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第3回愛知まちなみ建築賞

ページID:0199503 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

表紙

総評

​ バブル経済がはじけて、建築のデザインは落ち着いてきた感があるが、今回の選考に残った建築も、比較的落ち着きのある、まちなみに調和するものが多かった。結果として小さな住宅的なものから比較的規模の大きい公共建築まで、また最新の技術を駆使したものから古い建築のリフレッシュまで、バランスのよい作品が7点選ばれた。山村の小さな住宅に「まちなみ」性があるかどうかが議論されたが、ここではまちなみを広く解釈し、環境との関係が良好(必ずしも調和ではないが)であることを要件とした。つまり、自然も含めた「広域におけるまちなみ」という概念が存在するという解釈である。
 なかでも好評だったのが、鉄筋コンクリート構造の建築を犬山市の伝統的なまちなみに調和させた店舗兼住宅「夜明屋」と、古い赤煉瓦の工場を改装した「産業技術記念館」である。後者はその空間的な質の高さが現代建築としても秀逸であると評価され、今回の大賞を獲得した。日本の伝統的なまちなみと、明治以降の赤煉瓦という歴史性が、審査員のほとんど全員の支持をえたのであり、以前、ある雑誌に書いたことでもあるが、まちなみとか都市の景観というものは、空間的なものというより、時間的なものだということを、再度痛感させられた。
 近代の激しい都市化が進行するなかで、人々はむしろ失われゆくもの、時間とともに古錆びていくものに、ノスタルジーを感じ、シンパシーをもつ。それは平安王朝の後期に日本文化を支配した「もののあはれ」に通じる日本人の美意識の特徴でもあるが、それだけではなく、基本的に人間は、都市や建築という、生活環境としての空間存在に、自己の生命の長さを超える時間的な連続性を求めているのだ。それは必ずしも建築空間そのものの古さというだけでなく、その空間の姿、心象、たたずまいといったものの連続性でもある。
 われわれは「まちなみ」という言葉のなかに、自然にそういった時間性、歴史性を感じ取っている。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第3回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

産業技術記念館 ~愛知まちなみ建築賞大賞~

3-1

概要

所在地:名古屋市西区則武新町
建築主:トヨタグループ13社
設計者:株式会社竹中工務店名古屋1級建築士事務所
施工者:竹中・大林・清水・伊藤共同企業体

主要用途:博物館
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造他
階数:地上3階
敷地面積:41,596.45平方メートル
建築面積:16,234.45平方メートル
延床面積:19,699.44平方メートル

講評

 役割を終えた機械や工場の建屋は処分されるか放置されるが、生業を伴にしてきた人々がそれを思い留まり、それに新たな息吹きを与えることがある。
 社業の変遷をわが国産業史の中で眺め直し、同時にそれを育み、見守ってくれた地域への謝意を込めることを、建築に際しての基本姿勢にしたこの記念館は残存する建築物を可能な限り、また適度に活かしながら面影を留めようとする地道な建築デザインを採ることとなった。
 結果として静かで虚飾のない姿をうみ、街中の産業遺構の活かしかたを提示する好例の一つとなった。
 道行く人の目にも、傍らを走る鉄道の車窓からも、それがずっと以前からそうであったように映るたたずまいは「モノづくりの大切さ」を質朴に伝えながら、今人々が都市に求める空間的ゆとりをも提供する、中部圏ならではの景観を形成した。

納所 克志

コーポラティブ・ハウス 木附の里

3-2

概要

所在地:春日井市木附町
建築主:「木附の里」住人一同
設計者:有限会社 アトリエ プランニング  株式会社 連空間都市設計事務所
施工者:原料木材株式会社 株式会社水野工務店共同企業体

主要用途:住宅
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:2,277.22平方メートル
建築面積:887.19平方メートル
延床面積:1,332.08平方メートル

