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高吸水性で生乾き臭などの原因菌を抑える三河木綿ガーゼを開発しました~水も臭いもスマートに対応する“三河の知恵が生んだ機能布”~
あいち産業科学技術総合センター(本部、豊田市。以下「センター」という。)は、三河織物工業協同組合、企業と共同で「高吸水性で生乾き臭などの原因菌を抑える」三河木綿※1ガーゼを開発しました。
開発に当たっては、三河織物工業協同組合、株式会社イチオリ(蒲郡市)、水野金属商事株式会社(豊田市)と連携し、愛知県の伝統織物「三河木綿」に最先端のセルロースナノファイバー(CNF)※2技術を融合し、使う人にも環境にもやさしい“三河の知恵が生んだ機能布”として、試作、製品化に取り組みました。
本開発品は、木綿ガーゼの高い吸水性を維持するため、木綿と同じセルロース素材であるCNFを使用して抗菌剤を固定しています。これにより、高い吸水性を維持しつつ、生乾き臭などの原因菌を抑えることに成功しました。
本開発技術を紹介するため、10月25日(土曜日)及び10月26日(日曜日)に、みなとオアシスがまごおり(蒲郡市)で開催される「くらふとフェア蒲郡2025」の第20回記念品として、開発したガーゼハンカチ500枚を配布します。
1 開発の背景、概要
(1)センターの取組
三河繊維技術センター(蒲郡市)、尾張繊維技術センター(一宮市)は、繊維の総合産地である三河・尾張地域において、生活関連素材や産業用素材の研究開発、製品評価を実施しています。また、産地としての基盤を生かした、企業の新分野への進出を支援しています。
また、産業技術センター(刈谷市)では、自動車部品、建材、繊維、研磨材、金属加工、環境浄化、生活衛生品及び食品など、環境に対応した製品の開発が求められる多くの製造業に対して、CNFを利用した技術支援を行っています。
(2)関連事業
センターは、令和6年度公益財団法人科学技術交流財団の事業である「産学協創チャレンジ研究開発事業(大学シーズ型)※3」研究開発(テーマ名「三河木綿のナノファイバー加工と高機能化技術の開発」)を行っており、本件はこの事業成果の一部です。
2 開発の詳細
(1)三河木綿ガーゼについて
木綿ガーゼの製法には、多層を同時に織り上げる「多重織り(たじゅうおり)」の技術が利用されています。多重織りガーゼは生地の層間に空気層ができるため、保温性、吸水性及び肌触りに優れた特性があります。三河地域ではベビー用品、寝具、衣類、タオル、ハンカチ類など幅広い用途の三河木綿多重織りガーゼ製品が製造、販売されています。
なお、三河木綿は地域団体商標(商標登録第5023103号)に登録されており、規定の基準を満たした製品にのみ商標マークの使用が許可されています。これにより、製品の信頼性を維持しています。
(2)三河木綿ガーゼの高機能化について
ア 高機能化処理の取組について
センターは、最先端のCNFを用いた繊維処理剤に関する保有技術(特許第5232976号、特開2023-13406)を利用し、水野金属商事株式会社と連携して、木綿の高い吸水性を損ねない抗菌剤の開発に取り組みました。
さらに、三河織物工業協同組合及び株式会社イチオリの協力により、愛知県の伝統織物である三河木綿多重織りガーゼの抗菌処理に取り組み、高い吸水性と臭いの原因菌に対する高い抗菌活性値を有するガーゼ製品を試作し、使う人にも環境にもやさしい“三河の知恵が生んだ機能布”の製品化に取り組みました。
イ 高吸水性について
木綿は植物の繊維構造を利用するため、合成繊維の様に繊維ポリマー内に抗菌剤を練り込む抗菌加工方法が使えません。そのため、繊維表面に固定できる液状の樹脂製バインダーに抗菌剤を分散させ、木綿の表面にコーティングする方法を用います。しかし、この方法は繊維表面を覆うため、繊維の吸水性能を損ねることがあります。そのため、開発品では吸水性の高いCNFを樹脂製バインダーの代わりに用いました。
三河木綿多重織りガーゼの吸水性試験※4の結果を表1に示します。植物素材のセルロースを用いた開発品のガーゼは、市販樹脂製バインダーで加工したガーゼに比べて吸水性能が高く、未加工のガーゼとほぼ同等な吸水性能を示しました。開発品のガーゼは、石油化学系素材ではなく天然の植物素材を用いており、環境負荷低減の効果も期待できます。
ウ 臭いの原因菌への抗菌効果について
開発した抗菌剤の抗菌性試験※5結果を表2に示します。抗菌防臭加工の試験方法(SEKマーク繊維製品認証基準※6)では、50回洗濯後に黄色ブドウ球菌※7(Staphylococcus aureus)に対して、抗菌活性値※8 2.2以上を有する必要があり、この基準を満たしました。
また、一般に繊維製品の生乾き臭の原因として知られるモラクセラ菌※9(Moraxella osloensis)に対しても、高い抗菌活性値を有していました。
3 今後の予定
蒲郡市の協力で、10月25日(土曜日)及び10月26日(日曜日)にみなとオアシスがまごおりで開催される「くらふとフェア蒲郡2025」の第20回記念品として、開発したガーゼハンカチ(図)500枚を配布し、愛知県の特産品である三河木綿のPRとともに開発技術を紹介します。
図 開発したガーゼハンカチ(左)とPR用のしおり(右)
(しおりはガーゼハンカチ裏面に同封)
4 展示会の概要
くらふとフェア蒲郡2025
開催日時:2025年10月25日(土曜日) 午前10時から午後4時まで
2025年10月26日(日曜日) 午前9時から午後4時まで
場 所:みなとオアシスがまごおり及び竹島ふ頭一帯
蒲郡市港町
開催目的:「地域のモノづくり」を再生し、生活の中に「潤いと安らぎ」を提案するきっかけの場として、また、作り手と使い手と作品を通した交流の場として、展示会及びワークショップを開催する。
