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第10回愛知まちなみ建築賞

ページID:0200010 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

mk10

総評

 不況を反映してか、今年は大きな建築より住宅建築の秀作が目立った。結果として、「長屋門の家」と「高嶺下(こうろげ)住宅」が賞をえたが、いずれも周囲の環境に溶け込んだ風土性伝統性を感じさせ、いわゆるインターナショナル・スタイルのモダニズム建築とは異なるものであった。「メナード本社ビル」は、昨年のオンワードビルにつづく、シンプルなガラスのランドマークであるが、特にエントランスまわりのデザインが評価され、「豊田自動織機情報技術研究所」は、逆にシンプルな水平線のランドスケープが池と築山の緑と調和して、「愛知工業大学名電高等学校北校舎」は、困難な条件下における作品への意欲が評価された。また「stadium600」は、今池という場所柄にそれなりのデザインを実現したことが、「羽ね屋敷」は、建築を前面に出さずに緑と工作のオープンスペースで街並みに参加しようとする姿勢が評価された。
 これまでの10年間の審査をふりかえってみて、「まちなみ」が優先されるべきか、「建築」が優先されるべきかという議論が、当初から沸騰したことが思い出される。それは応募者にとっても大きな判断の分かれ目であったのではないか。これに対して選考委員会では、「いい建築はいい街並みを形成する」という判断のもとに、どちらかといえば「建築」を優先させ、山林や田園のなかの孤立した建築も、周囲に刺激を与える特異な建築も、賞の対象として除外しなかった。そこには現在の日本において、公園や看板やパブリックアートなどに比較して、建築界の実績と能力がすぐれて充実したものであったことも作用している。しかしながら、必ずしも新築された建築ではない、保存やリニューアルや緑化には、「都市の文化的記憶の継続」という意味でも、厚く評価してきた。その点では「まちなみ」にこだわったのである。
 その姿勢は、今後も維持されるであろうが、この10年の時代の変化を考えると、「まちなみ」と「建築」の概念の枠組みをもう少し広げていくべきであろうと考える。たとえば、都市における何らかのイベントなども時限的な「まちなみ」ととらえられるし、アトリウムのような公共的な内部空間も「まちなみ」ととらえられる。また看板や美術や装飾も、建築の部分としてとらえられるし、連続的なファサードやスカイラインや店舗の内外装なども、建築的なデザインの内であろう。
 しかしながら詳細はこの事業を引き継ぐ担当者に委ねられることになる。
 「愛知まちなみ建築賞」の有意義な発展を祈念して筆をおく。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第10回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

愛知工業大学名電高等学校北校舎

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撮影 エスエス名古屋

概要

所在地:名古屋市千種区若水
建築主:学校法人名古屋電気学園
設計者:株式会社青島設計
施工者:清水建設株式会社

主要用途:高等学校
構造:鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:地上6階
敷地面積:9,252.78平方メートル
建築面積:4,897.72平方メートル
延床面積:14,995.49平方メートル

講評

 バスの走る幹線道に接する東面は、ガラスブロックの大きな壁面で凹凸のある縦のストライプ状に構成されており、周りの光を大きく取り込んで外と内を繋げている。僅かに確保された余地には緑が配され、比較的小さな住宅と商店が混在する周辺環境に対し、大きな建築物であるのに威圧感を感じさせない。南の正門廻りは外周の塀がかなり低く押さえられ、植樹された緑の梢は敷地の内側であるにも関わらず、あたかも周辺地域の緑の広場であるかのように感じられる。玄関ホールのガラスの向こうにも光庭の緑が透けて見える。西面の駐車場スペースにはグリーンブロックが使われている。
 「周辺環境に開かれた」と言う設計者のコンセプトが、きめの細かい配慮として随所に読み取ることができる。まちなみ建築賞という視点にふさわしい一作である。

岡田 憲久

高嶺下(こうろげ)住宅

mk10-2

撮影 井土英世志

概要

所在地:東加茂郡足助町大字野林
建築主:足助町
設計者:大久手計画工房  風建築工房  景観設計室タブラ ・ ラサ (ランドスケープデザイン)
施工者:株式会社協友建築

