定点当たり報告数について
2025年4月11日
感染症情報などで、定点当たり報告数という言葉を使いますが、この定点当たり報告数について解説します。
定点当たり報告数とは
定点把握対象感染症について、該当のすべての定点医療機関が1週間(月曜から日曜)に診断した患者数の合計をその定点医療機関数で割った値(定点医療機関当たりの平均)のことです。
(全ての定点把握感染症について、定点当たり報告数を算出しているわけではありません。)
例1)愛知県内のすべての急性呼吸器感染症(ARI)定点医療機関(163か所)で診断した1週間分のインフルエンザの患者さんの合計が1500人だったとすると
インフルエンザの定点当たり報告数は「1500人÷163=9.20」となります。
例2)愛知県内のすべての小児科定点医療機関(101か所)で診断した1週間分の感染性胃腸炎の患者さんの合計が500人だったとすると
感染性胃腸炎の定点当たり報告数は「500人÷101=4.95」となります。
届け出をいただく感染症について
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第110号) (以下「感染症法」という。)では、感染症をその感染症の感染力と感染した場合の重篤性等を考慮し、一類~五類感染症、新感染症、指定感染症、新型インフルエンザ等感染症、といった類型別に分類しています。
また、感染症法では、平常時から感染症情報の収集・分析を行う規定も設けられており、前述の感染症について診断した医師は保健所へ届け出ることが義務付けられています。
届出を行う感染症は、国が定めた「感染症発生動向調査実施要綱」[PDF:313kB]の中で、診断したすべての医師が届け出なければならない全数把握対象感染症と、県内の医療機関の中から選定され、協力していただいている医療機関(定点医療機関という。)から報告していただく定点把握対象感染症に分けられています。
【感染症法で規定する届出感染症一覧】[PDF:257kB]
全数把握対象感染症とは
すべての一類~四類感染症すべて及び五類感染症の一部(ウイルス性肝炎、後天性免疫不全症候群、水痘(入院例に限る)、梅毒、百日咳、麻しんなど)及び新型インフルエンザ等感染症及び指定感染症
定点把握対象感染症とは
一部の五類感染症(インフルエンザ、COVID-19、RSウイルス感染症、感染性胃腸炎、手足口病、ヘルパンギーナなどで下表のとおり)
定点種別 | 報告頻度 | 報告疾病 |
急性呼吸器感染症(ARI) | 毎週 | インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、急性呼吸器感染症 |
小児科 | 毎週 | RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、手足口病、伝染性紅斑、突発性発しん、ヘルパンギーナ、流行性耳下腺炎 |
眼科 | 毎週 | 急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎 |
性感染症 | 毎月 | 性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症 |
基幹 | 毎週 | 細菌性髄膜炎、無菌性髄膜炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、感染性胃腸炎(ロタウイルス)、インフルエンザ(入院患者)、COVID-19(入院患者) |
毎月 | メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症 |
定点医療機関について
国が定めた「感染症発生動向調査実施要綱」[PDF:313kB]の中で、
◇関係医師会等の協力を得て、医療機関の中から可能な限り無作為に選定する。
◇人口及び医療機関の分布等を勘案して、できるだけ該当都道府県全体の感染症の発生状況を把握できるよう考慮すること。
と定められており、愛知県では以下の表のとおり定点医療機関数を定めています。
定点種別 | 保健所別定点医療機関数 | ||||||||||||||||
瀬戸 | 春日井 | 江南 | 清須 | 津島 | 半田 | 知多 | 衣浦東部 | 西尾 | 新城 | 豊川 | 名古屋市 | 豊橋市 | 岡崎市 | 一宮市 | 豊田市 | 合計 | |
急性呼吸器感染症(ARI) | 9 | 9 | 6 | 7 | 7 | 6 | 7 | 12 | 5 | 2 | 7 | 50 | 9 | 9 | 9 | 9 | 163 |
小児科 | 6 | 6 | 4 | 4 | 4 | 4 | 5 | 8 | 3 | 1 | 4 | 31 | 5 | 5 | 5 | 6 | 101 |
眼科 | 2 | 2 | 1 | 2 | 2 | 1 | 2 | 2 | 1 | 0 | 1 | 11 | 2 | 2 | 2 | 2 | 35 |
