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県内スタートアップ企業が開発した心臓サポートネットが試験機器として臨床使用されました~新あいち創造研究開発補助金※1と尾張繊維技術センターの支援で開発~

 医療系スタートアップ企業が、県の2018年度新あいち創造研究開発補助金による資金支援を受けて開発した「心臓サポートネット」を拡張型心筋症※2の患者に植え込む手術が2019年11月に名古屋大学医学部付属病院で行われました。この患者は、術後速やかに回復退院し、その後の経過も順調です。
 心臓サポートネットを提供したのは、名古屋大学医学部の秋田利明(あきた としあき)特任教授らが2016年に創業した株式会社iCorNet(アイコアネット)研究所(以下、「iCorNet研究所」:名古屋市千種区)です。
 この開発に対しては、あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター(以下、「尾張繊維技術センター」)が、2016年から評価試験等で技術的な支援を行いました。

心臓サポートネット

         心臓サポートネット

1 概 要

 国の指定難病の一つである特発性拡張型心筋症は、適切な薬物療法を継続していても心拡大と心不全が進む治療抵抗性の難病です。2016年時点で27,968人が認定されています。安静にしていても心不全症状が取れない状態まで心拡大が進んだ場合には、心臓移植が唯一有効な治療法となります。しかし、現在の日本では、ドナー不足により心臓移植までの平均待機日数は1300日を超え、ほとんどの方は補助人工心臓が装着され心臓移植を待つことになります。また、補助心臓装置は、極めて高額な医療でありかつ重篤な合併症が多いことが問題となっています。
 このような治療法の難しい拡張型心筋症に対して、進行性の心拡大を防止する心臓サポートネット治療が欧米で試みられました。しかし、右心室※3と左心室※4を共に覆う形状だったために、却(かえ)って心機能を低下させるという欠点があり、実用化に至りませんでした。
 そこでiCorNet研究所では心臓移植の適用となる前の代替治療法としての「テイラーメイド方式※5で製造する心臓サポートネット」の開発を行いました。この心臓サポートネットは、心臓にメッシュ状の袋をかぶせて左心室拡大の進行を抑えることが特長です。
 iCorNet研究所は、2017年度から実用化に向けて製造体制の整備を行い、この製造体制の下で設計・製造された心臓サポートネットを用いて、2019年11月に名古屋大学医学部附属病院において、拡張型心筋症の患者に対し手術が行われました。術後3か月の経過は順調です。

2 テイラーメイド方式心臓サポートネットの特長及び設計・製造までの工程

 図1のとおり、患者の個別の心臓画像データ(CT,MRI)から、複雑な形状を持った心臓構造を最新の画像解析技術を用いて3次元心臓モデルを作成し、最適な表面着圧がかかるよう無縫製横編機(むほうせいよこあみき)※6用型紙を作成します。コンピューター制御の無縫製横編機で、縫合糸(ほうごうし)※7を3次元形状の心臓サポートネットの形状に編み込みます。その際に、右心室部分を穴あき構造で編成します。このことにより右心室拡張障害を回避しつつ、しっかり左心室に表面着圧をかけることができる形状となり、更なる心拡大を回避し、心機能を回復させることができるテイラーメイド方式の心臓サポートネットが完成します。

図1工程

 

             図1 心臓サポートネットの製造工程

3 愛知県としての支援

 愛知県としては、新あいち創造研究開発補助金の資金面とあいち産業科学技術総合センター 尾張繊維技術センターの技術面双方で、実用化に向けての開発の支援を行いました。

【新あいち創造研究開発補助金】

  • 2018年度 採択課題名

   重症心不全患者に対するテイラーメイド方式心臓サポートネット治療の研究開発

  • 2019年度 採択課題名

   心臓サポートネット治療のための低侵襲装着デバイスの研究開発

【あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター】

 尾張繊維技術センターでは、糸、テスト編地、心臓ネットの物性試験・分析試験を行いました。また、安定した物性の縫合糸の製造やニット製品製造のための技術的改良点の相談、熱処理工程、洗浄工程の見直しなどの相談を受け提案を行い実用化に向けての開発に対して支援を行いました。

