○警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく死体取扱要領の制定

平成25年3月29日

刑一・刑鑑・刑研発甲第79号

この度、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年法律第34号)が施行されることに伴い、死体取扱業務の適正化を図るため、別記のとおり、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく死体取扱要領を制定し、平成25年4月1日から実施することとしたので、その適正な運用に努められたい。

別記

警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく死体取扱要領

第1 趣旨

この要領は、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(以下「法」という。)に基づく死体に係る調査、検査、解剖その他死因又は身元を明らかにするための措置に関し必要な事項を定めるものとする。

第2 準拠

法の施行に関する死体の取扱いについては、法及び次に掲げる法令等の規定によるほか、この要領の定めるところによるものとする。

(1) 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律施行令(平成25年政令第49号)

(2) 国家公安委員会関係警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律施行規則(平成25年国家公安委員会規則第3号。以下「施行規則」という。)

(3) 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律第6条第3項の規定による解剖の実施の委託に係る国家公安委員会が定める基準を定める告示(平成25年国家公安委員会告示第6号)

(4) 死体取扱規則(平成25年国家公安委員会規則第4号。以下「死体取扱規則」という。)

(5) 死体に関する報告要領の制定(平成12年刑一・刑総・地総発甲第73号)

第3 用語の意義

この要領において使用する用語の意義は、法及び第2に掲げる法令等において使用する用語の例によるほか、次に定めるところによる。

(1) 死体 警察が取り扱う全ての死体をいう。

(2) 遺族 配偶者及び2親等以内の血族の者をいう。

(3) 内縁者等 遺族以外の者で、内縁者、同居人等死者との関わりが深い者をいう。

(4) 遺族等 遺族及び内縁者等をいう。

(5) 解剖医師 法第6条第1項の規定により解剖を実施する医師をいう。

(6) 解剖実施機関 法第6条第3項の規定により解剖の実施を委託する機関をいう。

第4 死因又は身元を明らかにするための措置

1 礼意の保持及び遺族等への配慮

警察官は、死体の取扱いに当たっては、死体に対し黙礼又は合掌をすることはもとより、取扱方法又は取扱場所の選定に十分配意するなど遺族等の心身の状況に配意し、礼意を失わないようにするものとする。

2 死体発見時の調査等

(1) 警察官は、その職務に関して、死体を発見し、又は発見した旨の通報を受けた場合は、速やかに当該死体を取り扱うことが適当と認められる警察署の警察署長にその旨を報告しなければならない。

(2) 警察署長は、(1)の報告又は死体(犯罪行為により死亡したと認められる死体及び変死者又は変死の疑いのある死体を除く。以下(4)において同じ。)の死因及び身元を明らかにするため、当該死体の外表、発見された場所、所持品、既往症、関係者に対する発見時の状況、生前の死者の言動等に関する質問その他必要な調査をしなければならない。

(3) (2)の調査により、当該死体の身元が判明しない場合は、指紋及び掌紋の採取、身体特徴の記録、写真撮影その他必要な措置を講じた上、事後の身元確認に備えておかなければならない。

(4) (2)の調査に当たっては、医師又は歯科医師に対し、立会い、死体の歯牙の調査その他必要な協力を求めることができる。

3 検査

(1) 警察署長は、第4の2の(1)の報告又は取扱死体の死因を明らかにするために体内の状況を調査する必要があると認める場合は、その必要な限度において、次に掲げる検査を医師に依頼するものとする。ただし、ウの検査(通常取扱死体を傷付けることがない方法により体液、尿その他の物を採取し、かつ、施行規則第2条に定める簡易な器具を用いて当該物から薬物等を検出するものに限る。)については、警察官に行わせることができる。

