愛知県衛生研究所

サイクロスポラ

サイクロスポラ症は、米国、カナダ等で1996年頃から話題となった原虫性の腸管感染症で、激しい水様性下痢を主症状とし、他に食欲不振、体重減少、吐き気、腹痛、疲れ、筋肉痛等の諸症状が現れます。潜伏期間は通常7〜8日間で、エイズなどの免疫不全患者では1〜2日で症状を現すこともあります。感染しても全く症状を示さない人も少なくないとされていますが、免疫不全患者にとっては重大な結果を招く恐れがあることが指摘されています。

写真1 未熟オーシスト

本症は Cyclospora cayetanensis と呼ばれる原虫の感染によって引き起されます。従来からcyanobacteria-like bodyやcoccidium-like body(共に略してCLB)とか呼ばれ、らん藻類の一種ではないかと考えられていましたが、1993年に原虫であることが確認されました。感染経路は成熟オーシストに汚染された水や食物を経口的に摂取することによります。未熟なオーシスト(写真1)が感染性を得る(成熟オーシスト・図1)までには外界の気温により1〜2週間の日を要することから、ヒトからヒトへの直接的な感染は起きません。ヒト以外の宿主は不明とされていますが、モグラやヘビ類・げっ歯類などの野生動物から検出したという報告もあります。

1996〜98年の春、北アメリカにおいてサイクロスポラ症の集団発生が多発し、グアテマラ産のラズベリーやレタスが原因食とされ、アメリカ合衆国では現地からのこれら農産物の輸入を禁止するなどの処置が取られました。

図1 成熟オーシストの構造

我が国では1996年に東南アジア(タイ・カンボジア)を旅行した観光客が持ち帰った1例を契機に広く知られるようになりました。健常人では一過性の下痢で済むことが多く、見過ごされがちで、長引く下痢となった時に病院を受診して初めて見つかる例がほとんどです。その多くが海外旅行者で現在までに数十例の報告があり、輸入感染症として考えられています。

治療薬はトリメトプリムやスルファメトキサゾールなどのST合剤が有効とされていますが、ジアルジアと同様に他の疾患との鑑別診断が必要ですので、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

予防策としては、ジアルジアをはじめその他の原虫感染症と同様に、発展途上国への旅行では、ナマ水やナマ物などの摂取を避けることです。