4 実用化に向けての開発

 iCorNet研究所は、過去の心臓サポートネット治療の問題点を解決する「テイラーメイド方式心臓サポートネット治療」の実用化を目的として、名古屋大学医学部秋田利明特任教授と株式会社トレステック社(代表取締役:佐々木敏哉)が出資して2016年12月に創業しました。この時点で既に設計・製造の基本技術は確立していましたが、精度が最終品の寸法公差において十分ではなく、また設計・製造に要する期間は2か月と長時間を要していました。
 そのため、高度管理医療機器クラスIV※8製品として適切な品目仕様※9となるべく、設計・製造精度の向上と検証、植込み型デバイス製造システムの構築を行い、心臓サポートネットの設計・編立・洗浄・熱処理・検品・出荷工程の製造システムを名古屋医工連携インキュベータ施設(NALIC)※10に集約することで製造工程の効率化を行いました。

(1) 心臓サポートネットの設計・製造精度の向上

 心臓サポートネットの編成に用いる縫合糸の各種物性にばらつきがあったため、縫合糸を製造するメーカーの協力により、縫合糸製造工程の改良による縫合糸物性の安定化を図りました。また平面形状の熱処理型枠(図2)から、3次元形状の熱処理型枠(図3)を3Dプリンターで作製することにより、編目※11のゆがみを最小限にし、心臓ネット全体で編地物性が均一化されました。
 編成時、熱処理条件の改良により、心臓サポートネットの設計・製造精度が最終品の寸法公差で5%程度から1%未満に向上することができました。

図2平面型枠  図3立体型枠

  図2 平面形状の熱処理型枠    図3 3次元形状の熱処理型枠
 

(2) 心臓ネット製造工程を設計・製造リードタイムの大幅な短縮(2週間を達成)

 患者ごとの心臓の3次元データから、心臓サポートネットの型紙を作成するまでのソフトウェアを改良し、型紙作成にかかる時間を1週間から半日に短縮することができました。洗浄には、ソックスレー型※12の洗浄装置を導入し、洗浄時間の短縮とともに編成時に付着する機械油の残渣を大幅に削減しました。滅菌に対応した包装専用パッケージを設計し、安全性とユーザビリティを考慮し、効率化を図りました。
 以上の設計・編立・洗浄・熱処理・検品・出荷工程の製造システムをクリーンルーム内に集約することにより、製造工程の効率化を行いました(図4)。製造ラインの整備、工程のマニュアル化で製品製造ラインの確立がされ、設計・製造リードタイムを2か月から2週間へと1/4に短縮しました。

図4製造ライン

          図4 製造ライン

(3) 心臓サポートネット装着時の着圧の評価

【3D樹脂模型による最適な着圧評価方法】

 3Dプリンターを用いたPUライク材の3D樹脂心臓模型を作製し、着圧センサーを装着することで、実際の着圧に近い数値による評価が可能となりました(図5)。

 図5着圧評価

   図5 3D樹脂心臓模型による着圧評価

【設計値確認のための着圧シミュレーション】

 製造する心臓サポートネットの着圧を数学的に確認するために、株式会社島精機製作所製デザインシステム(SDS-ONE APEX3)での着圧シミュレーションおよび尾張繊維技術センターで簡易着圧計算ソフトの開発を行い、患者に心臓サポートネットを装着した場合に想定される着圧の確認を行いました(図6、図7)。
 (簡易着圧計算ソフトの開発は公益財団法人内藤科学技術振興財団 H29年度研究助成を受けて実施。)

図6着圧シミュ   図7簡易計算

図6 SDS-ONEでの着圧シミュレーション結果       図7 簡易着圧計算ソフトの結果
                                     (尾張繊維技術センターで開発)

5 心臓サポートネット治療のための低侵襲(ていしんしゅう)装着デバイスの研究開発

 心臓サポートネットの装着に当たっては、胸部正中切開と胸骨縦切開を行わなければならず、患者への負担が大きくなっています。そこで、低侵襲の左小開胸にて心臓サポートネットを安全かつ短時間に装着可能な低侵襲装着デバイスの開発を行いました。
 このデバイスは、医療用ポリプロピレン樹脂材を使い射出成形品にすることにより軽量・小型化に対応し着脱容易な形状を実現しました。また、先端形状のたわみ量・先端もどり量などの強度試験を繰り返し行い、心臓形状にフィットしたストレスの少ない安全な装着デバイス開発目標は達成できました。
 これまで開発した心臓ネットと装着デバイスを一体型に組み込み、個別包装までの製品仕様が確定する予定になっています。