講評

 一般的にコーポラティブ・ハウスとはマンション等の共同住宅が主体であった。コーポラティブという共同作業が共同という意味で働き易かったからである。
 それが、戸建住宅というかくも私的な主張が前面に出易い建築で行われたことを評価したいと思う。
 中庭や共同駐車場等、全敷地の25%を共有空間としてまとめたこと、又、中庭を挟んだ北入り、南入り住戸の平面への配慮も適切である。
 用地の取得等の問題であろうが、計画が周辺地域への延進性を持ったものであればより希望が持てたプロジェクトであると思う。

宮脇 壇

知多印刷工場

3-3

概要

所在地:半田市栄町
建築主:知多印刷株式会社
設計者:株式会社 アーツ&クラフツ建築研究所
施工者:株式会社大清工務店

主要用途:工場・事務所
構造:鉄骨造
階数:地上2階
敷地面積:838.44平方メートル
建築面積:409.36平方メートル
延床面積:778.57平方メートル

講評

 醸造の盛んな町。酒、味噌、醤油、酢などの醸造蔵が今なお数多く残る町の外れに位置して、三代にわたり営んできた印刷工場が建て替えられた。県道半田師崎線の街道沿いに建つこの建物は、外壁を黒一色にしている醸造蔵の街並みに対して、建物の全体を白一色にし、黒は古いもの、白は新しいものをイメージし、古い街並みを明るい洒落た街並みに変えようとしている。
 片流れ屋根で外壁面の立ち上がりは高くなるが、屋根天井面との間に欄間を連続して設け、1階のガラス面と2階の壁面とを絶妙に調和させ、全体に爽快感を出している。高木広葉樹のある広い中庭を設け、作業環境の快適化に資する他、道ゆく人達にも視覚的に開放し、緑の少ない通りに潤いを与えている。1階玄関ロビーの廻り階段、駐車場入口、袖壁のあしらい等軽やかである。新しい印刷工場のイメージ展開で成功している。

 渡辺 廣二

常滑市体育館

3-4

概要

所在地:常滑市字下砂原
建築主:常滑市
設計者:仙田満+環境デザイン研究所 住宅・都市整備公団中部支社
施工者:西松・矢作・兵善建設工事共同企業体

主要用途:体育館
構造:鉄筋コンクリート造他
階数:地上4階
敷地面積:35,180.30平方メートル
建築面積:5,099.86平方メートル
延床面積:9,052.72平方メートル

講評

 この体育館は、市が昭和54年に策定した「緑のマスタープラン」に基づき常滑市総合公園の基本計画がなされ、その一施設として建設された丘の上にある「公園の中の体育館」である。
 この施設の外観は、歴史のある焼き物の街という伝統の重みと、また中部新国際空港の建設予定地の母都市としての将来性をイメージしたという。この常滑市の町並みの塀を表現している構造格子と、将来の臨空都市を表すハーフミラーとのコンビネーションは斬新ななかにも重厚さや落ち着きを感じさせるものであり、特色ある景観形成を実現している。さらに空中に存在する構造格子の「箱」を支えている「足」は誠に力強く、その存在感は感動的ですらある。
 これから急速に発展していくであろうこの地域の核となる建築であり、街並みを創造する機動力となるデザインであると思う。

水尾 衣里

扶桑文化会館

3-5

 

概要

所在地:丹羽郡扶桑町大字高雄
建築主:扶桑町
設計者:山崎泰孝+AZ環境計画研究所
施工者:株式会社 フジタ 名古屋支店

主要用途:劇場
構造:鉄骨造
階数:地上3階
敷地面積:6,788.53平方メートル
建築面積:2,214.83平方メートル
延床面積:3,196.13平方メートル

講評

 本施設は扶桑町で以前から盛んであった歌舞伎、能、御神楽などの古典芸能の上演にふさわしい新しい形式の多目的劇場として計画されたものである。 観客席の形態や舞台の構造などには、設計者山崎泰孝の主張する、使い手によって多様に変化をする「やらかい劇場」の考え方が魅力的に応用されている。
 外観は、一見極めて現代的なデザインであるが古い歌舞伎劇場のイメージを写す象徴性も兼ね備え、独創性に富んでいる。また、ガラスと押し出し成形セメント板によるシンプルでマッシブな形態は、周辺に開放的な空間を作りだし、新たな良質な外部空間の創出にも貢献している。

