愛知県衛生研究所

ヒトパレコウイルス
(Human Parechovirus :HPeV)について

2006年12月8日

ヒトパレコウイルス(HPeV)は、小児麻痺の病原体として知られるポリオウイルスと同じピコルナウイルス科(Picornaviridae: pico=小さい rna=RNA)に属しています。ピコルナウイルス科はさらに属に分類されていますが、かつてエンテロウイルス属(entero=腸管)に分類されていたエコーウイルス22及びエコーウイルス23が、他のエンテロウイルス属とは血清学的および遺伝子学的に異なることから、1999年に新たにパレコウイルス属(Genus Parechovirus par(a)=傍 echo=エコー)が創設され、Human parechovirus 1(HPeV-1;旧Echovirus22)及びHPeV-2 (旧Echovirus23)と改名されました。

1999年に愛知県内で一過性麻痺症状を示した1歳小児の糞便検体より、既知のウイルス抗血清では中和されない新しいウイルスが1株(A308/99株)当所で分離されました。このウイルスは患者の抗体価検査の結果から発症の原因病原体と考えられ、さらに血清学的および遺伝子学的解析の結果から新たにHPeV-3と定められました。HPeV-3に対する愛知県在住健康者における中和抗体保有率調査結果は、1歳未満では15%(3/20)、1〜3歳では45%(9/20)、4〜9歳では77%(27/35)、10〜19歳では83%(33/40)、20歳以上では73%(67/92)でした(グラフ)。この結果は幼児以上の健康者の多くがこのウイルスに以前感染したことがあることを示しています。よってこのウイルスは突然出現したわけではなく、特に重篤な症状を引き起こすことなく以前から身近に存在していたと考えられます。

愛知県在住健康者におけるHPeV-3中和抗体保有率調査結果のグラフ

現在、HPeVには1〜6型の血清型が知られています。HPeV-1については胃腸炎、呼吸器疾患、無菌性髄膜炎、脳炎、新生児敗血症症候群(neonatal sepsis-like syndromes)患者との関連が報告されています。HPeV-2は胃腸炎や呼吸器疾患患者からの検出が報告されていますが、わが国からはほとんど報告されていません。HPeV-3は当所の調査では、主に胃腸炎、呼吸器疾患患者検体から分離されており、海外からは敗血症症候群(sepsis-like illnesses)や 乳幼児突然死症候群(sudden infant death syndrome:SIDS)との関連も報告されています。4,5,6型についても今後の研究が待たれています。

ヒト以外の動物では、野ネズミからもよく似たパレコウイルスが分離されており、未知の点が多いウイルスです。