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第4回愛知まちなみ建築賞

ページID:0199604 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

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総評

​ まちなみ建築賞ができて今年で第4回。ちょうどバブル経済がはじけた頃から始まったわけだが、長い不景気の影響が出ているのか、今年は作品の全体像にやや沈滞的なイメージがあった。日本社会はそうとう深手の傷を負い、その処理が不徹底なためもあって、いやす力はまだついていないようだ。
 バブル崩壊後の社会に二通りの見方があるように、作品の全体像にも二通りの見方ができる。一つは、建築界の沈滞から造形意欲も後退し、作品のレベルも下がっているという見方であり、もう一つは、こういう時代だからこそ地に足のついたしっかりした作品ができるという見方である。しかし今年は、どちらかといえば前者の傾向が表面化し、後者の傾向は水面下にあるように思えた。一般に社会の高揚が崩壊するときは短時間であるが、再び頭をもたげるまでには時間がかかる。
 それでも地道な努力はつづいている。今回の選考で評価の高かった二つの作品についていえば、岡崎美術博物館は、斜面を生かして、建築と周辺の公園とを一体化したみごとな空間構成が、都市に緊張とゆとりを与え、建築自身の構成も技術と造形の融合を抑制の効いた手法でまとめている。マンリン書店「蔵の中のギャラリー」は、足助という伝統の残る街並みに、古い蔵を改造し書店とギャラリーとサロンと工房を一緒にしたような空間であり、その建築的な行為よりも施主姉妹の努力による空間の営みに評価が集まっている。現代の先端を切るものと、風土と時間の中に育まれたものと、どちらもそう派手なものではなく、地に足のついた努力から生まれる空間であると思う。
 その他、最終選考に残った14点は、いずれもそれなりに魅力があり、多くは賞の境界線上にあった。十分な検討の上、決選投票によって7点を選び、大賞は見送られた。今回は、いつもは強い、組織設計の作品が最終選考にまでは残ったが、あと一歩のところで、退く傾向があり、こういう時代には技術力や組織力よりも、空間を形成し営む「人間の個性」が重要な役割を果たすという印象を受けた。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第4回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

岡崎市美術博物館

4-1

概要

所在地:岡崎市高隆寺町
建築主:岡崎市
設計者:株式会社 栗生総合計画事務所
施工者:鉄建・酒部・トーヨー建設共同企業体

主要用途:美術博物館
構造:鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造
階数:地下1階地上2階
敷地面積:1,892,940.38平方メートル
建築面積:3,928.49平方メートル
延床面積:6,444.16平方メートル

講評

 4車線の広い道をのぼりつめて「峠1」の地名とおりの山頂の駐車場で降り、土手を登ると「風の道」「水の道」という広場の先に全面ガラスのエントランスホール(アトリウム)と反り返った大庇を広げたレストラン棟がみえる。異質な建物で、いかにも小さい。"これが美術博物館かなあ"と驚かされる。
 アトリウムは光に満ちて快い。エスカレーターで下るとホワイエとただ一室の展示室と展示回廊だけ。収蔵庫として計画したもので、当面は美術館として利用し、将来の本館建設につなげるとの説明で納得する。
 斜面に作られた幾重にも折り返すスロープを下りて、恩賜池から見上げると城。池が掘り、スロープが城壁、2つの棟が隅櫓と天守閣。これがコンセプトでいう"ワールドバロック"非対称で多焦点的表現か。
 レストランは午後10時まで開店。岡崎の静かな街が山あいに、尚遠く山波を越えて、三河湾が見える。夕日に赤く染まった空が華やかな夜景に変わる。ミストボールから霧が地上にはりついて流れる。夕暮れのテラスから美しい夜景を楽しむ人達も多い。
 設計者の期待どおりで、「一つの箱の中だけでなく、一帯がアートの舞台となり、巡回して楽しめる」施設になっている。

畑中 圭助

萩須記念美術館アトリエ復元

4-2

概要

所在地:稲沢市稲沢町
建築主:稲沢市
設計者:株式会社徳岡昌克建築設計事務所
施工者:仲田・杉原・川村共同企業体

主要用途:美術館
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階
敷地面積:1,706.0平方メートル
建築面積:226.84平方メートル
延床面積:241.28平方メートル

講評

 萩須記念美術館は昭和58年に公開設計競技において設計者が選定され建設された建物であり、本候補はその増築としてのアトリエ復元である。美術館本体は大きな切妻屋根をモチーフに清楚にまとめられ、同一設計者による保険センターなどの周辺建物と調和した気持ちの良い都市環境を創出している。
 本アトリエはその調和の中にとけ込み、破綻をきたさない設計上の心遣いが行き届いており、その計画的連続性と調和性を評価して受賞作品として選定した。

清水 裕之

加藤重孝邸

4-3

概要

所在地:名古屋市中川区愛知町
建築主:個人
設計者:原建築設計事務所
施工者:邦和建設株式会社

主要用途:住宅
構造:鉄筋コンクリート造一部木造
階数:平屋建
敷地面積:350.74平方メートル
建築面積:164.99平方メートル
延床面積:164.99平方メートル

講評

 準工業地帯というのは住居と軽工業が伴在するという、ある時代の風景を作る地域であった。
 それが軽産業の弱体化によって貧しい環境に陥り勝ちである。その中で単純な住宅ではあるが、周囲に対して建築の背筋の通った形を見せようという努力を買いたい。

