食道がん

食道とは

 食道は咽頭と胃の間をつなぐ管のような臓器です。背骨の前面やや左側にあって、気管、心臓、大動脈、肺などの重要な臓器に囲まれています。長さは25cmくらいで、広がったときの直径は約2〜3cmです。食道の壁の厚さはたかだか4mmですが、図1のように何層もの構造からなっています。食道はものを飲み込むと壁が順次動いて(懦動運動といいます)胃へと運びます。

食道とは 食道とは
図1:食道の部位による分類 図2:食道壁の構造

食道がんの頻度と原因

 わが国で1年間に食道がんにかかる人はおよそ22000人と言われています。これは胃がんの6分の1の発生頻度です。男性に多く、女性の6倍となっています。60歳代の方が最も多く、患者さんの平均年令は約64歳です。
 原因は明らかではありません。しかし、飲酒と喫煙の両方の嗜好を持っておられる方に高頻度に認められます。また咽頭、喉頭、ぜつなどの口からのどまでのがん(頭頸部がんといいます)と重複しやすいことが分ってきました。

食道がんの頻度と原因

図3:食道がんに対する飲酒・喫煙習慣の影響

食道がんの発生と進行

 日本人の食道がんのほとんどを占める扁平上皮がんは最も内側の粘膜上皮(図2)から発生し、やがて外膜に向かって発育進展して行きます。食道がんのうち、深さが粘膜下層までのものを、まだ比較的浅い層に止まっているという意味で「表在がん」と呼び、とくに粘膜内にとどまる食道がんを早期がんと言っています。がんはこのような段階からさらに進展し、食道壁を貫き、ついには気管、大動脈、肺、心臓といった周囲の臓器に直接食い込んで行きます(これを臓器浸潤といいます)。

 このような局所の進行とは別に、がん細胞はリンパ管や血管に入り込み、食道以外の場所に定着し、新たに増え始めることがあります。この現象が「転移」です。リンパ液の流れに乗ってリンパ節にたどり着き増殖した結果、リンパ節が腫れてくるのがリンパ節転移です。また血液によって運ばれたがん細胞が肺、肝臓、骨などの臓器で発育するのが臓器転移(細胞の運ばれ方から血行性転移ともいいます)です。

 言葉の問題ですが、がんが手術など何らかの治療で完全に消えていたように見えていても、わずかに残っていたがん細胞が再び増殖し、症状を表わしたり検査で認識できるようになる状態を「再発」と呼んでいます。

食道がんの症状

 食道がんの症状は局所の進行状態によって異なってきます。表在がんのような比較的浅いがんでも、60%に軽いながらも食道に関連した症状があります。代表的なものは、軽度のつかえる感じ、食道に何かある感じ、食べたり飲んだりする時のしみる感じで、これらが初期症状といえます。がんが進行してきますと、食道が狭くなり、肉などの固形物がつかえるようになります。ものを食べた時に胸の痛みを覚える人もいます。やがてつかえる回数もふえ、柔らかなもの、流動物まで通りが悪くなってきます。最後には水もだ液も通らなくなり、もどすようになります。
 このような食道特有な症状のほかに、声のかすれ、体重減少、頸部リンバ節の腫れにも注意しましょう。

食道がんの診断

 食道がんの診断にはまずX線検査と内視鏡検査が行なわれます。X線検査は進行状況と病変の位置を見るのに適しているのに対し、内視鏡検査は表面的で小さながんの診断に適しています。内視鏡検査でがんが疑われた場合には、拡大内視鏡による精密検査やヨード液を使った検査が追加されます。ヨード液をかけると、正常な食道は黒く染まり、がんの部分は染まらずに黄色な領域として認められます。非常に有用な検査法ですが、刺激性があることやヨードアレルギーのある人には使用できないなど欠点もあります。最近では、NBI(狭帯光観察)に代表される画像強調観察の登場により、スイッチ一つで内視鏡画面の色調が変わり、ヨード染色と遜色のないくらいに食道がんの発見が可能となっています。また、NBIに拡大観察を併用することにより、食道がんの診断はもとより、がんの深さの診断(深達度診断)が可能となっています。最終的には疑わしいところから2mmほどの小片をつまんで、がん細胞の有無を顕微鏡で調べます(これを生検といいます)。

