愛知県衛生研究所

麻疹の流行予測調査 −愛知県における年齢層別抗体保有状況−

2018年5月10日

1 はじめに

麻疹ウイルスに感染する機会があった後、麻疹(はしか)を発症するか予防できるかは、各個人がウイルス抗原に対応する免疫があるか(防御抗体等を保有しているか)にかかっています。ちなみに麻疹の予防接種では、感染防御免疫を誘導する目的で、弱毒化した生ウイルスワクチンを使用しています。

毎年日本では、厚生労働省と地方自治体が協力して全国で感染症流行予測調査事業が行なわれています。愛知県においてもインフルエンザが流行する前に一般県民より年齢層ごとに一定数の血清を集めて、インフルエンザや麻疹、風疹など予防接種による集団免疫が行われているウイルスに対する抗体価を測定し、免疫の状態を調査しています。

2 対象者

2017年7月〜9月に本県において、0歳〜65歳の男女各年齢層(0〜1歳、2〜3歳、4〜9歳、10〜14歳、15〜19歳、20〜24歳、25〜29歳、30〜39歳、40歳以上)およそ22名ずつ、合計198名から採取された血清を使用しました。全ての対象者あるいは保護者から、血清使用について書面による承諾をいただきました。

3 測定法(ゼラチン粒子凝集試験)

抗体価の測定には、16,32,64,128,256,512,1024倍に段階希釈した血清を用いてゼラチン粒子凝集(PA)試験を行い、16倍未満(図1の左端の白い部分)を陰性、16倍以上を「陽性(免疫がある)」としました。

2017年麻疹抗体保有状況グラフ

4 結果

2017年における県民の麻疹抗体保有状況を図1に示します。

現在の抗体保有状況:16倍以上の麻疹抗体を保有する割合は、全体では96.5%ですが、抗体陰性者(図1の左端の白い部分)が3.5%認められました。年齢階層別にみると、ワクチン未接種者の多い2歳未満は20%が抗体陰性、2歳以上の年齢層において抗体保有率は90%以上と比較的高く保たれています。しかし、15歳から29歳の各年齢層では抗体陰性者が認められました。また、抗体価128倍未満の低抗体価保有者が10歳から29歳の各年齢層に多く認められました。

5 考察

2017年における県民の抗体保有状況は、2歳以上の各年齢層において比較的高い保有率でありました。しかし、2歳未満と15歳から29歳の各年齢群において抗体陰性者が認められることから、乳幼児だけでなく15歳〜29歳の年齢に相当する人においても麻疹発生が危惧されます。2006年度から2回の定期予防接種が1歳児と小学校入学前の幼児を対象に行われるようになりました。更に、2008〜2012年度の時限措置として中学1年生及び高校3年生に相当する年齢に定期予防接種が実施されました。これにより1990年4月2日以降に生まれた人は定期予防接種を2回受けることができています。しかし、定期接種を1回しか受けなかった人や予防接種制度により1回しか受けられなかった世代では低力価抗体保有者である可能性があります。麻疹ウイルスとの接触機会が少なくなっている現在においては、抗体陰性者及び低力価抗体保有者の間で麻疹の流行や集団発生が起こる可能性があります。

麻疹の予防には、抗体陰性者及び低力価抗体保有者への麻疹風疹混合(MR)あるいは麻疹単味ワクチン接種が有効です。

関連ページ
麻疹(はしか)について
麻しん・風しん患者調査事業を実施しています