愛知県衛生研究所

今なお残るホルムアルデヒドの問題 ―ホルムアルデヒドを取り扱う職場での対策強化―

2009年9月8日

はじめに

ホルムアルデヒドは常温で無色の刺激臭のある気体です。水に溶けやすく、その37%水溶液であるホルマリンは、殺菌・防虫・防腐剤として医療現場等において広く使用されています。また塗料・接着剤等の原料にも含まれており、接着剤で張り合わせた合板やパーティクルボード等の建築用木材から放散されるホルムアルデヒドが、近年シックハウスの原因物質の1つとして大きな社会問題となりました。このため、平成15年の建築基準法改正によって、建築用木材からのホルムアルデヒド発生対策が進み、愛知県の室内環境実態調査においても厚生労働省が定めた室内濃度指針値(人がその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値)0.08ppmを超える住宅はほとんどなくなっています。

しかしその一方では、ホルムアルデヒドを製造し、または取り扱う職場で働く労働者の健康影響の問題がクローズアップされてきました。

ホルムアルデヒドを製造し、または取り扱う職場の問題点

塗装

「平成18年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書(厚生労働省)」によると、ホルムアルデヒドを製造し、または取り扱う作業のうち、塗装、配合(他の製剤の製造を目的にホルムアルデヒドを原料として加える作業)、サンプリング(分析、試験等のために試料を採取する作業)等の作業従事者において、評価値(大多数の労働者がその濃度に毎日繰り返し曝露されながら働いても、その勤労生涯を通じて健康に悪影響を受けることがないと考えられる条件を踏まえて設定した値)を超える個人曝露量が測定され、さらに、これらの作業が年間を通じて行われているという実態が明らかになってきました。加えて、ホルムアルデヒドを原因とする鼻咽頭がんがまれに見られるとの指摘があり、労働者の健康を守るために関係法規の改正が行われることになりました。

改正の内容

(1)「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令」
  (平成19年政令第375号)平成19年12月14日公布
労働安全衛生法施行令別表第3*において第3類物質とされているホルムアルデヒドを、第2類物質に変更すること。
(2)「特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令」
  (平成19年厚生労働省令第155号)平成19年12月28日に公布
①特定化学物質障害予防規則第2条第3号に規定する特定第2類物質に、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒドをその重量の1%を超えて含有する物(以下「ホルムアルデヒド等」という。)を追加すること。
②作業環境測定に係る記録については、30年間保存すること。
③特定化学物質障害予防規則第38条の3に規定する特別管理物質に、ホルムアルデヒド等を追加すること。
* 労働安全衛生法施行令別表第3に規定する特定化学物質
第1類物質
がん等の慢性障害を引き起こす物質のうち、特に有害性が高く、製造工程で特に厳重な管理(製造許可)を必要とするもの
第2類物質
がん等の慢性障害を引き起こす物質のうち、第1類物質に該当しないもの
第3類物質
大量漏えいにより急性中毒を引き起こす物質

新たな措置

ホルムアルデヒドを製造し、または取り扱う職場において、新たに義務付けられた措置は以下の3点です。このうち、③については平成20年3月1日より、①および②については、直近の平成21年3月1日より措置がなされています。

①製造等に係る発散抑制措置
特定化学物質のガス、蒸気又は粉じんの発散源の密閉化、局所排気装置の設置、プッシュプル型換気装置の設置等による空気中への発散の抑制(抑制濃度は0.1ppm)
②作業環境測定の実施
6か月ごとに1回、特定化学物質の空気中の濃度を測定・評価し、作業環境の状況に応じて必要な改善措置を実施(管理濃度は0.1ppm)
③健康診断の実施
ホルムアルデヒドが発散する業務に常時従事する労働者を対象として、雇入れ又は配置換えの際およびその後6か月ごとに、その物質の種類に応じた検診項目について健康診断を実施

おわりに

歯科治療

ホルムアルデヒドは歯科医療、医療機関等における病理組織標本作成等においても幅広く使用されており、関係法規改正後もこれらの機関から多くの疑義照会が寄せられました。そこで、さらに円滑な施行をめざして専門家による検討会が設けられ、問題点の整理とそれに対する解決策が検討されました。この検討会の報告をふまえて、「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令の施行に係る留意点について」(平成20年11月19日付け基発第1119001号および基発第1119002号)の通達が出され、歯科医療、医療機関等におけるホルムアルデヒドの取扱いについて、それぞれ関係団体へ周知徹底を図るとともに、作業環境測定の対象、作業主任者の選任および取扱いに係る発散抑制措置について具体的に示しました。これにより、ホルムアルデヒドを取り扱う医療関連の職場で働く労働者の健康も守られてきています。