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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」機械学習を活用して性能向上とコストダウンを両立した金属加工油を開発しました

ページID:0070213 掲載日:2025年2月13日更新 印刷ページ表示

 愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1IV期」を2022年度から実施しています。

 この度、「プロジェクトDX※2」の「MI※3をローカルに活用した生産プロセスのデジタル革新」※4において、名古屋大学の足立吉隆(あだちよしたか)教授と、中京化成工業株式会社(刈谷市)、あいち産業科学技術総合センター等の研究グループは、機械学習を活用して、高い潤滑性能と低コストを両立した冷間鍛造(たんぞう)※5用金属加工油を開発しました。

 金属加工油の開発は、ベースオイルと添加剤の組み合わせが膨大であり、その中から高性能と低コストを両立する最適解を見出すためには、長年の経験を積んだ熟練者による試行錯誤に頼るしかないという課題がありました。本開発では実験データに基づく機械学習を活用することで、開発者の経験値に頼らず、少ない試作で従来よりも高性能かつ低コストを実現する最適な組み合わせを見出せるようになりました。これにより従来よりも高性能かつ低コストな種々の加工油を供給することで、県内ものづくり産業の高度化・競争力強化が期待できます。

 今後、中京化成工業株式会社では、本開発手法に基づく加工油を製品化する予定です。製品化に向けて、今回開発した冷間鍛造用金属加工油のテストユーザーを募集し、実機トライアルを経て、2028年頃の本格販売を目指します。

1 開発の背景

 金属加工油は、鍛造や切削(せっさく)といった金属加工の工程に欠かせない素材です。主に、加工精度向上・耐摩耗・冷却・防錆(ぼうせい)など多岐にわたる機能を果たすために、さまざまな機能性添加剤を配合した高機能油が使用されています。この金属加工油は、自動車部品、電機部品、ホビー部品など、一般消費者の手に届く様々な製品の加工に幅広く利用されています。しかし、金属加工油の開発には、ベースオイルと添加剤の組み合わせや配合比の候補が非常に多く、その中から目的に応じた機能とコストを両立する最適解を見出すには、熟練者による試行錯誤に頼るため、コストや時間の面で非効率な開発となることが課題となっています。

 そこで本研究では、この課題を解決するため、実験データに基づいて機械学習を活用する新しい開発プロセスの確立を目指しました。これにより、従来の開発者への負担を軽減し、少ない試作で最適な組み合わせを見出すことが可能となります。

2 開発の概要

 今回開発した機械学習を活用した方法では、一定量の実験データ(配合と性能)を用い、機械学習アルゴリズム※6を利用する事で、配合と性能を関係づける回帰モデル※7をPC上に構築します。この構築した回帰モデルを利用して、考え得る配合に対する性能値を予測計算し、予測値が最大となる配合を試作・評価します。このプロセスの繰り返しにより開発を行います。

 本プロジェクトでは、この手法を活用して見出した配合により、潤滑性能を従来比約30%向上させることができました(図A参照)。これにより、加工負荷の軽減につながり、工具の摩耗軽減にも寄与します。さらに、見出した配合では、原材料コストを従来比35%削減することにも成功しました。結果として、これまで熟練者の経験値に依存していた配合の設計を、実験データに基づいた合理的な方法で進め、低コストで高性能な加工油の開発を実現しました。また、主成分分析を利用することにより、社内油剤統合化における指針を示すことができました(51油剤を7グループにまとめることができた。図B参照)。

図A

               ​図A:極圧試験結果の比較             図B:主成分分析による油剤のグループ分け
​     (提供:中京化成工業株式会社)                     (提供:中京化成工業株式会社)

3 期待される成果と今後の展開

 今回確立した開発プロセスにより、これまで培ってきた知見(実験データ)を基に、客観的かつ効率的な冷間鍛造油の開発が可能となります。このプロセスは、従来の経験則や個々の知識に依存した手法と比較して、膨大な実験データに基づくアプローチであるため、より高精度な成果を生み出すことが期待されます。これにより、開発期間の短縮やコスト削減が実現でき、製品の品質向上にも貢献することができます。

 さらに、本プロセスを応用して、社内実験データと顧客実使用データとの相関を取ることができれば、製品の実際の使用状況に即した開発が可能となります。これにより、顧客の意図やニーズをより正確に反映させた製品を開発でき、顧客が直面する問題を解決することができます。結果として、開発者と顧客の双方にとって非常に大きなメリットをもたらし、双方の信頼関係を強化することができます。

 また、本プロセスには属人性を低減させ、個々の技術者の経験や判断に依存することなく、高いレベルで標準化された効率的な開発が可能になるというメリットもあります。これにより、社内の技術人材の活用効率が向上し、リソースの最適化を図ることができます。結果として、企業全体の生産性が向上し、より多くのリソースを顧客へのサービス向上や新製品の開発に投入でき、最終的に顧客満足度の向上につながります。

 今後、中京化成工業株式会社では、今回開発した冷間鍛造用金属加工油の製品化に向けて、テストユーザーを募集し、実機トライアルを進める予定です。関心のある方々からの御相談やお問い合わせについては、中京化成工業株式会社が対応します。

 

