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第27回愛知まちなみ建築賞の受賞作品について

ページID:0265313 掲載日:2020年1月17日更新 印刷ページ表示

第27回愛知まちなみ建築賞 受賞作品(7作品)

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総評

武藤隆委員長

 

 平成5年から始まった「愛知まちなみ建築賞」は、今年で27回目を数え、今回が令和に入って最初の回となる。

 今年度は、県内各地から55作品の応募があった。愛知県の「人にやさしい街づくりの推進に関する条例」に適合しないもの1点を除外して、54作品を審査の対象とした。地域ごとでは、名古屋市が20点、尾張地域21点、西三河地域11点、東三河地域3点となっており、昨年度とほぼ同様な分布であった。1次選考では、この中から20点を2次選考対象作品とした。10月29日に行われた2次選考では、作品ごとの詳細資料・図面ならびに現地撮影した映像資料などを用いて選考委員による討議を行い、7作品を選定した。

 

 受賞した個々の作品についての詳細は各委員の講評をお読みいただきたいが、今回の審査全体でやや気になった点としては、昨年度まで続いた大規模な作品の応募が少なくなり、比較的小規模の作品が多かったことだろうか。とはいえ、やはりここ数年の傾向である、敷地に対して建築単体だけではない複合的な提案や、増築やリノベーションなど、「再生」に関わるものが多く残ることとなった。「町営住宅河和第二団地」と「MOBTOWN ミナミシモハラ」は、同じ集合住宅でありながらも、従来のように縦に積層するタイプのものではなく、敷地内に豊かなパブリックスペースを引き込み、住人間はもちろんのこと、他者とのコミュニケーションの創出につなげる空間の提案であり、人口減少時代における、前者が新しい公共団地の、後者が新しい民間賃貸集合住宅のかたちの試金石となるのではないかと思う。「阿久比町庁舎」と「海辺の別荘 野間の改構」は、前者は中央公民館を残し、改修しながらそれと一体化しながら町庁舎を新築したケースと、後者は建て替えのできない敷地条件の中で、海に面したロケーションを最大限に生かしたささやかな別荘の改修と、規模は違えども、現代ならではの「再生」への手ごたえを感じさせられた。純粋な「再生」とは言えないが、「南山大学 教室棟 Q棟」は、アントニン・レーモンドによりつくられたキャンパスにおいて、継承すべきデザインや景観と、現代ならではのあり方とを融合させ、新築でありながらあたかも「再生」であるかのように思わせた力作である。また、これまで記した傾向に直接関わるものではないが、「あそのびハウス」や「たけなか外科内科こどもクリニック」は、既存住宅地へ良好な作品を置くことにより、周囲に対して景観的な影響を生み、それを増幅させるものだとして高い評価を得た。 

 

 近年の選考では、建築単体のあり方に対する評価だけではなく、道路と敷地と建築の関係性やそのあり方によって産み出されるパブリックな空間そのものに対してどのような提案をしているかや、新築の建築としての評価だけではなく、「再生」に関して残すことと新たに作ることに対してどのようなバランスで提案をしているかなど、近年ならではの視点で「まちなみ」から建築を評価する「愛知まちなみ建築賞」のあり方や役割が、より明確化されてきていると実感している。

 

 

受賞作品 講評

◆阿久比町庁舎
27-1

 【上田 新一郎[エスエス](2017)】
 
 主要用途  庁舎、公民館
 所在地    知多郡阿久比町大字卯坂
 建築主    阿久比町
 設計者    株式会社 安井建築設計事務所
 施工者    鴻池・岡戸特定建設工事共同企業体

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【講評】砂原和幸委員  

 阿久比町は、知多半島の中央部に位置し、平地とその周りを囲む丘陵地からなる自然豊かなまちである。町役場は、町域のほぼ中心にありアクセス性の良い立地であるが、敷地内は高低差があり分棟で使いにくいことが課題であった。その課題を克服し、まちの交流活動および災害対策の拠点として再整備することが求められていた。

 本件は、阿久比町の新庁舎棟を始めとした施設を現地建替えした作品である。敷地内には中央公民館を残し、新たに新庁舎棟と多目的ホール、食堂などを新設し、加えて地域コミュニティの場となる「みんなの広場」を中央に整備したことによって、町民が集まる拠点としての機能を大きく高めることとなった。

 また、各施設間に配された半屋外の軒下空間である「縁側モール」は、建物同士を繋げる通路の役割を担っているだけでなく、施設間の連続性をつくり出している。加えて、段状駐車場から各施設までをゆるやかに階段やスロープで繋ぐことにより高低差を解消し、敷地内を一体化しつつ全体のボリュームを抑え、自然豊かなまちの風景に馴染ませている。

