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「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(II期)」花酵母の日本酒「愛してる2019」が完成しました!~シンクロトロン光を利用して「萬三(まんさん)の白モッコウバラ」酵母を育種改良~

 愛知県では、大学等の研究シーズを活用して県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新産業の創出を目指す産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1(II期)」を実施しています。 
 この度、「モノづくりを支える先進材料・加工技術開発プロジェクト※2」の「シンクロトロン光の清酒製造プロセスへの活用※3」において、あいち産業科学技術総合センター食品工業技術センター(名古屋市西区、以下「食品工業技術センター」)、公益財団法人科学技術交流財団あいちシンクロトロン光センター(豊田市、以下「あいちシンクロトロン光センター」)、中埜酒造(なかのしゅぞう)株式会社(半田市)、金虎酒造(きんとらしゅぞう)株式会社(名古屋市北区)及び愛知県立大学(長久手市)の研究グループは、半田市指定天然記念物「萬三の白モッコウバラ※4」から分離した花酵母※5の香気成分の生成能を向上させるため、新たに育種改良を行い、その育種酵母を使った日本酒「愛してる2019」を製品化しました。本酵母の育種改良には、シンクロトロン光※6を変異原※7として活用しており、完成した日本酒は、アルコール度数が低めで、甘酸っぱい仕上がりとなっています。
 この「愛してる2019」は、中埜酒造株式会社オンラインショップ及び國盛(くにざかり) 酒の文化館※8(半田市)等で、明日、平成31年2月7日(木曜日)から販売されます。

 酒、モッコウバラ 

「愛してる2019」と「萬三の白モッコウバラ」

1  開発の背景

 食品工業技術センターでは、地域ブランド清酒の開発を目的として、平成25年春に国の登録有形文化財である小栗家住宅(半田市)の庭で開花した半田市指定天然記念物「萬三の白モッコウバラ」の花(図1)から酵母を分離することに成功しました。分離酵母のアルコールや香気成分の生成能を評価した結果、清酒製造に適用可能であることが確認され、分離酵母を用いた日本酒は「愛してる」の銘柄で中埜酒造株式会社により製品化されました。モッコウバラが見ごろを迎える毎年4月中旬から5月上旬には多くの観光客が訪れ、この時期に開催される「萬三の白モッコウバラ祭」では「愛してる」も振る舞われます。平成29年度には「愛してる2017セット」が愛知のふるさと食品コンテスト最優秀賞(知事賞)、優良ふるさと食品中央コンクール最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞しました。
 今回、「萬三の白モッコウバラ」から分離した酵母の香気成分の生成能を向上させるために、シンクロトロン光を活用することで新たに育種改良を行い、育種酵母を使った日本酒「愛してる2019」が完成しました。

 萬三の白モッコウバラ

図1 萬三の白モッコウバラの花

2  開発の概要

(1) 酵母の育種改良

 本研究チームでは、これまでにシンクロトロン光の新たな用途開拓の一環として、シンクロトロン光が清酒酵母育種の変異原として有効であることを明らかにし、酢酸イソアミル※9高生産性酵母を開発する等、愛知県酵母の育種開発に取り組んできました。
 今回は育種対象として、「萬三の白モッコウバラ」から分離した酵母を親株に用いて、あいちシンクロトロン光センターでシンクロトロン光照射試験(突然変異誘発)を行いました。酵母菌体にシンクロトロン光を照射し、照射後の酵母菌体を培地に塗布して培養し、候補株を分離しました(図2)。
 更に、取得した多数の候補株に関して、清酒小仕込試験による選抜を進め、試作酒においてオフフレーバー※10であるイソアミルアルコール※11が低下するなど、香気成分生成バランスが改善された育種株を取得することができました(表1)。

 酵母選抜

図2 選択培地による酵母選抜

表1 清酒小仕込試験による製成酒成分の比較
項目\酵母モッコウバラ酵母
親株
モッコウバラ酵母
育種酵母
アルコール分(%)12.312.8
日本酒度-42.1-35.3
酸度(ml)3.853.70
アミノ酸度(ml)0.950.85
酢酸イソアミル(ppm)2.95.3
イソアミルアルコール(ppm)169.7126.3
カプロン酸エチル(ppm)1.52.4

(2) 取得酵母を用いた日本酒の醸造 

 平成31年1月、中埜酒造株式会社においてモッコウバラ酵母育種株を用いた仕込みが行われました。原料米には愛知県産酒米「若水」を65%精米したものを使用し、総米900kgの仕込みを行いました(図3)。アルコール生成を含め、発酵経過は順調に推移し、オフフレーバーであるイソアミルアルコールが低減され、さわやかな酸味と甘みを併せ持つ風味の日本酒となりました。
 できあがった日本酒は、中埜酒造株式会社オンラインショップ(https://www.nakanoshuzou.jp/ec/ec/)及び國盛 酒の文化館等で、「愛してる2019」として300ml瓶(2本セット2,000円(税込))で平成31年2月7日(木曜日)から販売されます。

 発酵中の醪

図3 発酵中の醪(もろみ)

3 期待される成果と今後の展開

 本酵母の開発では、シンクロトロン光を酵母育種の変異原として利用しました。今後もシンクロトロン光が微生物の育種に積極的に活用されることが期待されます。
 食品工業技術センターでは、本プロジェクト終了後も継続してシンクロトロン光を活用した愛知県酵母の育種を実施していきます。
 また、今回完成した「愛してる2019」のように、近年、地域資源を活かした製品の開発により、地域の活性化を図る取り組みが盛んに行われています。今後も、開発酵母を用いた地域おこしを推進するため、日本酒だけに留まらず、新たな製品の開発を積極的に進めていきます。

