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「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」高効率・小型軽量『GaN DC-DC電源』を開発しました!~ドローンの軽量化、安全飛行に寄与します~
愛知県と公益財団法人科学技術交流財団では、産学行政連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期※1」を2019年度から実施しています。
本プロジェクトのうち、「近未来自動車技術開発プロジェクト※2」の「GaN(ガン)パワーデバイスの高性能化と高機能電源回路の開発※3」において、名古屋工業大学、株式会社サンビーオフィス、RITA(リタ)エレクトロニクス株式会社、株式会社ワールドテック、株式会社Sky Drive(スカイドライブ)、フタバ産業株式会社の研究グループが、GaNパワーデバイス※4及びコンデンサ結合を利用した高周波電力変換技術※5の導入による高機能電源の開発を行っています。
この度、高効率で、小型かつ軽量な高機能電源「GaN DC-DC電源」を開発し、ドローンへの搭載、及び飛行試験に成功しました。これにより、ドローン電源の高効率化、小型・軽量化が期待できます。
今後、さらに、本技術を自動車、航空機、一般産業用に広く使われる電源に応用することで、機器の小型・軽量化、高効率化を達成し、省エネ化へ貢献します。
小型軽量「GaN DC-DC電源」
1 GaN DC-DC電源について
開発した「GaN DC-DC電源」は、GaNパワーデバイスを搭載することで電力損失と発熱を大幅に低減した小型・軽量な電源です。本電源は高効率で低ノイズなことから、放熱器やノイズ対策部品が不要となり、高密度実装が可能です。
2 開発の経緯
大型ドローンやEVの普及が進む中、搭載する電源の小型・軽量化、高効率化への需要が高まっています。半導体材料であるGaN(窒化ガリウム)を用いたGaNパワーデバイスは、優れた高周波特性(MHzスイッチング)により、電力損失を大幅に削減できるため、電源の小型化等が期待されるデバイスです。しかし、現在主流の電力変換方式※6では、数百kHzまでの高周波化が限界であり、GaNの特性を最大限に引き出すことができません。また、大きく重いトランス※7などの部品を使うため、小型・軽量化にも限界があります。
また、ドローンに搭載する電源には、航続距離や積載重量に影響する小型・軽量化、高効率化が求められます。一方で、安全性確保のため、バッテリ、駆動機構、制御機構を2重系統にすること(冗長化※8)が規定されており、ドローンの制御電源は、バッテリとDC-DCコンバータ※9を2重系統搭載するため、電力損失や重量・体積の増加が課題でした。
そこで本研究グループは、コンデンサ結合を利用した電力変換方式を導入することで、GaNパワーデバイスの高周波化を図るとともに、トランス等の部品を削減することにより下表のとおり電源の効率向上とともに大幅な小型・軽量化を実現しました。また、名刺サイズの基板にDC-DCコンバータを2重系統内蔵し、冗長化を実現しました(下図)。
そして、本電源の電圧・電流などの基本特性に加えて、バッテリ電圧変動、温度・湿度、振動などの耐環境性、ノイズ特性などの信頼性を評価するとともに、本電源をドローンに搭載し飛行試験を行いました。その結果、本電源がドローン電源として利用可能であることを確認しました(写真)。
図 現行の電源構成(左) と 開発した「GaN DC-DC電源」(右)
【ドローン電源 比較表】
項目 | 現行品 | 開発品 | 比較(対現行品) |
入力電圧48V 出力電圧12V
|
|||
入力/出力電圧 |
― |
||
電力変換効率(%) |
85注 |
96 |
13%向上 |
重量(g) |
486注 |
160 |
67%削減 |
体積(cm3) |
251注 |
184 |
27%縮小 |
注)現行品はDC-DCコンバータ2個の数値を記載
ドローンに搭載されたGaN DC-DC電源 飛行試験の様子
3 期待される成果と今後の展開
「GaN DC-DC電源」は、ドローンに特化した電源として、冗長機能を内蔵しながら小型・軽量化、高効率化および低ノイズ化を達成し、従来の3分の1の重量で機能を発揮します。加えて、電源選定や冗長設計等の負担を軽減し、ドローンの高性能化・機体開発の効率化に貢献します。
また、「GaN DC-DC電源」と同時開発中の「GaN絶縁ユニット※10」を組み合わせることで、ドローンの大型化(高電圧化)や多様な機種展開に柔軟に対応できます。高電圧(最大384V)から低電圧(12V)へ電力変換が可能なため、動力用メインバッテリの他に必要な制御機器用バッテリの搭載が不要となる可能性があり、機体の大幅な軽量化とともにバッテリ充電作業の軽減が期待できます。
開発品の大型ドローン電源への適用例
さらに、開発した高周波電力変換技術を自動車、航空機、一般産業分野等に広く使われる電力変換器に適用することで、様々な機器の小型・軽量化、省エネ化が期待できます。
今後、株式会社サンビーオフィスが製品化し、2024年度中に販売を目指します。
4 社会・県内産業・県民への貢献
社会への貢献 |
・社会の省エネルギー化への貢献 |
県内産業への貢献 |
・電動化が進む世界において、付加価値の高い高効率な電力変換器の普及に貢献 |
県民への貢献 |
・小型で高効率な電力変換器の普及により日常生活上の省エネに貢献 |
5 問合せ先
【プロジェクト全体に関することの問合せ先】
・あいち産業科学技術総合センター 企画連携部
(1)担 当:門川、福田、加藤
(2)所在地:豊田市八草町秋合1267番1
(3)電話:0561-76-8306
(4)FAX:0561−76−8309
・公益財団法人科学技術交流財団 知の拠点重点研究プロジェクト統括部
(1)担 当:松村、青井、金田
