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第25回愛知まちなみ建築賞の受賞作品について

ページID:0185252 掲載日:2018年1月31日更新 印刷ページ表示

第25回愛知まちなみ建築賞 受賞作品(7作品)

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総評

武藤隆委員長

 愛知まちなみ建築賞は今年で25回目を数える。あらためて初回からの受賞作品と総評とを振り返ると、いかに「まちなみ」と「建築」との関係についての議論が積み重ねられてきたかがわかる。比較的単体の建築の創造性が評価されていた初期の頃から、パブリックな空間といかに関わるかという点が評価されている近年に至るで、時代や社会の価値観の推移とともにその評価軸も同様に推移しているのも興味深い。この地域での、四半世紀にわたる継続的なその議論の蓄積は、「まちなみ」と「建築」の概念や関係性が、今後どのように変化していくかということも含めて、後世に残すべき貴重な記録として、愛知まちなみ建築賞のさらなる継続を望みたい。
 

 今年は、県内各地から69作品の応募があった。愛知県の「人にやさしい街づくりの推進に関する条例」に適合しないもの2点を除外して、67作品を審査の対象とした。地域ごとでは、名古屋市が29点、尾張地域20点、西三河地域13点、東三河地域5点となっている。1次選考では、この中から20点を2次選考対象作品とした。10月24日に行われた2次選考では、作品ごとの詳細資料・図面ならびに現地撮影した映像資料を用いて選考委員による討議を行い、7作品を選定した。
 

 受賞した個々の作品については各委員の講評をお読みいただきたいが、今回の審査で特筆すべき点としては、住宅を除いた受賞作品の多くが、一つの応募作品にもかかわらず道路をまたいだ2敷地に計画されたものであったことだ。「tonarino」や2つの大学施設のように、公園や大学キャンパスなどの広い敷地内の通路などとの関係性も含めると、ほぼすべての受賞作品がそうであるといっても過言ではない。「新城市立作手小学校・つくで交流館・作手総合支所」や「多機能型生活保護施設 愛恵園・愛恵園授産所」のようにほぼ同時期に計画・建設されたものと、「ATグループ本社北館・南館」や「名古屋大学N I Cを中心としたコレクティブ・フォーム(集合体)の形成」のように、計画・建設時期に時間軸のズレがあるものがあり、特に後者の視点はこの「まちなみ建築賞」にふさわしい試みや提案であると同時に、今後の評価軸に対しても大きな示唆を与えてくれている。そこには設計者の能力だけではなく、敷地やプログラムを用意する発注者側の時代や社会に対する眼力も必要になってくるが、「まちなみ建築賞」は、単に道路に面した敷地における建築単体のあり方に対する評価だけではなく、道路と敷地と建築の関係性やそのあり方によって産み出されるパブリックな空間そのものに対する提案をしているかどうかも重要な評価軸になってきていると実感した。近年、東海地区において様々な建築賞が創設されてきたことにより、それぞれの賞のもつ特徴が明確化されることで、「まちなみ」という視点から建築を評価する愛知まちなみ建築賞のあり方や役割も明確化されてきていることの証左であろう。

 

 

受賞作品 講評

◆ATグループ本社北館・南館
25-1

【車田写真事務所(2016)】
 
 主要用途  自動車ショールーム、事務所
 所在地   名古屋市昭和区高辻町
 建築主   株式会社ATグループ
 設計者   株式会社 竹中工務店
 施工者   株式会社 竹中工務店

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【講評】朝岡市朗委員 

 名古屋の中心部で有数な交通量の多い交差点”高辻”にこの作品はある。老舗の自動車販売のグル-プ会社が創立80周年記念事業として道路により分断されている4敷地を総合的な整備計画による本社とショール-ムなどが建替えにより素晴らしい街並みを創造している。


 幹線道路に沿って140m連続しているグループ運営の3社による統一されたショールームは、ガラス貼りで木材の内装であり、それ自体が魅力的な街並みであると共に、交差点に面してなだらかな屋根の曲線と木製の梁は大輪がのびやかに咲くように無機質な街並みに際立って目立っている。また、高い天井の開放的空間は、内外観共に、前面の高架道路が邪魔にならない高さで、街並みには景観の形成に貢献し、建物内部からは街路樹が背景となることで、相乗効果をかもしだしている。


 総合的な建替計画によるこれらの作品は”まちなみ”の形成に貢献すると共に、魅力ある地区の創造とさらなる活性化に貢献している素晴らしい作品である。

 

 

