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第11回愛知まちなみ建築賞

ページID:0200011 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

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総評

 今年度の応募作品は、例年にないほど高いレベルのものが揃っていた。住宅からオフィス、商業施設、公共施設まで、多様な作品群の中から、優れたところを的確に評価することは非常に難しく、時間をかけてじっくり話し合いながら、全員の合意をとりつつ、選考を進めた。全体的な印象としては、それぞれ多様なデザインアプローチを採用しているが、地域との関係性の構築、あるいは住環境の質を高めることに真摯な姿勢で臨み、結論を導いているという手ごたえを感じさせた。
 「長浦の家」は、障害のある方のお住まいであり、傾斜地という立地のなかでバリアフリーの実現という内的な要求を満たしつつ、特別な素材を使うことなく周辺の住宅環境に落ち着きのある美しい景観を創造しているところがすばらしいと感じた。
 「星が丘テラス」は、今までまとまりのなかった場所に、人びとを魅了する輝きのあるまちなみを創出させ、都市に仕掛けるプロの「わざ」を示した。
 「カゴメ錦ビル/ルイ・ヴィトン名古屋栄店」は、トップブランドの建物にふさわしく、微妙に変化をする薄い皮膜がファッションの揺らぎを象徴させ、名古屋の中心的商業地域の景観に新たな活力をもたらしている。
 「東邦ガス知多緑浜工場管理センター」は、建築からランドスケープまで一貫する直線の縞模様が人工的な創造意志を反映させつつ、ガスタンクを地中に埋没させる工事によって生じた残土をランドスケープ上のメルクマールとして築山に仕上げるという対比的な手法が光っている。
 「西尾市岩瀬文庫」は、古い文庫の建物を書庫として活用しつつ、打ち放しコンクリートの端正なマスを無理なくつなぎ合わせ、落ち着いた都市景観の中に新しい表情を作り出している。
 「オアシス21」は、高く掲げられた水をいただく大屋根とNHKや愛知芸術文化センターにむかって緩やかに傾斜する大地によって栄公園の新しいランドマークとして、市民に親しまれる場所を作り出している。
 「名古屋 クロイゾン スクエア」は、経済合理的な視点では決して作り出すことのできない芸術的な中庭を、閉鎖することなく地域に開放する形で生み出しながら、商業施設として成立しにくい場所に人を誘い込むことに成功している。このような空間の創造は、オーナーが建築の持つ文化的な力に対して強い信念を持っていなければ成立しないものである。すなわち、これはデザインの結果のみならず、その意志そのものが、これからの都市に期待される優れたメセナ活動であると考えたい。新しい都市空間の可能性を作り出したことについて審査員一同一致し大賞に値すると判断した。
 惜しくも賞にもれたものも含めて、今年の応募作品はいずれも甲乙つけがたい優れた作品であったことを最後に付け加えさせていただきたい。

名古屋大学教授   清水裕之

第11回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

名古屋 クロイゾン スクエア ~愛知まちなみ建築賞大賞~

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撮影 竹中工務店 吉村行雄

概要

所在地:名古屋市中区栄
建築主:株式会社安藤七宝店
設計者:株式会社竹中工務店東京本店
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:複合商業施設
構造:鉄骨造一部鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
敷地面積:1,377.99平方メートル
建築面積:889.52平方メートル
延床面積:1,352.36平方メートル

講評

 名古屋市の都市部、大規模な商業ビルがひしめく栄の大津通り沿いに少し緊張感をもった路地がある。思い切って歩をすすめると、通りの雑踏をかき消すような庭に迎えられる。
 この庭は、創業120余年の老舗七宝店が旧邸内の蔵を残しながら、あえて2階建てに押えた自社の店舗兼ギャラリーとテナント店舗(現在はブティック)、カフェを新築し、4つの異なる機能が取り囲むかたちでつくられている。周囲のビル群のヴォリュームにすっぽりと空いたヴォイドのようなこの空間が今回の大きな評価を得た理由は、都市の再生という観点からまちなみを考えた時の1つの手法として、その場所を所有する人がその土地で営みを続けながら、まちを訪れる人とコミュニケーションをしていく、また何かを伝えていく空間づくりにある。行政による景観形成の誘導のような上から直接のコントロールではなく、まちづくりといった地域活動によるものでもなく、土地や場所へのこだわりから事業者が民の知恵と力で成し遂げた、空間の質に多くの賛同を得られたことにあるのだろう。  
 庭には時間を超えて人の思いや営みを、文化・芸術という形にかえて継承してきた長い歴史がある。古い庭から転用された石や点景、うまく生育している新技術の苔、ほどよいヴォリュームの樹木など、新旧の庭の要素に加えて、人の動きや視線、脈々と引き継がれたまちとの関わりが、あるべき状態でそこにあり営まれている。通りに面する視覚的な要素以上に、既成のまちなみの背後に設えられた質の高い開かれた庭の提案が、将来のまちなみの奥行きとしての一石を投じた1つのモデルになりうる、という再発見がまちなみ建築賞大賞としての評価に至ったといえる。

