○脳死した者の身体に対する検視等の実施要領の制定

平成23年4月15日

刑一・刑総・交指発甲第76号

この度、臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号)が一部改正されたことに伴い、別記のとおり脳死した者の身体に対する検視等の実施要領を制定し、平成22年7月17日から適用することとしたので、その適正な運用に努められたい。

なお、脳死した者の身体に対する検視等の実施要領の制定(平成12年捜一・刑総・交指発甲第46号)は、廃止する。

別記

脳死した者の身体に対する検視等の実施要領

第1 趣旨

この要領は、脳死した者の身体に対する検視等の実施に関し必要な事項を定めるものとする。

第2 用語の意義

この要領において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ次に定めるところによる。

(1) 脳死した者の身体 臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「法」という。)第6条第2項に規定する脳死した者の身体をいう。

(2) 脳死判定 法第6条第2項に規定する判定をいう。

(3) 検視等 検視、実況見分若しくは検証又は死体の外表の調査をいう。

(4) 対象事案 被害者等に対し脳死判定が行われる事件、事故等をいう。

(5) 主管課長 対象事案について、刑事部門が主管する場合は捜査第一課長、交通部門が主管する場合は交通捜査課長をいう。

(6) 医療機関管轄警察署長 脳死判定が行われる医療機関の所在地を管轄する警察署長をいう。

(7) 事案処理警察署長等 対象事案を処理する警察署長又は高速道路交通警察隊長をいう。

(8) 医師等 脳死判定が行われる医療機関の医師又は当該脳死判定に伴う臓器移植のコーディネーターをいう。

第3 医療機関との連絡体制の確立

医療機関管轄警察署長は、平素から管内の脳死判定が行われる医療機関との連絡体制を確立し、脳死判定が行われる場合における警察への速やかな連絡、検視等を行うための適切な場所の確保、検視等を行う際の医師の協力等について要請しておくものとする。

第4 検視等の主管部門

脳死した者の身体に対する検視等は、対象事案を主管する部門において行うものとし、的確に死因を究明するため、刑事部門及び交通部門は緊密に連携するものとする。

第5 認知時の措置

1 認知警察官の措置

(1) 認知時の速報

警察官は、対象事案になる可能性がある事案を認知した場合は、速やかに事案処理警察署長等に報告するものとする。

(2) 臓器提供意思表示カードを取り扱った場合の措置

警察官は、対象事案になる可能性がある事案の現場において臓器提供意思表示カード(臓器提供意思表示欄が設けられ、又は臓器提供意思表示シールが貼り付けられた運転免許証及び医療保険の被保険者証を含む。以下同じ。)を取り扱った場合は、身元確認等の所要の措置を講じた後、速やかに当該カードを当該被害者等の家族に手渡すものとする。

2 医療機関管轄警察署長の措置

医療機関管轄警察署長は、医師等から脳死判定が行われる旨の連絡を受けた場合は、速やかにその旨を警察本部長(主管課長経由。以下同じ。)に報告するとともに、事案処理警察署長等に通報するものとする。

3 事案処理警察署長等の措置

(1) 事案処理警察署長等は、1の(1)の報告を受けた場合は、速やかに主管課長に通報するものとする。この場合において、事案処理警察署長等は、医師等に対し、脳死判定を行う場合は速やかに警察に連絡するよう要請するものとする。

(2) 事案処理警察署長等は、2の通報を受けた場合は、次に掲げる措置を執るものとする。また、事案処理警察署長等は、医師等から脳死判定が行われる旨の連絡を受けた場合は、速やかに警察本部長に報告するとともに、次に掲げる措置を執るものとする。

ア 当該脳死判定に係る事案の概要を把握し、脳死判定事案認知報告書(別記様式)に掲げる項目に従い警察本部長に報告すること。

イ 直ちに対象事案の発生現場における実況見分又は検証、関係者及び目撃者からの事情聴取等所要の捜査を実施すること。

ウ イの捜査に基づき、司法解剖の要否を判断し、警察本部長の指揮を受けること。

エ 犯罪捜査に支障が生じることなく臓器の移植が円滑に実施されるよう、医師等から脳死判定が行われる旨の連絡を受けた場合は、速やかに検察官に連絡するなど、検察官と相互に協力すること。

