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「取引適正化・価格転嫁促進シンポジウム」~「当たり前」をアップデート - 取引の意識改革 - ~を開催しました
1 概要
- 日時:2025年2月25日(火曜日)午後2時30分から午後5時10分まで
- 場所:STATION Ai 1階 イベントスペース(名古屋市昭和区鶴舞一丁目2番32号)
- 参加者数:259名(会場:110名、オンライン149名)
- 主催:「適正な取引・価格転嫁を促し地域経済の活性化に取り組む共同宣言」団体
愛知県、公正取引委員会事務総局中部事務所、経済産業省中部経済産業局、
財務省東海財務局、厚生労働省愛知労働局、農林水産省東海農政局、
国土交通省中部地方整備局、国土交通省中部運輸局、
愛知県商工会議所連合会、愛知県商工会連合会、愛知県中小企業団体中央会、
愛知県経営者協会、日本労働組合総連合会愛知県連合会、愛知県信用金庫協会
2 プログラム
(1)講演・パネルディスカッション
- 愛知県副知事 古本 伸一郎
「価格転嫁と休み方改革の関係性」 - 公正取引委員会事務総局中部事務所 総務管理官 加瀬川 晃啓 氏
「適切な価格転嫁の実現に向けた公正取引委員会の取組」 - トヨタ自動車株式会社 調達本部副本部長 加藤 貴己 氏
「自動車のサプライチェーンにおける適正取引」 - パネルディスカッション~「当たり前」をアップデート~
<パネリスト>
トヨタ自動車株式会社 調達本部副本部長 加藤 貴己 氏
株式会社鬼頭精器製作所 代表取締役 鬼頭 明孝 氏
ニッシンテクニス株式会社 代表取締役 丹羽 陽 氏
KUROFUNE株式会社 代表取締役 倉片 稜 氏
<モデレーター>
ワンドロップス株式会社 代表取締役 村重 亮 氏
(2)共同宣言 宣言式
次第
- 開式
- 挨拶(愛知県 大村知事)
- 各機関・団体代表による署名・発言
- 閉式挨拶(愛知県 大村知事)
- 写真撮影
宣言式の詳細は以下のページをご覧ください
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/kinyu/kakakutenka-sengen2025.html
主な内容
1.愛知県副知事 古本 伸一郎
「価格転嫁と休み方改革の関係性」
内容:
- 企業の成長には人材を財産と捉え、その価値を最大限引き出すことが重要であり、その方法の一つとして「休み方改革」がある。「休み方改革」は、働く人のワーク・ライフ・バランスを充実させ、生産性向上や従業員の定着率向上、人材獲得に繋がる。
- しかし、「休み方改革」を定着させるには、生産性向上や雇用により年休要員の確保をして、従業員が気兼ねなく休める環境づくりが必要であり、そのためには「価格転嫁」が重要とした。
- 「価格転嫁」とは、コストの上昇分を価格に反映させることであるが、特に労務費の価格転嫁は十分に進んでいない現状であるものの、賃上げではない年休要員を確保するための新しい「価格転嫁」を提唱した。従業員が休むことができるよう年休要員を確保するための価格転嫁によって、「休み方改革」を推進し、従業員のウェルビーイングな生活の実現を目指すと話した。
2.公正取引委員会事務総局中部事務所 総務管理官 加瀬川 晃啓 氏
「適切な価格転嫁の実現に向けた公正取引委員会の取組」
内容:
- 公正取引委員会は、適切な価格転嫁の実現のため、独占禁止法に基づき活動しており、特に、労務費の上昇分の価格転嫁が重要課題と認識している。
- 主な取り組みとして、
労務費転嫁交渉指針を策定し、発注者・受注者双方の望ましい行動を示し、また、価格転嫁の状況を把握するため、書面調査や立入調査を実施し、指針に沿った行動をしていない事業者への注意喚起などを行っている。 - また、労務費転嫁交渉指針のフォローアップ調査の結果を紹介し、この指針を知っていた者の方が労務費の価格転嫁ができている傾向にあることや、労務費の転嫁率は上昇傾向にあるものの、サプライチェーンの段階を遡るほど低くなっている。今後の取り組みとして、労務費転嫁交渉指針の認知度向上に向けた普及・啓発、調査の継続、法執行の強化など、適切な価格転嫁に向けたルール整備を進める方針。
3.トヨタ自動車株式会社 調達本部副本部長 加藤 貴己 氏
「自動車のサプライチェーンにおける適正取引」
内容:
- トヨタの調達本部は、仕入先の業績を向上させるという考えが原点にあり、仕入先との共存共栄を基本理念としており、相互信頼・相互反映を図っていきたいと思っている。