4  社会・県内産業・県民への貢献

(1)社会への貢献:シンクロトロン光の新たな用途開拓の事例を示した。
(2)県内産業への貢献:愛知県産清酒の普及、知名度向上に貢献する。
(3)県民への貢献:地域資源を活かした地域ブランド清酒を提供できる。

5  問合せ先

〇プロジェクト全体に関すること

 ・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
  担当:藤波、小久保
  所在地:豊田市八草町秋合1267番1
  電話:0561-76-8306
  FAX:0561-76-8309

 ・公益財団法人科学技術交流財団
  担当:石川、長谷川、安藤
  所在地:豊田市八草町秋合1267番1
  電話:0561-76-8380
  FAX:0561-21-1653

〇本開発内容に関すること

 ・あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター 発酵バイオ技術室
  担当:三井、伊藤、山本
  所在地:名古屋市西区新福寺町2丁目1番1
  電話:052-325-8092
  FAX:052-532-5791

〇製品に関すること

 ・中埜酒造株式会社
  担当:原本
  所在地:半田市東本町2丁目24番地
  電話:0569-23-1233
  FAX:0569-23-1343


用語説明

※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。平成28年度からは「重点研究プロジェクト(II期)」を実施している。

「重点研究プロジェクト(II期)」の概要
目的大学等の研究シーズを活用して県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新産業の創出を促進する。プロジェクト終了時には、県内企業において、成果の実用化や製品化、社会での活用を見込むことができる研究開発を実施する。
実施期間平成28年度から平成30年度まで
参画機関17大学11公的研究機関等99企業(うち中小企業73社)
(平成31年2月現在)
プロジェクト名・次世代ロボット社会形成技術開発プロジェクト
・近未来水素エネルギー社会形成技術開発プロジェクト
・モノづくりを支える先進材料・加工技術開発プロジェクト※2


※2 モノづくりを支える先進材料・加工技術開発プロジェクト

概要知の拠点あいちのシンクロトロン光センターを活用して、新材料開発や地場産業の新展開を支援するとともに、炭素繊維強化樹脂など難加工素材の加工技術開発や、金属等の積層造形技術等の開発を実施することにより、自動車分野や航空宇宙分野などモノづくりを支える先進材料・加工に資する技術開発を推進する。
研究テーマ(1)焼かずに作るセラミックスのシンクロトロンによる解析と産業応用
(2)窯業競争力向上のためのセラミックス焼成収縮・変形の解明
(3)シンクロトロン光の清酒製造プロセスへの活用※3
(4)シンクロトロン次世代ナノ・マイクロ加工技術の開発
(5)デバイス実装用高熱伝導部材およびデバイス材料研削砥石の開発
(6)航空機製造工程の革新によるコスト低減と機体の軽量化・高性能化
(7)自動車軽量化のための熱可塑性炭素繊維強化樹脂の加工技術開発
(8)セルロースナノファイバーを活用した高機能複合材料開発と実用化
(9)革新的金型製造技術の開発とその産業応用
参画機関9大学2公的研究機関等42企業(うち中小企業31社)
(平成31年2月現在)


※3 シンクロトロン光の清酒製造プロセスへの活用

研究リーダーあいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター
 発酵バイオ技術室長 山本 晃司(やまもと こうじ) 氏
事業化リーダー中埜酒造株式会社 榊原 康彰(さかきばら やすあき) 氏
内容突然変異育種法における新たな変異原としてシンクロトロン光があり、既に植物育種への活用が検討されているが、微生物育種への活用事例は少ない。本研究ではシンクロトロン光の微生物育種への活用を検討する。具体的には当センター保有の愛知県酵母を対象として、シンクロトロン光による突然変異誘発を行い、香味バランスに優れた酒質に対応した新規愛知県酵母の開発に取り組む。
参加機関〔企業〕
 中埜酒造株式会社、金虎酒造株式会社
〔大学〕
 愛知県立大学
〔公的研究機関〕
 公益財団法人科学技術交流財団、あいち産業科学技術総合センター


※4 萬三の白モッコウバラ

 愛知県半田市、明治の豪商「小栗家(萬三商店)」の庭にある、大きな白モッコウバラの木に咲く白いバラ。毎年4月中旬から5月初旬には、可憐な白い花がたわわに咲く。

※5 花酵母

 花から分離・培養される酵母のこと。通常の清酒用酵母とは異なる性質を有しているものが多い。分離源によって製品に華やかなイメージやストーリー性を付与できる等のメリットがあり、新しいタイプの酒類開発を目的として利用されている。

※6 シンクロトロン光

 光速に近い速度で直進する電子が電磁石によって進行方向を変えられた際に発生する光。赤外線からX線までの広い波長領域の光が含まれる。指向性や偏光性、強度等の点で従来の光源にない特徴を有している。

※7 変異原

 生物の遺伝子に変化を引き起こす作用を有する物質または物理的作用。

※8 國盛 酒の文化館

 昭和60年、中埜酒造(株)が創設したお酒の博物館。日本酒の知識と理解を深めるとともに、酒造りに関する貴重な文化遺産の伝承を目的としている。所在地は半田市東本町2丁目24番地。

※9 酢酸イソアミル

 吟醸酒を特徴づける香気成分(吟醸香)の主要成分。バナナのような香りであり、日本酒の発酵中に酵母によって生成する。

※10 オフフレーバー

 清酒に含まれる不快な香り、異臭。日本酒の発酵中に酵母によって生成するもの、貯蔵・流通時に生成するもの等がある。

※11 イソアミルアルコール

 日本酒の発酵中に酵母によって生成する清酒の香気成分。ホワイトボードマーカーのような香りであり、この成分が多いとオフフレーバーとして指摘される。