第6 主管課長の措置

主管課長は、第5の2及び第5の3の(2)の報告があった場合は、次に掲げる措置を執るものとする。

(1) 指導及び調整

対象事案に関する必要事項について指導及び調整を行うこと。

(2) 連絡責任者の指定

所属職員のうち適任と認められる者を対象事案の連絡責任者として指名し、必要により医療機関に出向させるなど、医師等との連絡及び調整を行わせること。

(3) 警察庁及び管区警察局への報告

脳死判定が行われる旨を、警察庁刑事局捜査第一課又は交通局交通指導課及び中部管区警察局広域調整部広域調整第一課又は広域調整第二課並びに警察庁刑事局刑事企画課に速報すること。

第7 脳死判定前に司法解剖を行う必要があると判断した場合の措置

事案処理警察署長等は、捜査により脳死判定前に司法解剖を行う必要があると判断した場合は、警察本部長の指揮を受けた後、速やかにその旨を連絡責任者を通じて医師等に通報するとともに、脳死判定の対象者(以下「対象者」という。)の心臓停止時点での警察への連絡を要請するものとする。

第8 脳死判定前に司法解剖の必要性が判断できない場合又は司法解剖を行う必要がないと判断した場合の措置

1 検視等の準備

事案処理警察署長等は、脳死判定前に司法解剖の必要性が判断できない場合又は司法解剖を行う必要がないと判断した場合は、警察本部長の指揮を受けた後、脳死判定後速やかに検視等を行う準備として、連絡責任者を通じて医師等に対し、次に掲げる措置を執るものとする。

ア 医師等との打ち合わせ

(ア) 脳死判定後に検視等を行うこと及び検視等の結果によっては司法解剖を行う可能性があることを説明すること。

(イ) 検視等を行う場所及び警察官が待機する場所を提供するよう要請すること。

(ウ) 脳死判定予定日時、医療機関の責任者等必要な事項の警察への連絡を要請すること。

(エ) 医師等から対象者の入院時の受傷状況、治療状況、症状の経過等の説明を受けるとともに、医師等が受傷部位の撮影記録等を保有している場合は、必要によりその提出を求めること。

(オ) 検視等における医師(脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器の移植術を行う予定の医師を除く。)の立会い、補助その他の協力を依頼すること。

(カ) 検視等が迅速的確に実施できるよう、対象者に装着されている臓器移植に必要な器具以外のモニター、包帯、ギブス等を取り外しての外表検査の要領、脳死した者の身体への感染防止の措置等を確認すること。

イ 検視等従事者の選定と医療機関での待機

必要最低限の検視等従事者を選定し、医療機関から提供された場所へ速やかに派遣し、待機させること。

2 検視等の実施

(1) 検視等の開始時期

検視等は、臓器の移植に関する法律施行規則(平成9年厚生省令第78号)第2条第2項に規定する2回目の脳死判定後、速やかに行うものとする。

(2) 検視官の臨場

脳死した者の身体に対する検視等に当たっては、必ず捜査第一課の検視官(以下「検視官」という。)が臨場するものとする。この場合において、交通捜査課が対象事案を主管するときは、交通捜査課長は、捜査第一課長に検視官の派遣を要請するものとする。

(3) 脳死判定等資料の確認

医師等から次に掲げる書面を確認し、その写しの交付を受け、死亡日時等必要事項を確認するものとする。

(ア) 本人が脳死判定に従う意思を書面により表示している場合においては当該書面

(イ) 本人が臓器を提供する意思を書面により表示している場合においては当該書面

(ウ) 家族が脳死判定を行うこと及び臓器を摘出することを拒まないこと又は承諾することを記載した書面(脳死判定承諾書及び臓器摘出承諾書)

(エ) 法第6条第5項に規定する脳死判定が的確に行われたことを証する書面(脳死判定の的確実施の証明書)

