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「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(II期)」シンクロトロン光を活用し新しい吟醸酒用酵母を開発!~華やかな香りを特徴とする大吟醸酒を試作しました~

 愛知県では、大学等の研究シーズを活用して県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新産業の創出を目指す産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1(II期)」を実施しています。 
 この度、「モノづくりを支える先進材料・加工技術開発プロジェクト※2」の「シンクロトロン光の清酒製造プロセスへの活用※3」において、あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター(名古屋市西区、以下「食品工業技術センター」)、公益財団法人科学技術交流財団あいちシンクロトロン光センター(豊田市、以下「あいちシンクロトロン光センター」)、中埜酒造(なかのしゅぞう)株式会社(半田市)、金虎酒造(きんとらしゅぞう)株式会社(名古屋市北区)及び愛知県立大学(長久手市)の研究グループは、シンクロトロン光※4を突然変異育種法※5の変異原※6として活用することで、香気成分の一つでバナナのような華やかな香りを特徴とする酢酸イソアミル※7を多く生産する吟醸酒※8用の新しい清酒酵母を全国で初めて開発しました。
 そして、本酵母を用いて食品工業技術センターにて試験醸造※9を行った結果、フルーティーで香味バランスに優れた大吟醸酒※8を醸造することができました。
 今後、食品工業技術センターでは本開発酵母の普及、製品化に向け、県内清酒メーカーに技術支援を行っていきます。
 なお、食品工業技術センターは、本研究成果を1月29日(火曜日)、30日(水曜日)に愛知県産業労働センター(ウインクあいち)で開催される「平成30年度 アグリビジネス創出フェアin東海※10」に出展します。

1  開発の背景

 食品工業技術センターでは、独自に開発したオリジナルの清酒酵母(愛知県酵母)であるFIA1(純米酒※8用)とFIA2(吟醸酒用)を保有・頒布しており、県産清酒の品質向上に努めています。 
 しかしながら、近年、消費者の酒類に対する嗜好が多様化する中で、清酒消費量は減少し、その対応策として、市場ニーズに適応した華やかな香りを有し、フルーティーで香味バランスに優れた新たな清酒及びその清酒酵母の開発が必要となっています。
 そこで、シンクロトロン光を活用した新しい清酒酵母の開発を開始しました。

2  開発の概要

(1) シンクロトロン光を活用した酵母育種

 清酒酵母の育種改良の際には主として突然変異育種法が利用されており、本法の変異原として、一般的には薬剤や紫外線を利用します。
 本研究チームでは、主に物質の構造分析に利用されているシンクロトロン光が近年、植物育種の変異原としても利用され始めていることから着想を得て、シンクロトロン光を突然変異育種法の変異原とする清酒酵母の開発を行いました。
 育種対象として、愛知県酵母FIA2から分離したFIA2Argを親株に用いて、あいちシンクロトン光センターでシンクロトロン光照射試験(突然変異誘発)を行いました。
 集菌した酵母菌体にシンクロトロン光を照射(図1)し、照射後の酵母菌体を酢酸イソアミル高生産酵母選択培地に塗布して培養し、生育が良好な株を酢酸イソアミル高生産酵母の候補株としました(図2)。
 その結果、シンクロトロン光照射試験区では未照射試験区と比較して、候補株の取得率が高くなり、シンクロトロン光が酵母育種における突然変異育種法の変異原として有効であることがわかりました。
 更に、取得した多数の候補株に関して、発酵試験による選抜を進め、最終的に酢酸イソアミルを高生産し且つ実用化に十分なアルコール生成を示す有望株(FIA2Arg-TFL)を取得することができました。

 シンクロトロン光照射試験

図1 シンクロトロン光照射試験

 酢酸イソアミル高生産酵母選択培地による候補株の選抜

図2 酢酸イソアミル高生産酵母選択培地による候補株の選抜

(2) 取得酵母を用いた試験醸造 

 取得酵母(FIA2Arg-TFL)に関して、親株FIA2Argを比較対照として、大吟醸酒の試験醸造を行いました(図3)。アルコール生成を含め、発酵経過は順調に推移し、酢酸イソアミルに起因する華やかな香りを特徴とし、フルーティーで香味バランスの良好な大吟醸酒を醸造することができました。
 そして、県内清酒製造技術者による官能評価の結果、取得酵母で醸造した大吟醸酒が親株で醸造したものよりも、香味バランスが全体的に優れているとの評価を得ました(表1)。

