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注意すべき蚊による感染症
日本脳炎 ・ ウエストナイル熱 ・ デング熱 ・ チクングニア熱 ・ マラリア

2014年9月26日

キャンプ、花火大会、アウトドアスポーツ、ガーデニングなど、屋外活動の場で蚊は私たちを狙っています。本当に知っておきたいのは蚊が感染症を媒介することです。昭和20年代後半にはコガタアカイエカが媒介する日本脳炎の撲滅にむけ、ワクチンの開発に努力が傾けられました。今でこそ国内での日本脳炎の発生はあまり耳にしなくなりましたが、昭和30年代には毎年500〜1,600名もの死亡者が報告されていました。現在では海外旅行中に、蚊が媒介する日本脳炎に近縁のウイルス感染症にかかる危険が増えています。さらに、地球温暖化の影響で蚊が生息地を拡大し増加する懸念もあります。以下に、蚊が媒介する主な感染症とその簡単な症状などを概説しますので、蚊が媒介する感染症の予防に役立ていただきたいと思います。



1 日本脳炎

日本脳炎は南アジア〜東南アジアを経て中国南部へ至るアジアモンスーン地帯に広く流行しています。世界保健機関(WHO)は世界で毎年少なくとも6万8千人が発病し、最大2万人が死亡すると推計しています(2011年10月現在)。先ずブタの間でウイルス感染が拡がり、媒介蚊がブタを吸血し、再度ヒトを刺すことによってヒトの間に流行がみられるようになります。多くの場合、感染はしたものの症状の出ない不顕性感染で、脳炎の発症率は感染者100〜1,000人に1人と言われています。日本でも、昭和30年代には毎年500〜1,600名程度の死亡者が報告されていました。現在では日本脳炎の発症は年間10人以下ですが、重篤な後遺症が多くの回復者にみられると報告されています。東海地方では愛知県から2007年に40歳代女性1例(死亡例)、2008年に50代男性1例が報告されており、三重県で2010年と2013年に各1例の発症報告があります(2013年の報告はこちら)。

厚生労働省ではブタの日本脳炎ウイルス抗体獲得状況を調べています(愛知県も調査に参加しています)。この調査ではウイルスを持った蚊が毎年発生していることを示していますので、日本国内でも感染の機会が無いわけではありません。


WHOホームページより抜粋(黄色が日本脳炎の感染リスクがある地域)

国立感染症研究所 日本脳炎ウイルス関連サイト

  • 病原体


    日本脳炎ウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)


  • 媒介蚊


    コガタアカイエカ(主に夜間に活動します)。


  • 潜伏期 : 5〜15日


  • 症状


    頭痛、発熱、悪心、嘔吐、眩暈。重症例では意識障害、痙攣、昏睡がみられる。死亡率は20〜40%と高く、生存しても後遺症が残ることが多い。


  • 注意事項


    日本脳炎ワクチンの接種をうけていない方、特に接種勧奨差し控えの影響を受けた小児等は、予防接種等の対策も必要です。夏場の薄着の季節等は特に蚊に刺されないよう気をつけることが大切です。また、雨季に東南アジアの稲作地帯へ一般観光客としてではなく、現地滞在型観光、ボランテイア活動などで出かける人は特に注意が必要で、出発前に予防接種を受けることが強く勧められますので、専門の医師にご相談ください。




2 ウエストナイル熱 (ウエストナイル脳炎)

ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎)の原因ウイルスは1937年ウガンダ共和国ウエストナイル郡で発見されました。その後アフリカ、南ヨーロッパ、中東に分布していましたが、1999年以降北米にも発生がみられるようになりました。現在は、アフリカ、ヨーロッパ、中東、中央アジア、西アジア、オーストラリア、北米等へ拡大しています。アメリカ合衆国疾病管理予防センター(CDC)によりますと2012年及び2013年の米国患者報告数が増加しています。ウイルスは鳥と蚊の間で感染環が維持され、蚊を介してヒト、ウマなどに感染します。ウイルスに感染した蚊に刺されたとしても、多く(80%程度)の場合、不顕性感染の形をとり、次に比較的軽い症状を示す通常型がみられ、脳炎や髄膜炎などの重い症状が出現するのは感染を受けた人の1%未満とされています。


(厚生労働省結核感染症課ハンドブックより)

