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「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトにおいて、単一細胞の分離・回収装置を開発しました!

ページID:0086871 掲載日:2015年10月9日更新 印刷ページ表示

平成27年10月9日(金曜日)発表

~血液中のがん細胞を生きたまま取り出すことに成功~

 愛知県は、公益財団法人科学技術交流財団に委託して大学などの研究シーズを企業の製品化・事業化につなげる産学行政連携の共同研究開発プロジェクト『「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト』※1を実施しています。

 このたび、プロジェクトの1つである「超早期診断技術開発プロジェクト」※2において、名古屋大学新井史人(あらいふみひと)教授、愛知県がんセンター愛知病院中西速夫(なかにしはやお)臨床研究検査部長及び中央精機株式会社(本社:東京都)らの研究グループは、独自の「マイクロ流体チップ」※3を用いて、特定の単一細胞を分離する技術(単一細胞分離技術)と、分離した単一細胞を回収する技術(単一細胞回収技術)を確立し、これらを組合せた単一細胞の分離・回収装置(試作機)を完成させました。

 近年、血液中から特定の細胞を分離・回収することで、がんを始めとした様々な病気の早期診断が可能と言われていますが、分離・回収する精度や回収された細胞の状態、さらに、高額な装置が必要なことなど、まだまだ多くの課題を抱えています。

 今回確立した単一細胞の分離・回収技術は、細胞のサイズ差を利用し、微細な隙間を持つ無数の柱(マイクロポスト)を立てた「マイクロ流体チップ」が、その隙間で特定の単一細胞を捕え、その捕えた単一細胞をマイクロマニピュレーター※4を用いて正確に回収するものです。

 本技術により、血液中のがん細胞(血中循環がん細胞)を生きたまま取り出すことに成功し、従来の方法を上回る高精度・短時間での分離・回収を実現しました。

 今後、細胞のサイズ差が明らかになっている特定細胞の取出し技術として様々な活用が期待されます。

1 開発の背景

 様々な病気を細胞レベルで捕えることができれば、早期診断につながります。

 とりわけ、がんは、原発巣(最初にできたがん)から血液等を介してがん細胞が全身へと回り、転移巣(転移したがん)が形成されると言われており、血液中のがん細胞、いわゆる血中循環がん細胞(Circulating Tumor Cell:以下、「CTC」)を迅速に調べることができれば、転移がんの早期発見や治療効果の検証に役立つとして期待が高まっています。

 そのため、CTC検査法が世界的に注目され研究開発が進められています。国内においても、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合研究開発機構)が「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」に取り組むなど、研究開発が活発に行われています。

 本プロジェクトにおいても、平成23年度から、名古屋大学新井教授や愛知県がんセンター中西部長らが、血液細胞とCTCのサイズ差に着目した細胞分離回収技術の研究開発を進め、単一細胞分離技術と単一細胞回収技術を組合せた試作機の完成に至りました。

2 本技術の概要

(1)従来技術

 現在、CTC検査法による診断システムとして、アメリカ食品医薬品局(FDA※5)の承認を得ているのは海外の一社のみです。このシステムは、CTCに特異的に結合する物質を用いて抗原抗体反応※6によりCTCを捉え、蛍光発色状態を蛍光画像として処理することで検査するものです。数千万円する高価な機器で検査に数日程度を要します。

 また、国内においても数社がCTC検査法の開発・製品化を進めています。

 

(2)今回開発した技術

(ア)本技術の概要 

 本技術は単一細胞分離技術と単一細胞回収技術から成ります。

 単一細胞分離技術はマイクロ流体チップを用い、単一細胞を気液界面(メニスカス※7)に生じる力と、細胞のサイズ差を利用して分離する方法です。マイクロ流体チップは、図1のとおり、無数のマイクロポスト(直径18μm)を立て、そのマイクロポストの隙間(7μm)で特定の単一細胞を捕えるものです。また、本技術はチップ上に細胞を展(ひろ)げるため、ロスなく、ダメージ少なく細胞を分離します。さらに、単一細胞回収技術は捕えた特定の細胞を検出し、マイクロマニピュレーター及びマイクロピペットを用いて細胞を回収するものです。

 今回、図2のとおり、両技術を組み合わせた試作機が完成しました。

図1 単一細胞分離・回収コンセプト

図1 単一細胞分離・回収コンセプト(提供:名古屋大学新井史人教授)

図2 試作機(単一細胞分離・回収装置)

図2 試作機(単一細胞分離・回収装置)(提供:名古屋大学新井史人教授)

(イ)本技術の分離・回収方法

 具体的な分離・回収方法は、マイクロ流体チップ(写真1,2)と上部血液供給ユニットの間(写真3)に、検体となるCTCを含む血液を流し込み、気液界面(メニスカス)に生じる力を利用して全細胞をチップ上に誘導し、マイクロポストの微細な隙間に血液細胞よりひとまわり大きなCTCが捕捉され、血液細胞を洗い流すことで分離するものです。その後、捉えた特定の細胞を検出し(写真4)、マイクロマニピュレーター及びマイクロピペットを用いて回収します(写真5)。

