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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」 新規分析法により含水有機物試料の3次元可視化を実現しました!~ナノからマイクロの領域における分子の存在状態を3次元で観察できます~

ページID:0544920 掲載日:2024年9月12日更新 印刷ページ表示

 愛知県と公益財団法人科学技術交流財団では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期※1」を2022年度から実施しています。

 この度、「プロジェクトCore(コア) Industry(インダストリー)※2」の研究テーマ「塗膜/外用剤の次世代分子デザインに向けた3次元可視化法の確立※3」において、名古屋大学の青木(あおき)弾(だん)准教授、あいち産業科学技術総合センター(豊田市)、中京油脂ホールディングス株式会社(あま市)、日本メナード化粧品株式会社(名古屋市中区)の共同研究チームは、水分を含む有機物試料を3次元で観察できる新規分析法を開発しましたのでお知らせします。開発した新規分析法は、水分を含む食品、生体組織、工業材料等を実際の状態を維持したまま測定することで、より正確な情報を得られるようになり、製品開発や安全性の評価に役立てることが期待されます。

1 開発の背景

 製品開発や安全性の評価において、どのような成分が機能発現に必要なのか、有効成分がどこでどのように働くのかを理解できれば、最適な機能設計・特性制御を目指した検討が可能になります。TOF-SIMS※4は様々な有機・無機化合物の分布を可視化できる分析法ですが、高真空条件及び長時間の測定を必要とします。そのため、含水状態の試料を対象とした場合、水分の揮発による試料の形状変化及び分子状態変化が起きるため、その内部における対象成分の立体的な分布状態を可視化することは困難でした。また、3次元の分布状態を評価するためには表面からのエッチングを組み合わせる必要がありますが、有機物を主体とした試料ではエッチングによって有機分子が損傷を受けたり、内部がかき混ぜられたりして、正しい位置関係が評価できなくなるという問題がありました。

 そこで、本研究においては、TOF-SIMSに凍結した含水試料を導入し、凍結状態を維持したまま、低損傷エッチング※5をすることで、含水有機物試料中における分子の存在状態を3次元で観察することができる新規分析法の開発に取り組みました。

2 開発の概要

 TOF-SIMSによる真空状態の分析での水分の蒸発を防ぐため、含水試料を凍結させて装置に導入する方法を開発しました。また、凍結させた含水試料を3次元で測定するために、測定中も凍結を維持し、かつ昇華を防ぎながらエッチングと表面分析を繰り返し測定できる条件を見出しました。

 開発した新規分析法で木材、ギンナン、美容等に効果のあるビタミンCを塗布した皮膚、コーティング剤を測定しました。測定結果より、有機多孔質材料である木材(図1(イ))の微細な立体構造と高分子成分の不均一な分布が立体的に可視化されました。内部に空隙をもつ多孔質材料はエッチングを均等に行うことが困難ですが、含水試料として凍結状態で分析することによって、本来の構造が可視化できました。

 同様に、ギンナン(図1(ロ))では、でんぷん粒子とそれ以外の部分が区別され、有毒成分(ギンコトキシン)がでんぷん粒子に存在していることがわかります。皮膚(図2(ハ))においては、表面に塗布された成分(ビタミンC)が、内部に浸透していく様子を立体的に可視化できました。そしてコーティング剤(図2(ニ))では、表面、内部、接着面のそれぞれにおいて、異なった成分が分布していることがわかります。

 この開発技術の一部は2024年9月19日(木曜日)から開催される日本木材学会中部支部大会(開催場所:岐阜大学応用生物科学部(岐阜県岐阜市))において発表いたします。

各成分が浸透する様子

 図1  新規分析法による(イ)木材、(ロ)ギンナンの測定結果

 

皮膚に浸透する様子

 図2  新規分析法による(ハ)皮膚、(ニ)コーティング剤の測定結果

3 期待される成果と今後の展開

 今回開発した分析法により、どのような成分がどこでどのように働いているのか、すなわち特定の機能・物性発現の状況をより正確に理解することが可能となり、効果的に製品開発を進めることができます。また、生体組織に対して外部から与えられた特定成分が、どのように浸透し、どれだけの量がどこまで到達するのかを、より具体的に評価することで、そのような成分の安全性評価にも貢献します。

 本分析法は2025 年4月からあいち産業科学技術総合センター(豊田市)で依頼試験として御利用いただけます。なお、センターでは本分析法に関心のある方々からの御相談やお問い合わせに随時対応しています。お気軽に御連絡ください。

