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第6回愛知まちなみ建築賞

ページID:0199806 掲載日:2024年3月1日更新 印刷ページ表示

表紙

総評

​ 長い経済停滞のせいか、今年度の応募作品は比較的小粒であった。いわゆる大作、すなわち質量ともに群をぬいた画期的なものが見あたらなかったのである。従って、大賞該当作なしという結果も審査員の共通した意見であった。もっとも多くの評価を得たのは三岸節子記念美術館である。その落ち着いたたたずまいが、住宅地の風景にマッチして、施設内容とともに好感をもたれたのであろう。デザイン的には豊明市消防庁舎に、こういった公共施設としてはめずらしい新鮮なものが感じられた。比較的大きな作品の是非をめぐって意見が分かれたが、今回は競争相手が弱かったために入選したと思われるものもある。
 経済の不調が建築の不調につながるのは寂しいことである。むしろ時間をかけてじっくりと空間を練り上げることができるはずなのだが、設計者はもはや蓄積を食いつぶし、そういった努力をする余裕がなくなってきているのかもしれない。営業に追われ、コストも制限されるのではあるが、そんな状況の中からも、眼を見張るような質の高い建築空間が出現することを期待したい。
 また審査員、及び事務当局も、規模やコストにかかわらない空間の質を評価する努力をしなければならないと感じられた。本来、建築空間の質は、ある時間の長さにわたってその空間を体験してこそ感じ取れるものであるのに、どちらかといえば第一印象に頼ってしまうことになりがちなのである。これは現在の日本の、建築ジャーナリズムや各種表彰機構全体にいえることではなかろうか。 建築は経済ではない。また技術や芸術のみでもない。より総合的な文化なのだ。

名古屋工業大学教授  若山 滋

第6回愛知まちなみ建築賞 受賞作品​

あいち健康の森健康科学総合センター(愛称 あいち健康プラザ)

6-1

概要

所在地:知多郡東浦町大字森岡
建築主:愛知県
設計者:株式会社 安井建築設計事務所 愛知県建築部営繕課
施工者:佐藤 ・ 西松 ・ 大明 ・ 七番建設工事共同企業体

主要用途:健康づくり施設
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造 一部鉄筋コンクリート造
階数:地下1階地上11階
敷地面積:52,568平方メートル
建築面積:16,389平方メートル
延床面積:40,300平方メートル

講評

 あいち健康の森健康科学総合センター(あいち健康プラザ)は、大府市と東浦町にまたがる100haの広大な地域に開発された「あいち健康の森」の中核施設として建設された。健康づくりの四つの場所は、運動・展示・宿泊・会議と情報発信のための施設をひとまとめにした複合施設で、夫々が全く異質の四つの施設をアトリウムを中心に配置し明快な平面型をつくりながら、吹抜を利用して多層の階を用途毎にうまく使い別けた空間構成により誰もが判りやすい施設としている。一方素材や構法の選択等にもサスティナブルな配慮が随所に見られ、公共建築らしい手堅い手法が評価された。
 地域全体の開発には、若干人の手を加え過ぎた印象は否めないが、自然のもつ回復力と、施設管理者の今後の十分なメンテナンスにより、少々時を要するであろうが当地域がもとの環境以上に成熟することを期待します。

森口 雅文

大府西パレット幼稚園

6-2

概要

所在地:大府市長草町
建築主:学校法人前嶋学園
設計者:株式会社 竹中工務店 名古屋一級建築士事務所
施工者:株式会社 竹中工務店 名古屋支店

主要用途:幼稚園
構造:鉄骨造
階数:地上2階
敷地面積:2,512.0平方メートル
建築面積:600.6平方メートル
延床面積:940.4平方メートル

講評

 「なんだか楽しそうな幼稚園!」と、大府西パレット幼稚園の配置図とコンセプト図を見た女学生は声をあげた。細々した説明なしに、建築に興味を持ってもらえることは、建築のあり方にとって、かなり大切なことではなかろうか。玄人好みの建築ではなく、ほのぼのとした気分が漂ってくる幼稚園であるところに、この建築の良さがある。その根源は、地形を大切にし、背後の竹林を生かし、前面の桜並木や東隣地の桃林を借景に使っているところにある。この設計方針に沿って、南北の開口がガラス面である園舎は、外部に対して開放的になっている。つまり、前面の桜林から園舎の内部空間、そして背後の竹林までが、視覚的にも、空間的にも一体的になっていて、そこを園児たちが伸び伸びと走り回れるようになっている。竹林と園舎の間には芝生の斜面があり、ここを転がり降りる子供たちの歓声が聞こえ、その姿が眼に浮かぶようだ。
 園舎は鉄骨造で、柱も竹林をイメージしたきゃしゃなものになっている。ただ、前庭に置いてあった原色の遊具は建物や環境から浮き上がって見えた。
 この大府西パレット幼稚園は、大府市郊外の長草町の田園地帯にある。まだまだ、周囲には緑が多い。今後の開発に当たって、地形と自然を活かしつつ、地域になじんだ建築を作る事が望まれており、こうしたものの先駆的な事例ということが出来、まちなみ建築賞にふさわしい建築である。

