本文
「知の拠点あいち重点研究プロジェクトV期」 全固体電池材料の開発を加速する 人協働型メカノケミカル自動実験システムを開発 ~粉体秤量から遊星ボールミル処理、試料保管までを一貫自動化~
愛知県では、本県産業が抱える主要な技術的課題の解決を目指して、産学行政が連携して取り組む研究開発を支援する「知の拠点あいち重点研究プロジェクト(※1)V期」を2025年度から実施しています。
全固体電池(※2)の実用化に向けては、高性能な固体電解質や電極材料の開発が重要です。しかし、材料の性能は、組成だけでなく、粉砕・混合条件や処理時間など多くの条件に左右されるため、その探索には多数の実験が必要です。そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)の山口 祐貴(やまぐち ゆうき)上級主任研究員を研究リーダーとする株式会社デンソーウェーブ、愛知工業大学、あいち産業科学技術総合センター等の研究グループは、全固体電池材料の開発を加速するため、人協働ロボット(※3)と新たに開発した実験モジュールを組み合わせ、遊星ボールミル(※4)を用いて、粉砕・混合により化学反応を促進するメカノケミカル合成実験(※5)を自動で繰り返し行うシステムを開発しました。
この成果は、「知の拠点あいち重点研究プロジェクトV期」における研究分野「カーボンニュートラル」の研究テーマ「人協働型セラミックス自動実験システム構築と電池材料探索プロトコル開発」によるものです。2026年11月11日(水曜日)~13日(金曜日)にポートメッセなごやで開催される「メッセナゴヤ2026」では、公益財団法人科学技術交流財団ブース内でポスター及びビデオにより紹介します。また、2026年11月25日(水曜日)にあいち産業科学技術総合センターで開催される知の拠点あいち重点研究プロジェクトV期「公開セミナー」では、口頭発表及びポスター発表を行います。
今後は、合成した試料の導電率や構造を評価し、その結果をAIによる解析と連携させるとともに、将来的には、解析結果に基づいて次の実験計画を提案する自律型材料開発システム(※6)へ展開します。
1 開発の背景
全固体電池は、安全性やエネルギー密度の向上が期待される次世代蓄電池です。一方、その性能は固体電解質や電極材料の組成だけでなく、粉砕・混合条件、処理時間、粉砕メディアなど多くの実験条件に左右されます。このため、有望な材料とプロセスを見いだすには、多数の条件を系統的に検討する必要があります。
メカノケミカル法は、粉体に機械的エネルギーを与えて反応や構造変化を促進する手法であり、加熱だけに依存しない材料合成プロセスとして注目されています。しかし、少量粉体の秤量、ビーズの投入、容器の開閉や搬送など、人手に依存する操作が多くあります。特に、大気中の水分や酸素などに敏感な電池材料では、グローブボックス(※7)内での作業負担が課題でした。
材料開発を高速化するには、前処理から合成までを自動化して再現性の高い実験データを蓄積するとともに、材料評価とAI解析を連結し、次の実験へ速やかに反映できる研究開発基盤が求められています。
2 研究の経緯
産総研はこれまで、ロボット実験とAIを組み合わせ、セラミックス材料の合成・製造条件を短時間で探索する技術を開発してきました。2023年には、粉体秤量の自動化装置と人協働ロボットを活用し、100 ℃以下で進行する化学焼結プロセスの条件探索を高速化しました。
今回の研究では、この自動実験技術を、より複雑な粉体操作を必要とするメカノケミカル合成と全固体電池材料の探索へ発展させました。産総研のセラミックス・電池材料技術、デンソーウェーブの人協働ロボット技術、愛知工業大学のロボット周辺モジュール開発技術、あいち産業科学技術総合センターの材料評価・産業支援基盤を組み合わせ、自動実験システムと探索プロトコルの構築を進めています。
なお、当研究グループの主要メンバーは、愛知県が2024年12月に設立した「あいち次世代バッテリー推進コンソーシアム(※8)」における「高速材料探索ワーキンググループ」として組織され、産総研を中心に取組を進めてきました。
3 研究の内容
(1)グローブボックス内における粉体実験の一貫自動化
