取材:2023年8月8日
介護職を選んだことに、実はこれといった明確な理由がないんです。身近に介護を必要としている人がいたわけではありませんし、なんとなく大変な仕事なのかなというイメージがあった程度でした。それでもこの道に進んだのは、ニーズがあって今後必要な仕事であること、基本的な知識・技術を学ぶ介護職員初任者研修に受講料があまりかからないこと、いわゆる手に職がついて一生の仕事になり得ることがいいなと感じたからです。
実際に仕事を始めてみたら楽しかったんですね。知識や技術をだんだん習得して、自分のできることが日々増えていきますから。私にとって仕事ではあるけど、入居者さんにとっては生活。その中での何気ない会話やふれあいが、仕事という領域を超えて楽しく感じました。技術面では、たとえば体格の良い方を移乗する時にどうすれば相手にも自分にもより負担が少なくうまくできるかなど、先輩の様子を見て質問もしながらより良い介助の方法を考えていました。目標となる先輩を見つけると、向上心も高まりましたね。
10年ほど介護職に携わり、改めて様々な人生に立ち会える良い仕事だと感じます。それぞれの人生経験を聞き、生涯の締めくくりとなる時間を一緒に過ごせるのは介護職ならではだと思います。また、入居者さんが施設から病院に一時入院される場合もあるのですが、回復して退院の前に訪問すると、私の顔を覚えていてくれて「早く帰りたいよ」とおっしゃったことがあるんです。ひだまりの郷が「帰りたい場所」「安心できる居場所」なんだって実感してうれしくなりました。
昨年は「あいち介護技術コンテスト2022」に出場しました。そのきっかけは、上司に「介護職としても指導者としても経験を積んできたので、ここでコンテストに挑戦してみては」と背中を押されたことです。自信はなく参加に前向きではなかったのですが、考えてみれば自分がしていることを客観的に評価される場はなかったので、その確認も含めてチャレンジしてみることにしました。普段通りにすればいいって思ったんです。
当日は、観客もいるステージの上で介護実技をするという状況がこれまでになかったので、かなり緊張しました。実技する上での設定と課題を知らされ、頭の中でシミュレーションをして本番へ。ところが、ステージにいらっしゃる要介護者のモデルの方が設定条件と異なるような気がしてちょっと驚き、さらに介助すると自ら動いて手助けしてくれたり微笑んでくれたりしたので、途中から気持ちが和みリラックスできました。動作する前には声をかけようとか、相手の体調をしっかり確認しよう、笑顔で話しかけようと心の中で確認しながら落ち着いて向き合うことができました。といっても振り返ると、自分の名前を名乗り忘れるなど、できていないところがありましたね。ステージ上という特別な場面でも、日頃の言動が反映されるので、やはり“普段通り楽しく仕事をする”ことが大切だと思いました。実技をする前には、普段仕事で接している方の中でモデルの設定条件に近い方を思い浮かべ、その方を介助しているイメージを持つとやりやすかったです。
今後は、心理学を学んでみたいと思っています。自分の気持ちをコントロールしたり、他の職員が楽しく仕事をできるようメンタルケアに気を配りストレスを軽減したりするほか、入居者さんや利用者さんに心を開いてもらうために、心と行動について深く知り理解することが重要だと思うからです。仕事でも暮らしでもコミュニケーションは欠かせませんが、言葉の受け止め方は人によって違うと思うんです。どうすれば真意が伝わるのか、どんな声のトーンや大きさで声をかけると適切なのかなどを知りたいですし、自分も相手も気持ちが安定し、より良い人間関係を築くための知識を身につけたいです。
学生の方など今あまり介護についてご存じない方に、この仕事をどう伝えればいいのか正直迷いますが、介護を“やってあげる”ものとは捉えないでほしいです。お一人では難しい動作を手伝うのが介護。立場を勘違いしたり押し付けたりすることなく、あくまでもサポートする姿勢が大切だと思います。