愛知県衛生研究所

アイチウイルス(Aichi virus)について

2006年9月11日

アイチウイルスの電子顕微鏡写真
アイチウイルスの電子顕微鏡写真(−:50nm)

アイチウイルスは、1989年、当研究所生物学部ウイルス研究室(当時はウイルス部)にて、カキ(牡蠣)が原因と推定された胃腸炎の集団発生における患者の糞便から分離されました。その遺伝子構造からピコルナウイルス科に属する新型ウイルスと判明し、新たなコブウイルス属(Genus kobuvirus)に分類されました。コブは日本語の「瘤」に由来し、アイチウイルスがやはりピコルナウイルス科のエンテロウイルス属と比べ粒子の表面が瘤のようにゴツゴツしていることから名づけられました。アイチウイルスの血清型は現在1種類のみが知られ、A、B2種類の遺伝子型が存在します。アイチウイルスの検出はアジア各国や欧州、南米からも報告されています。日本で分離されたアイチウイルスはほとんどがA型に属しますが、パキスタン、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、ネパール等アジア各国ではB型が多く分離されます。塩基配列が判明しているドイツの株はA型で、ブラジルの株はB型でした。

食中毒との関連

1987年〜90年の4年間に愛知県内で発生した食中毒19事例中7事例(36.8%)からアイチウイルスが検出されています。7事例には全て生カキが関連しており、うち6事例はノロウイルスとの混合感染でした。

冬季の食中毒とノロウイルスとの関連が明らかとなり、厚生労働省通達に基づいた生食用カキ浄化(出荷前に殺菌海水等で2日程度)の導入後は、生カキに関連したアイチウイルス感染症は稀になりました。1991年以降にアイチウイルスが検出された3事例(1997、1998年)には全て生食用でないカキが関与していました。2006年には、大分県におけるカキの塩辛による食中毒事例からアイチウイルスが検出されています。

愛知県住民を対象として本ウイルスに対する中和抗体保有率を調査したところ、4歳以下7%(9/125)、5〜9歳18%(18/101)、10〜14歳が32%(15/47)、15〜19歳が50%(30/60)と加齢とともに上昇し、30歳以上では80%前後の人が抗体を保有しており、多くの成人は以前にアイチウイルスに感染したことがあると考えられます。

アイチウイルスの単独感染発症例は報告が未だ少ないため、症状や潜伏期間は不明です。上記の食中毒7事例における56名中、回復期に抗体が陽性となった24名の症状は、嘔気が91.7%、腹痛が83.3%、嘔吐が70.8%、下痢および発熱が各58.3%でした。うち血清IgM抗体陽性を示した7名は、全員が発熱し、腹痛・嘔気を訴え、6名に嘔吐がみられました。予防対策としては、カキを生で食べないこと。海外では生水や生野菜にも注意したほうがよいでしょう。