4 社会・県内産業・県民への貢献

社会への貢献

有機系含水試料をより正確に評価できるようになり、効率的な製品開発と安全性評価を実現

県内産業への貢献

本分析法をセンターで利用することができ、素早い対応と名古屋大学も含めた充実した支援体制

県民への貢献

新規分析法を用いて開発された安全性の高い製品を利用

 

5 問合せ先 

【重点研究プロジェクト全体に関すること】

・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部企画室
担 当:佐藤、日渡、村上
所在地:豊田市八草町(やくさちょう)秋合(あきあい)1267 番1
電 話:0561-76-8306

・公益財団法人科学技術交流財団​ 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当:新庄、吉田、村瀬
所在地:豊田市八草町秋合1267番1
電話:0561-76-8380

 

【本開発内容に関すること】

・国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科
担当:准教授 青木 弾
所在地:名古屋市千種区不老町
電話:052ー789-4163

・あいち産業科学技術総合センター 技術支援部計測分析室
担当:内田
所在地:豊田市八草町秋合1267 番1
電話:0561ー76ー8315

 

【用語説明】

※1  知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトIII期」を実施し、2022年8月から「重点研究プロジェクトIV期」を実施しています。

「重点研究プロジェクトIV期」の概要

実施期間

2022年度から2024年度まで

参画機関

15大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社)

(2024年8月時点)

プロジェクト名

・プロジェクトCore Industry

・プロジェクトDX

・プロジェクトSDGs

 

※2 プロジェクトCore Industry

概要

 世界を牽引して未来を創りつづける愛知の基幹産業の更なる⾼度化に資する技術開発に取組む。

研究

テーマ

【研究開発分野】自動車・航空宇宙等機械システム(ハード)

1 スマートファクトリーの完全ワイヤレス化に向けた非接触電力伝送

2 超高効率エレクトロニクスを実現するMBDと融合した革新的素材開発

【研究開発分野】高効率加工・3Dプリンティング

3 金属3D造形技術CF-HMの進化による航空機部品製造用大型ジグの革新

4 積層造形技術の深化によるモノづくり分野での価値創造とイノベーション創出

【研究開発分野】次世代材料・分析評価

5 塗膜/外用剤の次世代分子デザインに向けた3次元可視化法の確立

6 カーボンニュートラル社会実現に向けた先端可視化計測基盤の構築

7 人工シデロフォア技術を用いた大腸菌群検出技術・装置の開発

8 高機能複合材料CFRPの繊維リサイクル技術開発と有効利用法

9 ナノ中空粒子を用いた環境対応建材の研究開発

参画

機関

7大学 3研究開発機関等 35社(うち中小企業22社)

(2024年8月時点)

 

※3 塗膜/外用剤の次世代分子デザインに向けた3次元可視化法の確立

概要

 製品開発において目的とする性能・機能を実現するために必要な化学構造・存在状態等の分子科学パラメータを最適化させる次世代分子デザインを強力に推進するために、有機系含水試料の3次元可視化法を開発する。

研究リーダー

名古屋大学 准教授 青木 弾 氏

事業化リーダー

中京油脂ホールディングス株式会社 開発課長 加藤(かとう)裕貴(ゆうき) 氏
日本メナード化粧品株式会社 主幹研究員 山羽(やまば) 宏行(ひろゆき) 氏

参加機関

(五十音順)

​〔企業〕

中京油脂ホールディングス株式会社(あま市)
日本メナード化粧品株式会社(名古屋市中区)

〔大学〕

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学(名古屋市千種区)

〔公的研究機関〕

あいち産業科学技術総合センター(豊田市)
公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)

 

※4 TOF-SIMS飛行時間型 二次イオン質量分析法)

 極表面にある様々な無機・有機化合物に関する質量情報を高感度、高空間分解能で得ることができる分析法。

 

※5 低損傷エッチング

 エッチングとは表面の一部を削りとる表面加工法です。高エネルギーのイオンビームを表面に照射すると内部がかき混ぜられてしまい、3次元での分子の分布状態がわからなくなってしまいます。そのため、低損傷で極表面だけを穏やかに削り取る手法を採用しています。

 

このページに関する問合せ先

​あいち産業科学技術総合センター企画連携部
企画室(担当:佐藤、日渡、村上)
豊田市八草町秋合1267-1
電話:0561-76-8306​