山内 彩子

オアシス21

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撮影 PHOTO Hideki CASAI

概要

所在地:名古屋市東区東桜
建築主:財団法人名古屋都市備公社、栄公園振興株式会社
設計者:株式会社大林組東京本社
施工者:株式会社大林組東京本社

主要用途:公園、店舗、バスターミナル
構造:鉄骨造、鉄筋コンクリート造 他
階数:地上1階地下1階 
敷地面積:20,390.67平方メートル
建築面積:10,090.47平方メートル
延床面積:25,185.71平方メートル

講評

 名古屋の中心部に出現して、たちどころに代表的ランドマークの一つとして認知されるようになった。上空に水面をつくるとはいかにも直截的なアイデアなのだが、「水の宇宙船」と名付けられた地上14メートルの高さの楕円形の水面は、周辺のビル群やテレビ塔を映し出し、記憶に残る風景を形成している。そのガラス床からは地下のイベント広場が見下ろせるし、イベント広場には水を通したゆらめく太陽光がふり注いでいる。これらはいずれも、ここでしか経験できない眺めと言えるだろう。また、このイベント広場は、縦横に拡がる地下街の動線を地上へと導くことにも成功している。
 地上の公園部分はゆるやかに傾斜して、バスターミナルを巧みに覆い隠しており、高木があえて密度低く配された芝生面の拡がりと、足元から照らす光のストライプが、清潔で開放的な印象を与えている。水の大屋根を支える梁の波や、イベント広場の強烈な青などが、視覚的に強いモチーフで好みの分かれるところだが、この傾斜した地面は、都心部にあって雑踏から離れて時を送る場を提供する、身体に訴えかけるものとなっている。

日色 真帆

カゴメ錦ビル/ルイ・ヴィトン名古屋栄店

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写真提供 LVJグループ株式会社 ルイ・ヴィトン ジャパン カンパニー

概要

所在地:名古屋市中区錦
建築主:カゴメ不動産株式会社、LVJグループ株式会社 ルイ・ヴィトン ジャパン カンパニー
設計者:株式会社青木淳建築計画事務所
施工者:清水建設株式会社名古屋支店

主要用途:物品販売店舗
構造:鉄骨造一部鉄筋コンクリート造 鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上2階地下1階 
敷地面積:457.74平方メートル
建築面積:379.08平方メートル
延床面積:1,136.761平方メートル

講評

 繁華街の角地にたち、魅力的なショーウィンドウが歩行者を魅了する。ルイ・ヴィトンのダミエのパターンに着想を得た市松模様をガラス面とその奥の壁面にプリントすることで、二重のファサードが干渉しあい、美しいモアレの現象を引き起こす。歩きながら見ると、モアレのパターンはめくるめく変化し、きわめて映像的である。それは写真では絶対にわからない、現場でしか味わえない経験だろう。建物の内部のデザインに手を出せないという条件を逆手にとって、ファサードに表現を集中させたわけだが、シンプルでありながら最大限の効果を生む手法を提示したことが評価される。
 この建物が成功した後、青木淳はルイ・ヴィトン銀座でも同じ形式を展開し、表参道店や六本木ヒルズ店では異なるパターンを試みた。またソウルやシンガポールでも、こうしたルイ・ヴィトンがつくられ、ひとつのスタイルとして定着している。その最初の場所が名古屋店だった。またブランド店が建築家を起用する流れの起爆剤になったことでも、歴史に残る作品である。

五十嵐 太郎

東邦ガス知多緑浜工場管理センター

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撮影 新建築社 写真部

概要

所在地:知多市緑浜町
建築主:東邦ガス株式会社
設計者:株式会社青島設計
施工者:株式会社大林組名古屋支店

主要用途:事務所
構造:プレキャストプレストレストコンクリート造
階数:地上3階 
敷地面積:302,461.66平方メートル
建築面積:1,608.66平方メートル
延床面積:3,925.461平方メートル

講評

 建築の表情は極めて綺麗である。コンクリートとガラスが織りなす縦縞は、環境コントロールシステムとしての外皮であり、単なる顔としてのデザインではない。しかしそうした機能が工場管理という建築の用途や企業のイメージを表現するデザイン手段として巧みに使われている。さらにそのシャープなラインによるリズミカルな建築表現は「音的」なものを感じさせる。
 「周辺環境との調和」を強く意識したというこの建築の正面アプローチからの見え方、また海からの姿は存在感とともに空間におけるある種の交響楽的な調和を感じさせるところさえある。
 また、周辺からの景観に配慮し、地下式のLNGタンクを採用することにより、圧迫感のない広い空を獲得し、さらにその土を緑地の盛土に用いてビオトープを設けるという徹底した「環境」を考える姿勢は高く評価できるものである。