日本では2005年にアメリカ合衆国カリフォルニア滞在中に感染したと考えられる患者1名が輸入感染症例として報告されています。国内ではウイルスを保有している蚊は見つかっていませんが、ウイルス保有蚊の侵入を防ぐ目的で空港検疫所が蚊の捕獲検査を実施し、監視体制が敷かれています。しかし、ウイルスは日本に生息する多くの蚊が媒介することが可能なことから、一度国内にウイルスが侵入すると大流行する可能性も少なくありません。万一、流行国からの帰国者や、観光客が国内でウエストナイル熱(脳炎)を発症したとしても、患者(感染者)を刺した蚊から別の人が感染する可能性はありません。(ウイルスがヒトの抹消血へ大量に出現することは少ないとの理由からほとんど起こらないと考えられています。)


国立感染症研究所 ウエストナイルウイルス関連サイト

カラスの死亡報告状況(愛知県)

  • 病原体


    ウエストナイルウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)


  • 媒介蚊


    北米では30種類以上の蚊からウイルスが分離されていますが、我が国では私たちの身の周りにいるほとんどの蚊が(14種類ほどの蚊のうち、ヒト及びトリの両方を刺す性質を持つ11種類)ウエストナイルウイルスを媒介する可能性があるとされています。その中でも特にアカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカが発生量・ヒト及びトリ嗜好性の点から重要視されています。


  • 潜伏期 : 3〜15日


  • 症状(現時点では、以下の症状が出ても、流行地域からの帰国者以外はウエストナイル熱(脳炎)の可能性は全くありません。)


    通常型は急激な発熱、頭痛、背部痛、めまい、発汗、約半数の症例で出現するとされる紅い小丘が密生した猩紅熱様発疹、それにリンパ節腫大などです。3〜7日で解熱し、短期間で回復します。脳炎型は頭痛、高熱、頸部硬直、感覚障害、昏睡、戦慄、麻痺など重篤な症状が現れ、高齢者に多く、死亡率は3〜15%とされています。


  • 注意事項


    発生地域に渡航する場合は蚊よけスプレーを使用するなど、蚊に刺されないようにすること が重要です。

    イエカ類は数km四方と広い範囲を飛翔することが知られており、カラスは毎日ねぐらと餌場を往復しているため、カラスからウエストナイルウイルスが検出された場合には相当範囲(数10km四方)にウイルスの活動が広がったと考えられます。


3 デング熱

デング熱は東南アジアや中・南米、アフリカ、東地中海、西太平洋などの熱帯・亜熱帯地域で流行を繰り返していますが、ここ数年世界的に発生数が激増し、2014年のWHOの推計では全世界で毎年5千万〜1億人の感染者が発生し、50万人のデング出血熱が発生しているとされています。媒介蚊は、空き缶の水のような少しの水たまりでも発生するため、マラリアと異なり衛生状態の良い都市部でも流行し、日本人旅行者が感染する機会もマラリアよりはずっと高いと考えられます。また、感染してもかなりの割合で症状が出ない不顕性感染が50〜70%であるとされていますが、不顕性感染であっても感染源となることがあります。

日本では、1942年から1945年にかけて長崎・佐世保・広島・呉・神戸・大阪で約20万人におよぶ流行が起こりました。その後、国内感染報告はありませんでしたが、2013年に日本を旅行したドイツ人観光者1名が発症、2014年8月下旬以降関東を中心に渡航歴が無い国内発症例が100例以上報告されています。蚊のウイルス保有状況調査の結果、東京都の公園でデングウイルス陽性の蚊が確認されました。発症者の多くはこの公園若しくはその周辺を訪れており、ウイルス陽性蚊が感染源となった可能性があります。2014年9月16日現在、17都道府県に感染は拡大しています。海外で感染したと考えられる輸入症例は、世界的な感染者の増加を反映するように増加傾向で、2010年以降毎年全国200例前後の報告があり、愛知県でも毎年10例前後の発生報告があります。


国立感染症研究所 デングウイルス関連サイト

厚生労働省 国内感染事例の発生状況

  • 病原体


    デングウイルス(フラビウイルス属)T型からW型までの4種


  • 媒介蚊


    ネッタイシマカ、およびヒトスジシマカ。感染者→媒介蚊→ヒト(新たな感染者)→媒介蚊という感染環を形成します。ヒトスジシマカは温帯地域や寒冷地域でも発生し、最近数十年でアフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸に広がっています。


