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第1回愛知まちなみ建築賞

ページID:7486434 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

表紙

総評

 建築の様相における個と群との関係は、建築家永遠の課題であって、ただその形態を周囲に調和させるべきであるとか、切り妻や寄せ棟の傾斜屋根を掛けるのが日本の伝統と風土にのっとっているとか、そういった単純な発想で片づけられるものでは、決してない。歴史をかたちづくってきた建築は、常にそれまでの常識の枠にとどまらず、時代の新しい様相を切り開き、周囲にはある種の違和感をもって迎え入れられるものであった。問題はむしろその違和感の質である。
 「まちなみ建築賞」というタイトルをつけたこの賞の初年度の選考に当たって、初めから、この個と群の問題にけんけんがくがくの議論がなされたのは、その意味では健全なことであったろう。しかし上記のような私の考えは少数派で、多くの選考委員は、どちらかと言えば建築の創造性よりもまちなみの調和という点に重点を置いていた。委員長が少数派というのも困ったものだが、これがまた案外バランスがとれてなかなか粋なものであった。
 そういった経緯から、審査の結果は、建築を集合としてとらえたもの、古い建築をリフォームしたもの、敷地前面に大量の植裁を配したものが選ばれ、まちなみ建築賞にふさわしい作品が並ぶこととなった。特に大賞を受賞した足助町の百年草は、古い伝統の残る町並みに調和するべく、この地域の人々とともに長い時間かけて設計した力作であり、大賞に値する作品として評価された。しかしこの傾向がいつまでも続くとは限らない。来年もまた多くの作品がエントリーされ、むしろ斬新な創造力が、まちなみを引っ張って変えていくようなとこらが評価されることを期待している。
 すべての審査会に委員の欠席がないという異例の状況、忌憚のない意見が活発に交わされ、時には激しい議論となりながらも、最終結果には全員が納得するという経過で、審査委員各位の熱意と事務当局の努力に感謝する次第である。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第1回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

足助町福祉センター 百年草 ~愛知まちなみ建築賞大賞~

1-1

概要

所在地:東加茂郡足助町中之御所東貝戸
建築主:足助町
設計者:株式会社浦辺設計
施工者:株式会社鴻池組名古屋支店

主要用途:老人福祉センター、宿泊施設
構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造、木造
階数:地上3階
敷地面積:8,294.23平方メートル
建築面積:1,317.96平方メートル
延床面積:2,467.29平方メートル

講評

 足助町では、共生の思想を大切にしており、百歳まで長生きしてほしいという願いをこめて、この福祉センターの名前を「百年草」としたという。
 そもそも十数年前に、町から指名を受けた浦辺鎮太郎氏が、意気に感じて足助の町おこしに参画されたのが始まりで、以来町の施設の建築に際して、浦辺設計は町の熱意に応えて真剣に取り組んできたという。そうした関係が、この「百年草」も大変良い建築に作り上げることができた由縁であるといえる。
 建物は、堤防と川との間の細長い河川敷の限られた敷地で、かつ高低差が7米もあるという難しい条件のなかで、地形を変えることなく、かつ二度に分けて建築された施設でありながら巧みなプランによって多くの機能が処理されている。又、周辺の自然環境に溶けこませたコンクリートと木造の組みあわせによるデザインも見本である。
 この施設は、単体の建築としてもさることながら、「まちなみ建築賞」として、より高く評価されたものである。

鋤納 忠治

OZモール

1-2

概要

所在地:名古屋市北区大曽根
建築主:大曽根商店街振興組合
設計者:株式会社総合設計機構
ショッピングモール。全長約300メートル。 個人店舗を中心に約70の商店が集まる。市の土地区画整理事業を機に、旧来の商店街からの脱皮を模索。設計・施工にわたる集団コーディネート方式で、個性的で統一感のあるまちなみが出現。

