○過積載車両に対する要求等の禁止に関する事務処理要領の制定

平成6年5月9日

交指・交総発甲第45号

このたび、道路交通法(昭和35年法律第105号。以下「法」という。)の一部が改正され、車両の過積載を防止し、交通の安全を確保することをねらいとした使用者等以外の者に対する過積載車両の運転の要求等の禁止制度が設けられたことに伴い、別記のとおり過積載車両に対する要求等の禁止に関する事務処理要領を定め、平成6年5月10日から施行することとしたから、その適正な運用に努められたい。

別記

過積載車両に対する要求等の禁止に関する事務処理要領

第1 趣旨

この要領は、法第75条第1項に規定する使用者等以外の者が、車両の運転者に対して過積載車両の運転を要求するなど法第58条の5第1項に掲げる行為を行った場合において、同条第2項の規定による警察署長の再発防止命令に関する事務の処理手続について必要な事項を定める。

第2 用語の定義及び解釈

この要領において、次の各号に掲げる用語の定義及び解釈は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 使用者等以外の者

車両の使用者や自動車の運行を直接管理する地位にある者以外の荷主、荷受け人、荷送り人等(以下「荷主等」という。)をいう。

(2) 要求等行為

法第58条の5第1項に定める行為の総称をいう。

ア 同条第1項第1号に規定する「要求」は、必ずしも明示的なものである必要はなく、使用者等以外の者が優越的な立場に立ち、結果として、明らかに過積載をしなければならないこととなるような運送契約又は売買契約を結び、その債務の履行として物品の納入を求めるような行為をも含む。

イ 同条第1項第2号に規定する過積載となるとの情を知りながら、運転者に積載物を引き渡す等の行為は、過積載要求行為と同様に運転者に積極的に犯罪を行わせる行為であり、その客観的事実をとらえて禁止行為としたものであることから、要求する行為がなくてもよい。

(3) 再発防止命令の主体

原則として、法第75条第1項の使用者等以外の者の住所又はその者の事業所等の所在地を管轄する警察署長(以下「管轄署長」という。)が行うこととする。

その趣旨は、再発防止命令をする権限は、警察法(昭和29年法律第162号)第53条第3項の規定に基づき、過積載の検挙地を管轄する警察署長(以下「検挙署長」という。)及び管轄署長の双方が有することとなるが、検挙署長が要求等の裏付け調査までも行うことは現実的に困難であるからである。

(4) 再発防止命令の対象

要求等行為を行った者(自然人)のみとする。

その趣旨は、一般的に行政処分の対象となる者は、自然人であると法人であるとを問わないこととされているが、再発防止命令に違反した場合は当該再発防止命令違反として検挙され、刑事訴訟法の規定に従って処理されることとなることから、法人を主体とする犯罪を考えることはできないからである。したがって、再発防止命令は、自然人に対して行うものとし、当該再発防止命令に違反した場合は当該違反を行った自然人に対して罰則を適用することとし、かつ、法人に対しては両罰規定を適用することとしたものである。

第3 運用方針

1 「要求等行為」についての考え方

(1) 過積載要求

法第58条の5第1項第1号に掲げる要求行為は、使用者等以外の要求行為をするすべての人を規制するものである。

同号は、運転者に対して経済上優位に立って取引を行うことができる立場にある荷主等が弱い立場にある運転者に対して、過積載をするように働き掛ける行為など過積載運転を要求する行為を禁止したものである。

要求行為の事例としては、次のようなものが考えられる。

ア 過積載となる運送形態を運転者に明示的に指示する場合(運送会社等を通じて指示する場合を含む。)、工期を守るためには計画的に資材を搬入する必要があることから関係者において過積載を謀議する場合等が考えられる。

イ 運転者が定量積載を主張したときに、「いやなら他に頼むから…」などと申し向け、過積載運転をほのめかす場合など、要求が間接的な言辞による場合にも適用の余地が認められる。