  • 潜伏期 : 2〜15日といわれていますが、多くは3〜7日程度で発症します。


  • 症状


    発熱、頭痛(眼球後部痛をしばしば伴う)、筋肉痛、関節痛、上肢内側に発疹が一時的に現れ、発症後3〜4日後より限局した発疹(斑状紅斑)が体幹から末梢へと広がっていきます。

    一部(3〜5%)では出血傾向を主症状とするデング出血熱になり、さらに重くなると頻脈、脈圧低下などの循環障害がみられ、ショック症状に陥ります。このような重症なデング出血熱は、2度目以降の感染で発症することが多いといわれています。出血熱となった人の致死率は数%とされています。


  • 注意事項


    媒介蚊は日中に活動するため、昼間の木陰などでも刺される危険があります。予防ワクチンや特効薬はなく、流行地では蚊に刺されないよう個人による十分な対策(薬剤塗布、長袖の着用など)が必要です。



4 チクングニア熱

チクングニア熱は日本では馴染みのない疾患ですが、1952〜53年にタンザニアで初めて報告されました。以後アフリカおよび東南アジア、南アジア、アフリカの熱帯地域で地域的な流行を起こしています。近年では2005〜06年に、南西インド洋の島々で大流行し、ビーチリゾートで名高いこれらの観光地からヨーロッパ諸国へ帰国した人たちから感染者が報告されています。さらに流行は南アジア、東南アジアにも拡大し、現在も継続しています。2007年には温帯地域であるイタリアで流行が報告され、さらに2010年にはフランス南部でも国内発生が認められました。2013年末には新たにカリブ海地域での流行が報告されました。デング熱と同じような症状を示し、感染経路(同じ媒介蚊)、流行地域も似ているため鑑別が難しい疾患です。


WHOホームページより抜粋(斜線で囲まれた部分がチクングニアの感染リスクがある地域)

日本では輸入症例として2006年に初めて2例が確認されて以来、主に東南アジアからの輸入患者報告数が増加しています。2014年にはカリブ海諸国の流行を反映してドミニカからの輸入症例が確認されました。東北地方以南では媒介蚊となるヒトスジシマカが生息していますので、ウイルスが国内に侵入すると流行を引き起こす可能性があります。


国立感染症研究所 チクングニアウイルス関連サイト

  • 病原体


    チクングニアウイルス(トガウイルス科アルファウイルス属)


  • 媒介蚊


    ネッタイシマカ、およびヒトスジシマカ。感染者→媒介蚊→ヒト(新たな感染者)→媒介蚊という感染環を形成します。ヒトスジシマカは温帯地域や寒冷地域でも発生し、最近数十年でアフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸に広がっています。


  • 潜伏期 : 3〜12日


  • 症状


    発熱、関節痛、全身倦怠、頭痛、筋肉痛、リンパ節腫脹。発疹が多くに認められる。また出血傾向(鼻出血・歯肉出血)や悪心・嘔吐をきたすこともある。関節痛は急性症状のみならず、数か月〜数年続くことがある。


  • 注意事項


    媒介蚊は日中に活動するため、昼間の木陰などでも刺される危険があります。予防ワクチンや特効薬はなく、流行地では蚊に刺されないよう個人による十分な対策(薬剤塗布、長袖の着用など)が必要です。



5 マラリア

マラリアはアフリカ、中南米、東南アジア等を中心とした亜熱帯や熱帯地域の主として辺地で現在も大流行をしています。WHOによりますと感染者は2012年に約2.7億人、死者は約50〜80万人で、死者のほとんどがアフリカの子供と推計されています。日本では古くから「オコリ」の名前で知られ流行を繰り返していましたが、近年は年間50〜80例の患者報告数となっています。現在では国内での感染例はなく、アフリカや東南アジアの流行地域で感染した人が日本へ帰国後、発症した輸入マラリアに限定されています。推定感染地域の流行を反映して、アフリカ地域の感染例では熱帯熱マラリアが、アジア地域の感染例では三日熱マラリアが多くなっています。2004年以降、サルマラリアによるヒト感染症の報告があり、日本でも2012年にマレーシアからの帰国者に感染例が認められました(報告はこちら