主要用途:長屋
構造:木造
階数:地上2階 
敷地面積:2,009.09平方メートル
建築面積:341.12平方メートル
延床面積:460.07平方メートル

講評

 足助町の町並みから巴川に沿って少し下り、足助大橋から山道に入る。東大野、西大野の集落を過ぎ、令田の方に向かって進むと、目指す高嶺下(こうろげ)住宅に到着する。かなりの山の中である。
 この住宅は足助町の職員住宅である。ここへ来る途中の集落内でも石垣を何ヶ所か見掛けたが、そのせいか、高嶺下住宅の足元に石垣があることにそれほどの違和感はなかった。この石垣は、砕石、割栗石を使ったもので、棚田のイメージを再現したものという。そのためか、石垣の角が丸く仕上げられている。この眺めは、ランドケープとして成功している。
 林の緑を背景にして、職員住宅6戸は、この石垣の上にある。細い柱、白と黒の壁、黒い屋根、その上の明かり取り用と思われる小屋根が、全体としてリズム感と景観的なまとまり感を保っている。若者向きの職員住宅として見れば、向こう三軒的なコミュニティを作る計画提案として評価できる。棚田にあたる空間をどのように使うか、どのように住まうかということが、今後の課題である。

瀬口 哲夫

stadium600

mk10-3

撮影 平井広行(Hiroyuki Hirai)

概要

所在地:名古屋市千種区内山
建築主:株式会社エフワン
設計者:岸和郎+K.ASSOCIATES/Architects
施工者:安藤建設株式会社名古屋支店

主要用途:遊技場(パチンコ店)
構造:鉄骨造
階数:地上3階 
敷地面積:1,158.86平方メートル
建築面積:1,079.02平方メートル
延床面積:1,591.75平方メートル

講評

 名古屋の広小路通り今池交差点付近は、商業と娯楽でにぎわう界隈である。周囲には、ネオンサインなどで派手に装飾を競う風俗店なども多い。
 こうした街並みのなかで、この作品はパチンコホールとして、あえて装飾的な手法を用いず、しかし存在感のある建築とすることにより評価を得た。
 広小路に面して、2階部分の半透明ファサードが、ガラスと二重アルミメッシュのアモレや昼夜の表情を様々に見せ、かつ1階を重厚・不透明な大理石壁と開口とするなど、まちなみへの新鮮な提案がなされ、内部の演出空間としたパチンコホールへの導入ゾーンも含めて、建築的な構成にも優れている。
 地域の特色のなかで、魅力的な景観の形成に寄与していることの好例として、所期のイメージが継承されてゆくことを期待したい。

南石 周作

豊田自動織機情報技術研究所

mk10-4

撮影 エスエス名古屋

概要

所在地:刈谷市城町
建築主:株式会社豊田自動織機
設計者:株式会社竹中工務店
施工者:株式会社竹中工務店

主要用途:研究施設
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造
階数:地上3階、地下1階 
敷地面積:5,219.82平方メートル
建築面積:2,076.50平方メートル
延床面積:6,950.37平方メートル

講評

 敷地周辺には、東に亀城小学校・郷土資料館、また西側道路を挟んで歴史のある亀城公園・体育館・刈谷グラウンドが在る。風致地区にふさわしい良好な環境で建物は周辺環境と調和することが求められ、高さを抑え自然の地形を維持し緑を豊かにすることで良い景観がかもしだされている。
延床面積6,950平方メートルと大規模でありながら、地下を配し低層の3階建てとし周辺への圧迫感を与えない配慮がなされている。外部空地の緑化のみならず、屋上庭園・庇上の緑化など自然に溶けこむように心掛け全体を明るくまとめ企業イメージのアップにもつながるものと思われる。
 建物は、既設独身寮を解体撤去し研究施設に建て替えられたもので開放的な透明感のあるガラスカーテンウォ-ルを採用している。カーテンウォ-ル周辺にはコンセントレーション室を配し研究施設の閉鎖性の確保のみならず職員の良好な活用スペースとしている。刈谷市を代表する景観と都市美化の環境造りに貢献していると思われる。

鷲野 義明

長屋門の家

mk10-5

撮影 田中昌彦

概要

所在地:東海市名和町
建築主:個人
設計者:株式会社建築設計・様房
施工者:株式会社魚津社寺工務店

主要用途:住宅
構造:木造、一部鉄筋コンクリート造
階数:地上2階 
敷地面積:983.88平方メートル
建築面積:307.52平方メートル
延床面積:375.56平方メートル