 がんの存在が確認されますと、次にはがんの進行度の検査が始まります。
 がんの拡がりを調べるには、CT検査と超音波内視鏡検査が用いられます。CT検査では主に周囲臓器への浸潤の有無を検討します。超音波内視鏡は、がんの深達度診断をより高い精度で調べられ、特に表在がんの診断に威力を発揮します。ある程度進行したがんが気管と接する場所に存在するときには、気管支ファイバースコープで気管の中を観察し、食道がんの影響がないか調べることもあります。

 リンパ節転移がないか調べるときもCT検査と超音波内視鏡検査を行ないます。CT検査は頸部から腹部までの1cm以上のリンパ節転移の検索に役立ちます。一方超音波内視鏡は食道周囲の小さめなリンパ節転移の検査に用いられています。このほか頸部超音波検査も頸部リンパ節転移の検索には必須です。転移は身体の至る所におこります。食道がんの転移しやすい臓器は、肺、肝臓および骨です。肺や肝臓への転移はCT検査を用いて調べます。背中など身体のどこかに痛みがある場合には、骨への転移を検査するためアイソトープ(放射線物質)を用いた骨シンチという検査も行ないます。最近では、PET(陽電子放射断層撮影)検査を行う場合もあります。食道がんの場合、脳に転移することは滅多にはありませんが、必要に応じて脳のCT検査かMRI検査(磁気を利用した画像診断)を行なうこともあります。

 さらに、治療方針を決定するためには患者さんの状態を知ることが大切です。そのため、がんの進行度の検査と平行して、手術や化学療法、放射線療法に耐えられる身体かどうか、心臓、肺、肝臓、腎臓といった内臓の機能を調べる検査も行ないます。

食道がんの病期(がんの進行状況)

 病期はがんの進行状況を表わすもので、食道がんではがんの深さ、リンパ節転移あるいは臓器転移の有り無しで決まります。治療計画を立てるうえでとても重要なものです。食道がんの病期は次のように分類されています。

0期 きわめて初期で、がんは粘膜上皮(図2)の中に止まっています。
T期 がんは粘膜下層(図2)より浅い層に止まっており、しかもリンパ節やほかの臓器に転移はありません。
U期 がんは固有筋層(図2)よりは深いものの周囲臓器にはまだ浸潤がなく、リンパ節転移も臓器転移もありません。あるいは、がんの深さが粘膜固有層から固有筋層の間であっても近くのリンパ節に転移があります。
V期 がんは固有筋層をすでに貫いてはいますが周囲臓器にはまだ浸潤がなく、しかも近くのリンパ節に転移があります。あるいは、周囲臓器に浸潤がある場合です。
W期 ほかの臓器に転移があります。この場合がんの深さやリンパ節転移の有無は問われません。

食道がんの治療方法

 食道がんの治療は病気の進み具合とからだの状態とによって選択されます。代表的な治療方法には、内視鏡治療、手術、放射線治療、抗がん剤治療があります。これらの治療は単独で行われることもありますが、治癒率を向上させるために組み合わせて行なわれることもあります。私たちは専門家として最も相応しいと思われる治療をお勧めしていますが、自分の希望に添わない治療を無理に受ける必要はありません。では、代表的な治療法についてそれぞれ説明しましょう。

内視鏡治療

 内視鏡治療には内視鏡を用いて食道の内側からがんを切り取る内視鏡的切除術と、光や特殊なガスを用いて病変を焼くという内視鏡的焼灼術があります。内視鏡切除術には大きく2つの方法EMR(内視鏡的粘膜切除術)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)があります。従来はEMRにて治療が行われていましたが、大きな病変だと分割切除になり、遺残・再発の危険性があるという問題点がありました。しかし、ESDの開発、進歩により現在では大きさ、周在性にかかわらず一括切除可能となりました(詳細については、内視鏡部のホームページを参照ください)。EMRも1cm前後の小さな病変に対しては盛んに行われています。内視鏡治療の適応はリンパ節転移がほとんどないとされるステージ0のがんです。またステージ1の症例に対する化学放射線治療では局所再発が高いこともあり局所再発を減らすために先に内視鏡治療を行い術後結果によって追加で化学放射線治療を行うこともあります。内視鏡治療に要する時間は、大きさや場所などによりますが、早いものは15分、大きなものでは2-3時間ほどかかることもあります。食事は翌々日から開始され、1週間後には退院が可能となります。内視鏡治療の偶発症には、出血や穿孔(食道の壁に穴があくこと)があります。また、食道では大きな病変を切除した場合に狭窄(食道が狭くなる)を来す場合があります。その予防として術後のステロイドを内服や、切除した局所への注入療法などが行われます。狭窄をきたした場合には後日バルーンで狭いところを広げることもあります。
 内視鏡的焼灼術には、PDT(光線力学的治療)やAPC(アルゴンプラズマガス凝固法)があります。ともに前述の内視鏡的切除が困難な場合(再発症例など)に行われることが多い治療です。有用な方法ですが、病変を焼いてしまうため、病変の病理学的評価ができないという欠点もあります。