開発したシステム(図1)では、人協働ロボットが試薬・ビーズ保管容器と遊星ボールミル用ポットを取り扱います。ポットの蓋開閉、保管容器の搬送と蓋開閉、粉体とビーズの秤量、ポットの搬送、遊星ボールミルへのセット、ボールミル処理、処理後のストックプレートへの搬送までを順次、自動で実行します。これにより、これまで作業者が工程ごとに介在していたメカノケミカル実験を、一度の指令で連続して行えるようになりました。また開発システムはグローブボックス内へ設置可能で、作業がしにくいグローブボックス内での実験を自動で行えます。

図1 自動実験システム全体
(2)専用モジュールによるロボット作業の高度化
粉体実験には、微量粉体の取り扱い、ビーズの投入、複数種類の容器や蓋の操作など、一般的な協働ロボットのハンドだけでは安定して行いにくい作業があります。そこで、愛知工業大学が各操作を補助する専用モジュール(図2)を開発しました。モジュールと人協働ロボットを組み合わせることで、実験条件の変更に対応できる柔軟性と、連続実験に必要な安定性を両立しました。

図2 メカノケミカル実験用の専用モジュール
(3)2試料ずつ5回連続し、最大10試料を自動処理
本システムは、遊星ボールミル1回の処理で2試料を取り扱い、これを5回連続で実行することで、一度の指令で最大10試料を自動処理します(図3)。試薬量、ビーズのサイズと量、回転数、保持時間、処理ステップ数などを各実験で変更できます。この柔軟性により、材料組成だけでなく、メカノケミカル処理条件を含む多様な組み合わせを系統的に探索できます。

図3 最大10試料を処理する連続実験フロー
(4)全固体電池材料開発を加速する実験基盤
グローブボックス内で一連の操作を完結できるため、大気中の水分や酸素の影響を受けやすい全固体電池材料についても、雰囲気を維持したまま合成実験を行えます。作業者の負担を抑えながら多数の条件を連続して検討できるため、全固体電池材料の候補探索と合成プロセスの最適化を加速する実験基盤として活用できます。
4 「メッセナゴヤ2026」でのポスター及びビデオによる紹介
(1)実施期間
2026年11月11日(水曜日)~13日(金曜日)
(2)実施場所
メッセナゴヤ2026会場内の公益財団法人科学技術交流財団ブース
(ポートメッセなごや第1展示館:名古屋市港区金城ふ頭3-2-1)
5 「公開セミナー」での口頭発表及びポスター発表
(1)実施日
2026年11月25日(水曜日)13時00分~17時20分の内、口頭発表20分、ポスター発表50分
(2)実施場所
あいち産業科学技術総合センター 1階 講習会室(豊田市八草町秋合1267-1)
6 期待される成果と今後の展開
今後は、本システムで合成した試料の導電率および構造を評価し、得られたデータをAI解析と連結します。さらに、AI解析結果を反映した次の実験計画を自動的に提案する機能を開発し、実験、評価、解析、条件提案を自律的に繰り返す材料開発プラットフォームへ展開します(図4)。これにより、全固体電池材料の探索とプロセス最適化のさらなる高速化を目指します。また、対象材料や実験工程を拡張し、セラミックス材料開発に広く適用できる人協働型の自動実験基盤へ発展させます。将来的には、地域の強みであるセラミックス技術を生かし、次世代電池材料の開発加速と産業競争力の強化に貢献します。

図4 自律型材料開発システムへの展開
7 県内産業への貢献
本研究では、将来的に、実験者1名による材料探索実験について、従来の手作業と比較して100倍程度の効率化を目指します。なお、成果物である自動合成・評価・解析の各プロトコルを統合した一連のシステムは「知の拠点あいち」内に設置して、広く活用していただけるようにする計画です。
県内企業等が本システムを導入・活用することで、次世代電池のキーマテリアルの迅速な探索が可能となり、開発から実用化フェーズへの移行期間の短縮が期待されます。また、人的資源の制約がある県下中小企業においても、研究のDX化および新規事業への参入が促進されます。加えて開発する自動実験システムおよび材料探索プロトコルは、ペロブスカイト太陽電池、磁石、触媒材料等、多様な分野におけるハイスループット研究への展開が期待されます。
8 問合せ先
【重点研究プロジェクト全体に関すること】
・愛知県経済産業局産業部 産業科学技術課 科学技術グループ
(1)担当:水野、吉富、佐藤
(2)所在地:名古屋市中区三の丸三丁目1番2号
(3)電話:052-954-6351
(4)FAX:052−954−6977