宮脇 壇

サン・ドーム、サン・ワークショップ

4-4

概要

所在地:豊田市保見町横山
建築主:医療法人 研精会
設計者:松本建築研究室
施工者:有限会社北山工務店

主要用途:病院及び福祉ホーム付通所授産施設
構造:鉄筋コンクリート
階数:地下2階地上1階
敷地面積:9,171.28平方メートル
建築面積:386.23平方メートル
延床面積:638.28平方メートル

講評

 通行量の激しい幹線道路に面して建っているこの施設は、建物と駐車場の境に傾斜をもつ植裁帯を設け、建物の高さの威圧感を和らげ、この建物を包み込んでいる両側の自然林と共に、柔らかい景観を作っている。サンクンコートを設けたり、屋根面を南側の土地の地盤レベルに押さえ北側の眺望を確保するなど、北斜面をうまく利用している。
 円形の階段室や格子をデザインした外観は、打放しコンクリートの重苦しさをなくし、洗練され落ちついた雰囲気をもった建物となっている。

福田 一豊

高浜市やきものの里 かわら美術館

4-5

概要

所在地:高浜市青木町
建築主:高浜市
設計者:内井昭蔵建築設計事務所
施工者:株式会社銭高組名古屋支店

主要用途:集会場
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地下1階地上4階
敷地面積:2,802.93平方メートル
建築面積:1,681.04平方メートル
延床面積:4,669.48平方メートル

講評

 内部の静かさを得るため、喧噪の道路に背を向ける建物は国土の狭さを象徴する。
 産業道路の要の交差点脇に博物館というこの施設もその一つだが、北側に市道を取り込む吹き抜けの広場を配し、施設に開放感を与えている。
 内部の展示とは別に、広場での「瓦」の扱いに博物館として疑問も付されるが、地域産業を踏まえた文化活動の拠点づくりに、官民で取り組む姿勢が伺えるという意味のランドマークとして評価される。

納所 克志

西尾市歴史公園

4-6

概要

所在地:西尾市錦城町
建築主:西尾市
設計者:株式会社文化環境研究所
施工者:株式会社魚津社寺工務店

主要用途:公園施設
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:6,872.42平方メートル
建築面積:301.58平方メートル
延床面積:355.41平方メートル

講評

 この施設は、西尾のまちが中世より城郭都市として形成されたことに着目して、史跡発掘・学術調査のうえ復元、さらに地場産業の「茶」の施設をとりこみ、それを市民に親しまれる歴史公園とした、まちづくりの施設です。
 従って、この事業は地域の特性を最大限に活かした奥行きのある歴史的なまちづくりとして高く評価されるものであります。
 調査の結果から、城下町西尾の全体が土塁と堀で囲まれた珍しい城郭形態にあることが明らかとなり、発掘調査で確認された丑寅櫓石垣等は保存修復を行い、丑寅櫓・鍮右門等の建築は学術調査を基に本格的伝統芸術を用いて木造で復元を図るなど、文化性豊かな地域に根ざしたまちづくりとして成功しています。建築歴史文化振興に大きな役割と貢献を果たしたものと思います。

渡辺 廣二

マンリン書店「蔵の中のギャラリー」

4-7

概要

所在地:東加茂郡足助町大字足助
建築主:有限会社マンリン書店
設計者:アーキトラスト・上杉建築研究所
施工者:個人

主要用途:ギャラリー
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:228.1平方メートル
建築面積:182.6平方メートル
延床面積:266.7平方メートル

講評

 足助町で町並み調査を行ったのは1976年頃だったので、それから20年がたったことになる。幸いというべきか、それ以来足助の町は大きな改変はなかった。
 足助の町並みの特徴は、妻入りの蔵造りの建物と平入りの塗籠めの商家が混在していることである。マンリン小路は、マンリン書店の東側の路地で、白壁と板壁で囲まれている。こうした足助からの久々の町づくりのたよりである。
 マンリン書店「蔵の中のギャラリー」は、間口6m,奥行き約40mの細長い敷地の中の一番奥の土蔵をギャラリーとして改造したものである。このことにより、表通りから書店、サロン、ギャラリーと三つの性格の異なる文化空間が並ぶこととなった。町並みは、人々がそこで生活し、使いきってこそ価値が高まる。その意味で、住まい手が古い土蔵を改造し、新しい生命を吹き込んだことをまず評価したいし、足助の町中に特色ある空間を作ることができている。
 足助の町並みの中にあって、マンリン小路は、今までも、見所の一つであった。しかし、これまでのマンリン小路は、町を訪れた人が、静かな町並み空間を見る場所でしかなかった。今回の改造により、マンリン小路からの新しい出入口が加わり、この小路にこれまで以上に人を引き込むことができ、マンリン小路に性格を与えることができた。
 建築の設計の方は、出入口をつけ加えた程度で外観にはあまり手をふれていないこと、内部空間は蔵造りという性格を生かし手堅くまとめられており、好感が持てる。

瀬口 哲夫

第4回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

     岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   清水裕之(名古屋大学教授)
   瀬口哲夫(名古屋市立大学教授)
   納所克志(名古屋芸術大学教授)
   畑中圭助(愛知建築士会会長)
   福田一豊(日本建築家協会東海支部支部長)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
   宮脇壇(宮脇檀建築研究室代表取締役)
   山中保教(愛知建築部長)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)
   渡辺廣二(愛知県建築士事務所協会会長)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
後援
 建設省  愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会  (社)愛知県建築士事務所協会  (社)日本建築家協会東海支部  (社)愛知県建設業協会  愛知県建築技術研究会  (財)愛知県建築住宅センター  (財)東海建築文化センター  中部デザイン協会