手術

 手術は、がんが発生した臓器と転移している可能性のあるリンパ節を一緒にとってしまう治療です。
 食道がんの場合は食道と食道の周囲のリンパ節(所属リンパ節)を摘出します。食道は頚部、胸部、腹部に存在するため、その所属リンパ節も頚部、胸部、腹部に存在します。したがって食道がんの手術は頚部、胸部、腹部の手術操作を必要とします。食道がんのほとんどが胸の中の食道に発生しますので、切除するには胸を開け、胸の中の食道とその周囲のリンパ節を取った後、おなかをあけて、胃上部周囲のリンパ節を取るとともに、胃を細い管にして食道の代用とします(胃潰瘍、胃がんなどで胃を切ってある人は小腸または大腸を用います)。胃の管は容易にのどの高さまで伸びます。幅4cmほどの管にした胃を頸部まで持ち上げ、首で残っている食道とつなぎます。
 このように食道がんの手術は胸部、腹部、頚部に大きな傷を必要とします。しかし最近では食道がん手術においても、胸腔鏡下手術や腹腔鏡下手術を行い、胸部や腹部の傷を縮小し、手術侵襲軽減に努めています。
 手術時間は約7時間です。出血量は約250mlであり、通常輸血をすることもほとんどありません。手術が終わりましたら手術室で人工呼吸器をはずし、ICUに戻ります。手術翌日から病棟を歩いていただきます。順調に経過すると、数日で体に入った管がほとんどとれ、手術から約1週間で食事がはじまります。
 ではこの手術にはどれくらいの危険が伴うのでしょうか。手術後に起り得るトラブル(合併症といいます)の代表的なものは、肺炎と縫合不全(食道と胃を縫い合わせたところの癒合がうまくいかないことです)です。手術後さまざまな合併症で入院中に命を落とす可能性は1%程度あります。
 手術後の食事は飲み込みやすいゼリーや訓練食から開始し、だんだん普通の食事に戻していきますが、食道の代わりの胃の管が張って圧迫感を覚えることがあります。1回の量を少なくし回数をふやして、食事を摂取することになります。
 でもたいていの方は1回に受け付ける量が増え、1日3回で済んでいます。最終的には食事量は平均して健康時の70%程度となります。また消化管の状態が変わり食事量が減る結果、体重も平均5〜6Kg減少します。
 食生活は変わるかもしれませんが、他の生活に著しい支障はなく、早ければ2か月くらいから社会復帰ができるようになります。またリンパ節を取る関係で手術後一時的に声がかすれる場合があることも知っておいて下さい。

放射線治療

 放射線治療は主に身体の外からX線をかけ、がんの治癒を目指す治療です。治療は一日一回、週に5回で、約6週間ほどかけて行ないます。抗がん剤を同時に併用することが効果が高いので患者さんの体力が許せば両方の治療を行います。放射線だけの治療は外来治療が可能ですが、抗がん剤の点滴の間は入院が必要です。また食道がんで食道が狭くなって食事が十分取れない場合は全身管理のため入院で治療が必要です。放射線治療中心に治れば食道が温存されるので患者さんの負担は軽くすみます。粘膜に限局して転移のない比較的限局した大きさの食道がんなら手術成績と大きな差はありません。しかしより大きな腫瘍だったり周囲のリンパ節に転移がともなうと、放射線と抗がん剤の組み合わせでは治療効果が十分でないので手術が優先されます。患者さんの体力や他の病気などの理由で手術の負担が大きくなり治療が難しい場合や手術を希望しない患者さんでは放射線と化学療法が選択肢となります。また手術がふさわしくないほどがんが進行してしまっている場合は放射線治療と化学療法が標準的な治療法になります。
 放射線治療は手術ほど負担は大きくないですが、副作用もあります。一般には治療中に食道粘膜の炎症でものがとおりにくくなったり放射線を当てる皮膚に炎症がおき赤くなってきます。これらの副作用は治療終了後に次第になおっていきます。限られた割合の患者さんで数ヶ月や数年後に肺や心臓に放射線のダメージがおき治療が必要になる場合があることが判っています。

