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スペシャルコラム

くさか里樹さん

くさか里樹さんプロフィール
1958年6月9日高知県高岡郡日高村生まれ、同県在住。追手前高校卒業後、授産施設で働きながら漫画雑誌に投稿。1980年、「別冊少女コミック」に応募した「ひとつちがいのさしすせそ」が入選して漫画家デビュー。2011年、「ヘルプマン!」で第40回日本漫画家協会賞大賞を受賞。代表作にはほかに「ケイリン野郎」「ファイブ」など。「ヘルプマン」単行本は講談社版が全27巻、週刊朝日版(連載中)が8巻。

更新日:2017年10月31日

「ヘルプマン!!」で知られる人気漫画家、くさか里樹さんに介護に携わる人への思いを聞く後編。介護職を志す人へのメッセージを聞きました。

知恵を絞って相手の心を動かすことで感じる充実感

 介護職の魅力は、クリエイティブな自己表現ができるということだと思います。自分の知恵を絞り、作り上げて相手の心を動かすことが面白くないわけがない。もちろん生みの苦しみもありますが、それが充実感に繋がっているということで言うと、漫画家の仕事とも似ていると私は思います。読者(相手)の心に響かせたい、どうしたらいいんだろうとあれこれ考えるというところですね。
 もちろん介護は肉体労働も多い。しかし、おむつ交換とか食事の世話とか、そういうところでしか捉えられていないことが多すぎる。知的労働の部分、想像力を働かせて感性を全開にし、相手の琴線を探す、というところも大きな仕事です。知的労働の面白さと、そこに不可欠なユーモア。自分自身を試せる楽しさもあります。介護は創造活動だと思っているので、それは例えば若い人たちがミュージシャンを目指すのと根本は同じだと思います。その結果、相手が幸せを感じてくれたりすると、こちらも満たされますよね。  

くさか里樹さん

する人、される人、どちらも幸せになるのが本当の介護

 こういう話を聞いたことがあります。何をするにも協力してくれない認知症のおじいさんがいました。クリエイティブ介護職の人が、その人はかつて中小企業の社長さんだったと知り、名刺を作って差しあげた。名刺を持った瞬間、その人はみんなに配り出し、機嫌良くレクリエーションのリーダーとして仕切ってくれるようになったそうです。そこには発想の転換とユーモアがありますよね。毎晩、夜中に奇声を発するおじいさんが駅長さんだったと分かった。これって最終電車なのかもしれないよと。それである晩、叫ぼうとした瞬間に「お疲れさまでした!」って敬礼して言ったところ、それ以来奇声はなくなったという話もあります。  
  そういうことがハマると止められないですよね。さ迷っていたその方の気持ちを汲み取り、満足してもらえたというね。介護はする人、される人どちらもが幸せになるお仕事ですから。  
 認知症の人のケアはとても難しいことですが、すごく楽しい話や劇的に変わった話、大爆笑するエピソードというのは先程のように認知症の人との交流で起きることが多い。認知症の方は、人はこうすれば幸せなんだと一番大事なことを教えてくれる先生です。  

何倍もの人生が生きられるのは介護の仕事だけ

 私が描いていることは介護だけのことではありません。上司と部下、親子、友達など普通の人間の葛藤、いつの時代、誰にでも当てはまる問題だと思って描いています。介護現場では人として大切なことは何なのかという気付きがたくさんあり、介護職の人たちは自分たちは凄いところで働かせてもらっていると思っているのですが、それを一般と共有できていないところが課題なのかもしれないですね。  
 私は、介護職を目指す皆さんに、蔓延している介護に対するネガティブイメージに騙されるな!と言いたいです。現場で働いている人でも騙されてしまっています。一方で「働いている本人がそう思っていないのだから、介護が3Kというのは嘘です」という人もいます。報道では介護の一面しか捉えていないので、本当にそうなのか疑ってかかってほしい。そして自分で答えを見つけてください。
 色々な人と繋がると、人の輪がどんどん広がり、知恵もユーモアも発想も広がって自分が豊かな人間になれます。まるで何倍もの人生を生きられる。そんな経験ができるのは介護の仕事しかない。それだけ魅力の大きな仕事だと思っています。  
  イメージで道を閉ざすのではなく、自分で宝探しをしてみてください。そして面白い話があれば私に教えてくださいね(笑)  

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