講評

 単体の建築でまちなみや環境作りに挑戦するには限界がある。それならば、集団でということになるのだが、多数が共通の認識を持ち合わねばならないのだからむつかしい。
 商店街は昔から連帯の意識の強い存在であった。共同行為の相乗効果を一番知っているグループといってもよい。商業によるモールや買い物通りがまちなみづくりの最初の例に多かったことがそれを物語る。
 OZモールはその意味では遅い例である。けれど、それだけに前例を参考にしながら、土地区画整理事業として建築協定を導入し、なおかつ建築設計のガイドブックを付すことによって、より以上の内容に高め成功することができた。
 個々の建物の設計者全員を集めて設計集団を作りコーディネーターと共にコンセプトを作り、まちなみとして実現した努力を評価したい。

宮脇 壇

倉沢邸

1-3

概要

所在地:名古屋市緑区池上台
建築主:個人
設計者:住工房一級建築士事務所
施工者:株式会社 黒川建築工房

主要用途:専用住宅
構造:壁式鉄筋コンクリート造、増築部分木造 
階数:地上2階
敷地面積:142.11平方メートル
建築面積:56.77平方メートル
延床面積:106.91平方メートル

講評

 鳴子南団地は1972年につくられた、名古屋市郊外にある56戸の分譲タウンハウスである。
 20~30年前に建築された低層集合住宅が建て替えられる時、これまでの慣れ親しんだ環境がほとんど壊され、中高層集合住宅が新築されることが多い。
 全面建て替えでなく個別の改修の場合は住宅部分のみに目が奪われ、周囲に対する配慮に欠けまちなみが不統一になることが多い。歴史的町並みの範疇に入れてもらえないこれらのタウンハウスは、いとも簡単に取り壊される。人間の一生の半分にも満たない期間で取り壊されるまちなみとは何だろうか。
 そうした風潮の中にあって倉沢邸は、住まい手の思いが込もったまちなみの雰囲気をそのまま残したまま、住戸の改善(20坪住宅から30坪住宅へ)を達成している。建築デザインも手堅く、気くばりの跡が見られ好感が持たれる。
 他の住戸もそのうち改修が必要になろう。この時、良き先例を参考に、思い出の込もったまちなみの維持を第一優先して、個別改造に当たって欲しい。こうした気持ちを込めてこの作品を支持した。

瀬口 哲夫

米久楽

1-4

概要

所在地:豊橋市下地町
建築主:株式会社ヤマサン
設計者:エムプロダクツ
施工者:石黒建築

主要用途:店舗(米殻販売)
構造:木造 
階数:地上2階
敷地面積:251.23平方メートル
建築面積:77.03平方メートル
延床面積:95.93平方メートル

講評

 米久楽は豊橋市の戦災を免れた家並みの残る旧東海道筋に面する古い町屋を修復して新しく米の小売り店舗として見事に現代に甦らせた小品である。
 ここでは単に古い町家を修復して旧い町並みを景観保存するだけでなく古い建物を現代の街の都市機能、生活機能に、どう適合させ再生さすかという保存を伴う「まちづくり」の最も根元的問題に真正面から取り組んでいる点に評価が集まった。
 大胆に町家を貫通した通り庭を介して街道の裏側に設けられた店舗に不可欠の駐車場、交通量の多い街道からのアクセスを考慮したワンクッションおいた入口、通り庭から出入りできる屋根裏を利用したコミュニティホール、洗練されたロゴマークによる藍布幕の看板等、アイディアは新鮮で魅力にあふれ、限られた予算の制約からくる建築的密度の低さが残るとはいえ、それを補って余りあるものとして見事に再生している。

藤川 壽男

瀧定本社ビル

1-5

概要

所在地:名古屋市中区錦
建築主:瀧定株式会社
設計者:株式会社竹中工務店名古屋支店
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:事務所
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造
階数:地上17階地下3階
敷地面積:3,166.5平方メートル
建築面積:1,568.183平方メートル
延床面積:28,350.097平方メートル