抗がん剤治療

 抗がん剤治療は薬を用いてがん細胞を殺す治療であり、様々な病期で実施されます。
 病期T期の場合、外科手術の代替治療として根治を目的に放射線治療と併用で5−フルオロウラシルとシスプラチンという抗がん剤を用います。通常は放射線治療と同時期に4週おきに2回繰り返します。
 病期UやVの食道がんにおいては再発予防および治癒割合の向上を目的に標準的には手術前に5−フルオロウラシルとシスプラチンの併用治療を3週おきに2回繰り返します。
 がんが周囲の臓器へ浸潤し手術が困難な場合や病期Wでもがんが放射線治療の照射範囲内にとどまっている場合などには、根治もしくは症状の緩和を目的に放射線治療と併用で5−フルオロウラシルとシスプラチンという抗がん剤を用います。通常は放射線治療と同時期に4週おきに2回繰り返します。
 病期Wで手術や放射線治療が困難な場合、症状の緩和効果や延命効果を目的に抗がん剤治療が選択されます。食道癌に有効な抗がん剤はフッ化ピリミジン系薬(5−フルオロウラシルやS-1)、プラチナ系薬(シスプラチンやネダプラチン)、タキサン系薬(パクリタキセルやドセタキセル)などがあります。これらの抗がん剤を単独もしくは組み合わせて実施しますが、通常初回治療としては5−フルオロウラシルとシスプラチンの併用治療を4週おきに繰り返します。効果が乏しくなった場合は、通常タキサン系薬などが実施されます。
 抗がん剤には一定の副作用があります。自覚症状として現われるものは、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、口内炎、脱毛、手足のしびれ、身体のだるさなどです。自覚症状として表れにくいものは骨髄毒性(白血球減少、血小板減少、貧血)、腎臓の機能低下、肝障害などがあります。副作用は個人差が大きく抗がん剤の種類によっても異なりますが、副作用が強い場合には副作用予防、休薬や減量などの対策を行い、負担を軽減する工夫をします。
 上記の標準的な治療法以外にも臨床試験や治験(新薬を用いた臨床試験)などを通して新しい治療法などを行う場合もあります。

その他の治療

 食道がんは物が通らなくなる病気です。ここで述べるのは治すための治療ではありません。食べるルートを確保するための治療です。一つは一定の太さまで広がろうというカを持っているステントという円筒状、網目状の金属を狭くなったところにおく方法です。もう一つはバイパス手術といって、がんはそのままにしておいて食物が通る道を作る外科的治療です。

食道がんの病期と治療方法

食道がんの治療方法は病期によって異なってきます。それぞれの病期と原則的な治療方針は次のようになっています。

0期

  1. 内視鏡治療
  2. 手術

T期

  1. 手術
  2. 内視鏡治療
  3. 放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた治療
    粘膜内にがんがおさまり、病変の範囲が広くないときは内視鏡治療を選択します。病変が粘膜を越えて粘膜下層におよびリンパ節転移がないときは、手術が標準です。
     最近では、手術をしないで放射線と抗がん剤でがんを治したり、内視鏡で病変を切除したあと放射線と抗がん剤で治すことができるかどうかに関する臨床試験への参加を求めることがあります。

U期

  1. 手術
    手術だけでは治癒率に限界があります。手術前に抗がん剤を使用して病変を小さくした後、手術で病変を切除することが標準です。
  2.  

V期

  1. 手術
    手術だけでは治癒率に限界があります。手術前に抗がん剤を使用して病変を小さくした後、手術で病変を切除することが標準です。
     ただし明らかに周囲臓器に浸潤があり、手術であらかじめ取り切れないことが分っているときには放射線と抗がん剤治療を行ないます。手術ができない場合に臨床試験への参加を求められることがあります。

 W期

  1. 放射線治療
  2. 抗がん剤治療
  3. 放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた治療
    放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせた治療。この方法が現在最も一般的です。 抗がん剤の使い方と量については様々な意見があり、より優れた治療方法を開発するため、臨床試験への参加を求められることがあります。

食道がんの病期と治療方法

食道がんの治療成績

食道がんの治療成績は病期別にみますと次のようになっています。ここで示しています数字(%)は5年生存割合を表わします。一人の方が5年間生きられる可能性です。食道がんの場合、再発はほとんど2年以内です。

食道がんの治療成績


平成29年2月改訂

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