愛知県衛生研究所

シックハウス症候群

2019年7月23日

シックハウス症候群とは

日本の住宅は、以前は風通しの良いつくりの住宅でした。しかし、省エネルギー化に向けて高気密、高断熱化が進み、人工建材や日用品から揮発する化学物質が室内に充満し、それらを取り込んだ居住者に健康被害(眼、鼻、喉、皮膚の刺激症状、頭痛、倦怠感など)をもたらしました。これがいわゆる「シックハウス症候群」と呼ばれています。シックハウス症候群の原因は化学物質だけではなく、ダニや真菌などの生物学的要因、湿度、心理社会要因、個人の感受性など、様々な要因が複雑に関係していると考えられています。シックハウス症候群は和製英語で欧米では「シックビルディング症候群」と呼ばれています。

男の子4人のイラスト

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室内濃度指針値について

日本では、室内中の化学物質による健康被害を防ぐため厚生省(現 厚生労働省)が1997年にホルムアルデヒドの室内濃度指針値を公表し、2002年までに13種の室内化学物質濃度指針値が示されました。さらに2019年1月にキシレン、フタル酸ジ-n-ブチル及びフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの3種の化学物質の室内濃度指針値が改定されました(表)。

室内濃度指針値については、今後も新たな知見や国際的な評価作業の進歩に伴い、必要があれば変更される可能性があります。現段階では、シックハウス症候群について未解明のことが多く、室内濃度指針値も化学物質の毒性に係わる科学的知見を基に、人がその濃度を一生涯にわたって摂取しても、有害な健康被害が生じないであろうと判断された値であり、シックハウス症候群の症状との間に明確な因果関係を示したものではありません。

つまり、室内濃度指針値とは、シックハウス症候群を発生させない絶対的な値ではなく、化学物質による有害な健康影響を生じさせないうえで、それ以下がより望ましいと判断された値なのです。

表 室内濃度指針値(2019.7.23現在)
化合物名 室内濃度指針値※1
ホルムアルデヒド 100 μg/m3 0.08 ppm
アセトアルデヒド 48 μg/m3 0.03 ppm
トルエン 260 μg/m3 0.07 ppm
キシレン 200 μg/m3 0.05 ppm
エチルベンゼン 3,800 μg/m3 0.88 ppm
スチレン 220 μg/m3 0.05 ppm
パラジクロロベンゼン 240 μg/m3 0.04 ppm
テトラデカン 330 μg/m3 0.04 ppm
クロルピリホス 1 μg/m3
(但し、小児の場合 0.1 μg/m3
0.07 ppb
(但し、小児の場合0.007 ppb)
フェノブカルブ 33 μg/m3 3.8 ppb
ダイアジノン 0.29 μg/m3 0.02 ppb
フタル酸ジ-n-ブチル 17 μg/m3 1.5 ppb
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 100 μg/m3 6.3 ppb
※1:両単位の換算は25℃の場合による

さらに厚生労働省は、13物質の室内濃度指針値とともに、総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds;TVOC)の暫定目標値を400μg/m3と定めました。この目標値は、健康影響や毒性学的知見から決定したものではなく、あくまでも室内空気の汚染状態の目安として利用されているものです。TVOCと個別のVOC指針値とは独立に扱わなければならないとされています。

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指針値が設定された物質の特性等

(1)ホルムアルデヒド

ホルムアルデヒドは、刺激臭のある無色の気体で、その水溶液をホルマリンといい、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂などの原料であり、安価で殺菌、殺虫、防腐作用があることから、接着剤や、塗料、建材に使用されています。

平成15年7月には改正建築基準法が施行され、ホルムアルデヒドを発散する建材の使用制限、換気設備の設置義務、天井裏などへの制限が規定されました。

ホルムアルデヒドに曝露された場合、目、鼻、喉への刺激、濃度依存性の不快感、流涙、くしゃみ、咳、吐き気などの症状が現れます。また、国際がん研究機構(IARC)ではホルムアルデヒドをヒトに対して発がん性物質であると認定しています。