◆新城市立作手小学校・つくで交流館・作手総合支所
25-2

【谷川ヒロシ [トロロスタジオ](2017)】
 
 主要用途  小学校・地域交流施設・支所庁舎
 所在地   新城市作手高里
 建築主   新城市
 設計者   株式会社 東畑建築事務所 名古屋事務所
 施工者   波多野・三河特定建設工事共同企業体
         (作手小学校・つくで交流館)
         株式会社 筒井工務店(作手総合支所)

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【講評】生田京子委員 

 山村で小学校の統廃合が進んでいる。本計画は4校統合という厳しい経緯の中で、新しい地域コミュニティ(旧作手村)の中心を作ろうとした計画である。木造平屋建ての「新城市立作手小学校」が、何の垣根もなく「つくで交流館」と中庭で向かい合うのが素晴らしい。中庭を囲んで小学校のランチルーム・音楽室・図工室・メディアセンター、交流館のホールホワイエが配置され、共有利用される。地域と子どもたちの活動が、日常的に垣間見られ、連携や理解が深まる構成となっている。ともすれば都市部などではセキュリティを心配してここまでおおらかに小学校を開いていくことが難しい。本計画では、設計段階から地域と教職員・児童・利用者・行政でワークショップの議論が継続されたようで、相互に寄り添った案に完成していることが評価されよう。作手総合支所と小学校・交流館共に、地域材を用いた平屋で統一されており一体感もある。行政サービス・防災拠点・文化拠点が小学校と共にあり、一体の活動が展開されることで、山間地域に賑わいと安心感を与えている。

 

 

◆多機能型生活保護施設 愛恵園・愛恵園授産所
25-3

【株式会社 小林清文建築設計室(2017)】

 主要用途  生活保護法に基づく更生施設・授産施設
 所在地   岡崎市舞木町
 建築主   社会福祉法人 愛恵協会
 設計者   株式会社 小林清文建築設計室
 施工者   株式会社 波多野組

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【講評】太幡英亮委員 

 「まちとともに生きる生活保護施設」をコンセプトとしてデザインされたこの建築群は、これまで「まち」とは隔絶される事の多かったこうした施設に、空間の力で一つの新しい答えを与えている。市道による敷地の分断を、逆に「まちとの融合」の機会と捉え、道を挟んで「向かい合う」中庭や、連続する軒下、フルオープンになるサッシ、杉板壁などを組み合わせ、多様な居場所をつくり、まちの風景をつくり出している。


 入所者の生活を支え、社会復帰を促す施設として、職員による自然な見守りを容易にしつつ、入所者の安心感と地域への開放感を同時につくり出す空間操作が巧みであり、建築としては2棟でありながら、ボリュームを細かく分節した「建築群」としてのデザインも、施設が「まちと融合」する要因となっている。
 

 本来地域とともにあり、支え合うための様々な福祉施設だが、昨今、近隣住民に反対されたり、建設されたとしても閉鎖空間化を余儀なくされる事も多い。今後も本施設のように、「地域のまちなみ」をつくり「まちとともに生きる」施設が建築される事を期待したい。

 

 

◆tonarino
25-4

【Koji Fujii [Nacasa and Partners Inc.](2017)】

 主要用途  テナントビル
 所在地   名古屋市北区名城一丁目
 建築主   アイ・アンド・シー・コーポレーション株式会社
 設計者   株式会社マウントフジ
         アーキテクツスタジオ一級建築士事務所
 施工者   木下建設株式会社 名古屋支店(建築)
         中部土木株式会社(外構)
         岩間造園 株式会社(植栽)

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【講評】村山顕人委員 

 名城公園内の大津通りに面した敷地に登場したこの複合施設は、公園利用者のためのカフェ、レストラン、コンビニエンスストア、スポーツ用品店、ランナー・サイクリスト・サポート施設を擁するだけでなく、マルシェをはじめとする様々なイベントが開催される広場、イベント時の観客席や日常の居場所になる幅の広い階段、名古屋城が望める日当たりの良い広々としたテラスを提供している。設計者は、これらの場所がトナリ合う関係をつくり、多様な使い方を可能とさせることにより、広大な公園の中に「みんなで育てる、みんなの居場所」をつくることに成功した。
 

 それだけでなく、向かい側の愛知学院大学とともに大津通りの街並みと賑わいを積極的に形成していこうとする街に対する姿勢、景観を阻害する変電施設を中部電力との折衝と調整を通じて建築の内側に取り込んだ努力、既存樹木を保存・活用して木漏れ日空間を提供した配慮など、評価すべき点が多い。木材を使った仮設的な外壁、塗装されていない手すりなどは建築として未完成な印象を与えるが、これこそ「みんなで手をかけながら育てていく居場所」をつくろうとした設計者の意図した通りなのだろう。

