食器よもやま話  著:神崎かず子

(6) 会席の器(最終回)

先回までは室町から桃山時代の流れとして、武家の式正料理である「本膳」から禅宗寺院の「精進料理」、これらを融合した茶の湯の「懐石料理」までをたどりました。そしてこの時代には、日本料理の代表的食材や調理法、伝統的な食事作法などがほぼ完成していたことについてもふれました。

ちなみにこの時代は、茶の湯、いけばな、連歌などさまざまな文芸が流行していました。これらはいずれも参加者が一堂に集まり、その会を成立させるという性格を持っていたいわゆる「会所」の芸能です。茶の湯も「懐石」もこうした人々の会合の中で洗練されたものでした。現在では日本料理の特徴といわれているものも、前回まとめた懐石料理が重視する3つのポイントに集約できるといえるでしょう。今回はこのシリーズの最終回として、江戸時代についてまとめてみたいと思います。

懐石料理の献立内容は、本膳料理や精進料理とほぼ同様ですが、禅宗寺院での献立や食事作法などを取り入れて洗練させたものでした。一汁三菜というささやかな献立を基本に、当初は酒宴を伴わない供応料理として考案されたものです。

一方、酒宴を伴う場としてあげられるのが、江戸時代に発達した料亭料理でした。高級料理屋が出現するのは江戸時代の中期以降、吉原などの遊郭をはじめ各所の料理屋で趣向を凝らした酒宴が繰り広げられています。この世の憂さを忘れる場として、ここでは粋で洒脱な意匠を凝らした酒器や食器が用いられました。

また、南蛮料理、卓袱料理、普茶料理などの異国料理が積極的に紹介されたこと、米の神聖視、肉食のタブー、米食に野菜と魚を取り合わせる日本的食生活が定着したこと、などもこの時代の大きな特徴でした。

さらには、出版ブームの中で料理本が多数刊行され、広く一般に料理文化が楽しまれる時代であったことは注目されます。

食の器については、懐石料理の中で洗練された点をまとめてみたいと思います。すなわち、料理は盛り付けの色彩、バランスや立体感が重視され、器との調和によって完成すると考えられました。これらは、ほの暗い室内でも目を引くデザイン性の高さと、給仕に適した機能性を備えたものでした。料亭で使われた食器もまた懐石から影響を受け、同時に酒宴を引き立てる趣向を強調させています。

ここにきて食器は陶磁器製が主流になり、その種類も普段使いから懐石や料亭用まで多種多様な器が使い分けられるようになりました。江戸時代はまさに百花繚乱の食器時代であり、使い手のこの豊かな遊び心には現代の私たちも大いに心動かされます。



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