愛知県衛生研究所

リステリア症

2004/11/16

リステリア症は、古くから人畜共通伝染病菌として知られていましたが、1980年代に入って欧米では、キャベツサラダ、牛乳、チーズなどの食品を媒介とする集団感染事例が確認されて以降、にわかに食中毒症として食品衛生の分野においても注目されるようになってきました。特に米国では毎年約2500名の重症なリステリア症患者が発生、そのうち約500名が死亡し、その死亡者数は食品由来の感染症による死亡者数の約10%に相当すると推定されるなど問題は深刻化しています。

本症はリステリア菌(Listeria monocyogenes)を原因菌とする疾病ですが、健康成人が本菌に感染しても発症する確率は低く、たとえ発症したとしても重症になることはまれです。ただし、妊婦、新生児、高齢者、およびエイズ、がん、臓器移植患者等の免疫不全者は発症しやすく、また重症化する場合が多くなります。潜伏期間は平均すると数十時間とされていますが、患者の健康状態、摂取菌量の違いにより発症するまでの期間は大きく左右されるため、その幅は数時間〜数週間と長く、このことが原因食品を特定しにくい一因ともなっています。

初期症状として発熱 (38-39℃)、頭痛、悪寒などのインフルエンザ症状を呈し、重症化すると敗血症、髄膜炎等を発症し、さらには脳炎にまで発展する場合もあります。また、妊婦が感染すると本菌が胎盤を通過して胎児へ垂直感染し、早産および死産の原因ともなります。他の食中毒菌とは異なり一般には胃腸炎症状を示さないのが特徴ですが、患者発生が短期間に集中する集団事例では、年齢や素因には関係なく嘔吐、下痢、および腹痛が症状として認められる場合もあります。

予防は、一般的な食中毒の予防方法(菌を付けない、菌を増やさない、菌を殺す)に準じます。すなわち、生肉はよく調理すること、生野菜は食べる前によく洗うこと、未調理の生肉は野菜やそのまま口にする食品と別の場所に置くこと、調理の前によく手を洗うこと、未調理の食品を扱った後は、手、包丁、まな板などを良く洗うこと、傷みやすい食品は早めに食べることなどです(「家庭における食中毒予防の6つのポイント」(ネットあいち「食中毒について」のページへ))。ただし、リステリア菌は他の細菌に比べて加熱や酸、塩分に対する抵抗力が強いことが知られていますので、油断は禁物です。また妊婦や新生児、高齢者、低免疫状態にある人などは、リステリア症感染の危険性があるときは、カマンベールチーズなどの生っぽいチーズを避け、食物の加熱を徹底するなど、より一層注意する必要があります。