 合理的な施設構造と無機質な意匠を纏う多くの庁舎建築にあって、既存建物との一体化を図りつつ、風景に溶け込む親しみやすい町役場を実現させた点が評価された。

 いずれ訪れるであろう中央公民館の建替えを含めた、町役場の将来の姿にも期待したい。

 

 

◆あそのびハウス
27-2

 【鈴木 文人(2018)】
 
 主要用途  専用住宅
 所在地    名古屋市名東区
 建築主    塩田 哲也
 設計者    塩田有紀建築設計事務所
 施工者    株式会社 岡本建設

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【講評】谷田真委員 

 私たちが暮らす「まちなみ」は、複雑で捉えどころがなく、手の施しようのない風景だと観念している人も多い。特に戸建住宅が並ぶ風景は、道路境界に塀が立ち、隣地境界に1mほどの隙間と、公私の区別が強く意識され、「まちなみ」にまで気を配る余裕をなくしているように見える。「あそのびハウス」は、そんな現代社会において当たり前となっている風景の中にあって、住まいとまちとの関係のあり方を示唆している。

 この計画では、経年変化による風景への早期溶け込みを意識した杉板仕上げの外壁や、街路樹に呼応したナンキンハゼの植栽など、外回りを中心に「木」という要素を使い、柔らかく心地よい空間がつくり出されている。そしてこれら外部に対する対処の方法が隣家に伝わり、自然と「まちなみ」になっている点に、これからの居住環境づくりへの可能性を感じた。

 審査過程では、前面道路に面した土地の過半が駐車場に捧げられている空間構成の中で、住民らによる「伸び伸び活動」が街角にまで溢れ出てくるのか議論もあったが、「木」を介した外装・外構の設えと、それら施しが周囲に伝播したという事実が、何よりも高く評価された。

 

 

◆海辺の別荘 野間の改構
27-3

 【Ryuji Inoue(2018)】

 主要用途  別荘、保養所
 所在地    知多郡美浜町大字野間
 建築主    イシダ総合システム株式会社   
 設計者    ナノメートルアーキテクチャー
 施工者    平田建築株式会社     

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【講評】𠮷元学委員 

 「この建築のどこがいいのだ」というご意見もあるであろう。私の育った小さな家の横には乳白の塩ビ小波板で覆われた物置がくっついていた。そこには使わなくなった乳母車や農機具、大切な自転車、ストックしている古新聞など様々なものが押し込まれると共に、家に西陽がダイレクトに入るのを和らげていた。建築空間に「主」と「従」の役割を与え、それらを組み合わせる事によって多種多様な生活に対応する。それぞれの空間には違った役割があり、同じ性能、強度、耐久性を持つ必要はない。時代や要求によって変化しても良いと常々考えている。

 この別荘では既存である鉄筋コンクリート造タイル張りの「主空間」にポリカーボネイトの小波板で作り替えられた「従空間」が絡み合う、しかしここでは従うだけではなく自然を防御するための「従空間」が「主空間」に影響を与え、ここでの暮らしを「塩と砂の土地」に着地させている。作者は改修前の姿より、より本来の姿に戻すこの手法を「改構」と名付けている。

 現在、都市にあふれている単一的な建築に多様なディメンションを付加することによって、機能的に対応するだけでなく、本来の建築空間自体も変えていく可能性をこの建築は示している。

 

 

藍靖会 たけなか外科内科こどもクリニック
27-4

 【Hiroshi Tanigawa[ToLoLo studio](2019)】

 主要用途  診療所
 所在地    名古屋市北区金城町四丁目
 建築主    医療法人 藍靖会
         たけなか外科内科こどもクリニック/竹中 拡晴
 設計者    TSCアーキテクツ/田中 義彰
 施工者    東海インプル建設株式会社

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【講評】柳澤講次委員 

 この建物のある北区金城町は特に特徴のあるまちではない。以前は店舗、工場、住宅と混在した町であり、地下鉄駅からは遠く、庄内川にかかる新川中橋、名西橋との間に立地し交通量だけは非常に多い場所である。

 この病院はガラス張りで中がまる見えである。患者にとっては、余りガラス越しに見える外部は必要ないと思うが、大胆に診療部門と外部との間に「縁側」があり、その先に長い「軒」、夜間には周りの道路と一体となる「光」がセットされている。

 病院という性質上、病気ではないときには「縁側」には上がりにくいが、「軒」「光」だけでも地域の住民と医療サービスの関わりが持てる、楽しい建築である。

 都市には空き家が増えても身近に「お医者様」がいるので、住む人は幸せである。その幸せをもっと密度の濃い物にしてくれるこの「縁側」と「軒」「光」である。

 今後地域の特徴は薄れてくると思うが、この3つのファクターが、周辺の「まちなみ」「住みやすさ」「医療サービス」に大きく貢献してくれると思う。

 

 

