愛知県衛生研究所

E型肝炎について

現在ウイルスが原因とされる肝炎には、A型、B型、C型、D型、E型、G型等があります。このうちE型肝炎は経口感染する急性肝炎で、主に発展途上国で散発的に発生している疾患です。今まで、我が国では海外からの輸入感染例しか知られていませんでしたが、今回の報道(平成16年11月29日)では北海道において、豚の内臓を食べた6人がE型肝炎に集団感染し、1人が亡くなられたとのことでした。平成14年にも同じく北海道において、海外流行地への渡航歴がない3名がE型肝炎で亡くなられていた疑いが高く、また、他の報告では市販のブタの肝臓にE型肝炎ウイルス(HEV)が感染していた(検出率は1.9% (7/363)と低いものでした)ことも報道されました。平成15年の当所における調査では、県内の3頭(3/59)の野生のイノシシからHEVが検出されています。

2001年9月にスペイン、バルセロナの研究者が、HEVの常在しないヨーロッパのある地域で、豚の20%がHEVの抗体を持っており、地域住民にもHEV抗体保有者がいる事を報告しています(米国の電子メール情報組織:ProMED 2001年10月5日)。HEVが人だけではなく、豚等の家畜にも感染するいわゆる人獣共通感染症の可能性を示唆した報告です。

動物衛生研究所(国の独立行政法人)の報告では、我が国においても豚の66%(全国6都道府県における1077.頭の検査結果)がHEV抗体陽性でした。しかしながら感染の時期は生後1〜3ヶ月で、出荷時期に当たる6ヶ月齢で感染している例はなかったとしています。すなわちこの調査では、E型肝炎は慢性化しないことから、たとえ豚がHEVに以前感染していたとしても、出荷される豚肉にウイルスが存在する例はなかったと報告しています。(平成15年度厚生労働省科学研究特別事業「食品に由来するE型肝炎ウイルスのリスク評価に関する研究」報告書より)

国内におけるE型肝炎感染例についてはこの他、シカの生肉が原因と思われる例、イノシシが原因と思われる例などの報告があります。

猪のイラスト鹿のイラスト豚のイラスト

E型肝炎ウイルスによる肝炎は、1955年にインドで飲料水などを介した水系感染による患者2〜4万人が発生して以来、1986〜91年にネパール、インド、中国ウイグル地区、バングラデイシュで数千人〜12万人規模の流行があったと報告されています。

症状

体調が悪い人のイラスト

A型肝炎と類似しており、腹痛、食欲不振、全身倦怠、発熱、悪心、嘔吐、黄疸、尿が黄色くなるなどの症状があります。血液検査では肝臓の機能障害を反映してGOT、GPT、LDHの上昇(数百〜数万単位)、総ビリルビンの上昇、γGTP、ALPの上昇が、それに、アルブミン、コレステロール、コリンエステラーゼの低下などがみられます。

A型肝炎と同様、経口感染しますが、潜伏期が15日〜50日(平均40日)とやや長く(A型肝炎:平均30日)、罹患年齢がより高く15〜40歳に好発します。一般に予後は良好で、慢性化することはありませんが、重症化の頻度はA型肝炎に比べて高く、死亡率は1〜2%で、とくに妊婦は劇症化しやすく、死亡率が17〜33%と報告されています。(但し、これらの割合はほとんどが開発途上国での流行時に集計されたもので、同様のことが日本で起こるかどうかはハッキリしません。)

予防

日本国内ではこれまでに大きな流行は報告されていませんが、イノシシなどの野生動物や豚などからウイルスが検出されていることから、肉や臓器はよく調理して食べる必要があります。

旅行者への注意としては、中央アジアでは秋に流行のピークがあり、東南アジアでは雨期に、特に大規模な洪水が起こった後に発生します。ウイルスは糞便から排泄され、糞便で汚染された水や食物から感染するため、生の食品はもちろん、水、氷なども注意が必要です。流行地域では、E型肝炎の予防だけでなく、同じく経口感染をするA型肝炎や赤痢、コレラ、腸チフスのどの予防の為にも、生水(もちろん水道水も)は飲まない、生の食品は野菜も含めて食べない、カットフルーツは口にしない等を実施する必要があります。A型肝炎にはワクチンがあり、流行地での予防に有効ですが、残念ながらE型肝炎にはワクチンはないので、自己防衛に徹する必要があります。

病原診断

HEVは発症前後の患者糞便中に排泄されるため、この時期の糞便を検査材料として遺伝子増幅検査(PCR)法を実施します。

しかし、症状が出てからのウイルス排泄期間は短いため、病原診断としては十分とはいえません。むしろ、血中のHEV抗体の検出の方が確実に診断できると考えられています。

診断には発症直後の急性期と2週間ほど後の回復期のペア血清の抗体価の上昇をみるのが確実でよく使われる方法ですが、HEVの場合日本での感染の機会が少ないため、症状が出た時期の血清中のIgM抗体(急性期に上昇しやすい)を検出することで診断可能です。

海外ではHEV血清診断用のキットがAbott社、Gene Lab社から発売されていますが、日本では販売されていないため、我が国では遺伝子組み替えバキュロウイルス(カイコのウイルス)を用いたELISA法による血清診断が国立感染症研究所ウイルス2部において実施されています。