マラリアの治療にはクロロキンやスルファドキシン/ピリメタミン、アルテミシニン等の抗マラリア薬が使用されますが、最近では抗マラリア薬に耐性を獲得したマラリア原虫の拡散が問題になっています。


国立感染症研究所 マラリア関連サイト

  • 病原体


    マラリア原虫(熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアの4種に加えて、サルマラリアもヒトへ感染することが明らかになっています)


  • 媒介蚊


    ハマダラカ(主に日暮から夜明け直後までの夜間に人を刺します)


  • 潜伏期


    国立感染症研究所及び米国CDC(米国では毎年1500人程のマラリア患者が報告されています)によると、マラリアに汚染されている蚊に刺された後、7日から30日前後に発症するとされています。三日熱マラリアの場合、典型的な症状が現れることなく一年以上経過することもあります。多くのマラリアが流行地域から帰国した後、かなり時間が経ってから発症していることになります。三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の場合には、肝細胞内で休眠体が形成され長期間経過した後再発することがあります。


  • 症状


    悪寒、戦慄と共に高熱が4〜5時間続き、頭痛、嘔吐、関節痛をともないます。熱発作は三日熱型や卵形では48時間、四日熱型では72時間、サルマラリア感染では24時間の間隔で起こります。熱帯型は明確な周期性を持っていません。特に、熱帯熱マラリアは重症化すると命に関わることも少なくないので、注意が必要です。


  • 注意事項


    東南アジアの観光地への旅行者は心配いりません。しかしながら、特に雨季にボランティア活動などで奥地に入る人は、出来るだけ蚊に刺されないために、活動時間の検討、長袖シャツ、長ズボンの着用、忌避剤(虫さされ予防剤)の使用に加え、蚊取り線香や蚊帳の使用等を考慮する必要があります。マラリアを媒介するハマダラカは夕暮れから夜明け直後まで活発な活動をして人を刺しますので、この時間の屋外での活動を最小限にし、かつ、DEET(ジエチルアミド)を含んだ忌避剤の使用が必要です。

    サハラ砂漠以南のアフリカ(南アフリカ共和国の大部分を除く)で野外活動をするなど感染の危険が高い人には、発症予防のための抗生物質がありますので、専門家の医師等に御相談下さい。

    アフリカ、中南米、東南アジア等を中心とした亜熱帯や熱帯地域の主として辺地を旅行、辺地に滞在した人は、マラリア流行地域を離れた後(日本へ帰国後)、半年以内に原因不明の発熱が出現した場合には、必ずこれらの地域への旅行、滞在を医師に告げて医療機関に受診することをお勧めします。

予防と対策
  • 蚊から身を守ろう!


    ウエストナイル熱、デング熱やチクングニア熱にはワクチンも予防薬もありませんので、自分たちで予防をしなければなりません。家屋の窓に網戸を設置することや、屋外にいる場合は長袖シャツ、長ズボンの着用、それに露出部分の皮膚にDEET(ジエチルアミド)などの忌避剤を塗るなどの防御方法をとるようにしましょう。特に流行地へ旅行をするときは蚊に刺されないよう十分な準備と注意が必要です。

    厚生労働省検疫所のホームページでは海外での感染症の流行状況や予防接種等の情報提供を行っています。詳しくはFORTHホームページへ


  • 蚊の発生を防ごう!


    その地域に分布する媒介蚊を可能な限り減らすことが最も効果的です。蚊は少しの水たまりでも卵を産みますので、環境改善による蚊の幼虫発生源(空き缶、ペットボトルや古タイヤ、植木鉢の受け皿等の水溜まり)を無くすようにしましょう。


日本では新たな感染症の監視体制を強化するため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の一部改正を行い、ウエストナイル熱(脳炎を含む)(平成14年10月)及びチクングニア熱(平成23年2月)が4類感染症に追加指定されています。従ってここに掲載した4類感染症を診断した医師は都道府県知事に届け出なければならないことになっています。

当衛生研究所では、全国の地方衛生研究所及び国立感染症研究所と連携して上記の蚊媒介性ウイルスの遺伝子検査体制を整えており、4種類のウイルス遺伝子の鑑別が実施できるようになっています。




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