぐら)
中蔵は、元蔵と新蔵の間にあり、ちょうど、3つの仕込蔵の真中に位置している。梁間4間、桁行14間、桟瓦葺、切妻造、2階建の長大な土蔵。中央棟通に3本の通柱を建てる。
西側には、2間半幅の片流れの屋根(下屋(げや))を差しかける。江戸時代後期の建造で、3棟ある仕込蔵で一番古い。
新蔵(しんぐら)
主屋の西側にあり、新町通に面しているのが新蔵。南隣に中蔵がある。梁間6間、桁行15間、桟瓦葺、切妻造の長大な仕込蔵で、壁の厚い土蔵造。梁間が5間もあるため、内部に通柱を2列に並べる。明治初期の建築とされる。
白米倉庫(はくまいそうこ)
離れの南側、新蔵の東側に建つ。梁間2間半、桁行4間、桟瓦葺、切妻造、2階建の土蔵。南側に出入口を持ち、東側に木造平屋建の検査室が取り付く。梁間2間半、奥行1間半、桟瓦葺、入母屋造。
離れ(はなれ)
主屋に隣接する木造平屋建。2畳の上段床がある10畳座敷と3畳半の茶室からなる。良質な近代数奇屋建築。大正期の建築とされる。
土蔵(どぞう)
敷地の東北隅に通りに面して建つ。梁間2間、桁行6間、桟瓦葺、切妻造、2階建。土蔵の腰部は簓子(ささらこ)下見板張、上部は黒漆喰塗で、落ち着いた景観となっている。土蔵の前に、梁間3間、桁行4間半、桟瓦葺、切妻造、木造平屋建の蔵前を設ける。
内井戸(うちいど)
元蔵の南側に、2本の井戸がある。創業期の江戸時代後期の井戸で、元蔵井戸と称される。井戸の外枠は円形石造で、外径はともに2.5m、深さ約8m。
旧仕込み蔵及び樽修理場(きゅうしこみぐらおよびたるしゅうりば)
主屋土蔵の東側、道路を挟んだ向いの敷地に建つ。梁間3間、桁行8間、桟瓦葺、切妻造、2階建土蔵。道路側西面に1間半幅の片流れの屋根(下屋(げや))を差し掛ける。戸口は道路側の西面と妻側の南面に設ける。
外井戸(そといど)
旧白米製造所の東側の飛地にある。外井戸として6本あり、うち北側の5本は径1.5m、深さ5mある。南側の1本は径2.5m、深さ8m。井戸枠は4基がコンクリート製、2基が常滑焼製。醸造場の拡張、発展を物語る施設。外井戸は明治初期のものであるが、昭和初期に増設されている。
江戸時代から明治期の仕入蔵が往時のまま使われており、貴重な産業遺産となっている。主屋、離れ、茶室など、名古屋の経済人の文化を示すもので、貴重である。(瀬口哲夫)