ウ 現実の取引条件下では、過積載を行わなければ運送することができないことを認識しながら、過積載を行わせる積極的な意思の下に、同様の取引条件を継続して物品の納入を求める場合にも適用の余地が認められる。

この場合は、過積載を行わなければ運送できない取引条件であるか否かは、運送単価、運送量、納入期限等を勘案して判断することとなる。

(2) 知情売渡し・知情引渡し

法第58条の5第1項第2号に掲げる知情売渡し・知情引渡し行為は、運転者に積載物を引き渡す等の行為をとらえたものであり、荷主等を規制したものである。

過積載となるとの情を知りつつ、運転者に積載物を引き渡す等の行為は、同項第1号の過積載要求行為と同様に運転者に積極的に犯罪を行わせる行為であることから、要求する行為がなくとも、その客観的事実をとらえて禁止行為としたものである。

2 過積載運転行為の要否

理論上、要求等行為は、それ自体独立した行為として規定されているものであるため、下命・容認行為と同様に過積載運転行為が実際に行われたか否かは、その成否に関係がなく、また、再発防止命令違反の成否にも影響しない。

しかしながら、実務上は、過積載取締り時において違反者(運転者)に対する事情聴取を端緒として調査が開始されることとなることが多いと考えられる。

3 反復のおそれの認定

要求等行為が行われたときは、1回の違反行為の認定で再発防止命令を行うこととする。

法第75条第1項の使用者等以外の者、すなわち荷主等は、通常、業務として積載物の取引等を行っていることから、一定の取引条件あるいは取引形態が継続する限り、要求等の反復のおそれは極めて高いため、特段の事情がない限り積極的に再発防止命令を行うものとする。

4 再発防止命令の内容

再発防止命令は、法第58条の5第1項の規定に違反する行為をしてはならない旨をその期間を定めて命ずるものとする。

5 再発防止命令の期間等

(1) 再発防止命令の期間

再発防止命令は、法第58条の5第1項の違反行為の再発を防止するため同項の禁止行為に違反してはならないという一定の不作為を確認的に命ずる当該再発防止命令の性格上、その期間については法定されていない。

しかし、そもそも再発防止命令が、違反反復のおそれがある場合にその再発を防止するために発せられるものであること、同条第2項違反を検挙するための前提となり、終期を明らかにしておくことが構成要件の明確性という点でより妥当であると考えられることから、解釈上、期間を定めて命ずることとする。

そこで、反復のおそれが存続する期間を検討すると、同条第1項の禁止規定に違反する行為は、通例、荷送り人、荷受け人等の当該物流に関与している者が犯すものであり、これらの者の業務として継続的になされるものであることから、長期1年間の禁止期間をもってすれば、一応その者の再犯のおそれは除去されたとみられること、暴力団対策法等他法令においても「再犯のおそれ」を根拠として行う再発防止命令には1年を超える例がないことから、1年を超えない期間を定めて再発防止命令することが妥当である。

更に、再発防止命令が同条第1項に違反してはならないという定型的なものであることから、他に特段の事情のない限り、運用上1年間の期間を定めて再発防止命令することとする。

具体的には「○年○月○日から1年間」の例により記載する。

(2) 再発防止命令の効力の発生時期

再発防止命令の効力は、道路交通法施行規則(昭和35年総理府令第60号)に規定する再発防止命令書(別記様式第4の3)が当該再発防止命令を受ける者に交付され、又は送達された日から発生する。

第4 再発防止命令の手続

1 調査要領

法第58条の5第2項の再発防止命令を発するために必要な事実の証明は、犯罪の検挙に必要な厳格な証明を要せず、再発防止命令を発するに必要な程度の行政的な手続による簡易な証明で足りる。

