3名の海外渡航者から分離された
A香港型インフルエンザウイルス

2004/10/26

2004年8-9月に名古屋空港に帰国した海外渡航者3名からA香港型インフルエンザウイルスが分離されましたので報告します。

各症例の概要を下の表に示します。症例1は帰国日までにインフルエンザ様症状を発症し、名古屋空港検疫所によるサーモグラフィー検査にて発熱が認められたため、また症例2、3は自己申告があったため問診後、咽頭拭い液を採取しました。

培養細胞を用いた組織培養法によりウイルスを増殖後、国立感染症研究所より分与された抗血清セットと0.75%モルモット赤血球を用いてHI試験^＊を行なったところ、3症例とも全て同じパターンを示しました。すなわち、Aソ連型のウイルス株に対する抗A/ニューカレドニア/20/99血清（ホモ価160）、 抗A/モスクワ/13/98血清（ホモ価320）、それにB型のウイルス株に対する抗B/山東/7/97血清（ホモ価160）、抗B/ヨハネスバーグ/5/99血清（ホモ価320）では、いずれもHI価は10未満であったのに対し、A香港型のA/パナマ/2007/99抗血清（ホモ価320）ではHI価は10、A香港型福建タイプのA/熊本/102/02抗血清（ホモ価160）は160、また、本シーズン(2004/2005)のワクチン株のA/ワイオミング/03/03坑血清（ホモ価160）では160のHI価を示しました。このことから、今回3名の渡航者から分離されたインフルエンザウイルスはA香港型で、今シーズン（2004/2005）のワクチン株(詳しい情報はこちら) と抗原性が類似していることが分かりました。さらに、ヘマグルチニン遺伝子の遺伝子解析を行ない、アミノ酸配列を推定したところ、昨シーズン愛知県内で分離されたウイルスと比較し、3-6カ所のアミノ酸が置換していることが分かりました。このうち、抗原決定領域と考えられている145番目のアミノ酸が3株共にリジンからアスパラギンに置換していました。

なお、今回の3例と同じ抗原性を示すA香港型インフルエンザウイルスは、10月8日に大阪府で発生した学級閉鎖の症例からも分離されています(国立感染症研究所　感染症週報2004年第40週参照)。

現在（平成16年10月第3週）までの所、愛知県内ではインフルエンザ患者発生の報告は今回の3例以外はなく、地域流行等も観察されていません。今回分離された3株が流行の主体となるかどうかについてはまだわかりませんが、もし流行した場合は、本シーズンのワクチン株と抗原性が類似していることから、ワクチンによる感染予防が期待されます。インフルエンザ予防の第一はワクチン接種であり、特に高齢者と基礎疾患のある人は流行前の早めの接種が望まれます。詳しくはインフルエンザ予防接種ガイドラインをご覧ください。

ウイルスの流行については、今後の動向を注意深く監視していく必要があります。愛知県衛生研究所のホームページには、感染症週報が掲載されていますので、最新の愛知県感染情報を知りたい方はご参照ください。

この情報の元となる調査は厚生労働省名古屋検疫所名古屋空港検疫所支所と共同で行なったものです。

^＊HI試験（赤血球凝集抑制試験：Hemagglutinin inhibition test）

インフルエンザウイルスは、鳥類や哺乳類の赤血球を凝集することが知られており、この現象は赤血球凝集反応(Hemagglutination)と呼ばれています。フェレットなどの動物に標準となるインフルエンザウイルスを接種すると、免疫反応により抗血清が得られますが、この抗血清は作成に用いたウイルス株による赤血球凝集反応を特異的に抑制します。この原理を利用した検査法がHI試験で、未知のウイルス検体による赤血球凝集が抗血清によって抑制される程度を調べることにより、そのウイルス検体が抗血清のウイルス株と類似しているかどうかを判断するものです。具体的には、段階的に希釈した（薄めた）抗血清をウイルス検体と反応させ、赤血球凝集反応がどれだけの希釈まで抑制されるかを観察します。抗血清の希釈倍率はHI価と呼ばれ、ウイルスと抗血清の株が完全に一致している場合のHI価をホモ価と言います。HI価が高く、ホモ価に近づくほど調べようとするウイルス検体が抗血清のウイルス株（例えばワクチン株）に類似していると判断されます。