講評

 名古屋・錦通り、ビジネス街として発展しつづけるメインストリートにふさわしい建築である。そこには新しい時代における都市とオフィスビルの在り方のひとつの方向性を見ることができる。
 総合設計制度を活用した公開空地につくられた落葉樹の豊かな林は季節の移り変わりを巧みに演出している。南側の公道に接してつくられた公開歩道は、単調に過ぎ行く足にリズムの変化を与える。そして揺れた視線にとらえられる木々の表情は季節の断面を静穏に感じさせてくれて楽しい。まさにビジネス街におけるオアシス的存在となっている。また、オフィスビルのシンプルな形、落ち着いた外観のデザインは老舗にふさわしい重厚な雰囲気を醸し出しており、穏やかながら特色ある景観形成を実現している。新しい都市環境の創造、即ちこの街がこれから目指すべき魅力と潤いのあるまちなみの形成をリードしていく空間であると思う。

水尾 衣里

トヨタ博物館

1-6

概要

所在地:愛知郡長久手町長湫横道
建築主:トヨタ自動車株式会社
設計者:株式会社日建設計名古屋事務所  トヨタ自動車一級建築士事務所
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:博物資料館
構造:鉄骨造、及び鉄筋コンクリート造
階数:地上3階
敷地面積:46,700.00平方メートル
建築面積:4,907.13平方メートル
延床面積:11,067.49平方メートル

講評

 トヨタ博物館は企業の文化貢献の一策としてつくられた私的博物館であり、自動車文化100年の歴史を実車を中心に展示するその規模内容は公共博物館にも勝る優れたものである。
 敷地は東名高速名古屋I.Cから自然風景の美しい自動車専用道路グリーンロードへ続く郊外の基幹道路に面している。優れた展示資産と自動車交通を意識させる環境条件のもとに計画されたこの建物は自動車という現代の乗り物の持つスピード感を正面から建築デザインに取り込むことを意図し、その具体化に成功している。とりわけシンプルな金属仕上げによる長円形の外観は、足元の背の低い整えられた樹木による緑化と相呼応して自動車で通り過ぎるスピードのなかで、施設のアイデンティティを主張しながら周囲に対しても優れた景観質を提供している。愛知まちなみ建築賞は、建築形態と周囲の環境との関係を自動車社会のスケールで造形的に表現し地域の景観を向上させた成果を評価し、受賞作品とするものである。

清水 裕之

豊橋市二川宿本陣資料館

1-7

概要

所在地:豊橋市二川町
建築主:豊橋市
設計者:株式会社伊藤建築設計事務所
施工者:株式会社藤木工務店

主要用途:博物館
構造:木造、鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
敷地面積:3,449.37平方メートル
建築面積:1,504.17平方メートル
延床面積:1,920.77平方メートル

講評

 江戸時代に東海道五十三次33番目の宿場として栄えた二川宿は、今もその町割が残り、町並みの様相に往時が偲ばれる。
 このような二川宿のほぼ中央に位置するのが二川宿本陣資料館で、街道沿いに旧本陣が再現され、さらに西側の冠木門を潜り奥の館へ至る。
 さて、歴史的建築の再現・復元、また、これらの建築と一体化した建築の計画においては、現代建築を設計する場合にも増して、高度な技術と注意深さを要求されるところであろう。
 この二川宿本陣資料館は、木造の旧本陣部分と、近代的機能をもたせたRC造の資料館を同一敷地内で巧みに融合、調和させた建物で、特に、旧東海道という歴史的町並みに融け合っている。
 できれば、旧本陣部分も、二川宿という歴史遺産の再認識と、町並みの保存・再生への啓蒙という点から、見学だけでなく広く市民の文化活動に開放したり、市の迎賓館として使用するなどして、生きた文化財としての活用も考えてはいかがだろう。

岡本 真理子

第1回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、 地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

   大西英二(愛知県建築士事務所協会会長)
   岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   島崎勉(愛知県建築部長)
   清水裕之(名古屋大学助教授)
   鋤柄忠治(新日本建築家協会東海支部長)
   瀬口哲夫(豊橋技術科学大学助教授)
   納所克志(国際デザインセンター取締役)
   藤川壽男(愛知建築士会会長)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学講師)
   宮脇壇(宮脇檀建築研究室代表取締役)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 建設省  愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会  (社)愛知県建築士事務所協会  (社)日本建築家協会東海支部  (社)愛知県建設業協会  愛知県建築技術研究会  (財)愛知県建築住宅センター  (財)東海建築文化センター  中部デザイン協会