- 1968年岐阜県生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業後フジテレビ入社。報道番組や情報番組などのナレーションを担当。1998年9月、フジテレビ退社。フリーランスに転身後、報道、バラエティー、ドキュメンタリー番組などのナレーションを中心に活躍。母校である日本大学芸術学部の特任教授も務める。CBC「チャント!」水曜日「近藤サトのジモト応援団」出演中。公式YouTubeチャンネル「サト読ム。」では着物企画や名作朗読などを発信している。
更新日:2024年10月
取材日:2024年8月29日
アナウンサー、ナレーター、大学の特任教授、そして着物の魅力を発信するYouTuberとしてマルチに活躍する近藤サトさん。白髪染めをやめ、ありのままの自分でいられるグレーヘアの先駆者としても知られています。現在、要介護2の母親と同居する家族介護者でもある近藤さんに、介護職への思いをうかがいました。
普段から、特別介護について発信しているわけではないのですが、グレーヘアにした経緯を含めて女性の生き方について講演会などを行い、40〜60代の主に女性の方たちと交流をしていく中で、女性たちの生活の中では介護が多くの部分を占めていることに気付きました。しかも介護をネガティブに捉えていらっしゃる方が多い。私自身、認知症で要介護2の母を同居で介護していることもあり、介護について関心を持つようになりました。
皆さんのお話を聞いたり、自分が身にしみて感じるのは、家族での介護は介護する人もされる人も孤立しがちだということです。例えば母一人、子一人の家庭で介護されている場合、行政の目も届きにくい。高齢者のひとり暮らしではないから大丈夫だろうと。しかし同居しているからといって、介護する家族は専門家ではありませんし、例えば仕事を持ちながらの介護は大変です。やはり相談できる人が必要ですし、介護を継続していくためには第三者と関わり合いを持つことは大事だと思います。
母のケアをしてくださるスタッフの方は一生懸命母の話を聞いてくださる。なるほどと思ったのは、しっかり聞いてくださるのですが、流すところは流すことです。私は「それさっきも言ったよね、10回目だよ」と腹を立てたり、振り回されたりしているのですが、介護職の方々というのは聞いた上で、話半分と言っては失礼ですが、適度にあしらうようなところもある。でも母は、大満足なんです。ポイントは抑えるけれども、ここは聞いてあげるだけでいいという部分はニコニコしながら聞くだけ。で、本人が間違ったことを言っても指摘しない。本当に、大人だなーと思います。
介護職の皆さんに対して、頭が下がる思いをしながら、なぜ理不尽なことを言われたり、わがまま言われても、もう二度と来ませんなんて言わずに、毎回笑顔で来てくださるのだろうと考えたことがあります。これは来てくださるスタッフの方は、誰かのために、あの人を助けるために、という信念があるからではないでしょうか。どのお仕事でも間接的には誰かのため、人のためになっているとは思うのですが、介護のお仕事は直接的にマンツーマンで人を助けるお仕事です。介護職に就いていらっしゃる方たちのやりがいというのは、自分の力でこの人を助けたという達成感なのではないかと思います。見えない人たちのために力になっている人はたくさんいますが、目の前にいるこの人を救うのは私しかいないんだという大きな使命感です。日々、顔も名前も知らなかった方たちと出会って、その方をずっと支えてあげるお仕事を選べる人は、目の前にいる人を助けることに対して喜びを感じられる人です。本当に尊いと思います。
さらに介護職の方々は介護する相手、私の母を見ているだけではありません。私に対しても「頼ってくださいね」とか「無理しないでください」と声を掛けてくださる。それって、仕事だけではできないことなのではないでしょうか。本当に人に優しくできる人。ただ優しいのではなく、プロ意識を持ち、客観的に本人の体調や家族の状況を見てアドバイスできる方。うちみたいなわがまま一家もあれば、言いたいことも言えないような内気の方もいらっしゃいますよね。そういった個々の家族事情に目を配って引くところは引く、介入するところは介入するというところが本当にすごいなって思っています。
介護職は責任のあるお仕事です。でも介護職の大変なところばかりをクローズアップするのは良くないのではないかと感じます。介護職に興味を持ったとしても、やる前にあきらめる事態になってしまっています。少し考え方を変えて、この仕事一筋で、と前のめりで構えるのではなく、介護職をやりながら例えば副業を持つくらいのスタンスでやる方が介護職を選ばれる方が増えるのではないかと思います。
介護職の方々は本当に素敵な方たちばかりなのですが、そこに甘えきってはいけないという気持ちが私にはあります。私に休んでください、頼ってくださいって言われるけれど「あなたは大丈夫ですか?」と言いたくなるくらい介護職の方々は頑張っていらっしゃるからです。頑張りすぎると折れてしまいます。介護職は柱のお仕事として、何か違うことをやる自分も作ってあげる。そんなことも考えていいのだと言いたいのです。
今の私は、どれだけ母の自尊心を認めながら介護するかがテーマになっていて、その見計らいがとても難しい。お互いが納得して決めたことも母は数時間後には忘れていて、一人で母と対峙していると辛くなることもあります。これをある種のライフイベントだと思って乗り越えていくためにも、私自身、どこかで気持ちを切り替えさせてくれるきっかけを持ち、自分の時間を持つことが大事なのかなと思っています。
私も含めて介護職の方々を、本当にありがたいと思っている人間はたくさんいます。だからこそ取り組まなくてはならないのは、お給料も含めて介護する人たちを取り巻く環境の整備です。そして、いずれは介護される側になる自分が納得できる最期を迎えるためにどうすればいいのかを、日ごろから考えておく必要があると思っています。