◆町営住宅河和第二団地
27-5

 【栗原 健太郎(2017)】
 
 主要用途  町営住宅
 所在地    知多郡美浜町大字河和
 建築主    美浜町
 設計者    栗原 健太郎+岩月 美穂
            studio velocity一級建築士事務所
 施工者    伊藤組建設株式会社

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【講評】溝口周子委員 

 海側に整然と並ぶ箱型の既存積層団地とは対照的に、開放的な緑の中に配置された深い軒の白木の住戸群は、実際に潮の香りの中で見るとどこか南の島を思い起こさせた。不揃い且つ計算されたゆとりある住宅の配置や大きな空が見える低い平屋には、積層団地には無い人間らしさが感じられる。高度経済成長時代、効率の良い画一的な積層型団地がひしめき合うように建設され、似たような殺風景なまちなみを作っていた。時代が変わり現在の縮小型社会では、その積層型団地の空室が目立つ。

 町営住宅河和第二団地はこうした社会の変化を受けて、住戸数を減らして地面に近い生活を提供し、子育てしやすく高齢者にもやさしい団地となっている。住宅の間には開かれた庭と路地、路地に面して縁側とリビングが繋がる。この内と外のゆるやかな繋がりが人との関わりを持ちやすくし、お互いを助け合う住人同士のコミュニティが生まれている点が高く評価された。ただ開放的であるがゆえに、交通量の多い道路側のプライバシー確保やセキュリティの問題が同時に課題となるだろう。とはいえ、殺風景な団地のまちなみを人間らしい団地のまちなみへ、可能性が周辺へ広がっていくことを期待する。

 

 

◆南山大学 教室棟 Q棟
27-6

 【Hiroshi Tanigawa[ToLoLo studio](2019)】

 主要用途  学校(大学)
 所在地    名古屋市昭和区山里町
 建築主    学校法人 南山学園
 設計者    株式会社 日本設計
                   株式会社大林組名古屋支店
 施工者    株式会社大林組名古屋支店

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【講評】太幡英亮委員

  南山大学キャンパスは、フランク・ロイド・ライトの助手として帝国ホテル建設にあわせて来日し、その後多くの日本人建築家を育てたアントニン・レーモンドの計画によって1964年に誕生した。丘陵地の自然地形を活かしたキャンパスの、尾根に沿ったメインストリートの北端に、新たに建設されたのが「教室棟Q棟」である。

 高低差のある地形に馴染む建築であり、コンクリート打放しの構造体とプレキャストコンクリートのルーバー、赤土色の外壁など、キャンパスの歴史的意匠を踏襲している。この外壁色やルーバーなどはモックアップ検討を重ねて造られ、内外に渡り細部まで入念にデザインされている。低層部はとても開放的で、ラーニングコモンズや講義室など、開かれた学生の拠点として設計されている。

 建築集合体として南山大学キャンパスを見たときに、尾根沿いの建築群が強固なリンケージを持つ集合体として確立されていることがわかる。そしてこのリンケージは50年以上に渡る改修や新築を経て「継承」されてきたものである。先人の建築家が作り出した意匠と、長年積み重ねられた歴史的景観に対するリスペクトが十分に表現されており、まちなみ建築賞に相応しい。

 

 

◆MOBTOWN ミナミシモハラ
27-7

 【Hiroshi Tanigawa[ToLoLo studio](2019)】
 
 主要用途  専用住宅(賃貸)
 所在地    春日井市南下原町一丁目
 建築主    井村 正和
 設計者    ジンバルワークス
 施工者    株式会社協和コーポレーション

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【講評】森真弓委員 

 本物件は、四棟の住宅と共有スペースからなる賃貸住宅である。敷地内の余剰空間をシェアする事によって、新たなコミュニティの生成と住まい方の提案を目指したものである。

 敷地全体は鋭角な交差点に隣接する三角地である。そこに、シンプルなボリュームの四棟がランダムに配置されている。各棟の隙間には遊歩道がレンガで形成され、道路面から敷地の内部になだらかに人を導く。その動線上に各戸の軒下空間がせり出すように配置され、緩やかに共有されている。共有スペースに配置された共用の井戸は、住人が自由に使うことができる。遊歩道上に張られたカラフルなタープは日除けとなり、人が集う場となるとともに、空間にアクセントを与え、この物件のシンボルともなっている。

 ここには、住民が自らコミュニティを育むことを促すための、積極的な仕掛けが施され、まちなみ創造への挑戦とも感じられる。「みんなのまち」と名付けられたこの場所から、新たなストーリーが紡ぎ出される。

問合せ

愛知県 都市整備局 都市基盤部 公園緑地課 景観グループ
電話:052-954-6612(ダイヤルイン)
内線:2669、2678
E-mail: koen@pref.aichi.lg.jp