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劇症型A群レンサ球菌感染症
(いわゆる人食いバクテリア症)


2014年7月3日更新  

劇症型A群レンサ球菌感染症(人食いバクテリア症)とは

1980年代中ごろアメリカから手足の壊死(腐っていくこと)を伴う非常に重篤な(症状のひどい)A群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)による疾患(病気)の発生が報告されました。その後、世界各地からA群レンサ球菌による重篤な疾患が相次いで報告されるようになりました。我が国では1994年に英国発のニュースが週刊誌に「人食いバクテリア」としてセンセーショナルに取り上げられて話題となりました。その症状は、四肢の疼痛等から始まり、数十時間以内には人食いバクテリアと言われる所以(ゆえん)である手足の壊死、それに伴うショック、多臓器不全(複数の臓器が働かなくなること)などを併発し死に至る恐ろしい疾患であり、死亡率は約30%と細菌感染症の中でも高率です。基礎疾患(元々持っていた病気)としてがん、糖尿病、肝疾患が挙げられていますが、一般に、はっきりした感染源も明らかでなく健康な30代以上(50代から60代がピーク)の男女に突然発症するのが特長です。


A群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)とその主な疾患について

A群レンサ球菌はグラム陽性(細菌の最も大きな型別分類法で、グラム陰性と陽性に分けられる。)球菌で、球菌が数珠状に連なっているのが特長です(図参考)。普段はヒトののどや皮膚などに生息していると考えられています。デンマークでの研究では無症状のヒトの約2%がA群レンサ球菌をのどに保菌(感染しているが発病しない状態)していたとのことです。A群レンサ球菌が起こす最も普通の疾患は小学生に起こる咽頭炎です(A群溶血性レンサ球菌咽頭炎について)。我が国で年間約25万人の咽頭炎患者の発生がありますが、その約大半は4歳から9歳の児童です。その他色々な疾患をヒトに起こします。例えば扁桃炎、皮膚のおできと言った比較的症状の軽いものから最近ではほとんど見かけなくなりましたがリウマチ熱、急性糸球体腎炎、そして最も重い疾患がここで紹介する劇症型A群レンサ球菌感染症です。


我が国の劇症型A群レンサ球菌感染症の発生状況

我が国での最初の報告は1992年、千葉県旭中央病院における症例です。その後、劇症型A群レンサ球菌感染症の診断基準の作成、1999年4月施行の感染症新法で四類感染症に、同法改定(2003年11月)により五類感染症(全数把握)に指定され、届出の義務化によって我が国での本疾患の実態が明らかになってきました。全国(感染症疫学センター 感染症発生動向調査 週報(IDWR)から抜粋)及び愛知県における2008年から2012年までの年間報告数を下の表に示します。劇症型A群レンサ球菌感染症は、溶血レンサ球菌リファレンスセンター報告書によると1992年6月から年間数十例の発生が認められますが、おそらく92年以前も我が国で発生していたと推察されています。事実、78年に沖縄県で本疾患を疑う症例が報告されています。


劇症型A群レンサ球菌感染症報告数
20082009201020112012
全国104103122197242
愛知県11811188


劇症型A群レンサ球菌感染症についての研究

A群レンサ球菌が発見されて以来、菌が出す毒素の研究から始まって最近では主に菌の遺伝子を研究することが盛んに行なわれています。特に劇症型A群レンサ球菌感染症をおこしたA群レンサ球菌と咽頭炎を起こしたA群レンサ球菌ではどこが違うのかということについての研究が我が国を含めて、アメリカ、ヨーロッパで盛んに行なわれています。残念ながらこれまでのところ劇症型A群レンサ球菌感染症を起こすことに直接関係した毒素は見つかっていませんが、国立感染症研究所より毒素の産生を調節している遺伝子に変異が起こることによって毒素産生が増加し、このことが劇症例発症に大きく寄与しているのではないかと報告されました(Ikebe T et al. PLoS Pathog. 6(4):e1000832, 2010)。また、宿主であるヒトの毒素に対する感受性の強弱なども関係しているのではないかと考えられています。今後、さらに研究が進み劇症型A群レンサ球菌感染症発生の仕組みが明らかになることが期待されます。




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