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釉薬(ゆうやく)テストピースとデータベースを活用して華やかで美しい結晶釉(けっしょうゆう)を開発しました ~企業との共同研究でボーンチャイナ向けの結晶釉を開発~
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター瀬戸窯業試験場(瀬戸市。以下「試験場」という。)は、鳴海製陶(なるみせいとう)株式会社(名古屋市緑区)との共同研究で、釉薬テストピースとデータベース※1を活用して、ボーンチャイナ※2向けの結晶釉※3を開発しました。
試験場は、約15万点の釉薬テストピースを保有しており、また、釉薬を検索・抽出可能なデータベースを公開しています(2019年4月23日記者発表済み。)。鳴海製陶株式会社は、ボーンチャイナの加飾技術の開発にこのデータベースを活用し、目的とする外観の釉薬を選別して様々な改良を加えることで、花の開花を思わせる華やかで美しい模様を有する結晶釉を開発しました。
試験場では、今後も釉薬テストピースとデータベースを活かして陶磁器産業を支援していきます。
1 開発の背景
(1)釉薬テストピースとデータベースについて
試験場が保有する釉薬テストピース約15万点は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)中部センター(名古屋市守山区)において、長年にわたる陶磁器研究の過程で収集・蓄積されたもので、愛知県が産総研から譲渡を受けたものです。また、釉薬データベースは、産総研から使用許諾を得たもので、試験場において釉薬テストピースのデジタルデータを入力、その検索機能を充実させています。
現在、釉薬テストピースとデータベースを県内企業始め陶磁器業界の皆様に公開し、技術相談や共同研究を行っています。これらを製品開発等に役立てていただくことで、開発の労力削減や時間短縮が期待されます。
(2)ボーンチャイナと結晶釉について
ボーンチャイナは、一般的な磁器に比べて暖かみのある白色で、透光性、形状安定性に優れるため、世界中で食器等に愛用されています。また、海外市場では華やかな模様の磁器が好まれています。そこで、ボーンチャイナを主力商品とする鳴海製陶株式会社では、海外向け製品として華やかな模様を施すため結晶釉を用いた新たなボーンチャイナの開発を進めてきました。
(3)結晶釉開発の共同研究について
結晶釉は華やかで美しい模様を発現しますが、製造工程の温度条件からボーンチャイナには不向きとされてきました。そこで、この課題を解決するために、試験場は鳴海製陶株式会社からの要望を受け、2021年度に同社と共同研究を行いました。
2 研究開発内容
(1)研究開発の概要
(ア)結晶釉の選択
釉薬データベースを活用し、結晶釉の外観、原料の組成、焼成条件等を検索した結果、透光性のある亜鉛結晶釉が本研究に最も適していると分かりました。また、釉薬テストピースの中から、明瞭で華やかな結晶が発現しているものを選別しました。
(イ)亜鉛結晶釉の焼成温度の検討
結晶釉の中に華やかで大きな結晶を発現させるためには、通常、高温(1300℃程度)で釉薬原料を一旦、十分溶かし、100~150℃下げた低温で結晶を成長させます。一方、ボーンチャイナでは、釉薬原料を低温(1150℃程度)で溶かし焼成するため、結晶釉の焼成温度条件を満たすことが困難でした。
そこで、選定した亜鉛結晶釉の原料組成、焼成条件を基に、ホウ素、リチウムなど、釉薬を溶けやすくする成分を釉薬原料に添加することで、ボーンチャイナに適した釉焼成温度まで焼成温度を下げることができました。
(ウ)亜鉛結晶釉の結晶化条件の検討
釉薬の厚み、釉焼成温度(最高温度)、及び結晶化促進温度と時間の違いで、結晶の大きさ、量、形状が大きく変わります。ボーンチャイナの釉焼成温度から約100℃低い温度(1050℃程度)を結晶化促進温度とし、美しい結晶が安定的に得られることを見出しました(図1)。
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図1 結晶の析出状態(色は原料に添加した呈色剤(ていしょくざい)※4による)
(エ)釉薬中の結晶析出位置の制御
結晶は、釉薬の中で結晶成長の起点(きっかけ)となる核が存在すると、その場所に優先的に発現します。核を意図した場所に配置することで、結晶の位置や数を制御することができ、その結果、華やかで大きな結晶を得ることができました。
(2)得られた成果
・釉薬データベースの検索結果から、目的とする外観の結晶釉を選別し、その原料の組成や焼成条件を基に改良を加えることで、ボーンチャイナの製造条件に適した結晶釉の開発に至りました。
・製品のデザインに合わせ、結晶の大きさや位置の制御が可能となりました。
・亜鉛結晶釉は透光性があるため、同じく透光性のあるボーンチャイナ素地の特性を活かした製品が展開可能になりました。
(3)研究開発体制
機関名 | 役割 |
---|---|
瀬戸窯業試験場 | 釉薬データの提供、焼成試験、評価試験 |
鳴海製陶株式会社 | 原料組成の検討、釉薬の調整、評価試験 |
3 今後の予定
試験場と鳴海製陶株式会社では、今回開発した結晶釉を様々なボーンチャイナ製品(図2)に展開していくため、継続して共同研究を実施していきます。
図2 結晶釉を用いた製品例
4 その他
試験場では、釉薬テストピースとデータベースを普及させるため、技術相談や共同研究に対応しています。御興味のある方は「5 問合せ先」まで御連絡ください。
5 問合せ先
(釉薬テストピースとデータベースに関すること)
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター瀬戸窯業試験場
製品開発室(担当 光松、加藤(一))
瀬戸市南山口町537
電話:0561-21-2116
(ボーンチャイナ向けの結晶釉に関すること)
鳴海製陶株式会社
開発・製造部門 研究開発部(担当 西部)
名古屋市緑区鳴海町字伝治山3番地
電話:052-896-2280
【用語説明】
※1 釉薬テストピースとデータベース
国立研究開発法人産業技術総合研究所中部センターが収集・蓄積した釉薬見本であるテストピースと、その一部をデータ化したもの。2018年度に愛知県が国立研究開発法人産業技術総合研究所よりテストピース15万点を譲渡され、釉薬データベースの使用許諾を得た。現在、試験場において一般公開している。
釉薬テストピース例
※2 ボーンチャイナ
原料の陶土に骨灰を加えて作る磁器の一種。高い強度を持ち、透光性がある。
※3 結晶釉
釉(ゆう)の表面上に肉眼で結晶が確認できる釉薬。亜鉛結晶釉、ジオプサイト結晶釉、チタン結晶釉などがある。
※4 呈色剤
釉薬に着色するために加える金属酸化物。酸化銅・酸化コバルトなどが使用される。
このページに関する問合せ先
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター瀬戸窯業試験場
製品開発室
担当:光松、加藤(一)
電話:0561-21-2116