室内中のフタル酸エステル類について
2022年3月18日
フタル酸エステル類は可塑剤※としてポリ塩化ビニルなどのプラスチックを柔らかくするために使用されています。用途は建材、電線被膜、フィルム・シート、合皮、塗料、接着剤など多岐にわたります。これらの製品から徐々に揮発したフタル酸エステル類は、室内空気中へ放散された後、ほこりの表面に付着し、室内に蓄積することが懸念されます。特に乳幼児では床を這う、手や物を口に入れるという行動等により成人よりもフタル酸エステル類にさらされる機会が多くあります。そこでフタル酸エステル類について、これまでに報告されている内容をまとめました。
- ※可塑剤とは
- 物質を柔らかくしたり、加工しやすくするために加える化学物質
フタル酸エステル類とは?
フタル酸エステル類の代表的なものとしてフタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルへキシル(DEHP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)などがあげられます。2017年に国内で出荷された可塑剤の82%がフタル酸エステル類であり、そのうちの52%がDEHP、43%がDINPでした。
いずれのフタル酸エステル類も、通常の使用状況においてはヒトに対する毒性は低いとされています。しかし、DBP、DEHPについてはラットの生殖毒性に関する評価に基づき、室内濃度指針値が設定されています。
指針値は?

厚生労働省が示した室内空気中の濃度指針値は以下のとおりです。
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP) | 17 μg/m3 |
フタル酸ジ-2-エチルへキシル(DEHP) | 100 μg/m3 |
改定日:2019(平成31)年1月17日 |
その他のフタル酸エステル類についての指針値は設定されていません。
ほこりなど、室内空気以外には指針値は設定されていません。
体内への取り込み量を減らすには?

フタル酸エステル類がシックハウス症候群やアレルギーの原因と確定された報告はありませんが、フタル酸エステル類は室内環境汚染物質と考えられます。玩具や育児用品へのフタル酸エステル類の使用は規制されていますが、住宅の建材や内装材に対する規制は行われていません。これまでにポリ塩化ビニル製床材やフローリングにおいてほこりに含まれるDEHPの濃度が高いことが報告されています。フタル酸エステル類を体内への取り込み量を減らす対策としては、ポリ塩化ビニルやプラスチック製品の使用を控えることが望まれます。また、フタル酸エステル類が付着しているほこりを掃除機や水拭きなどでこまめに取り除くことが有効です。手に付着したフタル酸エステル類の除去には手洗いも有効です。
出典
- 一般社団法人室内環境学会:住まいの化学物質 リスクとベネフィット、2015、東京電機大学出版局、東京
- 平成31年1月17日厚生労働省医薬・生活衛生局長通知:薬生発0117第1号、2019
- 科学的エビデンスに基づく「新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル(改訂版)の作成」研究班:科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアル(改定新版)[PDFファイル]
- 塩ビ工業・環境協会(VEC)ホームページ
可塑剤の種類と使われ方
各種データ - Yu Ait Bamai, Atsuko Araki, Toshio Kawai, Tazuru Tsuboi, Ikue Saito, Eiji Yoshioka, Ayako Kanazawa, ShujiTajima, Cong Shi, Akiko Tamakoshi, Reiko Kishi, Associations of phthalate concentrations in floor dust and multi-surface dust with the interior materials in Japanese dwellings, Sci Total Environ., 468:147-157, 2014