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スペシャルコラム

杉本浩司

杉本浩司さんプロフィール
1977年千葉県生まれ。メディカル・ケア・サービス株式会社 サービス創造統括部副部長。介護専門学校時代からモデルとして活躍。介護の仕事を続けながら大学院に入学し医療福祉学の修士号を取得。特別養護老人ホームや訪問介護事業所で介護福祉士、施設長として勤務を経験。介護職の魅力、自立支援、施設の経営戦略、人材育成などについて講演を年間約70回行っている。

更新日:2019年6月28日
取材日:2019年5月

介護福祉士の上位資格である認定介護福祉士の人物モデルとなった現役介護福祉士。であると同時に、医療福祉学修士でもある杉本浩司さん(42)。年間70回以上の講演などを通し介護業界の意識改革に取り組んでいます。元ファッションモデルで“日本一かっこいい介護福祉士”とも呼ばれてきた杉本さんが目指している未来の介護とは?介護業界で働く人たちの意識を変えたいという思いから一歩進み、介護される側のイメージを変えることで介護の仕事への認識を変えようとする杉本さんに伺いました。

目指すのは介護が必要な人が街に出て当たり前の社会

 全国で講演会や介護技術の紹介などを行っていて、愛知県でも昨年「介護の日フェア」など皆さんにお話しする機会がありました。簡単な介護技術を紹介するセミナーでは、介護のプロの技術が普段の生活に応用できると知っていただくことができ、介護を身近に感じてもらえたと思います。介護に携わる方にとっても、こういう見せ方もあると伝わったのではないでしょうか。
 ところで、介護の仕事はなぜ3K職業だと思われているのでしょう?介護は施設か家の中で行われていますから、実際に介護の仕事を見たことがある人はそんなにいないはずですよね。それなのに介護職に良くない印象を持っている人がいるのは、介護が必要な人に対しての良くない先入観、例えば認知症の人が徘徊して電車を止めて損害賠償請求されるといった、報道で知る偏ったイメージがあるからです。介護職の誤解を解くヒントはそこ。介護が必要な人への偏見をなくせばいいのです。
 もし介護が必要な人が街に出て当たり前の社会だったらどうでしょう?例えば飲み屋さんで車椅子の高齢者が介護職の人と一緒に楽しそうにお酒を飲んでいるのを見たとして、介護職が大変そうに見えますか? 介護が必要な人もどんどん外出する姿を見せてほしい。そうすれば一緒にいる介護職を見る目も違ってきます。「介護はおむつ交換や食事介助だけじゃないんだ」って。高齢者の日々の生活を継続するためのパートナーが僕ら介護職です。介護が必要な人の目的を達成する仕事だと街の人にアピールしていくべきだと思います。
 そして今後間違いなく全サービス業で働く人に、ちょっとした介護技術が必要な時代が訪れます。デパートでもシルバーフロアができるでしょう。介護が必要な人に対応できる店やサービスが生き残る時代が来るはずです。

杉本浩司さん

長野県のグループホームで自立支援介護を実践中

 外出を可能にするには必要なことがいろいろあります。今、会社で僕が取り組んでいるのは長野にある5つのグループホームで行っている自立支援介護です。自立支援介護とは、要介護者が自立するために課題となる事柄を分析・解決し、生活の質(QOL)を向上すること。例えば寝たきりだった人が歩けるようになったり、認知症で夜間歩きまわる人が薬に頼ることなくぐっすり寝られるようになるといったことです。そのことで「その人の当たり前の生活を取り戻す」ことができていきます。

 更に、ご利用者が改善すると、働いているスタッフの負担はどうなるのか。これまでは状態を改善できる方が少なく、データがありませんでした。長野では4か月間で77人のご利用者のうち56人、72.7%に何らかの改善が見られました。長野でこれだけの結果が出ているので、当社の303の施設に広めたい。これだけの規模の会社で結果を出せば、高齢者に多い入院の肺炎や骨折も減り、社会保障費もかなりの額が浮くはずです。
 実は昨年転職し所属法人を変更した理由もそれです。以前から年間を通じて日本全国で介護の仕事に関係する方々に対して多くの講演を実施しています。その講演でモチベーションが上がり、自分の職場で試す人もいますが、多くの人はフォローがなく継続できません。全国規模の会社に転職すれば5000人規模の社員がいるだろうし、僕が直接的、継続的に支援できます。継続的に支援ができると、ご利用者の介護度が軽くなり、社会保障費が下がるでしょう。うちがこれだけ社会保障費下げました、となると他の会社もやらざるを得なくなる、そうすると日本全体の社会保障費が下げられると考えています。下げた分少しは介護職に分配してよねとも思います。(笑)
 日ごろから「介護から日本を変える」と言っていますが、社会保障費を抑制できれば変わるでしょうし、日本は明るくなると思います。僕が50歳くらいになるまでには、介護が必要になっても認知症になっても大丈夫だと思える世の中にすると次の目標を定めています。

今、介護業界に入ることは本当に面白い!

 間違いなく2020年のオリンピック、パラリンピックで介護に対する意識は変わると思います。世界中から介護が必要な人や車椅子の人が来ます。彼らは観光もしますから普通に街なかに障害がある人、車椅子の人がいるわけです。だから僕は「2020年介護業界大革命」と言っています。今までの“閉じこもり”介護から、“外出”をキーワードにした介護が主流になると。そしてその大革命を経験した人たちが、団塊の世代が後期高齢者になる2025年にリーダーになっていく。だから今、介護業界に入ってくることはすごく面白いはずです。
 今であれば革命を経験できます。誰もが1秒先の未来を考えて行動し、介護が必要な人たちへの偏見を取り除いてほしい。そうすれば介護職は大変だという気持ちは限りなく小さくなります。2020年から全てが変わる。「今、介護は熱いよ」って言いたいです。

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