 

 

◆名古屋大学NICを中心としたコレクティブ・フォーム(集合体)の形成
25-5

【名古屋大学(2017)】
 
 主要用途  大学
 所在地   名古屋市千種区不老町
 建築主   国立大学法人名古屋大学
 設計者   (NICの設計者として)株式会社 日本設計
         名古屋大学工学部施設整備推進室
         名古屋大学施設管理部
         名古屋大学施設・環境計画推進室
 施工者   清水建設株式会社
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【講評】久保田英之委員 

 このコレクティブ・フォームは3つの建築群からなり、名古屋のファッション、文教施設、良好な居住環境が整う四谷・山手通りの幹線道路沿いに建っている。


 通り沿いに対しては、日射を遮蔽する縦型ルーバーをNICと減災館の異なる建築物でも連続させ、省エネ等の環境提案に留まらず、デザインの統一性を計り景観を整えている。


 夜間には、室内から漏れる光が縦ルーバーに反射し、柔らかい表情を街へと投げかけている。
 

 3つの建築物の軸線には通り抜け空間の交差があり、人と人との淀みや対流を起こすソフトな仕掛けが出来ており、道路から敷地内の広場まで人を誘い込むゾーニング計画も魅力的だ。


 通常閉鎖的になりがちな学校施設が多い中で、この作品は社会に開かれた空間創出に長けているのと、複数の建築が異なった設計者と建設時期であり、長い時空間の中で景観を育てていった事業主及び統括設計者の熱意にも拍手を送る作品である。

 

 

◆まちに架かる6枚屋根の家
25-6

【栗原健太郎(2016)】
 
 主要用途  事務所併用住宅
 所在地   名古屋市名東区
 建築主   K氏
 設計者   栗原健太郎+岩月美穂
         studio velocity一級建築士事務所
 施工者   誠和建設株式会社
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【講評】廣瀬高保委員

  この建築物の作者は「愛知産業大学 言語・情報共育センター」で2016年度JIA(日本建築家協会)新人賞を受賞している(同作品により2015年中部建築賞、2016年日本建築学会作品選集新人賞等受賞)。この作品は通路とも教室とも取れる不思議な建造物で、建物として認識させるのは格子状に交差して空中に浮いている白い平坦な屋根である。今回応募された「まちに架かる6枚屋根の家」は、今年度第29回すまいる愛知住宅賞を既に受賞しており、それぞれ部屋ごとに片流れ(薄いHPシュル)の屋根で覆われている。軒下空間が外界と住み手を繋げる重要な中間領域などという理由付けをしてはいるものの、6枚の屋根が重なり合いながら建物を覆っている様は当たり前の納まりなのだが、この作者だからこそここまで軽やかに空中に浮かせることが出来たのだろう。

 

 

◆名城大学ナゴヤドーム前キャンパス
25-7

【日暮雄一[日暮写真事務所](2017)】
 
 主要用途  大学
 所在地   名古屋市東区矢田南四丁目
 建築主   学校法人名城大学 
 設計者   株式会社 日本設計
         (設計監修:名城大学経営本部施設部)
 施工者   株式会社大林組
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【講評】森真弓委員 

 このキャンパスは、名古屋市東区の準工業地域にあり、北は住宅・文教エリア、西は大規模工場エリア、南は大規模商業エリアに囲まれている。多様な機能を持つ場所と隣接する、車通り人通りの多い環境である。


 キャンパス内は、建物4棟を囲い込み型に配置し、周囲の環境に左右されない中庭を確保し、この4棟を繋ぐように、中庭の周縁に大学独自のアイデンティティである「丘」を設けた。また外部に対しては、敷地周辺から北側と西側をセットバックさせることによって圧迫感を押さえ、特に西側は隣接する矢田第二公園を取り込む形で、ゆったりと緑豊かな遊歩道とした。通りと一体となった大きなアプローチ空間は、なだらかに中庭と丘に繋がり、人の動線を自然にキャンパス内に誘引している。丘を歩くと、各棟からはガラス越しに学生たちの活動が垣間見え、大学の活気に触れることができる。潤いのある魅力的な中庭の環境は守られつつ、各棟間の抜けによって、閉塞感を感じさせない。


 大胆な設計によって、地域と大学それぞれを尊重しながら、互いに積極的な交流が図れる場が提供されている。ここで生まれる様々なコミュニケーションから、新たな活動が生まれ、魅力が発信されていくことになるだろう。

問合せ

愛知県 建設部 公園緑地課 景観グループ
電話:052-954-6612(ダイヤルイン)
内線:2669、2678
E-mail: koen@pref.aichi.lg.jp