この行政命令は、迅速かつ機動的に発する必要があるが、行政命令は行政不服審査法の適用を受けることとなるので、審査請求を念頭に置くことも重要である。

特定の事業所又は建設工事現場に過積載車両が継続的に出入りしているような場合であっても、このことをもって直ちに過積載の要求等行為があったと認定することはできず、ある程度の客観的な裏付けが要求される。

要求等行為事実の認定は、過積載車両の運転者、要求等行為容疑者、その者の所属する事業所の代表者その他の関係者に対する事情聴取結果及びこれらを裏付ける資料の収集結果を踏まえ、総合的に判断して行うものとする。

(1) 取締り現場における調査

再発防止命令を適正に運用するためには、取締り現場における過積載車両の運転者等に対する調査が決定的に重要な意味を持つこととなる。

過積載取締りに従事する警察官は、過積載車両の運転者、同乗者等の言動、当該過積載に係る出荷伝票その他の資料から要求等行為容疑事案を認知したときは、当該運転者等から事情聴取を行うものとし、協力が得られるときは、事情聴取書(様式第1及び様式第1の2)を作成するものとする。

事情聴取に当たっては、要求等行為の日時、場所、方法、内容、行為者の人定等を明らかにすることが必要であり、可能であれば、運送単価、納入期限、取引実績その他の取引事項、荷受け人の指示(使用者を通じて行う場合を含む。)内容を明らかにし、併せて出荷伝票の写しその他要求等行為の裏付けとなり得る資料を収集することが望ましい。

なお、この場合に当該事案の認知状況を明らかにする調査報告書(様式第2)を作成するものとする。

(2) 管轄署長の調査

管轄署長は、前記(1)の調査で明らかとなった事項を基に、要求等行為を認定するために必要な調査活動を行うものとする。

具体的には、まず、要求等行為容疑者、その者の所属する事業所の代表者その他の関係者に対する事情聴取を行う。

事情聴取に当たっては、前記(1)に掲げる事項のほか、要求等行為容疑者の業務内容、過積載車両の運転者との関係、要求等行為の動機等についても明らかにすることとし、この場合、これらの者の協力が得られたときは、事情聴取書を作成するものとする。また、事情聴取結果の補充又は裏付けのため必要があるときは、関係者の協力を得て、売買契約書の写し、出荷伝票控えの写し、運行記録関係書類の写し等の提供を受けるなどの措置をとるものとする。

2 通報手続

再発防止命令は、原則として管轄署長が行うこととしていることから、検挙署長は取締りの際に認知した事項を管轄署長に通報するものとする。

要求等行為容疑事案の通報は、次により行うものとする。

(1) 過積載取締りに従事する警察官は、要求等行為容疑事案を認知したときは、前記1の(1)の要領で必要な調査を行い、検挙署長、第一交通機動隊長、第二交通機動隊長、又は高速道路交通警察隊長(以下「検挙署長等」という。)に報告する。

(2) 要求等行為容疑事案を認知した検挙署長等は、過積載要求等行為容疑事案報告書(様式第3)に事情聴取書、調査報告書、交通(反則)切符の写し、通行指示・応急措置報告書(様式第4)、重量測定結果記録書の写し、その他の書面及び関係資料を添付して警察本部長(交通指導課長経由。以下同じ。)に報告する。

(3) 報告を受けた警察本部長は、速やかに次により措置する。

ア 容疑者の住所又は所在地が愛知県内に所在するときは、過積載要求等行為容疑事案調査指示書(様式第5)により、管轄署長に容疑事案の調査を命ずるとともに、その結果についての報告を求める。

