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自動車部品の廃材から3Dプリンター用のフィラメントを開発しました
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター(刈谷市。以下「センター」という。)は、株式会社イハラ合成(名古屋市昭和区)との共同研究により、自動車部品に使用されるガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(Glass Fiber Reinforced Thermo Plastics、GFRTP(ジーエフアールティーピー))※1の廃材を再利用した3Dプリンター用のフィラメント※2を開発しました。GFRTPは、廃棄される際にそのほとんどが埋立て処理されており、リサイクルすることが強く望まれています。
今回開発したフィラメントは、強度と硬さのバランスに優れ、高い耐熱性を有しています。このフィラメントを使用することで、外観性に優れた成形品を3Dプリンターで作製することができます。
なお、このフィラメントは、2024年3月より販売を開始する予定です。
1 開発の背景・概要
GFRTPとは、熱可塑(そ)性プラスチックにガラス繊維を混ぜて強化した材料です。機械的強度、耐熱性、寸法精度に優れ、また軽量であることから、自動車、船舶、航空機などで使用されています。
GFRTPは、加熱すると溶けて冷えると固まる性質があり、この変化を何度も繰り返すことから、一見マテリアルリサイクル※3に適しているように思われますが、再利用がほとんど進んでいないのが現状です。これは、
・再生工程においてガラス繊維が破損し、得られる成形体の強度が低下する
・硬いガラス繊維で、再生工程の機械部品が摩耗する
といった問題のためです。
この問題を解決するため、センターはプラスチックリサイクルメーカーである株式会社イハラ合成と共同研究を行いました。その結果、以下の特徴を持つ線材を開発しました。
・自動車部品成形時に出るGFRTP廃材を原料として使用
・再生工程におけるガラス繊維の破損を極力少なくした
・強度や耐熱性の低下を抑えた
・線材の表面が比較的滑らか
・線材の直径を任意に制御可能
この度、この線材を3Dプリンター用フィラメントとして商品化します。
2 開発の詳細
今回開発したのは、熱溶融積層法※4の3Dプリンターで使用するフィラメントです。ガラス繊維を重量比で30%配合した6ナイロン※5のGFRTPでできています。ただし、この材料だけではフィラメントの表面にざらつきがあり、また硬くて折れやすいため、3Dプリンターでの成形性が悪いという問題があります。そこで、種々の添加剤の配合や成形条件を検討することで、比較的滑らかな表面を有し、硬さと強度のバランスに優れ、耐熱性が高いフィラメントを作製する条件を確立しました。今回開発したフィラメントは、従来の再生製品でない市販品と同等の物性を有しています(図1、表)。
図1 開発したフィラメント
項目 | 開発品 |
引張強さ(23℃) | 102MPa(メガパスカル)※6 |
引張弾性率(23℃) | 4.2GPa(ギガパスカル)※6 |
引張伸び(23℃) | 5% |
耐折損性 (30回90°に折り曲げた後の状態) |
破断せず |
荷重たわみ温度※7 | 210℃ |
開発したフィラメントを用いて、実際に3Dプリンターで成形を行いました。その結果、
・従来品よりも柔らかいため、スプールに巻く際の作業性が良く、また、折れ曲がることが少ない
・従来品よりも表面が滑らかなため、3Dプリンター内での引っ掛かりが少なく、安定した速度で成形が可能
という特徴から、外観性の良好な成形品を作製できました(図2)。
図2 開発した3Dプリンター用フィラメントを使用した成形品
3 今後の予定
このフィラメントは、2024年3月より株式会社太田廣(おおたひろ)(名古屋市中川区。ゴム・樹脂素材の商社)から販売を開始する予定です。
【仕様:100g単位(スプール巻)、フィラメント径1.75mm】
また、センターでは、本技術に関心のある企業の方々からの相談や問合せに随時対応しています。お気軽に御連絡ください。
4 問合せ先
(開発技術に関すること)
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター
化学材料室(担当:福田、伊藤、吉元)
刈谷市恩田町一丁目157番地1
電話:0566-45-5643(ダイヤルイン)
URL:https://www.aichi-inst.jp/sangyou/
(製造に関すること)
株式会社イハラ合成
担当:会長 伊原 歳博(いはら としひろ)
名古屋市昭和区白金3-2-26
電話:052-882-1838
(販売に関すること)
株式会社太田廣
担当:企画開発部部長 加藤 信彦(かとう のぶひこ)
名古屋市中川区十一番町2-6
電話:052-661-6161
【用語説明】
※1 ガラス繊維強化熱可塑性プラスチック(Glass Fiber Reinforced Thermo Plastics、GFRTP)
熱可塑性プラスチックにガラス繊維を添加し、強度や耐熱性が通常のプラスチックに比べ向上したプラスチックのこと。例えば6ナイロン(絶乾状態)の荷重たわみ温度(1.8MPa)は68~85℃であるのに対し、30%ガラス繊維を配合した6ナイロン(絶乾状態)の荷重たわみ温度は200~230℃にまで飛躍的に向上する。自動車や航空機の軽量化への用途拡大が期待される。なお、熱可塑性プラスチックとは、加熱すると溶け、冷却すると固化する性質を有するプラスチックのことで、ナイロンやポリエチレンが該当する。
※2 フィラメント
細長い糸状の線材のこと。3Dプリンター用フィラメントは、熱溶融積層法で使用し、直径が1.75mmと2.85mmの2種類がある。加熱すると溶融し、冷えると固化する性質を有する熱可塑性プラスチックでできている。
※3 マテリアルリサイクル
廃棄物や回収した資源ごみを、新たな製品の原料として再利用すること。
※4 熱溶融積層法
3Dプリンターで、フィラメントを熱で溶かして細いノズルから吐出させ、積層することで立体物を成形する方法のこと。
※5 6ナイロン
引張特性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐薬品性に優れた熱可塑性プラスチックで、ガラス繊維と複合化して使用される場合も多い。
※6 MPa、GPa
共に応力の単位。Paは単位面積当たりの応力(圧力)で、Mは10の6乗、Gは10の9乗を表す接頭語。
※7 荷重たわみ温度
一定荷重をかけた時に一定の変形を生じる温度のことで、プラスチックの耐熱性を評価する尺度の一つ。今回開発したフィラメントは日本産業規格「JIS K 7191-荷重たわみ温度の求め方-」のA法(1.80MPa)で評価した。
このページに関する問合せ先
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター
化学材料室(担当:福田、伊藤、吉元)
刈谷市恩田町一丁目157番地1
電話:0566-45-5643(ダイヤルイン)
URL:https://www.aichi-inst.jp/sangyou/