(2)所在地:豊田市八草町秋合1267番1
(3)電話:0561-76-8360
(4)FAX:0561−21−1653
【本開発内容に関する問合せ先】
(技術関連)
・国立大学法人名古屋工業大学
(1)担 当:工学研究科 客員教授 城ノ口 秀樹(じょうのくち ひでき)
(2)所在地:名古屋市昭和区御器所町字木市29番
(3)電話:052-735-5436
(製品関連)
・株式会社サンビーオフィス
(1)担 当:代表取締役 寺尾 健志(てらお けんじ)
(2)所在地:愛知県名古屋市西区又穂町四丁目34番1号
(3)電話:052-522-0771
【用語説明】
※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期
高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に大学等の研究シーズを活用したオープンイノベーションにより、県内主要産業が有する課題を解決し、新技術の開発・実用化や新たなサービスの提供を目指す産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトI期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトII期」を実施し、2019年度からは「重点研究プロジェクトIII期」を実施。
「重点研究プロジェクトIII期」の概要
実施期間 |
2019年度から2021年度まで |
参画機関 |
19大学 12研究開発機関等 106社(うち中小企業67社) (2021年9月末時点) |
プロジェクト名 |
・近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV) ・先進的AI・IoT・ビッグデータ活用技術開発プロジェクト(プロジェクトI) ・革新的モノづくり技術開発プロジェクト(プロジェクトM) |
※2 近未来自動車技術開発プロジェクト(プロジェクトV)
概要 |
自動車の電動化、情報化、知能化及びMaaSといった100年に1度の大変革期に対応するため、高性能なインバータやモータ等の開発を進めるとともに、自動運転の実現と先進プローブデータを活用した交通安全に貢献する技術開発に取組むプロジェクト。 |
分野テーマ・研究テーマ |
(1)航空機電動化に向けた高電力密度インバータ設計手法の確立と実証 (2)高性能モータコア・変速ギア製造のための革新的生産技術開発 (3)GaNパワーデバイスの高性能化と高機能電源回路の開発 (4)小型ビークルのためのワイヤレス電力伝送システム (5)熱/電気バッテリーで構築するエネルギーマネジメント技術 (6)ヒトに優しい遠隔運転要素技術の開発とシステム化 (7)日本初の自動運転モビリティによるサービス実用化に向けた技術研究開発 (8)先進プローブデータ活用型交通安全管理システムの開発 |
参画機関 |
8大学4研究開発機関等37企業(うち中小企業20社) (2021年9月末時点) |
※3 GaNパワーデバイスの高性能化と高機能電源回路の開発
研究リーダー |
産業技術総合研究所 窒化物半導体先進デバイスOIL 清水三聡(しみず みつあき) |
事業化リーダー |
株式会社 サンビーオフィス 代表取締役 寺尾 健志(てらお けんじ) |
内容
|
高速・低損失スイッチング特性を持つ次世代化合物半導体(GaN)を活かした、小型・軽量・高機能な電力変換技術の確立を目標とする。 |
参加機関 |
〔企業〕 |
※4 GaNパワーデバイス
パワーデバイスとは、電力の変換や制御の用途に使われる半導体素子のことであり、素子の材料にGaN(窒化ガリウム)を用いたものがGaNパワーデバイスである。
GaNは、SiC(炭化ケイ素)と並び、現在主流のSi(シリコン)に代わる次世代半導体材料として注目され、実用化が進んでいる。優れた高周波特性(MHzスイッチング)により電力損失を大幅に低減する高効率性を最大の特長としている。システムの高効率化を実現できるほか、SiCよりも低コストなデバイスとして注目されている。
※5 コンデンサ結合を利用した高周波電力変換技術
コンデンサ(電気を蓄える部品)の充放電(電界が発生する)により電力を変換する方式。
本研究グループは、GaNパワーデバイスによる効率化、小型・軽量化への効果を引き出すため、「電界を使った電力変換」を検討し、「コンデンサ結合ハイブリッド回路」(特許技術)を開発した。
※6 現在主流の電力変換方式
コイルやトランスを用いた「磁界を使った電力変換」方式が主流となっている。この方式は、トランスの周波数限界(~数百kHz)により、電力変換器の小型、軽量、高効率化の限界に達している。また、コイルやトランスには金属材料が多く使われるので重量や体積増大の要因となっている。
※7 トランス(変圧器)
トランスとは一対の巻線(コイル)で構成される電子部品であり、電磁誘導により、1次側のコイルにためられた電気エネルギーを、2次側のコイルに伝達することができる。この効果を利用して、電圧や電流の変換や、絶縁するために広く利用されている。
※8 冗長化
システムの一部にトラブルが発生しても墜落しないようにバッテリ、駆動機構、制御機構を各々2重系統にすること。ドローンは航空機扱いとなるため、冗長化することが法律で定められている。
※9 DC-DCコンバータ
直流電圧変換機。本開発品では、バッテリ電圧を制御機器用の低電圧に変換している。
※10 GaN絶縁ユニット
回路機器の故障や導通により高電圧・大電流が発生し、機器の故障や取り扱う人に危険がある場合、回路内の2つのポイント間に電流が流れないように電気的な分離(絶縁)を行う。「GaN絶縁ユニット」により、電力の伝達を保ちつつ電気的に分離することができる。従来は、トランスを介して絶縁している方式が主流であるが、本開発では、コンデンサを介し絶縁を行っている。