 仕込時の様子(上)と仕込後23日目の醪(下)

図3 仕込時の様子(上)と仕込後23日目の醪(もろみ)(下)

表1 試作酒の分析値

項目\酵母

FIA2Arg
親株

(開発品)
FIA2Arg-TFL
取得酵母
アルコール分(%)15.315.7
日本酒度-3.9-1.9
酸度(ml)2.202.15
アミノ酸度(ml)1.251.30
酢酸イソアミル(ppm)2.17.0
イソアミルアルコール(ppm)111.6133.9
カプロン酸エチル(ppm)2.13.0
官能評価(5点法、県内清酒製造技術者17名 平均値)
1:すばらしい、2:良好、3:どちらでもない、4:やや難点、5:難点あり
総合評価
※数値が低い方が良い
2.92.4
香り3.12.3
2.82.3

3 期待される成果と今後の展開

 本開発酵母を使用することで、酢酸イソアミルに起因するバナナのような華やかな香りを特徴とする吟醸酒を醸造することが可能となります。
 今後、開発酵母の県内清酒メーカーへの普及を図り、製品化を目指す予定です。平成30年度にトライアル使用企業向けに頒布し、試験醸造により得られたデータを基に技術支援を行います。その後、平成31年度に本酵母の本格的な頒布を目指します。
 また、本酵母の開発を通して、シンクロトロン光が清酒酵母育種の変異原として有効であることが分かりました。今後、シンクロトロン光は清酒酵母だけでなく、様々な微生物の育種に活用されることが期待されます。食品工業技術センターにおいても、本プロジェクト終了後も継続してシンクロトロン光を活用した愛知県酵母の育種を実施していきます。

4  社会・県内産業・県民への貢献

(1)社会への貢献:シンクロトロン光の微生物育種分野への利用の有効性を示した。
(2)県内産業への貢献:愛知県産清酒の知名度向上に貢献する。
(3)県民への貢献:華やかな香りを特徴とし、香味バランスに優れた吟醸酒を提供できる。

5  問い合わせ先

〇プロジェクト全体に関すること

 ・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
  担当:藤波、小久保
  所在地:豊田市八草町秋合1267番1
  電話:0561-76-8306
  FAX:0561-76-8309

 ・公益財団法人科学技術交流財団
  担当:石川、長谷川、安藤
  所在地:豊田市八草町秋合1267番1
  電話:0561-76-8380
  FAX:0561-21-1653

〇本開発内容に関すること

 ・あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター 発酵バイオ技術室
  担当:三井、伊藤、山本
  所在地:名古屋市西区新福寺町2丁目1番1
  電話:052-325-8092
  FAX:052-532-5791


【用語説明】

※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。平成23年度から27年度まで「重点研究プロジェクト(I期)」を実施し、平成28年度からは「重点研究プロジェクト(II期)」を実施している。

   「重点研究プロジェクト(II期)」の概要

目的

大学等の研究シーズを活用して県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新産業の創出を促進する。プロジェクト終了時には、県内企業において、成果の実用化や製品化、社会での活用を見込むことができる研究開発を実施する。

実施期間

平成28年度から平成30年度まで

参画機関

17大学11公的研究機関等99企業(うち中小企業73社)
(平成31年1月現在)

プロジェクト名

・次世代ロボット社会形成技術開発プロジェクト
・近未来水素エネルギー社会形成技術開発プロジェクト
・モノづくりを支える先進材料・加工技術開発プロジェクト(※2参照)


※2 モノづくりを支える先進材料・加工技術開発プロジェクト

 

概要

知の拠点あいちのシンクロトロン光センターを活用して、新材料開発や地場産業の新展開を支援するとともに、炭素繊維強化樹脂など難加工素材の加工技術開発や、金属等の積層造形技術等の開発を実施することにより、自動車分野や航空宇宙分野などモノづくりを支える先進材料・加工に資する技術開発を推進する。

