愛知県衛生研究所

新種のクドア属寄生虫が関わる食中毒

2011年11月11日

平成23年4月25日開催の厚生労働省薬事・食品衛生審議会−食品衛生分科会食中毒・乳肉水産食品合同部会において、これまで原因不明であった食中毒に、クドア属の寄生虫であるKudoa septempunctataが関わっていることが報告され、話題になりました。

ここでは、この寄生虫の関与する食中毒についてご紹介します。

クドア属の寄生虫について

Kudoa septempunctata胞子
写真1:Kudoa septempunctata胞子
(光学顕微鏡(x400)で撮影)

クドア(Kudoa)属は、粘液胞子虫類に属する寄生虫で、魚類に寄生するものが数多く知られています。例えばKudoa amamiensisKudoa iwataiはブリ等の筋肉に寄生して、直径数ミリ程度の白い球形の塊(シスト)を多数形成し、Kudoa thyrsitesはヒラメ等に寄生して、筋肉の融解(ジェリーミート化)を引き起こします。このようなクドア属の寄生は魚肉の見た目を損ない、時には消費者からの苦情の元となるため、以前から水産業で問題視されていました。しかし、これらクドア属はヒトには寄生しないため、ヒトがクドア属に寄生された魚肉を食べても特に問題はないと考えられてきました。

今回の話題であるKudoa septempunctata(クドア セプテンプンクタータ)は、2010年にMatsukaneらにより報告された新種のクドア属寄生虫で、輸入養殖ヒラメから発見されました。Kudoa septempunctataは筋肉に寄生して、6〜7個の極嚢を持つ直径約10μm(0.01mm)の胞子(粘液胞子)を多数形成します。他のクドア属寄生に伴ってみられる上記のシストやジェリーミート化は、Kudoa septempunctataの寄生した魚類では見られず、寄生の有無を肉眼で判断することは困難です。

Kudoa septempunctataの食中毒への関与

ここ数年、食後数時間以内に下痢・嘔吐といった症状が起こる原因不明の食中毒例が数多く報告されています。多くの報告例で食事のメニューに含まれていた刺身類について原因物質特定の取り組みが行われた結果、ヒラメの多くにKudoa septempunctataが寄生していることが判明しました。寄生された魚肉に数多く含まれているKudoa septempunctataの胞子を抽出してマウス等の実験動物に与えると、4時間以内に嘔吐や下痢を起こすことが報告されました。

Kudoa septempunctataが寄生する魚肉を食べた場合の症状

報告されている事例では、食後数時間(4〜8時間程度)に、下痢、吐気、嘔吐、腹痛等の症状がみられます。症状は軽く、速やかに自然回復し、後遺症や、重症例、死亡例の報告はありません。

なお、Kudoa septempunctataはヒトには寄生せず、胞子が長期に渡って人体に留まる可能性も低いと考えられています。また、発症した人から家族等に感染したという報告はなく、研究成果からもヒトからヒトへと感染する可能性はないと考えられています。

これまでの調査から、Kudoa septempunctataの胞子を一定量以上食べた場合に限って発症するのではないかと考えられています。また、一定時間以上加熱・冷蔵・冷凍した魚肉では、このような食中毒を起こさなくなると考えられています。

魚肉中のKudoa septempunctata検査法

ヒラメから多数検出されたKudoa septempunctata胞子
写真2:ヒラメから多数検出されたKudoa septempunctata胞子(光学顕微鏡(x400)で撮影)

魚類へのKudoa septempunctata寄生の有無は、肉眼では判断が難しく、顕微鏡検査等が必要です。このうちヒラメ魚肉の検査法は、平成23年7月11日に厚生労働省通知「Kudoa septempunctataの検査法について(暫定版)」(食安監発0711第1号)において顕微鏡による検査法及び遺伝子検査法が示されました。

Kudoa septempunctataの関わる食中毒には未だ不明な点が多く、例えば嘔吐を誘発するメカニズムも明らかになっていません。今後Kudoa septempunctataの魚類への寄生経路など、更なる調査研究が必要です。