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スペシャルコラム

くさか里樹さん

くさか里樹さんプロフィール
1958年6月9日高知県高岡郡日高村生まれ、同県在住。追手前高校卒業後、授産施設で働きながら漫画雑誌に投稿。1980年、「別冊少女コミック」に応募した「ひとつちがいのさしすせそ」が入選して漫画家デビュー。2011年、「ヘルプマン!」で第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。代表作にはほかに「ケイリン野郎」「ファイブ」など。「ヘルプマン」単行本は講談社版が全27巻、週刊朝日版(連載中)が8巻。

更新日:2017年8月31日

介護をテーマに高齢化社会の問題を鋭く、リアルに描いた漫画「ヘルプマン!!」の作者、くさか里樹さん。2003年の連載開始から14年、取材を続けながら介護現場の悩みや喜びを身近で感じると同時に、作品を通して「老い」とは?「家族」とは?そして介護とは?を問い続けてきました。介護職員、医療、行政関係者ら介護と関わる多くの“ヘルプマン”とつながり、発信するくさかさんに、介護職への思いを聞きました。

出版した途端、反応に衝撃

 漫画家を始めてしばらくして行き詰まり、漫画家を辞めようと思ったことがあったのですが、原因は自分に自信が持てなかったからでした。他の人の作品と比べたり、読者の反応を気にしすぎたりしていつもビクビクしていました。そんなとき「他人と自分を比べる人生は惨めである」という言葉に出合い、考え方が変わったことで仕事が楽しくなりました。
 これまでいろいろなジャンルの作品を描いてきましたが、描きたいことは一つ。「特別な人」ではなく、「普通の人」がとても素晴らしいということです。介護をテーマに選んだ理由も、かつての自分のように悩んでいる人に対して、ありのままで自分らしくチャレンジしていくことが素晴らしいと伝えられると思ったからです。
 実は編集部も介護をテーマにして大丈夫なのかという心配はあったようです。実際は出した途端、反応がすごかった。小学生からお年寄りまでがアンケートはがきの通信欄に介護に対する自分の思いをギッシリ書いていただいた。こんなに介護って関心あるの!と衝撃でした。それがまた全部ネガティブだった。怖いとか親がこうなったらどうしようとか。普段は言わないけど、みんな不安ばかりが膨らんでいるのだと分かりました。全員がいずれ年寄りになる。それがこんな真っ暗なイメージでいいのかな、という疑問を持ちました 。

くさか里樹さん

取材で知った現場と一般認識のズレ

 取材は施設に直接出向きました。そこで知り合いができるとその方から新たな人を紹介していただくサイクルです。元気な介護職さんは必ず元気な介護職さんとつながっています。素敵な介護職さんは必ず素敵な行政マン、看護師さん、お医者さんら素敵な人とつながっているのです。お話しさせていただいている中で、こちらは「それ、面白い!」という感じで参考にさせてもらっています。
 最近は若い介護士さんが増えましたよね。若い方たちは介護や福祉に変な既成概念が無く、現場で実際に体験したことをそのまま自分の力に変えていく、発想の転換ができているように思います。介護は暗いもんじゃないよから始まって、世間では3Kと言われていますけど、介護って面白い、楽しいねって。ではなぜこんなに世間と認識がずれているんだろうと自分たちで分析し、新しいことにつなげている人もたくさんいます。
 法制度が目まぐるしく変わる中でも、自分たちの目指す理想の介護に挑戦する人たちもいる。そんな変化が起きていますよね 。

「ヘルプマン!!」の主人公・百太郎超えの人々

 「ヘルプマン‼」の主人公・百太郎の介護は型破りな面もありますが、誰よりも利用者さんのことを一番に考える心優しい介護士です。
 基本的にキャラクターは作品を描く前に作るので、百太郎のモデルはいませんが、取材を重ねるうちに百太郎超えの人はいっぱいいると分かりました。百太郎にこんなことさせていいかな?と悩んでいると、それ以上に凄いことをやっている人がいるのです。「百太郎、うちにもいるよ」という話もよく聞きます。
 登場するお年寄りのモデルもいなくて、強いて言えば私が小さいころ、近所にいたおじいちゃん、おばあちゃん。地域の中で存在感があってとにかく格好いいと思っていました。ああいうお年寄りが要介護になった瞬間、周りから断ち切られたら、どうなってしまうのかなと。自分が居たところに戻れたとしたらどんなにうれしいだろうということを想像しながら描いています 。
(今秋公開の後編に続く)

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