瀬口 哲夫

サッポロビール名古屋ビール園 浩養園

6-3

概要

所在地:名古屋市千種区千種
建築主:サッポロビール株式会社
設計者:鹿島建設株式会社名古屋支店一級建築士事務所
施工者:鹿島・西松共同企業体

主要用途:飲食店
構造:鉄骨造
階数:地上3階
敷地面積:4,113平方メートル
建築面積:2,225平方メートル
延床面積:3,888平方メートル

講評

 かつての、ヤブ蚊に刺されながら傾けたビールも確かにおいしかった。しかし、時代の潮流か浩養園が新しいビアガーデンに生まれ変わった。それは、明るい日差しの中でも充分にビールを飲みたいと思わせる空間である。歴史あるビール工場と隣り合うビアガーデンとして、かつ、昔の浩養園を知る人々にもノスタルジーを感じさせながら、巧妙に甦ったと言わざるをえない。
 特に、本賞の主旨でもある「まちなみ」に寄与しようとする姿勢を大いに評価することができよう。浩養園前は、大きな通りと高速道路の出口という全く味気ない場所であるが、浩養園の開放的な庭から歩道へと流れ出す光が、山家の明かりを思わせるようで、何かほっとさせられるのは私だけではあるまい。

 岡本 真理子

豊明市消防庁舎

6-4

概要

所在地:豊明市沓掛町
建築主:豊明市
設計者:株式会社 アール・アイ・エー名古屋支社
施工者:日本国土・神谷特定建設工事共同企業体

主要用途:消防庁舎
構造:鉄骨造一部鉄筋コンクリート造
階数:地上4階
敷地面積:6,619.44平方メートル
建築面積:2,417.51平方メートル
延床面積:4,090.17平方メートル

講評

 小都市の消防署が市の中心から約1kmはなれて、周囲田圃の郊外に建てられた。騒音源にも、交通阻害にもなるので、郊外の立地は好ましい。市の中心街をなす主道路に接しているのも適切である。市民は主道路からアプローチするが、そこにカーテンウォ-ルの事務所棟が明るい、ちょっと目にとまる、慎ましい景観をつくっている。
 入口に接して3層吹抜の市民プラザがあって、遊具が数台、親子で訪れるのを、特に期待しているようだ。消防車の出入の動線と市民の動線の分離が合理的であり、楕円形の回廊が2階で消防車用パテオと訓練施設を取囲み「いざ出動」のときは市民に緊張の中で見送ってもらえ、又サーカスのような特殊訓練をみることもできる。
 鋼管構造の丸味を基本として、カーテンウォールの事務室は明るく解放的である。小生が訪れたときには、たまたま署長独りが執務中で「自由に見てください」とのこと。「建物が解放的なら勤務まで及ぶ」のかと推察した。
 とにかく、この新しい庁舎は市民が多数訪れることによりコミュニティ形成に大いに役立つと確信できる。
 今回の受賞を契機に新しい設計コンセプトによる公共建築が数多く生れることを期待したい。

畑中 圭助

豊田自動織機組合会館est

6-5

概要

所在地:刈谷市宝町
建築主:豊田自動織機健康保険組合 豊田自動織機労働組合
設計者:株式会社 竹中工務店名古屋一級建築士事務所
施工者:株式会社 竹中工務店名古屋支店

主要用途:事務所
構造:鉄骨造、鉄筋コンクリート造 鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上3階
敷地面積:39,396.00平方メートル
建築面積:1,388.00平方メートル
延床面積:3,424.36平方メートル

講評

 建築地である刈谷市街は「企業城下町」的色合いが強く、敷地周辺は工場と住宅が混在した状況である。その中で西側のグランドに隣接する立地条件を生かし、グランドと建物を一体としてデザインすることによって、この環境に対しての挑戦とも受け取れる新しい空間を創りだしている建築である。プロセニアムアーチをイメージしたコンクリートのフレームは建築にダイナミックなフォルムを与えるとともに、前面に広がるグランドの圧倒的な空間を力強く受け止め、設計者の意図するグランド側の人と建物の中にいる人との視線の交感、つまり、「地と図の関係」を持つ一体の風景を実現している。さらに、西日の遮光を目的とするルーバーが織りなす水平のラインも美しく、建物に適度な緊張を与えると同時に微妙な陰影を生み出し豊かな表情を演出させている。