- 2025年度の価格転嫁の取り組みとして、材料費、エネルギー費、物流費の高騰への継続的な対応に加え、旧型補給価格とCN(カーボンニュートラル)対応に関する新たな取り組み、そして人への投資の拡充を予定している。サプライチェーン全体で取り組むことがキーワードになる。
- これまで、資材高騰以降段階的に仕入先の負担軽減を図っており、2022年度から材料費・エネルギー費、2023年度から物流費、2024年度から人への投資について価格への反映を進めてきた。価格改定は、原価低減、材料費、エネルギー費、物流費、人への投資、個別申請費などを考慮し、一社一社丁寧に協議して決定される。材料費のうち変動ルールがある場合は、市況変動分は原則100%価格反映し、急騰時には改定頻度を短縮しており、変動ルールがない場合は、個別協議により価格反映をしている。エネルギー費は、3か月ごとに使用料や変動額を示してもらいながら負担をしている。物流費は、残業規制などによるドライバーの年収減対応のため労務費レート補正による対応や、輸送の効率化などに取り組んできた。人への投資については、労務費のアップ分や職場環境・働き方改善への投資分をトヨタ側から具体的な金額を投げかけてから協議して価格に反映している。
- 2025年度の取組として、旧型補給品については、量産終了後の長期経過品の価格見直しを行い、特に15年経過品については再協議をトヨタから働きかける。CNへの対応では、脱炭素や資源循環に貢献するグリーンアイテムの採用促進のため、仕入先に対して一定のコスト負担をすることを検討している。人への投資については、Tier1を通じたTier2以降の中小仕入先の転嫁分の負担を拡充していく。
- サプライチェーン全体への価格転嫁の浸透に向けて、Tier1仕入先と連携し、Tier2以降への取り組みを促したり、トヨタの思いや取り組みをセミナーやメディアを通じて情報発信を行っている。サプライチェーン全体の競争力ある基盤づくりに、強い意志をもって貢献していきたいと話した。
4.パネルディスカッション
〇トヨタ自動車株式会社 調達本部副本部長 加藤 貴己 氏
【価格転嫁】
- 価格転嫁について、下請法の中に「双方の合意がなければ」という記載があるが、下請法の対象の会社だけではなくすべての会社でそういう精神でやらないといけないと考えている。受注側発注側の双方で抱いているギャップを、いかに両方が伝えていけるかということが、価格の作りこみだと思っているので、これまで以上に大事にしないといけない。
- グローバル仕入先総会で海外の仕入れ先が多く来て、海外のトヨタの調達部員もきていた。彼らから「supplier is not sub contractor, toyota’s commitment to prosperity」、「一緒に繁栄をしていく」という精神を海外グローバル調達部員が話していたが、海外を含めた調達部員がこの気持ちをもっていることが大事であると思っている。
- 仕入先は、困りごとがあったら言ってくださいねと言われることが、逆に一番困ってしまう。仕入先から困っていることを自然と打ち明けていただけるような調達パーソンになる必要がある。
【休み方改革】
- 「風通しが良くて人が育つ職場」が調達本部でキーワードになっている。風通しの良さは何を求めて何をやろうとしているのか理解しやすいというところが大事だと思っている。
- 中途入社でも活躍がしやすいような職場や働き方改革を、今やらないと厳しいと考えており、しっかりと取り組むことを心がけている。
【メッセージ】
- 我々は、正しい努力をやり続けたいと思っている。そして、取引先から意見をいただけるような調達マンを努力して目指していきたい。また、こんな声を上げていいのかなと迷うことも、是非上げていただきたい。
〇株式会社鬼頭精器製作所 代表取締役 鬼頭 明孝 氏
【価格転嫁】
- 世の中の工場がどちらかというと嫌がる、現場改善や合理化をしてもなかなかできない単品の案件を好んで拾うことによって価格転嫁や競争がないやり方を進めている。
- そのため、単品や難度の高い物、新しい物に対応できたりチャレンジできるエンジニアを育て、精度・難度が高いものができる会社というブランディングしている。ベトナムエンジニアを含めた全員のエンジニアに技能検定一級技能士を取得してもらいブランディングにつなげている。さらに、一級技能士を取れば、特級技能士を取り、その次は「愛知の名工」・「現代の名工」を取るというステップアップの仕組みがここ20年で出来上がり、社員のモチベーションが上昇し、新たな加工技術を学ぶというサイクルが回り始めている。
【休み方改革】
- ここ5、6年は男女100%育休を取得している。家族の用事のために休暇を取得できるという制度を2年前ほど前に作り、だんだんと浸透してきている。だれもが休暇制度を利用できるような職場づくりに尽力している。