 なお、マイクロ流体チップにおけるマイクロポストの隙間は、分離したい特定細胞と他の細胞のサイズ差に応じた大きさを設定することで、低負荷で高効率の分離が可能となります。

写真 

写真(提供:名古屋大学新井史人教授)

(ウ)本処理の能力

  •  処理速度 血液5ml/30分
  •  細胞捕捉率 90.6%(検出感度15cells/ml)
  •  細胞生存率 90%以上
  •  細胞分離 1細胞回収

(3)本技術の従来技術に対する優位性

本技術と従来技術の比較
項目 細胞捕捉率細胞生存率測定時間装置価格
本技術 ○ 1時間程度 1千万円前後
従来技術数時間程度  数千万円

※参照:Circulating Tumor Cells and Cancer Stem Cells Technologies, A Global Strategic Business Report (2014)(訳:血中循環がん細胞および癌幹細胞、グローバルストラジテックビジネスレポート(2014))

3 今後の展開

 試作機を用いて実際の患者検体を対象にCTC検査の臨床実験を既に進めており、更なる精度向上を図ります。2~3年後を目処に実機を生産し、まずは、研究機関・検査機関等への導入を行い、最終的には、国の認証を得て、病院等への導入を進める予定です。

4 問合せ先

・プロジェクト全体に関すること

あいち産業科学技術総合センター 企画連携部

(1)担  当:鹿野、村上

(2)所 在 地:豊田市八草町秋合1267番1

(3)電話:0561-76-8306

(4)F A X:0561-76-8309

 

公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部

(1)担  当:冨田、安部、村山、山本

(2)所 在 地:豊田市八草町秋合1267番1

(3)電話:0561-76-8380

(4)F A X:0561-21-1653

 

・本開発の技術内容に関すること

(単一細胞分離技術のうちマイクロ流体チップ、単一細胞回収技術、試作機)

名古屋大学

(1)担  当:大学院工学研究科 教授 新井史人、助教 益田泰輔

(2)所 在 地:名古屋市千種区不老町1

(3)電話:052-789-5025

(4)F A X:052-789-5027

用語説明

※1 「知の拠点あいち」重点研究プロジェクト

 高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究プロジェクト。大学等の研究シーズを企業の製品化・事業化へつなげる橋渡しの役割を担う。

 

※2 超早期診断技術開発プロジェクト

 ○プロジェクトリーダー 名古屋大学 特任教授 太田美智男 氏

 ○内容 

 超高齢化社会において、全国的に増加が予想される脳・循環器系疾患、がん、生活習 慣病を早期に発見するために、工学系の研究者と医学系の研究者(医師)が医工連携体制を構築し、痛みがない、少ない、簡易な早期診断技術や日常的な健康モニタリング技術を確立する。

 ○参加機関

 18大学6公的研究機関16企業(うち中小企業8社)(平成27年5月末現在)

【18大学】名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、愛知県立大学、愛知学院大学、愛知工業大学、椙山女学園大学、中京大学、豊田工業大学、名古屋市立大学、京都工芸繊維大学、大阪市立大学、藤田保健衛生大学、中部大学、三重大学、広島大学、広島市立大学、北海道大学

【6公的研究機関】(国研)国立長寿医療研究センター、(国研)産業技術総合研究所、愛知県がんセンター、(公財)愛知県健康づくり振興事業団、あいち産業科学技術総合センター、(公財)科学技術交流財団

【16企業】(株)医学生物学研究所、(株)スズケン、高砂電気工業(株)、(株)槌屋、(株)デンソー、(株)NAST、ブラザー工業(株)、(株)ユネクス、(株)LIXIL、(株)オプトニクス精密、中央精機(株)、東レ(株)、日本ケミコン(株)、浜松ホトニクス(株)、フィガロ技研(株)、(株)ユニテック

 

※3 マイクロ流体チップ

 血液等を流すことができる微細な隙間を持つ無数の柱を立てたマイクロ構造のチップ(小片)。

 

※4 マイクロマニピュレーター 

 微生物や動植物細胞などを直接接触して微細操作を行う装置。例えば、微細なガラス管などを用いて核の取出し、または移植操作を行う。

 

※5 FDA

 アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administrationの略)。食品や医薬品などについて、その許可や規制を行う行政機関。

 

※6 抗原抗体反応

 抗原とそれに対応する抗体との特異的な結合によって起こる反応。

 

※7 気液界面(メニスカス)

 気層と液相の界面。例えば、濡れ性の高いチップ表面との相互作用により形成される屈曲した液面を、凹型のメニスカスと呼ぶ。

 

問合せ

あいち産業科学技術総合センター
企画連携部企画室
担当 鹿野、村上
ダイヤルイン 0561-76-8306

愛知県産業労働部産業科学技術課
科学技術グループ
担当 吉富、福田、中川
内線 3382 3383
ダイヤルイン 052-954-6351