ア 体内から体液を採取して行う出血状況又は当該体液の貯留量の確認

イ 心臓内の複数の部分から血液を採取して行うそれぞれの色の差異の確認

ウ 体内から体液、尿その他の物を採取して行う薬物等に係る検査

エ 体内から血液又は尿を採取して行う身体の疾患に伴い血液中又は尿中の量が変化する性質を有する物質に係る検査

オ 死亡時画像診断

カ オのほか内視鏡その他口から挿入して体内を観察するための器具を用いて行う死体の異状の確認

(2) (1)の検査の実施状況、結果等については、必要に応じて写真撮影を行うものとする。

第5 解剖の実施等

1 解剖実施の判断

(1) 警察署長は、法医学に関する知識経験を有する医師の意見を聴き、取扱死体の解剖を実施しなければ、その死因が災害、事故、犯罪その他市民生活に危害を及ぼすものであるかどうか明らかにすることができないと認めた場合は、速やかにその旨を警察本部長に報告(捜査第一課検視官室経由。以下同じ。)するものとする。

(2) (1)の場合において、第4の3の検査を行うことなく、解剖を実施することが適切であると認めた場合は、当該検査を省略することができる。

(3) 検視官は、警察署長の解剖実施の判断に際し、その要否について助言するものとする。

2 遺族等への説明

(1) 警察官は、解剖を実施するに当たっては、遺族がない、遺族の所在が不明であるなど一定の場合を除き、あらかじめ、遺族に対して解剖が必要である旨の説明を行わなければならない。

(2) (1)の説明は、原則として死者との関わりが深い遺族に対して行い、解剖の趣旨及び必要性を十分説明し、真の理解が得られるよう努めるものとする。また、法の規定では必ずしも説明を行うべき対象でない内縁者等についても、個別具体的な事情を考慮の上、説明を行うよう努めるものとする。

3 解剖の実施

(1) 警察署長は、解剖を実施する場合は、解剖実施報告書(様式第1)により警察本部長に報告するものとする。

(2) (1)の場合において、捜査一課長は、解剖実施機関を選定し、警察署長に解剖日時、解剖場所及び解剖医師の氏名を通知するものとする。

(3) (2)の通知を受けた警察署長は、解剖依頼書(様式第2)により解剖実施機関に対して解剖の実施を依頼するものとする。

(4) 警察署長は、解剖を実施した後、解剖医師から解剖結果回答書(様式第3)を受領し、その写しにより解剖結果を警察本部長に報告するものとする。

(5) 解剖を実施する際には、当該解剖に係る事案を主管する警察本部員及び当該解剖に係る警察署員が立ち会うものとする。

第6 身元を明らかにするための措置

1 身元特定資料の採取

(1) 警察署長は、取扱死体の損傷が激しいなどの理由で、取扱死体を傷付ける行為を伴わない方法では身元を明らかにすることができない場合は、その必要な限度において、血液、歯牙、骨等の当該取扱死体の組織の一部(以下「身元特定資料」という。)を採取し、又は当該取扱死体から人の体内に植え込む方法で用いられている医療機器を摘出するために当該取扱死体を切開することができる。

(2) (1)の措置は、医師又は歯科医師に依頼するものとする。ただし、注射器を用いた血液の採取、爪切り等を用いた爪の切除及びピンセットを用いるなどした毛髪の抜取りについては、警察官が行うことができる。

2 指紋又は掌紋による身元照会の実施

(1) 警察署長は、取扱死体の身元の特定を指紋又は掌紋によって行う場合は、死者身元照会依頼書(死体取扱規則別記様式第1号)を作成し、鑑識課長に送付するものとする。

(2) (1)の送付を受けた鑑識課長は、死者身元照会依頼書により、警察庁刑事局犯罪鑑識官(以下「犯罪鑑識官」という。)に対し身元照会を行うものとする。

(3) 犯罪鑑識官から回答を受けた鑑識課長は、その結果を(1)の警察署長に対し通知するものとする。

3 DNA型記録による身元照会の実施

(1) 警察署長は、取扱死体の身元の特定を1により採取した身元特定資料によって行う場合は、当該身元特定資料の検査を科学捜査研究所長の定める様式により嘱託するものとする。