清水 裕之

2つの空(グラバア、佐川邸)

3-6

概要

所在地:西加茂郡小原村川下
建築主:個人
設計者:笠嶋建築工房
施工者:池野製材株式会社

主要用途:住宅
構造:木造他
階数:地上2階
敷地面積:448.82平方メートル
建築面積:143.38平方メートル
延床面積:225.13平方メートル

講評

 周辺を山に囲まれた谷間のその最も奥の自然の地形そのままの敷地に建てられている。施主のGさんが人間関係学の教育者で、この自然の中に学生を集めてセミナーを開かれる事がなければ、誰にも知られない建物であろう。その意味で「まちなみ建築賞としては適当ではない」との意見があったが、施主の「自然という大きな命の営みとサイクル、自然と共に生活している人々から学ばなければ、ひとが直面している種としての危機を生き抜けない」との強い意志によって、この僻地に造形豊かな建築を完成した設計者の力量が評価された。施主とその友達の二世帯住宅が2つの相似形の屋根を中心に連絡よくまとめられている。アプローチに突出するバルコニーと2階のセミナーホール窓面と屋根との大胆なデザインは周辺の樹木とよく調和している。砂利敷の坂道から、バルコニー奥の柱列を通って、玄関へのアプローチなどすばらしい心配りがされている。まちなみを形成していないのが残念であるが、木造住宅の新しい造形が評価された。

畑中 圭助

夜明屋

3-7

概要

所在地:犬山市大字犬山
建築主:個人
設計者:有限会社藤吉建築設計事務所
施工者:佐伯綜合建設株式会社 尾張支店

主要用途:店舗併用住宅
構造:鉄筋コンクリート造他
階数:地上3階
敷地面積:221.48平方メートル
建築面積:142.01平方メートル
延床面積:289.57平方メートル

講評

 犬山市の旧城下町は、かつての面影を色濃く残しており、愛知県が誇ることのできる歴史的空間である。自分の家の便利さだけを求める無思慮な建て替えは、こうした所では街並みの破壊につながることが多い。
 夜明屋の設計では、建築主の意向もあり、街並みに調和した建物を作ることが意図されている。そのため鉄筋コンクリート造であるが、瓦葺きの屋根とされた。設計上は、犬山の城下町の特徴である並んだ屋根の美しさを壊さないようにするため、屋根勾配を既存の町屋のそれと同じものにすると共に、3階部分を通りから後退させることにより、本町からの見え掛かりは2階建てになる工夫をし、街並みの全体的な調和が保たれている。犬山の町屋のデザイン要素として袖壁と格子窓を上手に用いている。駐車場はピロティに取り込むことで解決を図っている。ピロティはさらに奥に伸び、通り庭空間を新しく生み出している。
 夜明屋の設計は、旧犬山城下町地区で、既存の街並みを保ちつつ、新しい街並みを形成していく提案として評価できる。

瀬口 哲夫

第3回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

​ 良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

     浅野宏(愛知県建築部長)
   岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   清水裕之(名古屋大学助教授)
   瀬口哲夫(豊橋技術科学大学助教授)
   納所克志(名古屋芸術大学教授)
   畑中圭助(愛知建築士会会長)
   三浦忠誠(新日本建築家協会東海支部 副支部長)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
   宮脇壇(宮脇檀建築研究室代表取締役)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)
   渡辺廣二(愛知県建築士事務所協会会長)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 建設省  愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会  (社)愛知県建築士事務所協会  (社)新日本建築家協会東海支部  (社)愛知県建設業協会  愛知県建築技術研究会  (財)愛知県建築住宅センター  (財)東海建築文化センター  中部デザイン協会