4 社会・県内産業・県民への貢献

社会への貢献

高性能な加工油によって金属加工部材の高品質化につながり、工業製品の付加価値向上に寄与

県内産業への貢献

従来よりも高性能かつ低コストな種々の加工油を供給することで、県内ものづくり産業の高度化・競争力強化に寄与

県民への貢献

開発された加工油により製造された高品質部品を用いた製品を利用できる

 

5 問合せ先

【重点研究プロジェクト全体に関すること】

あいち産業科学技術総合センター 企画連携部企画室

担当:日渡、佐藤、村上

所在地:豊田市八草町(やくさちょう)秋合(あきあい)1267番1

電話:0561-76-8306

 

公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部

担当:佐野、安藤、金田

所在地:豊田市八草町秋合1267番1

メール:juten-dx@astf.or.jp

電話:0561-76-8370 (*原則、メールにてお問合せ下さい)

 

【開発内容・テストユーザー募集に関すること】

中京化成工業株式会社

担当:総務部 髙木 健行(たかぎ たけゆき)

所在地:愛知県刈谷市今岡町西吹戸10番地1

メール:kikaku@c-k-k.co.jp

電話:0566-36-3692

【用語説明】

※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト

 付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトIII期」を実施し、2022年8月から「重点研究プロジェクトIV期」を実施しています。

 

「重点研究プロジェクトIV期」の概要

実施期間

2022年度から2024年度まで

参画機関

16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社)

(2024年12月時点)

プロジェクト名

・プロジェクトCore Industry

プロジェクトDX

・プロジェクトSDGs

 ※2 プロジェクトDX

概要

第4次産業革命をもたらすデジタル・トランスフォーメーション(DX)の加速に資する技術開発に取り組みます。

研究テーマ

【分野】デジタルテクノロジー・ICT

D1 モノづくり現場の試作レス化 /DXを加速するトライボCAE開発

D2 DXと小型工作機械が織り成す機械加工工場の省エネ改革

D3 MIをローカルに活用した生産プロセスのデジタル革新

D4 IT・AI技術を結集したスマートホスピタルの実現

【分野】ロボティクス

D5 繊維産業に於けるAI自動検査システムの構築に関する研究開発

D6 〈弱いロボット〉概念に基づく学習環境のデザインと社会実装

D7 愛知農業を維持継続するための農作業軽労化汎用機械の開発と普及

【分野】自動車・航空宇宙等機械システム(ソフト)

D8 自動運転技術のスマートシティへの応用

D9 自動運転サービスを実現する安全性確保技術の開発と実証

参画機関

7大学 4研究開発機関等 30社(うち中小企業19社)(2024年12月時点)

 

※3 MI

 Materials(マテリアルズ) Informatics(インフォマティクス)の略。機械学習、統計分析などデータサイエンスの手法によって材料開発をおこなう取組みあるいは技術。

 

※4 MIをローカルに活用した生産プロセスのデジタル革新

研究リーダー

名古屋大学大学院工学研究科 教授 足立 吉隆 氏

事業化

リーダー

株式会社アヤボ 塚本 恵三(つかもと けいぞう) 氏

中京化成工業株式会社 髙木 健行 氏

株式会社ジェイテクトグラインディングツール 今池 浩史(いまいけ ひろし) 氏

株式会社オフィスメーション 安江 慎司(やすえ しんじ) 氏

内容

 

愛知県内の中小・中堅企業は、素材と最終製品をつなぐ生産プロセスを担い、個別の生産現場に蓄積したノウハウが技術力の源泉である。これらの企業は、独自の技術ノウハウを秘匿しつつ、MIやIoTを活用した生産プロセスのDX化を望んでいる。しかしながら、MIをどうプログラミングして活用するか、という課題を1社単独で個別に解決するのは難しい。また、IoTは、生産管理や保全で普及しつつあるが、IoT情報をMIに活用すれば、MI・IoTそれぞれの導入効果が相乗的に高まる。本研究では、名古屋大学発の汎用的かつ高機能なMIソフト「shinyMIPHA」を用いて、生産プロセスへのMI活用の課題を参画機関が協働で解決し、MI活用効果を数値で示す。また、解決したMI・IoT活用術を体系化・公開し、県内ものづくり産業に貢献する。

参加機関

〔企業〕

株式会社アヤボ、中京化成工業株式会社、株式会社ジェイテクトグラインディングツール、株式会社オフィスメーション

〔大学〕

名古屋大学

〔公的研究機関〕

公益財団法人科学技術交流財団、あいちシンクロトロン光センター、あいち産業科学技術総合センター

※5 鍛造

  金型内で金属に圧力を加え、金型形状に沿って変形させて所定の形状にする加工方法です。熱間鍛造、温間鍛造、冷間鍛造の3つがあり、冷間鍛造は、金属に熱を加えないで、常温で鍛造します。

 

※6 機械学習アルゴリズム

  大量のデータを学習して複雑なパターン認識や予測を行う機械学習の手法のことです。画像認識や自然言語処理にも適用できます。

 

※7 回帰モデル

  入力変数と出力変数の複雑な非線形関係を機械学習によりモデル化したものであり、未知のデータに対する予測を行うことができます。

 

 

 

このページに関する問合せ先

​あいち産業科学技術総合センター企画連携部
企画室(担当:日渡、佐藤、村上)
豊田市八草町秋合1267-1
電話:0561-76-8306​