(オ) 死亡診断書(事後でも差し支えない。)

(4) 令状の提示等

検証の場合における令状の提示のほか、家族等に対する検視等の説明を十分に行い、その承諾を得るなど必要な手続きを行うものとする。

3 検視等終了後の措置

(1) 事案処理警察署長等の措置

事案処理警察署長等は、検視等の終了後、再度司法解剖の要否を判断し、警察本部長の指揮を受けた後、速やかに司法解剖を実施するかどうかを検視官を通じて医師等に通報するものとする。

(2) 検視官の措置

ア 司法解剖を行う必要があると認めた場合

検視官は、(1)により司法解剖を行う必要があると認めた場合は、医師等に対し、その旨を通報するとともに、対象者の心臓停止時点での警察への連絡を要請するものとする。

イ 司法解剖を行う必要がないと認めた場合

検視官は、(1)により司法解剖を行う必要がないと認めた場合は、医師等に対し、その旨及び犯罪捜査に関する手続が終了した旨を通報し、事後の措置は医師に委ねるものとする。

第9 報道対応

1 脳死判定に係る報道

脳死判定及び臓器移植に係る報道については、警察による報道発表は行わないものとする。

2 対象事案に係る報道

対象事案に係る報道については、警察広報の社会的な目的と臓器移植に関する臓器提供者等の匿名性の要請との調整を図る必要から、事案処理警察署長等は主管課長及び広報課長と協議するものとする。

第10 虐待が行われた疑いがある児童に対する検視等実施上の留意事項

事案処理警察署長等は、虐待が行われた疑いがある児童(18歳未満の者をいう。)が脳死又は心臓死の区別にかかわらず死亡し、司法解剖等の捜査の必要性があると判断された場合は、速やかに、医師に対し、当該死体からの臓器の摘出はできない旨を連絡するものとする。

第11 その他の留意事項

1 法の趣旨を十分理解し、関係者のプライバシーの保護には特段の配意をすること。

2 脳死判定又は臓器提供の承諾の有無について、医師、家族等の間に争いがある場合は、脳死判定又は臓器提供は本人及び家族により任意になされるべきものとされていることから、警察がその争いに介入することがないようにすること。

3 脳死判定前は、医師が医療に最善を尽くしている段階であるので、家族の感情等について十分配慮し、不用意な言動は厳に慎むこと。

4 医師から臓器摘出の可否や人工呼吸器の取り外しの可否について尋ねられた場合には、警察はその判断を行う立場にないことを説明し、これに応じないこと。

5 検視等に際しては、臓器移植の必要性についても配意し、脳死した者の身体への感染を防止するため、衣類はできるだけ清潔なものを着用するほか、検視等に使用する資機材についてもできるだけ清潔なものを使用すること。

6 司法解剖の要否の判断と医師等への通報は、速やかに行う必要があるものの、そのために犯罪を見逃すこととならないようにすること。

7 司法解剖の要否の判断に当たっては、検察官と緊密に連携するとともに、可能な限り法医学者の意見も参考にすること。

8 医師から、脳死判定及び臓器摘出の要件を確認するため、対象者が臓器提供意思表示カードを所持しているかどうかの問い合わせを受けた場合には、警察の捜査等の過程で知り得た範囲で回答すること。

第12 その他

法に基づく脳死した者の身体からの臓器移植の場合の検視等ほか、心臓停止後における臓器移植の場合の検視等についても、円滑な移植医療に配意した速やかな実施に努めるものとする。

〔平25務警発甲76号同刑一発甲81号・本別記一部改正〕

〔平25刑一発甲81号令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔平25刑一発甲81号令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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脳死した者の身体に対する検視等の実施要領の制定

平成23年4月15日 刑一・刑総・交指発甲第76号

(令和元年5月1日施行)

体系情報
第6編 事/第1章 査/第9節
沿革情報
平成23年4月15日 刑一・刑総・交指発甲第76号
平成25年 刑一発甲第81号
平成25年 務警発甲第76号
令和元年 務警発甲第93号