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難治性小児脱髄疾患の病態メカニズムとその治療標的となる候補分子を特定しました

難治性小児脱髄疾患の病態メカニズムとその治療標的となる候補分子を特定しました

 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所の榎戸靖(えのきど やすし)室長、稲村直子(いなむら なおこ)研究員、名古屋市立大学医学部の浅井清文(あさい きよふみ)教授、新潟大学医学部の竹林浩秀(たけばやし ひろひで)教授及び川崎医科大学の松田純子(まつだ じゅんこ)教授らを主体とする共同研究グループは、小児期早期に発症する指定難病の一つであるクラッベ病1の病態メカニズムとその治療標的となる候補分子を特定しました。
 この成果は、これまで有効な治療法のなかった小児脱髄疾患の原因解明と治療法開発に新たな手掛かりを与えるものとして、国際学術専門誌に論文掲載されます。
 本研究は、文部科学省新学術領域研究「グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態」の一環として実施されました。

掲載雑誌:Neurobiology of Disease (ニューロバイオロジー オブ ディジーズ)
論文の雑誌への掲載:平成30年12月号(Volume 120, December)
雑誌のWebページ:https://www.journals.elsevier.com/neurobiology-of-disease

1 研究の背景

 ライソゾーム病2の一つであるクラッベ病は、乳幼児期に発症し、多くは2歳までに死亡する遺伝性の脱髄疾患3です。本疾患は、今から40年ほど前に日本人研究者らによって提唱された『サイコシン仮説』と呼ばれる有力な病態仮説、すなわち、「毒性物質であるサイコシンが脳内に異常蓄積することで、神経軸索の髄鞘化を担うオリゴデンドロサイト※4が死滅し、脱髄が生じる」という考えに基づき(参考文献1, 2)、これまで国内外で数多くの研究が進められてきました。
 しかしながら、これまで、発症の病態メカニズムは明らかとなっておらず、有効な治療法の開発には至っていません。

2 研究の過程

 ヒトの症状を極めて良く再現する、自然発症型クラッベ病モデルマウスの脳からオリゴデンドロサイトを高純度で単離・培養し、それらを顕微鏡下で分化・成熟させることによって、病気が発症するまでの過程で起こる様々な異常を解析しました。さらにこの時、オリゴデンドロサイトの分化や成熟に関わるシグナル伝達分子5の中に機能低下をおこしているものがないか、探索を行いました。

3 研究成果

 本研究により、クラッベ病の脳では1)脱髄に先立ち、オリゴデンドロサイトの分化・成熟に関わる細胞内プログラムに異常が生じていること、2)それらの異常は、分化に伴って細胞内で増加するサイコシンの量に比例して生じていること、さらにこの時、3)オリゴデンドロサイトの分化・成熟に重要なシグナル伝達分子であるAkt/mTORならびにErk1/2の活性が顕著に低下していること、が明らかとなりました。

発達期のクラッベ病の脳で見られるオリゴデンドロサイトの変性・脱落メカニズム [PDFファイル/170KB]

4 研究の意義

 本研究成果は、クラッベ病を含む難治性脱髄疾患の原因究明に資するものであり、「発達過程でおこるオリゴデンドロサイト内でのサイコシン合成阻害」を標的とする新たな疾患治療法開発の可能性を提起しました。特に、Erk1/2及びAkt/mTORの活性低下を防ぐことが、オリゴデンドロサイト内のサイコシン合成阻害や脱髄の治療につながることが示唆されました。

5  掲載雑誌情報

Neurobiology of Disease
 国際的な学術出版社であるエルゼビア社が発行する学術雑誌。神経疾患の研究分野において、基礎と臨床をつなぐトップ・クオリティーの学術論文を掲載する専門誌。インパクトファクター及びサイトスコア(学術雑誌を評価する目的で参照される数値)に基づく評価は、それぞれ神経科学分野の学術誌261誌中39位、神経学分野の学術誌142誌中8位にランクされる。

<掲載論文>

 タイトル(和訳):Developmental defects and aberrant accumulation of endogenous psychosine in oligodendrocytes in a murine model of Krabbe disease(クラッベ病モデルマウスのオリゴデンドロサイトが呈する発達障害と細胞内サイコシンの異常蓄積)

 著者名:Naoko Inamura, Momoko Kito, Shinji Go, Soichiro Kishi, Masanori Hosokawa,Kiyofumi Asai, Nobuyuki Takakura, Hirohide Takebayashi, Junko Matsuda,Yasushi Enokido(稲村直子、鬼頭ももこ、郷 慎司、岸宗一郎、細川昌則、浅井清文、高倉伸幸、竹林浩秀、松田純子、榎戸 靖

 ※本研究成果は、注目すべき研究成果として、掲載雑誌の表紙の写真並びに帯のサブタイトルに選ばれました(「Neurobiology of Disease Volume 120 」:https://www.sciencedirect.com/journal/neurobiology-of-disease/vol/120/suppl/C)。

6 参考文献

1. Miyatake, T., Suzuki, K., 1972. Globoid cell leukodystropy: additional deficiency of psychosine galactosidase. Biochem. Biophys. Res. Commun. 48, 538–543.
2. Igisu, H., Suzuki, K., 1984. Progressive accumulation of toxic metabolite in a geneti cleukodystrophy. Science 224, 753–755.

 7 用語説明

※1 クラッベ病
 指定難病の一つ。別名「グロボイド細胞白質ジストロフィー」とも呼ばれる難治性小児稀少疾患。髄鞘に多量に存在するガラクトシルセラミドという糖脂質を分解する酵素(ガラクトシルセラミダーゼ)の遺伝子変異により発症し、易刺激性(些細なことでイライラすること)、精神運動発達遅滞、退行、てんかん等を主たる症状とする。現在のところ根治療法はなく、患者の多くは通常2歳までに死に至る。患者の脳には、サイコシンと呼ばれる毒性物質(正確には、ガラクトシルセラミド のリゾ体)が蓄積し、これがオリゴデンドロサイトを死滅させることが原因とされるが、その病態メカニズムは長らく不明であった。

※2 ライソゾーム病
 ライソゾームと呼ばれるオートファジーなどの食作用をおこなう細胞小器官の異常で起こる遺伝子疾患。クラッベ病をはじめ、現在まで60種以上の疾患が含まれる。

※3 脱髄疾患
 神経細胞がおこなう電気信号の伝達(跳躍伝導)に必要な、髄鞘を作る細胞が障害されて起こる疾患の総称。髄鞘を作る細胞には、中枢神経系ではオリゴデンドロサイト、末梢神経系ではシュワン細胞がある。脱髄が起こると正常な情報伝達ができなくなり、運動障害や知覚障害が生じる。
 イメージ図 [PDFファイル/197KB]

※4 オリゴデンドロサイト
 神経軸索の髄鞘化を担うグリア細胞。オリゴデンドロサイトに異常が生じると、髄鞘が障害され、跳躍伝導と呼ばれる速い速度の神経伝達ができなくなる。

※5 シグナル伝達分子
 細胞の分化や増殖、生存に必要な情報伝達をおこなう分子の総称。Akt/mTOR及びErk1/2は、オリゴデンドロサイトの分化や髄鞘形成にとって重要なシグナル伝達分子の一つであることが知られている。

 

問合せ

 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所病理学部
 担当:榎戸、稲村 
  電話:0568-88-0811(代表)
 内線:3524

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