愛知県衛生研究所

猫ひっかき病

猫の写真

病名にしてはおかしな名前ですが、ネコに引っ掻かれたり、噛まれたり、あるいは傷のある部分をなめられたりした後に発病することから、この名前がつきました。 この病気の病原体は最近までわかりませんでしたが、1992年にグラム陰性の桿菌であるバルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)であることが判りました。

症状は主にリンパ節炎で、ネコに引っ掻かれた後10日頃から傷が赤くはれ、手の傷なら腋窩(脇の下)リンパ節が、足の傷なら鼠径(足の付け根)リンパ節が腫れ上がり、時には鶏の卵くらいになります。ほとんどの人で微熱が長く続き、全身倦怠、関節痛、吐き気等があります。
 自然に治ることが多いのですが、治るまで数週間から場合によっては数ヶ月かかることもあります。
 バルトネラ・ヘンセレはエイズの患者さんに多い細菌性血管腫からも検出されており、免疫不全の人や、免疫能力の落ちたお年寄りでは同じような症状を起こすことも考えられます。重症例では麻痺や脊髄障害の例も報告されています。

猫のイラスト

この菌はネコに対しては全く病原性はありませんので、感染したネコにも全く症状はありませんが、18ヶ月以上も感染が続くとされています。ネコからネコへの菌の伝搬にはノミが関与しています。ノミが感染したネコの血を吸うことにより、ノミの体内に菌が入り、やがてノミの体内で増殖した菌はノミの糞便中に排泄されます。その菌をネコが歯あるいは爪に付着させ、ネコからヒトあるいはネコ間で傷ついた皮膚を介して(必ずしもネコに派手に引っかかれる必要はありません、また、目に見えない小さな傷を介することもあります)瘡傷感染するものと思われます。

日本ではネコの9%〜15%が菌を保有しているとの報告があります。北より南(気温の高い所ほど)、雌より雄(喧嘩する機会が多いほど)、飼いネコより野良ネコ(蚤の寄生が多い、あるいは他のネコとの接触回数の多いほど)の方がこの菌の保有率が高い傾向にあります。

人の猫ひっかき病は日本では全国調査がされていないために患者数は不明ですが、おそらく全国で年間2万人程度であろうと言われています。患者発生に季節性が認められ、夏から初冬に多く、ネコにつくノミの繁殖と関係があると思われます。またこの時期は春に生まれた子ネコが外を出歩くようになる時期で、他のネコとの接触によりノミを介して、あるいは噛まれたり、引っ掻かれたりしてネコの間で広がり、人に感染させているのではないかと思われます。

感染防止のためには飼いネコを外に出さないようにしつけることが最も良い方法です。その他「定期的なノミの駆除の実施」、「食べ物を口移しで与える等のネコとの過度な、濃密な接触をさける」等に心がけて飼育しましょう。

もしネコに引っかかれた後でリンパ節が腫れたり、微熱が続いたりして診察を受ける場合には、お医者さんにネコに引っかかれたことを伝えると治療の助けになります。

テントウ虫のイラスト

最近ではペットが家族の一員として、ヒトとの濃密な接触が多くなっています。動物を飼う場合には猫ひっかき病等の動物と人の間で起こる感染症(人獣共通感染症といいます)に対する知識を持つことは家族の健康とペットの健康を守る上で大切なことです。