水尾 衣里

尾西市三岸節子記念美術館

6-6

概要

所在地:尾西市小信中島
建築主:尾西市
設計者:株式会社 浦野設計
施工者:清水建設株式会社 名古屋支店一宮営業所

主要用途:美術館
構造:鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
階数:地上2階
敷地面積:3,265.74平方メートル​
建築面積:1,644.62平方メートル​
延床面積:2,400.63平方メートル

講評

 額縁はキャンバスに描かれた絵を周囲から切り離し、絵画という世界をつくる。ふさわしさは求められるが、作品の一部ではなく、画家以外の人もそれを選ぶことができる。
 一人の画家のための美術館には画家独自の世界をはめ込むにふさわしい額縁の働きが期待され、その表象に設計者は心を砕く一方、鑑賞を支える物理的環境の最適化を図らねばならない。
 三岸節子画伯の生家跡地に建つこの記念館は好ましい選択でこの二つの課題に応えた。
 一つは縁のあるこの地の「まちなみ」に素直に目を向けた姿勢である。それは対象に対面して画伯が常とした自らの感性に忠実に従う作画姿勢に根底において通じていて、この建物が画伯の作品群を収め得て違和感を覚えさせない成果はここから導かれている。
 また「まちなみ」からの形、鋸屋根の北側天窓からの採光は1,2階のロビーに適度な明るさを与え、展示室ではスクリーンで調光され、照明と和して画伯が練りだした多様な色彩の詩を隈なく鑑賞できる場を創出した。
 画材にもされる収集品や仕事場を思わせる展示を内にする修復された蔵が画家を身近に感じさせながら、館と近接する町並みをつなぐ脇役を演じている。

納所 克志

第6回愛知まちなみ建築賞概要と選考経過

選考基準

 ​良好なまちづくりを進めていくためには、建築物が地域環境の形成に積極的に関わり、一定の社会的役割を果たしていくことが重要であるという認識の下、募集条件に適合しているもののうち、良好なまちなみ景観の形成や潤いあるまちづくりに寄与する等、良好な地域環境の形成に貢献していると認められる建築物又はまちなみで、次の基準のいずれかに適合し、かつ社会的貢献度の高いものを選考する。
 1、地域における新しい建築文化の創造に寄与しているもの。
  ●新しい地域景観の形成を先導し、モデルとなるもの。
  ●意匠・形態等に優れ、地域の文化性を高めているもの。
 2、地域固有のまちなみに調和し、特色ある景観の形成に寄与しているもの。
  ●地域の風土を生かし、新しい地域文化を創造しているもの。
  ●歴史的または、伝統的なまちなみに調和し、地域の特色ある景観を創造しているもの。
  ●建築協定等の住民の主体的な活動や総合的な計画等により、地域固有のまちなみ景観が形成されているもの。
 3、魅力と潤いのある空間の創造に寄与しているもの。
  ●公開空地やアトリウム等の、地域に魅力と潤いを与える空間を創出しているもの。
  ●通抜け空間や開放ギャラリー等の、地域コミュニティの形成に寄与しているもの。
  ●地区計画等の詳細な整備計画や住民活動等により、良好な地域整備が図られているもの。
 4、その他、本賞の趣旨に適合し、地域に貢献しているもの。

選考委員

   岡本真理子(文化環境計画研究所取締役)
   清水裕之(名古屋大学教授)
   杉山義孝(愛知県建築部長)
   瀬口哲夫(名古屋市立大学教授)
   納所克志(名古屋芸術大学教授)
   畑中圭助(愛知建築士会会長)
   萬谷和民(愛知県建築士事務所協会会長)
   水尾衣里(名古屋女子文化短期大学助教授)
   森口雅文(日本建築家協会東海支部副支部長)
  ●若山滋(名古屋工業大学教授)

​​(50音順/敬称略/肩書は当時/●印は選考委員長)

主催・後援・協賛

主催
 愛知県
​後援
 建設省  愛知県市長会  愛知県町村会  愛知県商工会議所連合会
協賛
 (社)愛知建築士会  (社)愛知県建築士事務所協会  (社)日本建築家協会東海支部  (社)愛知県建設業協会  愛知県建築技術研究会  (財)愛知県建築住宅センター  (財)東海建築文化センター  中部デザイン協会