イ 容疑者の住所又は所在地が他の都道府県に所在するときは、過積載要求等行為容疑事案通報書(様式第6)により、当該都道府県の警視総監又は警察本部長に通報する。

(4) 前記(3)のイの通報を受けた警察本部長は、前記(3)のアの要領で管轄署長に通報し、必要な調査報告等を命ずる。

(5) 管轄署長は、前記(3)又は(4)に基づく調査の結果を過積載要求等行為容疑事案報告書により警察本部長に報告する。

3 再発防止命令の発動

管轄署長は、調査の結果、指示に係る要求等行為の存在が明らかとなったときは、再発防止命令書により要求等行為を行った者に対して再発防止命令を行う。

再発防止命令を行ったときは、再発防止命令執行報告書(様式第7)に再発防止命令書の写しを添えて警察本部長に報告する。

4 再発防止命令の執行方法

再発防止命令の執行方法は、原則として当該再発防止命令を受ける者に再発防止命令書及び再発防止命令書に係る教示(様式第7の2)を交付することにより行うものとする。

やむを得ない理由により交付することができないときは、配達証明郵便により送付することによって行うものとする。この場合においては、郵便物配達証明書を再発防止命令執行報告書に添付するものとする。

5 代表者に対する通知

管轄署長は、再発防止命令を執行した場合において、再発防止命令を受けた者が事業所等の従業者であるときは、当該事業所等の代表者に対して再発防止命令執行通知書(様式第8)により、再発防止命令を執行した旨を通知するものとする。

6 貨物運送取扱事業者に係る取扱い

管轄署長は、再発防止命令をしようとする場合において、当該再発防止命令に係る使用者等以外の者が貨物利用運送事業法(平成元年法律第82号)の規定による貨物運送取扱事業者であるときは、あらかじめ再発防止命令に関する連絡書(様式第9)により、当該事業者を監督している地方運輸局長に連絡するものとする。

第5 再発防止命令違反に対する検挙措置

再発防止命令を受けた者が、当該再発防止命令の日から1年以内に再び要求等行為をした場合には、再発防止命令違反として検挙することとなる。

この場合は、犯罪として検挙するのであるから、刑事訴訟法の定める手続により所要の捜査を行って送致する。

具体的には、過積載車両の運転者、被疑者その他の関係者の取調べ等により、事実確認を行うほか、被疑者の事業所等に対する捜索・差押えの実施などにより、裏付け資料の収集を行うことが必要である。

再発防止命令違反として検挙する場合は、行政命令としての当該再発防止命令が先行して行われており、かつ、当該再発防止命令の有効期間内に要求等行為が行われたことが必要であるので、事件送致に当たっては、疎明資料として当該再発防止命令書の写しその他当該再発防止命令を発動する際に作成した書類の写しを事件記録に添付するものとする。

なお、再発防止命令の有効期間内に要求等行為を行ったため検挙された者が、当該再発防止命令の有効期間内に更に要求等行為を行った場合は、当該再発防止命令を根拠として、重ねて検挙することができるものとする。

第6 運用上の留意事項

1 事件検挙が先行する場合

「使用者等以外の者」に係る過積載運行の教唆・幇助等の事件を検挙した場合において、当該事件が同時に法第58条の5の要件を満たすときは、当該事件検挙の際に作成した書類、収集した資料を基に、当該使用者等以外の者に対し、再発防止命令を行うものとする。

2 調査上の注意

法第58条の5で定める調査は、捜査活動とは性質を異にするものであり、調査活動を行うに際しては、捜査活動と同様の注意力をもってこれに当たるものとする。

〔平14交総・交指・交駐・交規発甲143号平17交指発甲67号平31務警発甲54号・本別記一部改正〕

〔令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔平17交指発甲67号・本様式追加、平28務監発甲52号令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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〔令元務警発甲93号・本様式一部改正〕

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過積載車両に対する要求等の禁止に関する事務処理要領の制定

平成6年5月9日 交指・交総発甲第45号

(令和元年5月1日施行)

体系情報
第7編 通/第3章 交通指導取締り/第2節 法令違反
沿革情報
平成6年5月9日 交指・交総発甲第45号
平成14年 交総・交指・交駐・交規発甲第143号
平成17年 交指発甲第67号
平成28年 務監発甲第52号
平成31年 務警発甲第54号
令和元年 務警発甲第93号