
- 名古屋市出身。高校時代に演劇を始めフリーで活動後、2008年に劇団アルクシアターに加入。福祉系の大学卒業後、社会福祉士資格を取得する。舞台に出演しながらデイサービスで介護職員として23年間働き、介護福祉士資格も取得。並行して高齢者介護の現場を歌う音楽活動も行い、CD「介護魂」をリリース。「生きてりゃいつかは誰もが高齢者」「老いなんて笑い飛ばせ!」を合言葉に、ワンマンライブ「桃子でSHOW!」では介護について語り合う座談会も開催するなど、介護のあれこれを発信している。
オフィシャルウェブサイト https://torakitinya.wixsite.com/my-site
更新日:2026年10月
取材日:2026年10月7日
劇団アルクシアターの旗揚げメンバーとして舞台に立つほか、名古屋城の金シャチ横丁などで活動する「忍者隠密隊」にも所属し、忍者としてショーにも出演。介護の歌も歌う中西桃子さん。一方で、デイサービスの介護職員として23年間働いてきた顔も持っています。もともとは介護職には苦手意識があったという中西さん。働き始めて気づいたのは、利用者さんと人として向き合う楽しさでした。23年間、芝居をしながら介護の仕事を続けてきた中西さんに、仕事のやりがいや役者活動とのつながり、そしてこれから伝えていきたい介護の魅力について聞きました。
高校時代から演劇を始め、劇団アルクシアターのメンバーとして役者を続ける私が、23年間働いていたのが介護の現場です。私は大学で福祉を学び、社会福祉士の資格も取得しました。ただ、もともと興味があったのは子どもに関わる仕事。卒業後は子どもの施設か障害のある子どもたちの作業所などの就職先を探していました。
正直に言うと、当時の私は介護職に就きたいとは思っていませんでした。排泄介助や入浴介助に抵抗があり、高齢者施設に対しても、利用者さんとゆっくり話す時間もないというイメージを持っていたんです。それでも、演劇だけでは食べていけないので、役者を続けられる仕事を見つけなければなりません。介護施設なら求人も多いし、夜勤のないデイサービスなら芝居も続けられる。「まずは経験してみよう」と、面接を受けたのがきっかけでした。
実際に働き始めると、イメージは大きく変わりました。利用者さんは元気で、スタッフも明るく、みんな楽しそうに働いていました。驚いたのは食事のおいしさです。一人ひとりに「ご飯は多いですか」「ソースをかけますか」と声をかけ、食器にもきちんとこだわっている。利用者さんを大切にしていることが伝わってきました。自宅では一人で食事をしたり、お弁当で済ませたりする方もいます。だからこそ、デイサービスで仲間と一緒に温かいご飯を食べる時間は、とても大切なんだと思いました。
気づけば、23年間も同じ会社で働いていました。長く続けられた一番の理由は、社長や奥さんをはじめ、スタッフの人柄が良かったこと。そして、利用者さんと話したり、一緒にレクリエーションを楽しんだりすることが、自分の性に合っていたからだと思います。
介護というと、食事や入浴を介助したり、着替えを手伝ったりする仕事をイメージする方が多いかもしれません。もちろん、それも大切な仕事です。でも、私が大事にしてきたのは、利用者さんが本来持っている力を引き出すことでした。私たちが全部やってしまうのは簡単です。でも、その人がどうすれば自分でできるのか、どんな声かけをすればやってみようと思えるのかを考えて実践する。ただお世話をする側とされる側ではなく、人と人として関わることが、私にとっての楽しさであり、やりがいでした。
介護と演劇は、一見すると別の世界のようですが、私の中ではすべてつながっています。認知症のある利用者さんの中には、何度も同じ話をする方や、家族のことが分からなくなってしまう方もいます。同じ話でも、初めて聞く話のように「そうなんだ、すごいね」と耳を傾ける。相手の気持ちに合わせて会話を続けることは、演技にも通じるところがあると思います。
戦争や伊勢湾台風を題材にした舞台では、利用者さんから当時の体験を直接聞くことができました。高齢者の方々が歩んできた人生や、そこで得た言葉は、役者としても貴重な財産になっています。
現在は介護の仕事をいったん離れていますが、これからも何らかの形で介護に携わっていきたいと思っています。これまでは管理者として働きながら、仕事が終わってから舞台の稽古に行き、帰宅は深夜、翌朝には出勤という生活でした。介護の魅力をもっと伝えたいと思っても、時間をつくるのは簡単ではありませんでした。これからは、介護をテーマにしたライブや座談会、勉強会などを通して、利用者さんやご家族、現場で働くスタッフに向けて発信していきたいです。
実は以前、介護の資格を取ったものの、自分にできるか不安だという方からLINEで相談を受けたことがあります。そのときは「まずは行ってみるといいですよ」と伝えました。施設に見学を申し込んだり、ボランティアを体験したりして職場の雰囲気を知ってから決める方法もありますから。実際にその方から、就職が決まりましたという連絡をいただいたときは、うれしかったですね。
介護の仕事に興味があっても、一歩を踏み出せずにいる方は多いと思います。でも、やってみたら、思っていた以上に楽しいかもしれません。私自身もそうでした。
介護は、誰かの人生に深く関わる仕事です。難しさもありますが、その分、受け取るものもたくさんあります。まずは「えいっ!」と、最初の一歩を踏み出してみてください。そこから自分の知らなかった楽しさが見えてくるかもしれませんよ。