6  今後の展開

 iCorNet研究所では現在、量産可能にするための心臓サポートネットの規格化を進めています。心臓サポートネットの設計図、熱処理型枠などを規格化し、患者のデータから最適なサイズを選択する設計・製造方法にすることで、更なるリードタイムの短縮と量産化により一度に対応できる患者数を増やすことが可能になります。尾張繊維技術センターでは、引き続き技術相談、依頼試験により、この開発の支援を続けていく予定です。

7 株式会社iCorNet研究所の知事表敬訪問について(2020年1月30日発表済み)

日   時:2020年2月5日(水曜日) 午後5時30分から午後5時45分まで

場   所:愛知県公館

訪問者:代表取締役  秋田 利明 (あきた としあき) 氏

            取締役      佐々木 敏哉 (ささき  としや) 氏

8 問合せ先

あいち産業科学技術総合センター 尾張繊維技術センター
素材開発室(担当:福田、山内、石川(敬))
所在地 一宮市大和町馬引字宮浦35
電   話 0586-45-7871
FAX    0586-45-0509

9 企業連絡先

株式会社iCorNet研究所
担  当 秋田利明、佐々木敏哉
所在地 名古屋市千種区千種2-22-8 NALIC名古屋医工連携インキュベータ205号
電  話 052-784-6075
FAX   052-784-6076

【用語解説】
用語説明
※1 新あいち創造研究開発補助金 次世代自動車や航空宇宙など、将来の成長が見込まれる分野において、企業等が行う研究開発・実証実験を支援し、本県における付加価値の高いモノづくりの維持・拡大につなげることを目的とした補助制度です。
※2 拡張型心筋症 「原発性」心筋症のなかで(1)左室のびまん性収縮障害と、(2)左室拡大を特徴とする疾患群であり、慢性心不全症状を特徴とし急性増悪を繰り返す予後不良・進行性の疾患である。
※3 右心室 心臓を構成する左右の心房と心室からなる4つの部屋の一つ、右側の心室のこと。全身を巡った血液は心臓へ戻ってきて、三尖弁を経由して右心室に入り、右心室の収縮により肺に送られる。
※4 左心室 心臓を構成する左右の心房と心室からなる4つの部屋の一つ、左側の心室のこと。肺から戻ってきた動脈血は、左心房を経由して左心室の収縮により全身に送られる。
※5 テイラーメイド方式 患者の個人差を考慮し、個別の心臓画像データに合わせたサポートネットを作成する手法。
※6 無縫製横編機 通常ニットウェアは、前身頃、後身頃、袖といったパーツを別々に編成して縫い合わせることによってできてるが、それとは対照的に、一着まるごとを編み機から直接、立体的に編み上げることのできる機械。
※7 縫合糸 手術部位の組織をつなぎ合わせるための医療用糸である。適用には一般的に針を用いる。様々な形状、サイズ、材質のものが存在する。
※8 高度管理医療機器クラスIV 不具合が生じた場合、人体へのリスクが比較的高いと考えられるもの及び患者への侵襲性が高く、不具合が生じた場合、生命の危険に直結する恐れがあるもの。
※9 品目仕様 製品を特定、規定する情報のこと。
※10 名古屋医工連携インキュベータ施設(NALIC) 医工連携・ライフサイエンス分野の技術シーズ・知財等を事業化するベンチャー企業・中小企業のビジネスを支援する独立行政法人中小企業基盤整備機構の施設です。
※11 編目 編地を構成する一つのループのこと。編地の構造の最小単位
※12 ソックスレー型 最下部に溶媒を入れたフラスコ、中間に固体の試料を入れたろ紙あるいは焼結ガラスでできた容器、最上部に冷却管がついた装置という構造の抽出器のこと。
 フラスコを加熱すると溶媒は蒸発し、最上部の冷却管で凝結する。この溶媒は滴下する際に固体試料に滴り落ち、目的成分を少量溶かしこんだ後、フラスコへと戻るため、油分等汚れを溶かして試料から取り除くことができる。