・公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
(1)担当:山口、田草川、金田
(2)所在地:豊田市八草町秋合1267番1
(3)電話:0561-76-8380
(4)FAX:0561−21−1653
【本開発内容に関する問合せ先】
・国立研究開発法人産業技術総合研究所 マルチマテリアル研究部門 カーボンニュートラル材料研究グループ
(1)担当:上級主任研究員 山口 祐貴
(2)所在地:名古屋市守山区桜坂4-205
(3)電話:050-3522-7888
用語説明
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト
付加価値の高いモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011 年度から 2015 年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016 年度から 2018 年度まで「重点研究プロジェクトII期」、2019 年度から 2021 年度まで「重点研究プロジェクトIII期」、2022 年度から 2024 年度まで「重点研究プロジェクトIV期」を実施し、2025 年度から「重点研究プロジェクトV期」を実施している。
(「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」Web サイト)
https://www.astf-kha.jp/project/
「重点研究プロジェクトV期」の概要
|
目的 |
愛知県の主要産業が抱える技術的課題の解決を目指し、産学行政が連携して研究開発を推進。生成AIやビッグデータ等のデジタル技術を活用し、革新的イノベーションの創出と脱炭素社会の実現に貢献。 |
|---|---|
|
研究枠 |
(1)実用枠 (2)挑戦枠 (3)国際枠 |
|
研究分野 |
・マニュファクチャリング(次世代モビリティ、ロボット等) |
|
研究テーマ数及び参画機関数 |
・研究テーマ数:計18件 |
| 分野・テーマ |
〔カーボンニュートラル分野〕5テーマ ・「人協働型セラミックス自動実験システム構築と電池材料探索プロトコル開発」 ・「革新的ブルー燃料・ブルーコークス併産複合プロセスの開発」 ・「直流マイクログリッド普及のための変換器の小型化と遮断装置の開発」 ・「山間地域での水素エネルギー普及に向けた低純度水素対応PEFC開発」 ・「MOF炭素化技術によるPtフリー燃料電池触媒製造」 |
※2 全固体電池
電解質に液体ではなく固体材料を用いる電池。安全性や高エネルギー密度化などが期待されています。
※3 人協働ロボット
安全機能を備え、人と同じ空間で作業できるよう設計されたロボット。本研究では、粉体や実験容器の取り扱い、装置間の搬送などに用います。
※4 遊星ボールミル
容器を公転させながら自転させ、容器内の粉体とビーズに大きな機械的エネルギーを与える粉砕・混合装置。
※5 メカノケミカル合成実験
粉砕や混合によって物質に機械的エネルギーを与え、化学反応や結晶構造の変化を促進する材料合成・処理手法。
※6 自律型材料開発システム
自動実験、材料評価、データ解析、次の実験条件の提案を連結し、これらの工程を繰り返すことで材料探索を効率化する研究開発システム。
※7 グローブボックス
外気と隔離した容器内を不活性ガスなどで満たし、空気中の水分や酸素などに敏感な材料を取り扱うための設備。
※8 あいち次世代バッテリー推進コンソーシアム
産学行政が連携して、バッテリーに係る「研究・実証」「人材育成」「研究・実証・製造拠点等の集積」を進めることにより、電池イノベーションの創出を図ることを目的に、2024年12月に設立。
会長:愛知県知事 会員数:215企業・機関(2026年10月末時点)
このページに関する問合せ先
あいち産業科学技術総合センター
企画連携部企画室
担当 棚橋、竹中、濱口
電話 0561-76-8306(ダイヤルイン)
愛知県経済産業局産業部
産業科学技術課科学技術グループ
担当 水野、吉富、佐藤
内線 3408、5466
電話 052-954-6351(ダイヤルイン)
公益財団法人科学技術交流財団
知の拠点重点研究プロジェクト統括部
担当 山口、田草川、金田
電話 0561-76-8380(ダイヤルイン)