(2) (1)の嘱託を受けた科学捜査研究所長は、当該嘱託に係る身元特定資料の特定DNA型が判明した場合は、次に掲げる措置を執るものとする。

ア 身元が明らかでない取扱死体との対照が可能なDNA型資料がある場合は、当該DNA型資料との対照を行うこと。

イ 身元が明らかでない取扱死体との対照が可能なDNA型資料がない場合は、当該身元特定資料の死体DNA型記録を作成し、これを犯罪鑑識官に電磁的方法により送信するとともに、犯罪鑑識官が保管する被疑者DNA型記録及び特異行方不明者等DNA型記録との対照を依頼するものとする。

(3) 科学捜査研究所長は、(2)のイの送信をしたときは、当該死体DNA型記録を抹消しなければならない。

(4) 科学捜査研究所長は、特定DNA型が判明しなかった旨又は(2)による措置の結果を(1)の警察署長に通知するものとする。

第7 死体調査等記録書の作成

第4の2の(2)、第4の3、第5の3又は第6の1のいずれかの措置を執った場合は、死体調査等記録書(施行規則別記様式第1)を作成し、その後、新たな調査等を実施した場合又は第9の1の措置を執った場合は、当該死体調査等記録書に所要の事項を追記しなければならない。

第8 関係行政機関への通報

警察署長は、取扱死体の死因が伝染病、製品事故によるものなど、その後同種の被害を発生させるおそれのある場合で、関係行政機関において被害の再発及び拡大の防止措置を直ちに講ずる必要があると認めた場合は、判明した死因、通報する必要があると認めた理由のほか、被害の再発及び拡大の防止措置に必要な事項について、関係行政機関に通報するとともに、通報記録書(施行規則別記様式第2号)を作成しなければならない。

第9 取扱死体の引渡し

1 引渡しの実施

警察署長は、死因を明らかにし、又はその身元を特定するために必要な措置が執られた取扱死体について、当該措置が終了し、又は身元が明らかになった場合は、速やかに、遺族等その他当該取扱死体を引き渡すことが適当と認められる者に対し、着衣及び所持品と共に当該取扱死体を引き渡さなければならない。この場合において、警察署長は、当該者から死体及び所持品引取書(死体取扱規則別記様式第2号)を徴取しなければならない。

2 遺族等への説明

警察署長は、取扱死体の引渡しに当たり、遺族等に対しその死因及び解剖の実施結果の説明を行わなければならない。また、明らかになった死因が遺族等に何らかの被害を及ぼすおそれがある場合は、その対処方法等遺族等の不安の緩和又は解消に資すると考えられる事項について、十分な説明を行わなければならない。

第10 留意事項

1 刑事訴訟法との関係

(1) 刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第229条に基づく検視は、死体の状況を外表から検査する処分とされており、検視を実施する前に死体を傷付ける措置等を行うべきではないことから、取扱死体が変死体である場合は、同法に基づく検視を実施した後でなければ、法に基づく検査、解剖又は身元を明らかにするための措置を実施することができない点に注意するものとする。

(2) 法に基づく各種措置は、犯罪捜査の手続が行われる死体以外の死体を対象としていることから、これらの措置を実施する過程で犯罪の嫌疑が生じた場合は、刑事訴訟法の規定に基づき、速やかに犯罪捜査の手続を開始するものとする。

2 医師及び歯科医師との連携

法の規定による措置を実施するためには、解剖医師及び立会医師並びに歯科医師の協力を得ることが不可欠であることから、法に規定する各種措置を適切に実施できる医師又は歯科医師の協力を確保するとともに、これら医師等との定期的な会合の開催、合同研修会の実施等により連携強化を図るものとする。

第11 補則

この要領に定めるもののほか、必要な細目的事項は、刑事部長が別に定める。

〔平26刑一発甲61号平27刑一発甲147号・本別記一部改正〕

〔平26刑一発甲61号令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔令元務警発甲93号令2務警発甲176号・本様式一部改正〕

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警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく死体取扱要領の制定

平成25年3月29日 刑一・刑鑑・刑研発甲第79号

(令和2年1月1日施行)

体系情報
第6編 事/第1章 査/第9節
沿革情報
平成25年3月29日 刑一・刑鑑・刑研発甲第79号
平成26年 刑一発甲第61号
平成27年 刑一発甲第147号
令和元年 務警発甲第93号
令和2年 務警発甲第176号