性感染症 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 4 | 2 | 0 | 2 | 15 | 4 | 4 | 3 | 4 | 54 |
基幹 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 1 | 3 | 1 | 1 | 1 | 1 | 15 |
定点当たり報告数を算出する理由
定点医療機関の数は、人口及び医療機関の分布等を勘案して、できるだけ当該都道府県全体の感染症の発生状況を把握できるように選定されていますので、それぞれの地区での定点当たり報告数を求めれば、県内の他の地域や他県、全国の流行状況と比較することができるようになるからです。
なお、定点の医療機関数やその医療機関の規模、標榜している診療科、受診する患者数・年齢構成などがそれぞれの医療機関で異なっているので、算出される各定点当たり報告数がすべて同一の条件ではありませんが、迅速にその地域での感染症の流行状況や推移をみるには有効な手段であると考えられます。
患者数と定点当たり報告数の違い
下表は2018年第5週(2018年1月29日~2月4日)【PDF:359kB】の感染性胃腸炎の定点医療機関から報告があった患者数(一部の保健所分)です。
保健所 | 患者数 | 定点数 | 定点当たり報告数 |
瀬戸 | 50 | 9 | 5.56 |
春日井 | 27 | 9 | 3.00 |
: | : | : | : |
津島 | 87 | 7 | 12.43 |
半田 | 59 | 6 | 9.83 |
: | : | : | : |
名古屋市 | 237 | 70 | 3.39 |
豊橋市 | 72 | 8 | 9.00 |
岡崎市 | 50 | 7 | 7.14 |
: | : | : | : |
愛知県総数 | 846 | 182 | 4.65 |
一週間当たりの患者数は多い保健所管内順に
名古屋市(237人)>津島(87人)>豊橋市(72人)>半田(59人)
となっています。
名古屋市が1位となっていますが、名古屋市は人口が多く定点医療機関の数も多いので患者さんも多く報告されていることが推測できます。
これを定点当たり報告数にしますと
津島(12.43)>半田(9.83)>豊橋市(9.00)>岡崎市(7.14)
の順となり、定点当たり報告数(一医療機関当たりの患者数)は津島保健所管内が1位となり、患者数が多い名古屋市内よりも一医療機関を受診する感染性胃腸炎の患者さんは津島保健所管内の方が多いということになり、名古屋市内よりも津島保健所管内の流行が大きいということが推定できます。
このように定点当たり報告数を計算することは、前述のように他の地域や全国レベルで流行状況を比較することができるようになります。
警報・注意報
警報・注意報は、愛知県全体の1週間の定点医療機関当たり報告数が、下表の開始の基準値を上回った時点で発令し、警報は終息の基準値を下回った時点で解除します。
また、愛知県全体の1週間の定点医療機関当たり報告数が「1」を上回った場合、インフルエンザは「流行入りした」としています。
なお、愛知県ではインフルエンザ警報及び注意報は、全ての保健所管内で定点当たり報告数が、警報の終息の基準値「10」を下回った時点で解除します。
疾病名 | 警報 | 注意報 | 流行入り | |
開始 | 終息 | 開始 | ||
インフルエンザ | 30 | 10 | 10 | 1 |
咽頭結膜熱 | 3 | 1 | - | - |
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 | 8 | 4 | - | |
感染性胃腸炎 | 20 | 12 | - | |
水痘 | 2 | 1 | 1 | |
手足口病 | 5 | 2 | - | |
伝染性紅斑 | 2 | 1 | - | |
ヘルパンギーナ | 6 | 2 | - | |
流行性耳下腺炎 | 6 | 2 | 3 | |
急性出血性結膜炎 | 1 | 0.1 | - | |
流行性角結膜炎 | 8 | 4 | - |
「警報レベル」は、大きな流行が発生または継続しつつあると疑われることを示します。
「注意報レベル」は、流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いこと、流行の発生後であれば流行が継続していると疑われることを示します。
注)現在使用している注意報・警報レベルの基準値は「2019年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興 ・ 再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)『警報・注意報の検討-2018年の警報・注意報の発生と都道府県警報の発生について-』[PDF:5.3MB]」によって報告(改正)された基準値を適用しています。