講評

 1、 2階の格子や、そのむこうにある明るい中庭は、一見京の町屋やその坪庭の風情を  思いださせるが、豪快なコンクリートの柱は、やはり農家のものであろうか。いや、コルビジェの作品を髣髴(ほうふつ)とさせるような・・・。
 いろいろ考えさせられる心憎い作品ではあるが、わたしは何と言っても大戸の機能を格子戸にもたせ、しかもちらりと奥を見せる演出がとても気にいった。華奢な格子はともすれば脆弱にみえるが、正面部分を目一杯格子にし、さらにはコンクリート壁面まで総動員して、とにかく見る者を圧倒する。
 一見無駄なスペースが多いので、審査でも使用目的が取りざたされたが、近くの神社の祭礼時の休憩所になったり、荷下ろしの場になったりと七変化しながら使われるとのことで納得した。とともに、この家が「長屋門」でなければならない理由も解った。
 これぞまさしくオ-プンスペースである。

岡本 真理子

羽ね屋敷

mk10-6

撮影 井上義英

概要

所在地:名古屋市昭和区小桜町
建築主:くれよんBOX
設計者:そらいろ工房  一栁建築設計事務所
施工者:エコ・プランニング

主要用途:作業所兼事務所
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上1階 
敷地面積:369.00平方メートル
建築面積:66.87平方メートル
延床面積:127.64平方メートル

講評

 羽ね屋敷は、荒れた個人の住宅と庭を、新しい公共の担い手としての「市民」が、自らの手で「開かれた」場に転換し、その管理運営を行っている非常にユニークな事例である。
 昭和40年に建てられた建物は一階を小規模作業所、2階を設計事務所に改造し再利用するとともに、庭はブロック塀を取り払い、憩いの場や中学生の総合学習、高齢者の生涯学習の場として積極的に地域に開き、活用している。
 このような新しい公共の担い手としての市民による地域環境のデザインと運用は、これからの地域社会にとって非常に重要な要素となるであろう。本件は、今後多くの類似事例が生まれることを期待するモデルケースとして、広く人々に知ってもらいたいという願いを込めて選考した。

清水 裕之

メナード本社ビル

mk10-7

撮影 Nacasa&Partners

概要

所在地:名古屋市中区丸の内
建築主:日本メナード化粧品株式会社
設計者:大成建設株式会社一級建築士事務所
施工者:大成建設株式会社名古屋支店

主要用途:事務所、ショールーム
構造:鉄骨造
階数:地上14階
敷地面積:1,008.02平方メートル
建築面積:803.06平方メートル
延床面積:9,550.31平方メートル

講評

 「いい感じがする・・・」このビルの前を歩いた時の印象である。名古屋市の中心を貫く久屋大通り公園の豊かな木々に面して華麗に立ち上がっている。さながら豪華でありながらもシンプルなデザインのドレスを身にまとい凛として立つ貴婦人のようでもある。
 ファサードのダブルスキンカーテンウォールは同じ表情を持続することはない。光の変化を穏やかに受けとめながら多彩な表情を見せる。総合設計制度による開かれたエントランス空間と夜のガラススクリーンを通して街に届く室内からの明るさは、新しい都市の物語を作るだろう。企業イメージを反映したやさしく美しい姿を目指しながら、ハイブリッドTASS構法や躯体畜熱等、地震リスクの最小化や環境への配慮を目的に先進的な技術を導入している。将来周辺には新しいビルが続々と建設されることだろうが、都市の中心部として相応しい美しく魅力的な街の景観形成を先導する役割が期待できる建築である。

水尾 衣里

第10回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。(以下例示)
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●デザインに優れ、地域環境の形成又は新しい地域環境の創造に寄与しているもの。
  ●周囲への配慮がなされ、地域の魅力を高めているもの。
 2、地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの。(以下例示)
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●まちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、まちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。(以下例示)
  ●オープンスペースの緑化、せせらぎ等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

    梅田俊比古(愛知建築士会会長)
  岡田憲久(名古屋造形芸術大学助教授)
  岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
  清水裕之(名古屋大学教授)
  鈴木真生(愛知県建設部理事)
  瀬口哲夫(名古屋市立大学教授)
  南石周作(日本建築家協会東海支部副支部長)
  水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
  山下和正(山下和正建築研究所代表取締役所長)
   ●若山滋(名古屋工業大学教授)
  鷲野義明(愛知県建築士事務所協会会長)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 愛知県市長会 愛知県町村会 愛知県商工会議所連合会
​協賛
 (社)愛知建築士会、(社)愛知県建築士事務所協会、(社)日本建築家協会東海支部、(社)愛知県建設業協会、愛知県建築技術研究会、(財)愛知県建築住宅センター、(財)東海建築文化センター、中部デザイン協会