【メッセージ】
- 当社の生き方は、世の中の要求、社員の要求によって、様々取り組んできた結果だと思っている。それぞれの会社に合った形で進めていくことが大事。
〇ニッシンテクニス株式会社 代表取締役 丹羽 陽 氏
【価格転嫁】
- 私たちは主にトヨタ自動車をはじめとした自動車メーカーに間接的に部品を供給している、いわゆる「Tier2」の立ち位置で仕事をしている。
- 価格転嫁については、「材料費や電気代が上がっているから価格を上げさせてください」と一方的に伝えるのは、芸がないと考えている。
- そこで、生産性の向上に取り組み、さまざまな視点から原価を下げる工夫を重ね、コストを維持するための改善活動を続けている。これは、自動車業界で言うところの「工程変更」に該当する。
- 現在では、上昇する原価を抑え、売価を上げずに済むようにするための工程変更が中心となっているが、売価が下がらないため、取引先からは「評価作業や工数が増えるだけ」と見なされ、難色を示されるケースが増えているのが現状。
- そのため、価格転嫁に関する課題を、できるだけ具体的かつ可視化できる形で伝えることを心がけている。そうすることで、お客様とのコミュニケーションが活発になり、話が前に進みやすくなると感じている。
- また、私たちは「お客様が求める品質・価格・納期を達成できる人材であること」に対してお客様から評価され、対価をいただいていると考えるようにしており、そうした意識を持つことで、自分たちも成長でき、たとえ製品が変わっても、お客様のニーズに応え続けることができると考えている。
- 現在は、Tier1出身の方に入社いただき、彼らがどのように物事を考えているのかを学びながら、「どう説明すれば理解してもらえるか」を重視した取り組みに力を入れている。
【休み方改革】
- 毎日決まった時間に出社して決まった時間までは仕事をするというのが根付いていて、休みづらいというのがあったが、今は柔軟な働き方を推進している。テレワークや、有給休暇を時間ごとにとってもいいとしている。
- 男性育休については社長自らとり、育休取得を推進している。
【メッセージ】
- 価格転嫁や働き方改革は、昔からある話題だが、特に最近浸透してきた話題だと考えている。そのため、最近は、お客様とコミュニケーションをとりやすい環境になってきており、こんなこと言ってもいいのかなという事でも、我々もとにかく1回ぶつけてみることに取り組んでいるので、一緒に取り組みましょう。
○KUROFUNE株式会社 代表取締役 倉片 稜 氏
【価格転嫁】
- スタートアップかつサービス業の立ち位置で言うと、調達する際に価格交渉する仕入れビジネスとは違い、我々のサービスをお客様に受け入れてもらえるかという価格交渉になる。具体的には、より良いサービスを提供するためこういう機能を追加したいので、価格を上げたいと説明する。価格交渉とサービス力の向上は、表裏一体のものかと考えている。
- どう交渉するかを顧客ごとに検討したり、こういう機能を追加すると顧客にこういう利益が出るから価格を上げるという説明ができるように、しっかりと事前準備をして価格交渉に臨んでいる。
【休み方改革】
- 従業員の定着のため、オフィスがあるなごのキャンパスのカフェの利用料を負担したり、社員旅行を平日に業務として行くなど、働きやすいと思ってもらえるよう取り組んでいる。
- 中小企業では、1社で取組を進めるのは、難しい場面もあると思う。実行するのだったら、周りの会社を巻き込んで一緒に取り組むことも手だと思っている。
【メッセージ】
- 価格転嫁、働き方改革や休み方改革、1社が抜きん出て取り組むことはなかなか難しいとは思うが、取り残されないよう勇気をもって取り組んでほしい。
○ワンドロップス株式会社 代表取締役 村重 亮氏
ディスカッションのまとめとして、以下のように話した。
- 価格転嫁と休み方改革というテーマは、その捉え方を誤ると「楽をして儲ける」という印象を与えかねない。実際には、極めて繊細で難易度の高い経営課題である。
- このテーマの本質は、会社や製品の価値を高める努力を積み重ねながら、仕事に誇りと尊厳を持ち、人生とのバランスも取りつつ、良き仲間たちとともに、環境を絶え間なく維持・進化させていく取り組みである。
- 各社の工夫や取組内容はそれぞれ異なるが、共通して感じたのは、登壇されたリーダーたちが強い責任感と危機感をもって、難しいテーマに真摯に向き合っておられるという姿勢である。
- そうした取り組みの姿勢や葛藤のプロセスそのものが、ご参加いただいた多くの方にとって深い示唆をもたらすのではないだろうか。