入場料:無料
主 催:くらふとフェア蒲郡実行委員会事務局(蒲郡市産業政策課内)
電 話:0533-66-1119
https://www.craft-gamagori.com/
5 問合せ先
(CNF及び抗菌処理に関すること)
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター環境材料室
担当:伊藤(雅)、北尾、森川
刈谷市恩田町一丁目157番地1 電話:0566-45-6901(直通)
https://www.aichi-inst.jp/sangyou/
(三河木綿に関すること)
あいち産業科学技術総合センター三河繊維技術センター製品開発室
担当:平石、佐藤
蒲郡市大塚町伊賀久保109 電話:0533-59-7146(代表)
https://www.aichi-inst.jp/mikawa/
(繊維の試験に関すること)
あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター素材開発室
担当:浅野、加藤(一)
一宮市大和町馬引字宮浦35 電話: 0586-45-7871(代表)
https://www.aichi-inst.jp/owari/
(CNFを用いた抗菌剤に関すること)
水野金属商事株式会社豊田支店
営業部 主任 佐藤 幸治(さとう こうじ)
豊田市駒場町田戸(たど)51-1 電話:0565-57-5311
https://www.mizunokinzoku.com/company/
(CNFを用いた抗菌処理の特許技術(特開2023-13406)に関すること)
日清紡(にっしんぼう)テキスタイル株式会社大阪支社
執行役員 蓮蔵和彦(れんぞう かずひこ)
大阪市中央区北久宝寺町(きたきゅうほうじまち)2丁目4番2号 電話:06-6267-5536
https://www.nisshinbo-textile.co.jp/index.html
(三河木綿多重織りガーゼに関すること)
株式会社イチオリ
代表取締役 市川裕茂(いちかわ ひろしげ)
蒲郡市鹿島町西郷90 電話:0533-68-2920
https://ichiori.com/about.html
【用語説明】
※1 三河木綿
愛知県三河地方産の綿織物。2007年2月に特許庁の地域団体商標に登録されている(商標登録番号:第5023103号、三河織物工業協同組合)。
三河地方では、他の地域に先駆けて綿業が発展したとされ、明治時代には「三河木綿」というブランド名で全国に知れ渡った質の良い綿製品。
※2 セルロースナノファイバー(CNF)
植物由来の次世代素材。主に光合成をする植物を原料にして、化学加工や機械加工により得られる100nm以下の太さのナノサイズの繊維状物質。環境負荷が少ないプラスチックの代替素材として、既に家電、建材、化粧品などに活用されている。
※3 産学協創チャレンジ研究開発事業(大学シーズ型)
公益財団法人科学技術交流財団が行う事業であり、地域の大学等の研究者が、地域の中堅・中小企業の課題解決を図るため、自らの研究シーズをより実用化に近づける研究テーマに対して研究委託をして支援している。
※4 吸水性試験
JIS L 1907「繊維製品の吸水性試験方法」7.1.3 沈降法により実施している。この方法では、1cm角に切った生地を水に浮かべ、60秒以内に生地が沈み始める時間を調べる。沈み始める時間が短いほど吸水性能が高くなる。
※5 抗菌性試験
JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」8.1 菌液吸収法により実施している。この方法は、一般社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)の「抗菌防臭加工繊維製品」並びに「制菌加工繊維製品」におけるSEKマーク認証基準の試験方法になっている。試料に菌液を染み込ませ、一定時間後の菌数の変化を調べる。
※6 SEKマーク繊維製品認証基準
一般社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)が定めた自主基準を満たしていることを示す認証制度の基準。この基準では、抗菌防臭、制菌などの機能性加工を施した繊維製品について、評価方法や安全性試験(毒性試験、皮膚刺激試験など)の基準が定められている。基準を満たした製品にはSEKマークが付与され、消費者はその製品が一定の機能と安全性を保証されていることを確認できる。
※7 黄色ブドウ球菌
繊維製品の抗菌防臭効果を評価するための代表的な試験菌種。黄色ブドウ球菌自体は無臭だが、増殖する際に「ミドル脂臭」(使い古した油のような臭い)などの悪臭成分を発生させることがある。
※8 抗菌活性値
抗菌加工された製品が、菌の増殖をどの程度抑制できるかを示す指標。抗菌活性値の数値が大きいほど、抗菌効果が高いことを示す。
※9 モラクセラ菌
洗濯物などの繊維製品が十分に乾かず、生乾きの状態で放置されることで発生する不快な臭い(生乾き臭)の主な原因として知られている。増殖して衣類に付着した水分や皮脂等を栄養にすることで雑巾臭のような臭い(主に「4-メチル-3-ヘキセン酸」)を発する。
このページに関する問合せ先
あいち産業科学技術総合センター産業技術センター
環境材料室(担当:伊藤(雅)、北尾、森川)
刈谷市恩田町一丁目157番地1
ダイヤルイン:0566-45-6901
あいち産業科学技術総合センター三河繊維技術センター
製品開発室(担当:平石、佐藤)
蒲郡市大塚町伊賀久保109
代表:0533-59-7146
あいち産業科学技術総合センター尾張繊維技術センター
素材開発室(担当:浅野、加藤(一))
一宮市大和町馬引字宮浦35
代表:0586-45-7871