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スペシャルコラム

北原佐和子さん

北原佐和子さんプロフィール
1964年埼玉県生まれ。高校在学中に「ミス・ヤングジャンプ」に選ばれ芸能界デビュー。トップアイドルとして活動後、女優に転向。ドラマ、映画、舞台、バラエティー番組などに多数出演。2005年、ホームヘルパー2級、14年に介護福祉士、16年にケアマネジャーの資格を取得。女優業を続けながら介護士として現場で働き、講演会活動や朗読会「いのちと心の朗読会」を続けている。著書に「女優が実践した 介護が変わる魔法の声かけ」(飛鳥新社)。

更新日:2017年12月28日

1980年代、アイドルとして人気を博し、女優に転身後もドラマや舞台で活躍。お茶の間でもおなじみの北原佐和子さん。実は北原さん、介護の仕事を始めて10年以上が経つ介護のプロ。41歳でヘルパー2級、50歳で介護福祉士、そして2016年にはケアマネジャーの資格を取得。現在も女優と介護の仕事を両立しています。華やかな世界に居ながら介護の現場でも働く北原さんに介護職の魅力をうかがいました。

自分探しを続け、見つけた生きがい

 私は今、女優の仕事を続けながらデイサービスやサービス付き高齢者向け住宅にお住まいの利用者さんにサービスを提供する仕事をしています。
 女優と介護の仕事を兼業している理由は、女優の仕事だけではずっと感じていた心の穴を埋められなかったからです。女優の仕事は不安定で、仕事が無い時は何カ月もありません。いつも不安で、女優以外にも何かできることがあるのではないかと20代のころから考え続けていました。しかし心の穴を埋められないまま自分探しを続け、30代半ばで過去を振り返ったとき、障害のある方との印象に残る出来事を思い出したのです。
 それは、ダウン症のお子さんの争うことをしない穏やかな気持ちに心動かされたこと。そして、20代後半のある大雨の日の忘れられない出会いです。大雨の中、駅前の車の中で友だちを待っていたとき、両手足の不自由な方がずぶ濡れになっているのを見て、思わず「乗ってください」と声を掛けました。仕事帰りだと話すその方を家の前まで送ると、私の手助けを断り、金網にしっかりつかまって玄関まで歩いていかれました。その後ろ姿を見たとき、なんてたくましいんだろうと思いました。それに比べて私は自分の足で立っているか、大人たちにお膳立てしてもらい、なんとなくここまで来ただけではないかと。
 私はこれまで何度も障害のある方に大切なことに気付かせてもらっていたことに思い至り、福祉に携わりたいと思うようになりました。  

北原佐和子さん

日記がきっかけで介護職の面白さに気付く

 ヘルパーの資格を取得したものの、最初はどうすれば福祉の仕事ができるのか分かりませんでした。近所の障害者就労施設でボランティアから始め、障害者施設30カ所くらいに働かせてほしいと電話をかけました。しかし、女優の仕事をしながらではシフトが組めないからと断られ続け、やっと見つけたのは数日前にスタッフが辞めて困っていた宅老所。正直、初日から失敗したと思いました。
 と言うのも、当時はお年寄りにどう接していいのか全く分からなかった。私は人見知りで内向的。実習で「この人は認知症だから構わないで」と言われたこともあり、触れてはいけない方のように思っていたのです。どうして良いのか分からず辞めたくてたまりませんでしたが、働く場所が決まったときに看護師をしている妹から「お姉ちゃんなんかに介護ができるわけない」と言われた一言が続けるエネルギーになりました。
 けど、私が出来ることは少なく毎日掃除ばかり。腐ってしまいそうな自分が嫌で、書いていたのが介護日記です。これが後々、介護の面白さに気付くきっかけになりました。体調の変化や食事で残したものなどを書き続けていたことで、きちんと利用者さんを観察するようになる。するといろいろな発見ができるようになったのです。  

利用者さんの変化が毎日の励み

 私はある利用者さんが毎回トマトを残していることに気付きました。なぜトマトを残すのか理由が知りたくなり、結局それが利用者さんに声をかけるきっかけになりました。介護の面白さ、利用者さんを知ることが面白いと感じられるようになっていったのです。
 トマトを残すのはトマトが嫌いなわけではありませんでした。皮が噛み切れないから残していた。そこから調理の工夫が必要だと分かりました。それでいてその利用者さん、コーンは好きだから食べられる。好きなものであれば残存能力を使う意欲が湧くのだということも学びました。
 今は現場にいると楽しいし、とても居心地がいい。若いころに感じていた心の穴を感じることもありません。  どんな声掛け、対応が利用者さんの意欲に結びつくのか常に考えていますが、その結果がうまくいくときもあれば、うまくいかないときもあります。また、今日うまくいったから明日同じようにうまくいくとも限りません。でもうまくいったときはすごく嬉しい。ちゃんと受け止めてくれていると感じます。今はその喜びが次への励みにもなっています。
(2月公開予定の後編に続く)  

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