研究テーマ

(1)焼かずに作るセラミックスのシンクロトロンによる解析と産業応用
(2)窯業競争力向上のためのセラミックス焼成収縮・変形の解明
(3)シンクロトロン光の清酒製造プロセスへの活用(※3参照)
(4)シンクロトロン次世代ナノ・マイクロ加工技術の開発
(5)デバイス実装用高熱伝導部材およびデバイス材料研削砥石の開発
(6)航空機製造工程の革新によるコスト低減と機体の軽量化・高性能化
(7)自動車軽量化のための熱可塑性炭素繊維強化樹脂の加工技術開発
(8)セルロースナノファイバーを活用した高機能複合材料開発と実用化
(9)革新的金型製造技術の開発とその産業応用

参画機関

9大学2公的研究機関等42企業(うち中小企業31社)
(平成31年1月現在)


※3 シンクロトロン光の清酒製造プロセスへの活用

 

研究リーダー

あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター
 発酵バイオ技術室長 山本 晃司(やまもと こうじ) 氏

事業化リーダー

中埜酒造株式会社 榊原 康彰(さかきばら やすあき) 氏

内容

突然変異育種法における新たな変異原としてシンクロトロン光があり、既に植物育種への活用が検討されているが、微生物育種への活用事例は少ない。本研究ではシンクロトロン光の微生物育種への活用を検討する。具体的には当センター保有の愛知県酵母を対象として、シンクロトロン光による突然変異誘発を行い、香味バランスに優れた酒質に対応した新規愛知県酵母の開発に取り組む。

参加機関

〔企業〕
 中埜酒造株式会社、金虎酒造株式会社
〔大学〕
 愛知県立大学
〔公的研究機関〕
 公益財団法人科学技術交流財団、あいち産業科学技術総合センター


※4 シンクロトロン光

 光速に近い速度で直進する電子が電磁石によって進行方向を変えられた際に発生する光。赤外線からX線までの広い波長領域の光が含まれる。指向性や偏光性等の点で従来の光源にない特徴を有している。

※5 突然変異育種法

 人工的に突然変異を誘発する手法。突然変異とは遺伝子が変化することでその性質に変化が生じる現象であるが、自然に突然変異が生じる確率が低頻度であることから、微生物の育種改良の際には人工的に突然変異を誘発する突然変異育種法が利用される。変異原には、紫外線やX線、ガンマ線等の物理的変異原と薬剤を用いた化学的変異原がある。

※6 変異原

 生物の遺伝子に変化を引き起こす作用を有する物質または物理的作用

※7 酢酸イソアミル

 吟醸酒を特徴づける香気成分(吟醸香)の主要成分。バナナのような香りであり、清酒醪発酵時に酵母によって生成する。

※8 吟醸酒、大吟醸酒、純米酒

 吟醸酒:玄米を60%以下の重量になるまで精米した白米を使用して造られたお酒
 大吟醸酒:玄米を50%以下の重量になるまで精米した白米を使用して造られたお酒
 純米酒:米と米麹のみを原料とした清酒、精米歩合に制限はない

※9 試験醸造

 食品工業技術センターは、酒税法第7条第3項の規定にもとづき、国税庁より清酒の試験製造免許が付与されている。試験製造免許は、真に試験研究を目的とする場合に限り付与される。 食品工業技術センターでは昭和 32 年より清酒試作試験を実施しており、その試験成果は、県内酒造メーカーへの技術支援、人材育成、酒米、酵母、麹菌等開発研究に大きく貢献している。なお、食品工業技術センターは、清酒免許の他、焼酎、リキュール、みりん及び雑酒の試験製造免許を所有している。

※10 平成30年度 アグリビジネス創出フェアin東海

 (1)開催日
   平成31年1月29日(火曜日)、30日(水曜日) 
 (2)会 場
   愛知県産業労働センター(ウインクあいち)6階 展示場
 (3)主 催
   農林水産省 農林水産技術会議事務局 研究推進課 産学連携室、
   特定非営利活動法人東海地域生物系先端技術研究会