(2)アセトアルデヒド

アセトアルデヒドは無色の液体で、合成樹脂、合成ゴムなどの原料として用いられています。しかし、アセトアルデヒドはたばこの煙にも含まれるため、喫煙によって発生します。さらに、飲酒によって人体内でも生成されます。

蒸気は、眼、鼻及び喉に刺激があり、眼に入ると結膜炎や眼のかすみを起こし、長期間の直接接触により、発赤、皮膚炎を起こすといわれている。高濃度蒸気の吸入による中毒症状として、麻酔作用、意識混濁、気管支炎、肺浮腫等があり、初期症状は慢性アルコール中毒に似ています。

(3)トルエン

トルエンは無色の液体で、医薬品、塗料・インキ溶剤及び洗浄剤などに用いられています。

高濃度の曝露では、目や気道に刺激し、精神錯乱、疲労、吐き気等、中枢神経系に影響があるといわれている。また、意識低下や不整脈を起こすことがあります。

(4)キシレン

キシレンは無色の液体で、内装材等の施工用接着剤、塗料などに用いられています。

キシレンは国内外の評価機関における評価結果を考慮し、ヒトにおける長期間曝露の疫学研究に関する知見から、耐容気中濃度を基に算出し、平成31年1月に870μg/m3(0.20 ppm)から200μg/m3(0.05 ppm)に指針値が改定されました。

高濃度の短期曝露の影響はトルエンと類似しています。蒸気は喉や眼を刺激し、頭痛、疲労、精神錯乱を起こすことがあるといわれています。比較的高濃度の長期曝露により頭痛、不眠症、興奮等の神経症状へ影響を与える可能性もあるといわれています。

(5)エチルベンゼン

エチルベンゼンは無色の液体で、洗浄剤、有機合成、溶剤、希釈剤などに用いられています。

短期曝露では、蒸気が喉や眼に刺激を与えます。高濃度になると、目眩や意識低下等の中枢神経系に影響を与えるといわれており、長期間皮膚に接触すると皮膚炎を起こすことがあるといわれています。

(6)スチレン

スチレンは無色の液体で、ポリスチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、AS樹脂、合成樹脂塗料などに用いられています。

スチレンに曝露された場合、眼や鼻、喉に刺激を与え、さらに、眠気や脱力感を感じます。比較的高濃度の長期曝露では肺や中枢神経系に影響を与え、眠気や目眩を生じることがあるといわれています。

(7)パラジクロロベンゼン

パラジクロロベンゼンは、白色の固形物で、衣類の防虫剤やトイレの芳香剤などに用いられています。

高濃度の短期曝露で眼や皮膚、気道が刺激されます。また、肝臓及び腎臓に影響を与え、機能低下及び損傷を生じることがあります。比較的高濃度の長期曝露により、肝臓、腎臓、肺及び眼とヘモグロビンの形成に影響を与えることがあるといわれています。

(8)テトラデカン

テトラデカンは無色の液体で、灯油や塗料等の溶剤などに用いられています。

高濃度では、刺激性で麻酔作用があるとされています。皮膚に直接ついた場合、皮膚の乾燥、角化及び亀裂を生じることがあるといわれています。

(9)クロルピリホス

クロルピリホスは無色または白色の固形物で、殺虫剤、防虫剤及び防蟻剤等に用いられています。平成15年7月には改正建築基準法が施行され、室温では揮発性がなく、換気等による技術的な対策が困難なことから、居室を有する建築物には使用禁止となっています。

軽症時の中毒時の症状として、倦怠感、違和感、頭痛、目眩、胸部圧迫感、不安感及び軽度の運動失調等の非特異的症状、吐き気、嘔吐、唾液分泌過多、多量の発汗、下痢、腹痛及び軽い縮瞳があり、重症の急性中毒の場合、縮瞳、意識混濁及びけいれん等の神経障害を起こすといわれています。