水尾 衣里

長浦の家

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撮影 服部信康

概要

所在地:知多市長浦一丁目
建築主:個人
設計者:服部信康建築設計事務所
施工者:吉富工務店有限会社

主要用途:専用住宅
構造:木造
階数:地上1階 
敷地面積:264.46平方メートル
建築面積:157.58平方メートル
延床面積:121.11平方メートル

講評

 名鉄電車長浦駅から歩いて5分くらいの丘陵地の頂上に位置する閑静な住宅地である。石垣に格子戸といった外観が、落ち着いた雰囲気を醸し出し、周囲には昔ながらの民家や桜並木、少し離れたところにカトリック教会、玄関前には道路を挟んで神社の鳥居が見え、建物が周りの景色にとけ込み、素晴らしい自然の演出をしているように見える。
 外壁・屋根はガルバリウム鋼板、南面の格子戸は米杉、内部は全面ガラスを使用している。この格子戸は、可動式のため一体となったデッキを外部デッキと内部デッキに分ける役割を果たす。また、これを開閉することにより、建物の外観を変化させ楽しませてくれる。
 桜の季節、又四季折々に訪れてみたくなるまちなみに合った素晴らしい作品である。

梅田 俊比古

西尾市岩瀬文庫

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撮影 株式会社エスエス名古屋

概要

所在地:西尾市亀沢町
建築主:西尾市
設計者:株式会社青島設計
施工者:大林・まるひ建設工事共同企業体

主要用途:図書資料館
構造:プレキャストプレストレストコンクリート造
階数:地上2階地下1階 
敷地面積:12,632.06平方メートル
建築面積:797.68平方メートル
延床面積:1,897.88平方メートル

講評

 この建物は西尾市の郊外にひっそりと建つ。岩瀬文庫を収蔵する堅牢な書庫棟に接し、閲覧及び資料展示の役割を果たす。
 岩瀬文庫は、明治41年に豪商岩瀬弥助によりこの地に収集開設された、「枕草子」「本草図説」等を含む8万冊余りの貴重な古書籍群からなる一大文庫であって、西尾市民の誇りであり宝である。そして、この歴史的文化的遺産を大切に守り、後生に引き継ぐことが市民の切たる願いなのである。
 その想いがこの建物の静謐で張り詰めた外観に結実している。あくまで脇役に徹し控えめに立ち、古書籍たちを永代まで見守ろうとする強い意志を感ずるところに魅力を思う。
 外装はコンクリート打放しの柱とガラス、ガラスブロック、ライムストーンで構成されたシンプルで端正なデザイン。
 全国から学者や好事家がこの場所に集い、研究思索、談論風発すれば、文化の香りがほのかに漂い楽しいではないか。西尾市やその周辺地域の発展に寄与する、西尾市の文化的シンボルであり続けることを願う。

都築 敏

星が丘テラス

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撮影 竹中工務店 吉村行雄

概要

所在地:名古屋市千種区星ヶ丘元町
建築主:東山遊園株式会社
設計者:株式会社テック・アールアンドディス、株式会社竹中工務店名古屋支店 M.Arthur Gensler,Jr&Associates(建築デザイン設計)
施工者:株式会社竹中工務店名古屋支店

主要用途:物品販売店舗
構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
階数:地上3階地下2階 
敷地面積:28,838.00平方メートル
建築面積:6,164.00平方メートル
延床面積:13,094.00平方メートル

講評

 地下鉄星が丘駅から東山公園星が丘門へ上る緩やかな坂道に沿って、両側に連なるオープンモールが魅力的である。地形の特徴やレベルなどを活かし、テラス風の回遊空間を巧みに構成することで、約150メートルのタウンスケープがヒューマンなスケールとなり、個性あるアメニティーが創り出されている。
 隣接のデパートやボウリング場が賑わう相乗効果に加えて、付近の東山公園、大学や高校などの文教地区や住宅地区としての立地にふさわしく、シンプルな色と素材による建築、照明やサインの統一など洗練されたイメージの景観形成を高く評価した。
 坂道を歩くと、以前の無味な風景に比して表情の豊かなまちなみが生まれ、歩道とオープンモールや広場などが楽しい。さらに、テラスEASTの北面にも同様の雰囲気があればなお良いと思われる。

南石 周作

第11回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
   ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
   ●デザインに優れ、地域環境の形成又は新しい地域環境の創造に寄与しているもの。
   ●周囲への配慮がなされ、地域の魅力を高めているもの。
 2、地域のまちなみに調和し、魅力的な景観の形成に寄与しているもの。 (以下例示)
   ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
   ●まちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
   ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、まちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。 (以下例示)
   ●オープンスペースの緑化、せせらぎ等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
   ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
   ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

      五十嵐太郎(中部大学講師)
    梅田俊比古(愛知建築士会会長)
    岡田憲久(名古屋造形芸術大学教授)
    河合修(愛知県建設部理事)
   ●清水裕之(名古屋大学教授)
    都築敏(特定非営利活動法人ビジュアルコンテンツプロダクトネットワーク理事長)
    南石周作(日本建築家協会東海支部副支部長)
    日色真帆(愛知淑徳大学教授)
    水尾衣里(名城大学助教授)
    山内彩子(東風意匠計画代表)
    鷲野義明(愛知県建築士事務所協会会長)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会、(社)愛知県建築士事務所協会、(社)日本建築家協会東海支部、(社)愛知県建設業協会、愛知県建築技術研究会、(財)愛知県建築住宅センター、(財)東海建築文化センター、中部デザイン協会