ここから本文です。

スペシャルコラム

新田恵利さん

新田恵利さんプロフィール
1968年埼玉県生まれ。85年おニャン子クラブのメンバーとしてデビューし一世を風靡。以降、歌手、女優、タレントとしてテレビ、ラジオ、舞台などで幅広く活躍中。2014年から母親の介護を始め、現在も介護を続けながらタレント活動や執筆、講演活動を行っている。認知症サポーター、おむつフィッター3級。趣味はハンドメイドの作品づくり。

更新日:2021年2月
取材日:2021年1月14日

10代でデビューして以来、芸能界で活躍を続けてきた新田恵利さん。現在、92歳で要介護5の母親と同居する家族介護者でもあります。2014年から仕事と両立しながら兄と一緒に自宅で介護を続ける新田さんに、家族介護者になったいきさつ、そして介護への向き合い方をうかがいました。

突然やってきた介護生活

 母の介護が始まった6年前まで、母は普通に歩けましたし、家の階段もゆっくりですが上り下りできていました。それが何度目かの腰椎の圧迫骨折で入院したのをきっかけに立つこともできなくなりました。入院中「リハビリしてる?」と母に訪ねると「している」と答えていましたが実際は何もしてもらえてなかったようです。入院生活中、せん妄(高齢者に多く発症する意識精神障害)症状が出てきてしまい、退院させれば元通りになるのではないかと退院させたところ、立てなくなっていたことが分かりました。
 それまで要介護認定も受けていなかったので、どうしていいのかさっぱり分かりません。まさか自分の母親が寝たきりになるとは思いもせず、以前から母には「私はあなたのおむつを替える自信が無い。自信が無いことに自信がある(笑)だから寝たきりにはならないで」と笑いながら言ったことがあるくらいでした。
 とりあえず役所に行ったのですが、そこでは地域包括支援センターのチラシを渡されただけ。退院する際に病院やタクシーで冷たい対応を受けていたので、支援センターに電話して「大丈夫ですよ、大変でしたね」という言葉をかけていただいたときは、凍っていた心に血が戻ったというか、人間らしい言葉を聞いて涙が出ました。

新田恵利さん

「おむつは嫌」と泣いた母

 後になって周りの方から「施設入所は考えなかったの?」と聞かれて初めて、施設入所の選択肢があったことに気付きました。そのときは、おむつやベッド、食事といった目の前のことに対処するのが精一杯。二世帯住宅で同居している兄と、2人でどうにかこなしているうちに生活が落ち着いてきて、それはそれで回り始めたんです。
 その上、理学療法士さんの勧めで40日間リハビリのために入院したところ、つかまり立ちができるようになりました。ベッドから車椅子に自分で移動できるようになり、トイレに自分で行けるようになったので余計に施設入所を考えなかったのだと思います。悪化していたら施設入所を考えていたかもしれません。
 当時、要介護4だった母が要介護3になったと話すと、皆さん驚かれます。母はすごく前向きな性格で、自分で歩けるようになると信じていましたから。一番の原動力はトイレに行きたいという思い。今は要介護5になってしまったのですが、動けなくなったとき、おむつは嫌だと泣きました。リハビリパンツならいいと言うので履いていたのですが、リハビリパンツは寝たきりだと漏れが多々起きる。それで徐々に自分の中で諦めていったようです。普通のおむつじゃないと駄目なんだと母が納得するまで2、3時間ごとにシーツを替えなければいけなくて、兄と2人で切ない思いをしました。

新田恵利さん

伝えたい「介護は人ごとではない」

 在宅介護の良い点は母の笑顔が見られること。そして家族の関係が以前にも増して良くなったことです。一緒に母の介護をしている兄は独身で、以前はたいした会話もなく、母が話しかけても兄は短く返事をするだけ。それが今では、兄が仕事で出掛ける際に「行ってきまーす」と母とハイタッチするくらいの仲の良さで、私も互いを思いやる2人を見られることが嬉しいです。
 母は昨年からデイサービスに行けなくなり、今はケアマネジャーさん、お医者さん、看護師さん、訪問入浴のスタッフの方にお世話になっています。できないことはプロの皆さんにお願いすることが母にとって一番いいと思いますし、家族の負担も減ります。そうやってプロの手を借りながら、自分も仕事で疲れたときは無理せずお惣菜を買って帰るとか、たまには力を抜いて気分転換することも必要だと思うようになりました。
 社会貢献になればとの思いから、介護に関する講演や情報発信にも力を入れています。一番伝えたいのは「介護は人ごとでは無い」ということです。親は老い、どんな形であれ介護は必要になるので、家族で話し合っておくことが大事。親が元気なうちに希望を聞き、話し合っておけば準備もできるのではないでしょうか。
 今、介護人材不足が問題になっていますが、若い方はおじいちゃん、おばあちゃんに接する機会が少ないのでステレオタイプで介護は大変だ、辛いんだと思ってしまうかもしれません。だからこそ、小さいころから、校外学習などでお年寄りと触れ合う機会が増えればいいですね。高校や大学でも授業の一環として単位が取れるようなシステムがあれば、もっとお年寄りを身近に感じてもらえて、介護職に就く人も増えるのではないかと思います。

閉じる トップページ