(10)フェノブカルブ

白色または淡黄色の固形物で、防虫剤及び防蟻剤等に用いられています。

高濃度の蒸気及び粉塵の吸入による中毒症状として、倦怠感、頭痛、目眩、悪心、嘔吐、腹痛などを起こし、重症の場合は縮瞳、意識混濁等を起こすといわれている。さらに皮膚に付着すると、紅斑、浮腫を起こすことがあります。

(11)ダイアジノン

無色の油状液体で、殺虫剤に用いられています。中毒症状としてはクロルピリホスと同様の症状といわれています。

(12)フタル酸ジ-n-ブチル

無色の油状液体で、印刷インクや接着剤の添加剤、壁紙や床材の可塑剤などに用いられています。フタル酸ジ-n-ブチルは国内外の評価機関における評価結果を考慮し、ラットを用いた生殖・発生毒性の用量反応関係に関する知見から、LOAELを基に算出し、平成31年1月に220μg/m3(0.02 ppm)から17μg/m3(1.5 ppb)に指針値が改定されました。

高濃度の短期曝露で、眼、皮膚及び気道に刺激を与えることがあり、誤飲により、吐き気、目眩、眼の痛み、流涙及び結膜炎が見られたという報告があります。

(13)フタル酸-2−エチルへキシル

無色の粘調液体で、壁紙や床材等の可塑剤などに用いられています。

フタル酸-2−エチルへキシルは国内外の評価機関における評価結果を考慮し、ラットの雄生殖器系への影響に関する知見から、NOAELを基に算出し、平成31年1月に120μg/m3(7.6 ppb)から100μg/m3(6.3 ppb)に指針値が改定されました。

高濃度の短期曝露で、眼、皮膚及び気道に刺激を与えることがあります。消化管に影響を与えることもあります。長期間の接触により、皮膚炎を起こすことがあるといわれています。

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室内のホルムアルデヒド濃度変化

愛知県健康・快適居住環境検討ワーキンググループの調査として「ホルムアルデヒド濃度の経時的調査」を実施しました。調査結果を図に示しました。なお、この調査は建築基準法改正(平成15年)によるシックハウス対策が実施される前の調査です。調査結果の概要は次のとおりです。

調査は、平成10年5月に建築された住宅を平成10年10月から平成12年8月までの間に7回測定を行いました。築2か月後に測定し、指針値を超えていましたが、その3か月後には指針値を下回っていました。その後は徐々に減少し、夏季になると室温の上昇に伴ってホルムアルデヒド放散量が増加しました。その後は指針値を超えることなく、変動を繰り返していました。

図 ホルムアルデヒド濃度の推移
図 ホルムアルデヒド濃度の推移

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シックハウス症候群を防ぐための対策

シックハウス症候群の原因は多岐にわたっているため、その多くが特定困難となっています。シックハウスの原因によって対策の方法も変化します。ここでは、化学物質が原因の場合の対策を記述します。

化学物質汚染での対策(例)

[新築住宅を建てる際の対策]
(1)化学物質の放散量を抑えた建築材料を使用する。
(2)化学物質の放散量の多い塗料や接着剤の使用を抑える。
(3)安定的に十分な換気量が確保できる機械換気設備を設置する。
[既存住宅への対策]
(1)化学物質を多く発生する生活用品を持ち込まない。
(2)問題となる化学物質発生源を除去する。
(3)窓開け換気などにより、十分な換気量を確保する。
(4)空気清浄機*などの対策製品を使用する。
(5)ベイクアウト**などの対策技術を実施する。

*:空気清浄機の除去方式やメンテナンス状況及びシックハウス症候群の原因物質によっては効果のないものもある。

**:ベイクアウトとは、化学物質や臭気物質などのガス状物質の発生量を低減させる技術のことで、ストーブなどの加熱装置を用いて室温を上げ、建材、塗料、接着剤及び家具などに含まれる化学物質を吐出させるもの。

窓・換気の絵

愛知県内のシックハウス症候群等の住宅相談は最寄りの保健所が窓口となっています。

シックハウス(室内空気汚染物質)についての相談(愛知県 各種相談窓口HP)

【リンク】

【参考資料】

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